阪神優勝と日産復活の共通点

1P
1P
高いコミュニケーション能力って何? 2003・9・22 354号
阪神優勝と日産復活の共通点
財部誠一今週のひとりごと
9月22日(月)のゴールデンタイムに、テレビ朝日系で爆笑
問題が司会をつとめる『日本国民のセンセイ教えてください』と
いう特番が放送され、そのなかでハーベイロードのホームページ
で動いている「日本の借金時計」が紹介されました。じつはこれ
を機に「日本の借金時計」のデザインも含め、ホームページ全体
をリニューアルしました。目玉は「内田裕子の財部ウォッチング」
という新しいコーナーができたことです。私の日常の活動の中か
ら、気になることや面白かったことなど、内田目線でエッセイに
仕立て上げる予定です。コーナーのオープンは来週になります。
ハーベイロードのいっさいを仕切る内田裕子のプロフィールも詳
細に載っています。ぜひ、ご覧ください。 (財部誠一)
※HARVEYROAD WEEKLYは転載・転送はご遠慮いただいております。
「勝てば官軍、負ければ賊軍」
よく言ったものです。国会議員票こそ、六
割を切ったたものの、地方票の七割をおさえ
た小泉首相の圧勝で自民党総裁選は終わりま
した。安部幹事長という、永田町の政治記者
が予想だにしなかった党三役人事にくわえ、
党内から根強い要望のあった「竹中更迭」や
「外相更迭」の声を完全に黙殺した閣僚人事
を発表した小泉首相の読みはズバリと当たり、
小泉支持率は急上昇しています。
時を同じくして、阪神を18年ぶりの優勝
に導いた星野仙一監督の評価もウナギのぼり
です。その星野監督が先週、サンデープロジ
ェクトにやってきました。いまや星野仙一と
いえば、日産のカルロス・ゴーンとならぶ理
想のリーダーとして語られるようになってし
まいました。阪神が優勝を決めた直後には、
なんと日経新聞までもが、この二人の共通点
を探る特集を組んだほどでした。日経新聞は
二人の共通点として五つのポイントをあげて
いましたが、私が格別の思いをもって受け止
めたのは『高いコミュニケーション能力』と
いう点でした。
まさに、この点こそ「勝てば官軍」の最た
るものです。日経新聞をもちろん、日本中の
マスコミはカルロス・ゴーン対して与えた称
号が「コストカッター」であったことはまだ
記憶に新しいところです。
◆星野・ゴーンの共通点
●二人の共通点●
①外部から来て組織改革
②競争意識の植え付け
③中途(外部)採用の強化
④大胆なリストラを実施
⑤高いコミュニケーション
能力
【星野仙一監督】
①中日ドラゴンズから
②ポジション争いを設定
③他球団出身のコーチを採用。
FA選手ら補強
④選手の約3分の1を入れ
替え
⑤細かい気配り、
目配りをし、
選手を前向きに
【カルロス・ゴーン社長】
①仏ルノーから
②成果主義型賃金を導入
③トヨタやホンダから技術
者採用。異業種からの移籍
組も
④国内5工場を閉鎖。世界
で従業員を2万人削減
⑤目標を従業員と共有。従
業員との対話重視
※2003年9月17日(水)
日本経済新聞朝刊より
1P
2P
血も涙もない。経営数字だけで人の
クビをつぎつぎと切り落とす仏人! ところが日産の業績がV字回復し、
二年、三年連続で史上最高利益がでる
という事態になると、今度は一転、ゴ
ーン礼賛です。まあ、日本の社会はこ
んなものです。
星野仙一監督もまったく同じでした。
いまや理想のリーダーと崇め奉られ
るまでになった星野監督ですが、最終
的に四位に終った昨年のペナントレー
ス期間中の星野監督の評判といったら
それはもうめちゃくちゃでした。大阪
に詳しい島田紳助氏がサンプロのCM
中に話していたところによると、「い
まは神様、星野様だけど、去年なんか
ひどかったですわ。片岡なんか、いつ
星野を殴って辞めてやるかという話ば
かりしていましたから」。
じつは紳助氏といっしょにサンプロ
のMCをつとめている宮田佳代子さん
の御主人は有名なスポーツジャーナリ
