「持続」は 現状維持ではない

未来への変化
25th anniversary
「持続」
は
現状維持ではない
第二の
「マーケティング」は、クリエイティブをどのようにビジネスに
用の削減につながる。さらには、人件費を相対的に抑制することにも
するかという
「戦略」
を考えるための仕組みである。どんな優れた技術や
なる。
アイデアも、単に
「ある」
だけでは経済価値はゼロである。そして同じ商
安定して働ける職場を作ることは、中長期的な視点でビジネスに取り
品でも、誰に提供するかによってその価値は大きく変わる。例えば骨董
組める環境を整えることでもある。それは企業を戦略レベルで動かすた
株式会社アクアビット
品は、一般の人には“ガラクタ”でも、その価値が分かる人には100万
めには必須である。安定雇用によって、自らのライフスタイルを中長期
代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー
円以上の値がつくことも珍しくない。その商品やサービスの価値を最大
的な視点で設計できるようになる。働いている企業が繁栄することは、
限に発揮するにはどうすればいいか。新しいビジネスを創る上で
「戦略」
自らの経済的や社会的成功にもつながる。だから会社と自分の人生を
はクリエイティブと同じ位に重要なのである。
重ね合わせ、「運命共同体」
としてビジネスの発展を真剣に考えられる
マーケティングは企業にとって
「レーダー」
としての役割を果たすもの
ようになる。
でもある。戦略を立案する人材がどれだけ優秀であっても、正しい情報
このように企業と個人の将来を重ね合わせることは、一昔前まで日
が強く求められるようになっていく。
が無ければ正しい判断を行うことはできない。戦略立案には、市場や
本企業では当たり前のことだった。だがそれが今は非正規雇用が増え、
近年、上場企業の決算書には
「ゴーイング・コンサーン」
という言葉で、
競合商品、消費者など外部環境をタイムリーかつ的確に把握すること
短期的な視点で物事を考えるしかなくなっている現実がある。雇用形態
近年はどの業界を見渡しても、
「今のまま続けていれば10年後も大
継続企業の前提が明記されるようになったことは、企業の安定性重視
が不可欠である。特にこれからの時代は不安定だからこそ、それを乗
や業務システムの構成上、非正規雇用や外部にアウトソーシングしなけ
丈夫」
といえる企業がほとんどなくなっている。エレクトロニクスメー
を象徴している。これまでの企業評価では、「解散価値」が注目される
り越えるために優秀なレーダーが欠かせないのである。
ればならない部分は将来も残る。だがその比率をできるだけ少なくする
カー、自動車メーカー、電力・石油・ガス会社、放送局、広告代理店、
ことが多かった。だが、最近は企業が継続することを前提に、将来生
第三の
「ビジネス・プロデュース」
は、戦略に基づいてビジネスとして
ことは、社会的にも、企業の持続のためにも、求められるようになるだ
新聞社、出版社…。「この先も安泰」
と言い切れる企業は果たしてどれ
み出されるキャッシュフローを評価する
「継続価値」
が重視されるように
実現する力である。ビジネスを具体化するためには、現場の
「生きた情
ろう。
くらいあるだろうか?
変わってきたからである。
報」
が不可欠である。そのためには
「人脈」
が欠かせない。そこから得ら
安定雇用といっても、高い給料や役職で人材をつなぎとめておくこと
では、なぜこんなことが起こっているのだろうか? それは
「社会の構
また東日本大震災をきっかけに、BCP
(Business Continuity Plan :
れる情報は、データや文献などを元に俯瞰するマーケティングの情報と
は難しくなっている。価値観は多様化しており、特に最近は優秀な人ほ
造的な変化」
が起こっているからである。
事業継続計画)に代表される
「リスク管理」
も注目されるようになった。
は種類が異なるものである。マーケティングとビジネス・プロデュース
ど、目先の好待遇より、面白い仕事、働き甲斐のある仕事を求める傾
という二つの情報が揃ってこそ、戦略的かつ実践的な新規事業の実現
向が強くなっている。世の中に新しいモノやコトを創り出す
「クリエイティ
「未来予測レポート」
シリーズ著者 田中 栄
過去の延長線上に未来はない
例えば、
「人口は自然に増える」、
「物価は毎年上がる」
など、今まで
「当
「万一の場合でも、この企業ならば大丈夫」
という安定感が、顧客の信
たり前」
だと思っていた事柄が徐々に変わり始めている。日本の人口が
頼を勝ち取る上で重視されるようになったのである。
が可能になるのである。
ブ」な仕事は、より良い社会を創ることへ貢献するだけでなく、自分自
