空調ダクトの真菌汚染と樹脂コーティングを用いた清掃

G-24
空調ダクトの真菌汚染と樹脂コーティングを用いた清掃工法について
Fungal Contamination of Air Conditioning Duct and Cleaning Method by Using Resin Coating
正 会 員 ○福島 由美子((株)ファインテック)
1
Yumiko FUKUSHIMA*
市川 幸充((株)ファインテック)
Yukimitsu ICHIKAWA*1
*1 Fine Thech Co. Ltd.
It has revealed fungal contamination of air conditioning duct and examined new cleaning method of using resin coating.
Fungi have grown into duct and could not clean completely by duct cleaning. And it is easy to contaminate after cleaning.
Then we undertook alcohol sterilization and resin coating after duct cleaning method. The resin coating could fix the dust.
The duct could owe antifungal effect by mixed few antifungal materials in resin.
使用ダクトは、グラスウールダクト、アルミ張りダク
ト(二面張りダクト)
、フレキダクト(内面不織布)
、プ
ラスチックフレキダクトの 4 種類を用いた。
菌種は、実際の空調ダクトより採取された
Cladosporium sp.、Penicillium sp.、Aspergillus sp.、
Alternaria sp.を用いた。GP 培地にこれらの菌が
106cfu/ml に調整し、菌液とした。 菌液を各ダクトに
塗布し、温度 27 度、湿度 99%一定にした培養器で 2 ヶ
月間培養後、目視により、真菌の繁殖しやすさを確認し
た。続いて、クリーニングをかけた後、ダクト内壁およ
びダクト深部(中間部分)の菌数を測定した。菌数測定
には、DD チェエッカー(デンカ生研株式会社製)を用い、
10c ㎡中の付着真菌数を測定した。ダクトは 50cm に裁断
した丸ダクト各四本用い、表記の菌数は、それぞれの結
果の最大値と最小値を除いた 2 検体の平均値を記した。
はじめに
空調システムの真菌汚染は、居住空間のアレルゲンと
して問題となっている。
特に、
空調ダクトの真菌汚染は、
その空調システムに占める体積から、居住空間への影響
が大きい。
この問題に対し、従来ではフィルター設置や、ダクト
クリーニングなどが行われてきた。しかし、フィルター
設置は、フィルターの定期交換を頻繁に実施しなければ
ならないことや、フィルターが目詰まりを起こした場合
に、フィルター以外の箇所から空気が流入したり、フィ
ルター自身の菌汚染等が起きてしまう。またダクトクリ
ーニングは、ダクトの形状が多種多様であるために清掃
の難易度が高く、埃を完全には除去できない。埃を完全
に除去できない場合は、特に空隙の多いフレキシブルダ
クトなどでは、埃の中の真菌がグラスウール内部まで菌
糸を伸ばし、ダクトの老朽化を早めるとともに、清掃後
も真菌汚染が再発しやすいことが考えられる。
そこで本研究では、より真菌汚染を起こしにくくする
新たな清掃工法を開発する事を目的とし、ダクトクリー
ニングが終わった塵埃の少ないダクト内を、樹脂コーテ
ィングすることにより、より簡単に埃を固化して飛散を
防止するとともに、ダクト内の除菌、樹脂への防黴剤の
混入を併せて行うことにより、既存の真菌に対する殺菌
を行い、ダクト内部の防黴化を行う工法を試みた。
また本研究では、従来、明確にされてこなかったダク
ト内部への真菌の生えやすさと通常のダクトクリーニン
グの影響も併せて検討した。
1.実験方法
1.1 空調ダクトの真菌の生えやすさとダクトクリー
ニングの影響
まず、空調ダクトの真菌の生えやすさとダクトクリー
ニングの影響を求めた。
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集{2008.8.27 〜 29(草津)}
1.2 樹脂コート剤の検討
樹脂コート剤の検討として、埃の固定化および、防黴
効果を測定した。また、塗膜性能試験として、伸度(破
断歪率)
、耐衝撃性、密着性、耐熱性試験を行った。
(1) 埃の固定化試験
ダクトは、グラスウールダクトを用いた。埃は実際の
ダクトクリーニングで得られた埃(日本ウィントン株式
会社提供)を用いた。塗布に使用した樹脂は、アクリル
シリコン樹脂に防黴剤(沸点の高い 2 種の混合物)2w%
を混入させたもの(製品名 FT400AS、日油株式会社製)
を用いた。