ストで、野球にはことのほか詳しい。
星野監督がサンプロにくるということで、
前日は「だんなからみっちりレクチャ
ーをうけてきた」というので、尋ねて
みました。
「御主人は星野監督を評価している
の?」
すると、宮田さんは一瞬、間を置い
てからこう答えました。
「その答えは、ノーコメントというこ
とで・・・」
激情家、星野仙一はやはり評判がよ
くありません。近くに行けばいくほど、
評判が悪くなる。じつはこの点もゴー
ン氏とそっくりです。知れば知るほど、
評判が良いというリーダーはなかなか
いないようです。もっとも、人間性の
良し悪しが必ずしもリーダーとしての適、
不適につながらないというのは、当然
といえば当然でしょう。人の良さだけ
で組織が動くはずがありません。ただ
し部下を動かすためにはなくてはなら
ない能力があります。それが「高いコ
ミュニケーション能力」です。しかし
人が良いから、部下とのコミュニケー
ションがうまく運ぶわけではありません。
相手を思う優しい気持ちがあるから、
コミュニケーションが運ぶわけでもあ
りません。ゴーン社長と星野監督を見
ていて思うことは、組織のリーダーと
部下との間で行われるコミュニケーシ
ョンは「双方向」である必要などさら
さらない、ということです。この二人
のリーダーは部下達と深く理解しあお
うなどという気持ちはさらさらない。
あるのは、部下の事情を深く、詳細に
知ろうとする気持ちです。部下たちは
いま、不安なのか、自分に反発してい
るのか、やる気を失っているのか、そ
れともやる気になっているのか。ある
いは家庭に何か問題があるのか等々、
部下の事情に精通すること。それがで
きれば、必要な時に、必要な指示やア
ドバイスができる。その意味では「観
察力」が非常に大切になってきます。
部下の一人一人の状況を、適格につか
む能力です。その点を先週のサンプロで、
星野監督に尋ねてみました。すると、
彼はこう答えました。
「自分はそんなに見ていない。むしろ
それはコーチがやってくれた。コーチ
からあがってくる情報を自分は聞いて
いただけだ」
なるほど。ゴーン社長も同じでしょう。
日本語のできないゴーン社長にとって、
主要な部下の細かい事情までつかむこ
とは不可能です。しかし、彼はポイント、
ポイントに信頼できる部下を定め、そ
の人を通じて、現場の状況を克明に知
ろうとしているようです。
つまり高いコミュニケーション能力
とは、リーダー個人の資質によって実
現されるものではなく、組織における
内部情報の収集力によって実現できる
ものなのです。部下の事情に精通して
いれば、相手のモチベーションを高く
するために必要な言葉をかけてやるこ
ともできるし、モチベーションをあげ
るために必要な措置をタイミングよく
こうじることもできるのです。
(財部誠一)
◆星野仙一監督 経歴
昭和22年1月22日岡山
県倉敷市に生まれる
倉敷商業から明治大学へ進学。
昭和44年(1969年)卒
業と同時に中日ドラゴンズ
へドラフト1位で入団 、4
9年沢村賞・最多セーブ賞
受賞(中日20年ぶりにリ
ーグ優勝)、50年最優秀勝
率投手、57年中日3度目
の優勝と共に引退。公式通
算成績は146勝121敗
34セーブ。防御率は3.6
0だった。野球評論家とし
て活躍後、昭和61年中日
の監督として契約を結ぶ。
監督2年目でセ・リーグ優
勝へ。5年目に退団。その後、
NHK野球評論家、中日新
聞客員、東京中日スポーツ
野球評論執筆、共同通信野
球評論執筆等 。平成7年、再
び中日ドラゴンズ球団監督
として、契約を結ぶ。平成1
1年セ・リーグ優勝、12年
2位。平成14年阪神タイ
ガース監督として契約、
就任。
セ・リーグ優勝へ導く。
編集・発行
ハーベイロード・ジャパン
〒107-0062
港区南青山1-15-2
南青山スタジオフラット201
Tel
.03─3479─2376
Fax.03─5770─3137
無断転載はお断りいたします