減少を始めているのは周知の通りである。物価はこの10年間以上デフ
「持続」
とは、現状維持ではない。環境が変わるのは世の常である。
現状、多くのメーカーでは、
「エンジニア」
と
「営業マン」
しかいないケー
身の成長を実感できるからだ。
レが続いており、今や物価が下がるのは常識になっている。高齢者は
企業を将来にわたって持続するためには、変わり続けること、そして新
スが多い。ビジネスを創る=「ビジネスマン」がいないのである。ビジ
これからの時代、どれだけ魅力的な仕事を作れるか。すなわち、ど
人口の1/3近くを占め、社会の中で最大勢力になりつつある。
しいものを生み出し続けることが不可欠である。
ネスマンの仕事とは、一言でいえば
「ビジネスを組み立てる」
ことである。
れだけ仕事をクリエイティブにできるかによって、企業の持続可能性が
新しいビジネスを企画立案し、それを実現するために必要な商品や技
決まることになるだろう。
何か大きな事件がある訳ではないので、こういうことに普段はなかな
か目が向きにくい。だが
「メガトレンド」
と呼ばれるこの大きな潮流の変
新しいビジネスを持続的に生み出す仕組み
化によって、社会は今までとは違う新しい形へと変わりつつある。それ
術、企業や人、資金などを揃えて、つないでいく。それを実践するため
には、「人脈」
と
「生きた情報」が不可欠である。そしてそれは、いわゆ
が
「社会の構造的な変化」
の正体である。そして社会が変われば、求め
企業を持続可能にするためには、新しいビジネスを持続的に創出す
る“営業マン”の動きとは一線を画するものである。
られるビジネスもまた変わる。だからどの業界も、今までの延長線上で
る仕組みが必要である。そのためには、「クリエイティブ」「マーケティ
ビジネスマンの仕事は総合商社では日常業務であり、特殊なスキル
10年先が描けなくなっているのである。
ング」「ビジネス・プロデュース」
という3つのプロセスを整備しなけれ
が必要というわけではない。大手総合商社の多くは、特別な技術を自
ばならない。
らは持っている訳ではないのに、好調な業績を続けている。「技術や商
第一の
「クリエイティブ」
は、付加価値の元となるアイデアやテクノロ
品を作る」
だけではなく、それを使って
「ビジネスを創る」
ことこそが重要
ジー、デザイン、コンテンツなどを継続的に生み出す仕組みである。そ
なのである。今後はメーカーでも、総合商社的な機能(ビジネス・プロ
これからの社会では
「持続可能な経営」
が強く求められるようになる。
の中で最も基本と言えるのは
「研究開発」
である。研究開発で新しい技
デュース)
を社内に持つことが当たり前になっていくだろう。
これまでの企業経営では
「成長」が当然とされてきた。だがグローバル
術を生み出すことは、将来新しいビジネスを生み出す種(シーズ)
として
化による経済の平準化によって、先進国ではデフレ基調が今後も続く。
欠かせないことは言うまでもない。だが新しいアイデア、コンテンツや
人口減少を背景に国内需要は右肩下がりが当たり前になる。さらには
サービス、デザインなどを、生み出し続けることは社内だけでは限界が
社会構造の変化によって、多くの業界で大胆な変革を余儀なくされる。
ある。クリエイティブを持続するためには、社外との連携が必須になっ
持続的な経営のためにもう一つ大事なのは、「安心して働ける環境」
このような不安定で成長が難しい時代だからこそ、「成長」
より
「安定」
ていく。
を作ることである。優秀な人材を安定雇用できることは、リクルート費
「成長」重視から
「持続」重視へ
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安心して働ける環境とやりがいのある仕事
プロフィール / Sakae Tanaka
1990年、早稲田大学政治経済学部卒業。
同年(株)
CSK入社、社長室所属。CSKグループ会長・故・大
川功氏の下で事業計画の策定、業績評価など、実
践的な経営管理を学ぶ。1993年マイクロソフト
(株)入社。WordおよびOfficeのマーケティング
戦略を担当。1998年ビジネスプランナーとして日
本法人の事業計画立案を統括。2002年12月に
同社を退社後、2003年2月
(株)
アクアビットを設
立し、代表取締役に就任。
『未来予測2015-2030』
など、
「 未来予測レポート」シリーズの著者。
エレク
トロニクス、自動車、エネルギー、医療、農業など
様々な産業を横を通す形で将来を予測している。
北海道札幌市出身、1966年生まれ。
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