足入れの良い革靴プロジェクト 概要

Digital Human Research Center
足入れの良い革靴プロジェクト 概要
独立行政法人 産業技術総合研究所
デジタルヒューマン工学研究センター
持丸正明
研究開発コンセプト
■  足入れの良い革靴とは
Digital Human Research Center
–  最初に履いたときのフィット感が良い(店舗で売れる)
–  長く履いてもフィット感が損なわれない(リピータ)
■  特定個人にピッタリ合う靴ではなく、
集団に対して一定以上の適合性を示す靴
–  足に病的な変形を持たない日本人集団が対象
–  あまりサイズバリエーションを増やすことなく、フィッ
ト性を向上させたい
–  スタイルデザインのための許容域が不可欠
足入れが良く、作りが良い日本製革靴の
品質管理とブランド化を通じ、
「足入れの良い革靴」の新市場形成
2
良い 設計 は必要条件、十分条件ではない
コンセプトデザイン
Digital Human Research Center
デザインレビュー
グレーディング・製造
設計プロセス
足入れの良い革靴とするために、作る前に
決める工程(顧客層、コンセプト、外観、
靴型、パーツ、パターン..などを決める)
製造プロセス
設計工程で決めた情報を、モノに転写して
靴という製品を産み出す工程(靴型、パ
ーツ、パターンを作り、組み合わせる)
納品・検収・卸し
顧客への販売
販売プロセス
製品を顧客に届ける工程(流通、在庫管理
だけでなく、顧客への説明、推奨、販売店
でのカスタマイズも含む)
3
靴型設計プロセスを科学的に
Digital Human Research Center
可観測
制御不可
• 
• 
• 
• 
• 
3次元形状
筋骨格構造特性
感覚感度
裸足立位特性
裸足歩行特性
関数
f
関数
相互作用
可観測
可制御
•  3次元形状
グレーの表記は
現場計測が困難
g
h
•  圧力分布
•  着靴歩行運動
•  経験、記憶
•  気分、感情
•  認知、評価
可観測
制御不可
•  革材パターン
•  パーツ特性
•  材料特性
可観測
可制御
制御目標
4
研究開発コンセプト
■  革靴
Digital Human Research Center
–  天然皮革による国産革靴であること
–  個別対応品ではなく、量産品であること
■  履き心地とファッション性
–  さまざまなスタイルデザイン派生の基盤となること
–  履き心地とファッション性を兼ね備えること
■  製造と販売
–  中敷きでの個別調整を必要条件としないこと
–  設計と製造の品質管理で安定した革靴を提供できること
6cmヒール
プレーンパンプス
内羽根 ひも靴
5
ターゲット (足特性)
■  足に病的な変形を持たない顧客層
Digital Human Research Center
–  外反母趾などの顧客をターゲットにするわけではない
–  それでも、顧客の足の個人差は多様。これにできるだけ
対応できる靴型・革靴を目指す
日本人女性の
足長−足囲分布図
(土肥麻佐子, 人間工学, 2003)
6
2011年度 足入れ革靴PJ報告書より
ターゲット (購買層)
■  婦人靴であれば、購入価格15,000円以上の顧客層
5,000-10,000
10,000-15,000
15,000<
Digital Human Research Center
<5,000
7
ポジショニング
■  高価格帯で、履き心地とファッション性の両立
Digital Human Research Center
高価格
ドイツ
フランス
イタリア
日本
スペイン
機能性
ファッション性
中国
低価格
8
交換価値から使用価値へ
■  交換価値(Value in Exchange)
Digital Human Research Center
–  商品と貨幣が交換されるとき、貨幣の価値によって商品
価値が決定する
■  使用価値(Value in Use)
–  商品を使ったとき、顧客の体験によって商品の価値が決
定する
店頭で見栄えが良いだけでなく、
履いて歩いて、良かったと思える革靴を
市場縮小時代には、リピーター獲得が重要
9
靴型設計:スタイルとフィッティング
Digital Human Research Center
•  ボール部の殺し寸法目安(H24∼)
•  グレーディング方法(H25∼)
•  革素材、パターンの影響(H24∼)
ヒール部(H24)
アーチ部(H24)
ボール部(H23)
主としてスタイル
デザインのパート
フィッティングを
考慮するパート
10
靴型設計:コンセプトと仮説 (1)
■  歩くときの変形に合わせる
