敗血症に対する抗菌薬投与戦略

第35回 臨床救急医療薬学研究会
敗血症に対する抗菌薬投与戦略
日本大学医学部附属板橋病院薬剤部
中馬 真幸
2015.1.30
敗血症とは
✓ 感染症に起因するSIRS(全身性炎症反応症候群)である
2項目以上がSIRS
敗血症
1.
2.
3.
4.
体温>38℃ または<36℃
心拍数>90/min
呼吸数>20/min またはPaCO2<32Torr
白血球数>12000/mm3 または<4000/mm3
あるいは未熟顆粒球>10%
重症敗血症
(+) 臓器障害: 肺, 腎, 凝固, 血液, 肝 etc
(+) 臓器灌流: 乳酸
or
(+) 低血圧: sBP<90mmHg
またはMAP<70mmHg
敗血症性ショック
(+) 低血圧
(十分な輸液負荷下・循環作動薬使用)
敗血症における死亡率
敗血症 4,799,565例の解析 (米国2003-2007)
✓ 敗血症における死亡率は依然高い
Lagu T et al Crit Care Med, 40, 754-6 (2012) より引用
敗血症に対する抗菌薬治療
✓ 抗菌薬療法が遅れると,死亡率が上昇する
抗菌薬は早く投与せよ!(1時間以内)
Anand K et al Crit Care Med, 34,1589-96 (2006) より引用
ICUにおける感染症別原因菌
✓ 原因菌として耐性菌が多く分離される
人工呼吸器関連肺炎
カテーテル関連血流感染症
MRSA
MRSA
P. aeruginosa
MSSA
MSSA
P. aeruginosa
S.maltophilia
CNS
Corynebacterium sp.
S. epidermidis
その他
その他
0
10
20
分離頻度(%)
30
40
0
10
20
30
40
50
60
分離頻度(%)
2013年 JANIS 2014年6月10日公開データに基づいて作成
汎用抗菌薬の薬物動態
抗菌薬
系統
水溶性抗菌薬
脂溶性抗菌薬
b-ラクタム
キノロン
アミノグリコシド
マクロライド
グリコペプチド
チゲサイクリン
リネゾリド
コリスチン
薬物動態
クリアランス
腎機能に影響
肝機能に影響
重症敗血症における臓器障害(1)
重症敗血症 2,828,917例の解析 (米国2003-2007)
✓ 重症敗血症患者は、臓器障害を多く合併する
Lagu T et al Crit Care Med, 40, 754-6 (2012) より引用
重症敗血症における臓器障害(2)
重症敗血症 2,828,917例の解析 (米国2003-2007)
✓ 腎、肺、心血管障害が多い
Lagu T et al Crit Care Med, 40, 754-6 (2012) より引用
重症病態における血中濃度変動
重症病態
臓器不全
SIRS
血管拡張
心拍出量↑
毛細血管漏出
急性腎障害
低アルブミン血症
輸液
血管収縮薬
体外循環
タンパク結合率
↓
腎血流量
↑
肝不全
体液漏出
脂溶性抗菌薬
CL ↓
水溶性抗菌薬
CL ↓
脂溶性抗菌薬
血中濃度 ↑
水溶性抗菌薬
血中濃度 ↑
水溶性抗菌薬
Vd ↑
水溶性抗菌薬
CL ↑
水溶性抗菌薬
血中濃度↓
Blot SI et al Adv Drug Deliv Rev, 77, 7-14 (2014) より改変引用
敗血症におけるCLとVdの変化
Vd>
CL>
Vd
Vd
CL
CL
健常人
敗血症
Vd
CL
敗血症
重症病態におけるARCの発症時期
腎血流量増加⇒ ARC (augmented renal clearance)
CLCr≧130 mL/min
✓ ARCは,重症病態の早期から発症する
Udy AA et al Crit Care Med, 42,520-7 (42) より引用
ARCの発現因子
✓ 様々なARC発現因子が存在する
関連因子を持つ場合は,血中濃度の低下に注意が必要
患者関連因子
若年者 (60歳未満)
妊婦
病態関連因子
敗血症
外傷
外科手術
脳神経外科手術
造血器腫瘍における発熱性好中球減少症
熱傷
嚢胞性線維症
Udy AA et al Nat Rev Nephrol, 7,539-43 (2011) より改変引用
ARC risk score
✓ ARCの予測にARC risk scoreは有用
ARC risk score
(AUC: 0.89)
CL
(AUC: 0.67)
因子
点数
50歳以下
6
外傷
3
SOFAスコア4点以下 1
Udy AA et al Crit Care, 17,R35 (2013) より引用
ARCによるVCMの血中濃度変動(1)
✓ ARC患者において、VCMの血中濃度は低下する
実線:ARCを除く患者
破線:ARC患者
Baptista JP et al Int J Antimicrob Agents, 39,420-3 (2012)より改変引用
ARCによるVCMの血中濃度変動(2)
✓ VCMのクリアランスは、SIRSスコアの増加に伴い上昇する
Shimamoto Y et al Intensive Care Med, 39,1247-52 (2013) より改変引用
ARCによるb- ラクタムの薬物動態変動
✓ ARC患者において、b- ラクタムの血中濃度は低下する
Trough Concentration/ MIC ratio
(log10 scale)
100
R2 = 0.528
10
1
0.1
0
50
100
150
200
250
300
350
CLCR (mL/min/1.73m2)
Udy AA et al Chest, 142, 30-9 (2012) より改変引用
ARCがPK-PDパラメーターに与える影響
✓ ARC患者は、PKパラメーターの達成率が低い
Carlier M et al Crit Care, 17, R84(2013) より引用
敗血症におけるCLとVdの変化
Vd>
CL>
Vd
Vd
CL
CL
健常人
敗血症
Vd
CL
敗血症
負荷投与による血中濃度推移
✓ 負荷投与の増量は、速やかな血中濃度上昇をもたらす
TDMガイドラインでも負荷投与は推奨
重症感染症や前述した複雑性感染症では、早期に血中濃度を上げるために、
初回のみローディングドーズ25-30mg/kgを考慮する (C1-Ⅲ)
Roberts JA et al Antimicrob Agents Chemother, 55,2704-9(2011) より引用