(F☆☆☆☆取得・不燃性試験合格)
埃の固定化試験は、ダクトに、紙製養生テープを利用
して 50mm の正方形枠を作成した。埃を枠内に 1g ずつ散
布し、樹脂をスプレーした。樹脂は 50g/㎥、100g/㎥、
150g/㎥の3種で行った。樹脂の乾燥後、ダクト表面に埃
が固定されているか否かを指触で確認した。
(2) 防黴性試験
-1349-
試験に用いた真菌は、Aspergills niger (FERM S-2)、
Penicillium funiculosum (FERM S-6)、 Cladosporium
cladosporioides(FERM S-8) 、Aureobasidium pullulans
(FERM S-9)
、Gliocladium virens(FERM S-10)の 5 菌
種を用いた。
評価は、JIS Z 2911 (かび抵抗性試験方法)8.塗料の
試験 に従って行った。
(財団法人 建材試験センターに
おいて実施)
(3) 塗膜性能試験
塗膜性能試験に用いる塗膜は、
100-200g/㎡でそれぞれ
試験片に塗布した検体を用いた。
塗膜性能試験は、塗布後、乾燥が確認された時点で、
上記の 4 種の試験を行い、各種耐久性試験を施した後に
再び密着性試験および耐衝撃性試験を行った。
耐久性試験は、耐熱性試験、耐湿性試験、ヒートショ
ック試験の3種について行った。耐熱性試験は、100℃
1653 時間、耐湿性試験は 60℃(95%RH)2606 時間、ヒー
トショック試験は-20℃⇔120℃を 453 回(4h/回)繰り
返しの条件で行った。
塗膜性能試験の試験条件は、結果および考察に示す。
1.3 樹脂コーティングによるダクト内部の清浄化
実際の空調ダクトに樹脂コーティングを行いその評価
を行った。コーティング後のダクト、耐久性試験後のダ
クトの防黴効果を評価した。さらに、実際の稼動ダクト
への施工性を見るために、実際の稼動ダクトに施工した
前後の付着菌を定性的に測定した。
(1) 樹脂コーティング後のダクトの防黴評価
実際の樹脂コーティング後のダクトの防黴評価を、
JIS
Z 2911 乾式法で行った。
ダクトは、フレキシブルダクト(内面不織布)を用い
た。全ダクトに埃・真菌混合物を付着させた後、未コー
トダクト、クリーニング後未コートダクト、除菌・コー
ティングのみを行ったダクト、クリーニング・除菌・コ
ーティングを行ったダクトの 4 種類を用いた。以上の 4
種のダクトに菌液を等量ずつ塗布した。菌液は、実験 1.1
で用いたものと同じものを GP 培地に調整して用いた。
6 ヶ月間、培養器内で培養後、ダクト内部および深部
(中間部分)の真菌数を測定した。菌数の測定方法は、
ダクト表面および深部(中間部分)10c ㎡を、滅菌綿棒
でふき取り、菌数を測定した。
(2) 耐久性試験後の検体の防黴効力試験
ダクトは、グラスウールダクトを用いた。樹脂コーテ
ィング後、実験 1.2 の耐久性試験を行い、耐久性試験後
のダクトの防黴効果を JIS Z 2911 湿式法で行った。
菌液は、実験 1.1 で用いたものと同じものを滅菌精製
水に 106cfu/ml に調整した。菌液を塗抹した PDA 培地に
ダクト内面を 3×3cm に切断したものを添付し、1ヶ月
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集{2008.8.27 〜 29(草津)}
間培養後、ダクト表面の真菌の繁殖面積を測定した。
(3) 実際のダクトへの樹脂コーティング
実際の稼動ダクトへのコーティング前後の付着真菌を
定性的に測定した。
通常のダクトクリーニング後、アルコール噴霧による
殺菌、樹脂のコーティングを行った。施工前後のダクト
内部を任意面積、滅菌綿棒でふき取り、真菌の有無を測
定した。真菌の検出は、PDA 培地を用いた。施工場所は、
住宅、図書館、オフィスビル、食品工場、ショッピング
センターで行った。
2.結果および考察
2.1 空調ダクト内部の真菌の生えやすさとダクトク
リーニングの影響
(1) 各種空調素材による真菌の生えやすさ
各種空調ダクトに菌液を塗布し、2 ヶ月間培養した後
のダクト内面の真菌汚染面積を目視で測定した。
グラスウールダクト、フレキダクト(内面不織布)
、プ
ラスチックフレキダクトはダクトの 50%以上に真菌の繁
殖が見られた。アルミ張りダクトには、30-50%の面積に
真菌の繁殖が見られた。
(2) クリーニング後の真菌数
ダクトクリーニング行った後、ダクト内面、深部(中
間部分)の付着菌数を測定した。表 1 にそれらの結果を
示す。
表 1 空調ダクト清掃後の真菌数(unit:cfu/10cm2)
グラスウー
ル
フレキ
アルミ張り
(内面不織
布)
プラスチッ
クフレキ
内面
>40
11
>40
>40
中間
6
1.5
17.5
19
表に示されるように、ダクト内面に真菌は確認され、
クリーニングのみでは、真菌を取りきれないことが分か
った。また、ダクト深部(中間部分)でも真菌の繁殖が