Digital Human Research Center
–  足のボール線に合わせて曲がるようにする
複数台カメラ計測に
よる歩行中の足形状
の4次元計測
脛側中足点
腓側中足点
踵点
11
靴型設計:コンセプトと仮説 (2)
■  ソール部形状で足の前すべりを抑える
Digital Human Research Center
–  クーロン摩擦(摩擦係数)に頼らない
–  ゴム摩擦(面積)と掘起し摩擦(形状)を活用
接触面積:小(ゴム摩擦小)
形状効果:なし(掘起し摩擦小)
接触面積:大(ゴム摩擦大)
形状効果:あり(掘起し摩擦大)
12
基本靴型選定
Hikari
■  長く売れている靴の靴型から選定
Digital Human Research Center
–  長期に売れている市販靴で試履試験を行って選定
–  自称23cmサイズの女性被験者58名
13
河内まき子が講演
婦人靴:ボール・踵部修正
Sakura
■  足のボール部軸と靴のボール線を合わせる
–  腓側中足点と脛側中足点を結ぶ足のボール線角度と靴型
のボール線角度をできるだけ合わせる
Digital Human Research Center
■  踵部のおわんを6mm深くする
14
河内まき子が講演
婦人靴:内盛靴型+ボール・踵部修正
Digital Human Research Center
■  内盛靴型
Fuji
–  足軸の曲がりに対応するように、
基本靴型のボール部内側を盛り上げた靴型
–  足囲サイズ(周囲長)は同じでも、やや幅広で平たい形
状となった
Hikari
Fuji
15
河内まき子が講演
婦人靴:ボール・踵部修正
− 多人数試履実験
Digital Human Research Center
■  108名の被験者
■  基本靴型と内盛靴型で好みを比較
■  それぞれの靴型で下記を比較
Hikari
–  修正なし
–  踵部のみ修正(おわん深さ6mm)
–  ボール・踵部修正(おわん深さ6mm)
Sakura
Fuji
16
長時間試履実験
Digital Human Research Center
■  日常生活程度の歩行の前後で
評価
–  階段を含めた1.25kmの通路を
歩行(通勤環境を想定)
–  基本靴と修正靴の比較
–  歩行前と歩行後で評価
■  被験者
–  男性10名、女性19名
■  資料(比較してもらった革靴)
–  男性: 基本、ボール・踵部修正
–  女性: 基本 (Hikari)
基本のボール・踵部修正 (Sakura)
内盛のボール・踵部修正 (Fuji)
17
長時間試履実験
Digital Human Research Center
■  評価結果
–  長時間歩行で評価が変わる
–  合体(ボール・踵部)修正
を好むように変わる者、
逆に基本(無修正)に
変わる者がほぼ半数ずつ
–  男性でも同様の結果
18
紳士靴:ボール・踵部修正
■  足のボール部軸と靴のボール線を合わせる
–  腓側中足点と脛側中足点を結ぶ足のボール線角度と靴型
のボール線角度をできるだけ合わせる
Digital Human Research Center
■  踵部のおわんを4mm深くする
19
紳士靴:踵部修正
−多人数試履実験
–  修正靴型の方がやや好まれる
–  統計的有意差はなし
35"
30"
25"
人数
Digital Human Research Center
■  103名の被験者
■  基本靴型と踵部修正 (4mm)
靴型で評価
20"
15"
10"
5"
0"
基本が良い:差
が30点以上
人数
13"
基本がやや良
同じ程度:差が
い:差が10-30
±10点以内
点
21"
24"
修正がやや良
修正が良い:差
い:差が10-30
が30点以上
点
29"
16"
20
良い 設計 は必要条件、十分条件ではない
コンセプトデザイン
Digital Human Research Center
デザインレビュー
グレーディング・製造
設計プロセス
足入れの良い革靴とするために、作る前に
決める工程(顧客層、コンセプト、外観、
靴型、パーツ、パターン..などを決める)
製造プロセス
設計工程で決めた情報を、モノに転写して
靴という製品を産み出す工程(靴型、パ
ーツ、パターンを作り、組み合わせる)
納品・検収・卸し
顧客への販売
販売プロセス
製品を顧客に届ける工程(流通、在庫管理
だけでなく、顧客への説明、推奨、販売店
でのカスタマイズも含む)
21
中底・月型の製造ばらつきの影響
■  実験目的
Digital Human Research Center
–  中底や月型の製造ばらつき
が、最終的な靴の履き心地
にどの程度影響するか?
■  実験方法
–  通常の製造ばらつき、製法
の違いで複数の月型、中底
を用意し、靴を製造
–  紳士20名、婦人20名
–  ブラインドで履かせて質問
■  結果
–  靴のサイズの差異は認識で
きなかった。
22
革靴の製造ばらつき評価実験
Digital Human Research Center
■  試料
–  P, Sの2社がふだんから製造している23cmの黒いプレー
ンパンプスを5足ずつ製造
–  2社が使ったと全く同じ靴型、同じ材料で、Y氏が各社の
靴5足を製造
■  実験資料の計測
–  各社製造の5足を3次元計測して形状を比較し、最も似て
いない2足を選ぶ
–  各社の靴型・材料でY氏が製造した5足についても、3次
元形状を比較し、最も似ていない2足を選ぶ
23
革靴の製造ばらつき評価実験
Digital Human Research Center
■  各社の靴につき、以下の5足を実験に使用
–  自社製造の5足のうち最も似ていない2足
–  自社の靴型・材料でY氏が製造した5足のうち最も似てい
ない2足
–  他社製造の5足のうち、評価実験に使わない3足のうち1
足
24
3年間の研究
2012.03
2013.03
2014.03
基準靴選定 靴型ボール部修正 靴型アーチ・踵部修正
研究開発
Digital Human Research Center
試履試験
販売実証
試履試験
販売実証(伊勢丹)
展示(銀座T&E)
認証
ガイドライン
25
製造・販売
靴型足底部・踵部の
設計方法
中底・ヒールパーツ
形状の標準化
革靴のパーツ・素材・パターンの影響
靴型ボール部の
設計方法
設計
Digital Human Research Center
製造
革靴ガイドライン
革靴の設計・製造・販売のプロセス標準
革靴の設計・製造・販売の基本理念
26
ガイドラインと認証(ゴールイメージ)
ガイドラインに
従って設計・製造
認証組織
Digital Human Research Center
メーカ
FIT
FIT
合意
ガイドライン
消費者
足入れ品質を
信頼して購買
販売店
足入れ品質を
ウリに販売
FIT
ガイドラインに
基づいて
足入れ品質を認証
27
革靴ガイドライン策定に対する基本姿勢
■  業界主導
Digital Human Research Center
–  業界関係者が自社益、業界益を考えてルールを決める
–  産総研が中立的な立場で合意形成を仲立ちする
■  消費者視点
–  消費者にとって意義のある、魅力品質を
–  業界の独りよがりな差別化性能を押しつけない
■  持続可能性
–  消費者にとって、魅力が長続きする
–  メーカにとって、手間が少なくコストがかからない
–  認証機関のビジネスが継続可能
■  科学的基盤
–  客観的、科学的な知見、証拠に基づく
28
ガイドライン+認証の作る新市場
Digital Human Research Center
顧客群へのフィ
ット性を高める
靴設計の科学
ガイドラインに
従って設計・製造
認証組織
メーカ
皮革­部品­製造
­卸­小売を横断
する合意形成
合う靴が見つ
かる。分かりや
すく選びやすい
FIT
FIT
合意
ガイドライン
消費者
足入れ品質を
信頼して購買
販売店
足入れ品質を
ウリに販売
FIT
ガイドラインに
基づいて
足入れ品質を認証
足入れが良く、作りが良い日本製革靴の
品質管理とブランド化を通じ、
「足入れの良い革靴」の新市場形成
29
Digital Human Research Center
ご静聴、ありがとうございました