見られ、ダクト内面の真菌は深部にも根を張ったことが
分かった。
2.2 樹脂コート剤の検討
(1) 埃の固定化
樹脂塗布量 150g/c ㎡の場合、埃は固定されており、
100g/c ㎡の場合、大きな埃は固定されていないことが分
かった。50g/c ㎡の場合、埃は固定されなかった。
(2) 防黴効果
樹脂塗布検体を 10 日間培養したところ、
防黴効果が現
れていることが確認された。
(3) 塗膜性能試験
表 2 に樹脂コーティング後の塗膜性能試験の結果を
-1350-
た。
一ヶ月間培養後、
ダクト面に真菌の繁殖は見られず、
防黴効果が現れていることが分かった。
示す。以下に示されるように、良好な塗膜性能を示し、
耐久性試験後も塗膜性能の劣ることはなかった。
表 2 塗膜性能試験結果
試験成績
試験項
通常
耐熱
耐湿
試験方法
ヒートシ
目
ョック
伸度
300% 以
25℃、50cm/min
上
耐衝撃
剥離認
剥離
剥離
剥離
500g×50cm デュ
性
めず
認め
認め
認め
ポン式試験器
ず
ず
ず
100/
100/
100/
100/
100
100
100
100
密着性
クロスカット セロテープ
法
ヒート
変性無
-20℃、120℃453
ショッ
し
回繰り返し(4h/
ク試験
変性無
試験
し
表 3 各種コーティングダクトによる真菌増殖の違い(unit:
cfu/10c ㎡) B は、深部で細菌類が増殖。
C
D
図書館
施工前
埃・真菌混合物堆積
A の後ダクトクリー
ニング
B の後、殺菌・コーテ
ィング
A の後、除菌・コーテ
ィング
施工後
100℃×1653時間
2.3 樹脂コートによるダクト内部の清浄化
(1) 樹脂コーティング後のダクトの防黴効力試験
表 3 は、各種コーティングダクトの内部および深部の
真菌数の結果になる。クリーニング後のダクト(B)は、
クリーニングを行わないダクトより、真菌数が多く、ク
リーニングの工程が何らかの形でダクトを磨耗させ、真
菌が増殖しやすくなっていることが考えられた。
クリーニング、除菌、コーティングを行ったダクト(C)
は、真菌がほとんど見られなかった。また、初期の埃・
真菌混合物の付着後、除菌・コーティングのみを行った
ダクト(D)は、C のダクトとほぼ同様の結果となり、粉塵
量の少ない場合では除菌・コーティングのみでも、十分
効果の見込めるものであることが分かった。
B
表 4 施工前後の付着菌の有無
回)
耐熱性
A
(3) 実際のダクトへの塗布
実際のダクトへの樹脂コーティングを行い、施工前後
の真菌の有無を定性的に求めた。
埃の堆積が著しく多い場所であったため、全てダクト
クリーニングを行ってから、除菌・コーティングを行っ
た。
表 4 に培養結果である培地写真の一例を示す。施工前
の ダ ク ト は Cladosporium sp. 、 Penicillium sp. 、
Aspergillus sp.などの真菌汚染が目立って確認されたが、
どれも良好に真菌を抑えていることが示された。
内部
深部(中間)
22.7
0.4
54.3
<0.03
<0.03
0.03
<0.03
(2) 耐久性試験後の検体の防黴効力試験
実験 2.2 で行った耐久性試験後の防黴効力試験を行っ
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集{2008.8.27 〜 29(草津)}
ショッピングセンター
施工前
施工後
3.まとめ
空調ダクトにおける、真菌汚染を起こしにくくする新たな
清掃工法を開発する事を目的とし、ダクト内に防黴剤を混入
させた樹脂をコーティングする事による埃の固定化および
防黴化を試みた。
まず、ダクトの種類による真菌の生えやすさとダクトクリー
ニングの影響を調べた。真菌はダクト内部(フレキシブルダ
クト・グラスウール)にも菌糸を伸ばし、ダクトクリーニングで
完全に取り除くことはできないことがわかった。
次に、樹脂の検討を行った。アクリルシリコン樹脂を用い、
150g/㎡のアクリルシリコン樹脂で、埃を固定化させることが
できることがわかった。各種塗膜の性能試験を行い、良好な
塗膜を形成されていることがわかった。2 種の防黴剤を混合
させる事により、樹脂に防黴効果を持たせる事が出来た。
最後に、実際のダクトに樹脂コーティングを行った。コー
-1351-
ティングを行ったダクトは、培容器内で 6 ヶ月間の培養後も
良好な防黴効果を示していることがわかった。また、実際の
空調機本体内部に用いても、良好な防黴効果が示された。
以上のことより、樹脂コーティングを行う清掃工法は、ダク
ト内部の埃を固定化し、防黴効果を持たせる、新たな清掃
工法として良好な手段であることが示された。
4.謝辞
不燃性試験、かび抵抗性試験、塗膜性能試験の実施に
ついては、日油株式会社の協力を得ました。
空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集{2008.8.27 〜 29(草津)}
-1352-