読書への誘い

中学校・高等学校
読書指導
読書への誘い
~中学校・高等学校での読書へのアニマシオンをとおして~
中
Ⅰ
根
猛
研究の趣旨
児童生徒の読書量の低下が問題になっている。
「学校読書調査」によると「本
を読むことは大切である。」と小学校から高等学校まで9割前後の児童生徒が
認識しているにもかかわらず,1ヶ月間に1冊も本を読まなかった児童生徒の
割合は,小学校から中学校,高等学校と進むにつれて高くなる。また,文化庁
の「国語に関する世論調査」によれば,子どもばかりでなく全世代にわたって
読書離れが認められた。
このことは,学校教育において読書指導が十分位置づけられていないことや,
受験等による読書のための余裕のなさ,子どもを取り巻く多様な娯楽,本を読
まない大人の姿などが影響していると考えられる。
児童生徒を読書に向かわせることが急務となっている今,様々な読書指導が
展開されている。朝の一斉読書活動,読書生活の指導,ブックトーク,読み聞
かせ,アニマシオン等の指導が実践されている。
昨年度は,読書へのアニマシオンに注目し,方法や実践例を研究し梁川町立
堰本小学校の2学年の2学級で実践した。楽しい活動であり,子どもたちを読
書に誘うのに効果があることが実感できた。本年度は,読書離れが顕著な中学
校,高等学校でのアニマシオンに絞って具体的な実践方法を計画したいと考え
ている。その際に考慮するのが以下の点である。
①読まず嫌いも読みたくなるおもしろい本を選ぶ。
②生徒が入手可能な安価な本を選ぶ。
Ⅱ
1
アニマシオンの実践計画
「佐賀のがばいばあちゃん」でアニマシオン
(1) 作戦 12 「前かな,後ろかな?」
(2) ねらい
・読むときの集中力を鍛える。
・物語の順序やそのテンポの価値を知る。
・仲間と協力する精神を養う。
・作品に出てくる論点を重視する。
「読書へのアニマシオン75の作戦 」M・Mサルト P70
(3) 素材について 「佐賀のがばいばあちゃん」 島田洋七 著
徳間書店刊
「こんちきしょう,洋七はばあちゃんという,すごい財産をもっていや
-1-
がった。」とビートたけしの言葉が帯に印刷されている。昭和33年,広
島から佐賀の祖母に預けられた八歳の昭広。そこでは厳しい戦後を七人の
子どもを抱えて生き抜いたがばい(すごい)祖母との貧乏生活が待ってい
た。その暮らしの中で人間の本当の幸せというものを学んでいく。読みな
がら腹を抱えて笑い,そしてほろっと涙する温かい作品である。読書嫌い
な子どもたちも,一読して「がばいばあちゃん」の生き方に魅了され作品
の世界に引き込まれるだろう。
(4) 対象学年
小学生から中学生,高校生で実施可能。15人~30人が適切な人
数。
(5) 所要時間 50分
(6) 準備物
全員が,アニマシオンの前までに読んくること。それから,参加者
一人につき一枚ずつ,本の中の段落を書き入れたカード。
(7) 実践方法
まず,アニマドールは全員にカードを一枚ずつ配る。抜き書きされ
た段落の順序がばらばらになるようにカードをよく切っておく。全員
に行き渡るまで,子どもたちは,カードを見てはいけない。
① 5分間,カードを黙読する時間をとる。
② 全員が自分のカードに何が書いてあるのか分かったら,一番端の子
を当てて,カードの段落を読み上げるように言う。
③ 次に,その隣の子にも自分のカードを読んでもらう。その子のカー
ドの出来事が,最初に読んだこの出来事よりも,本の中で先に出てき
ていたら,最初に読んだ子は二番目 の子に先頭の席をゆずり,二番
目の席に移る。
④ 続いて,三番目の子に自分のカードを読んでもらい,先に読んだ子
たちの段落より前にくるか,後にくるか尋ねる。二人より前なら,二
人がずれて,三番目の子が先頭にく る。二人より後なら,そのまま
動きません。先の二人の間なら,真ん中に入る。
⑤ このようにして,全員が順々に各自のカードを読んで,ここだと思
う順に席を移動していく。
⑥ 全員が納得する順に並んだら,アニマドールは静かにするように子
どもに呼びかけ,並んだ順にもう一度カードを読み上げてもらい,席
を交換し会う機会を与える。
※ここまでは,アニマドールは口出しをせず,子どもたち自身の判断に
任せる。
⑦ アニマドールは,正しく並べたかどうかを告げる。
⑧ すべての段落の順序が明らかになったところで,もう一度全員で順
々に各自のカードを読み上げ,読んだ本の記憶を呼び覚ます。
(7) 取り上げた段落
①第一章 「背中を,おされて・・・」
昭広は,小学校二年生のある日,佐賀のおばあちゃんにあずけられ
ることになった。佐賀から遊びに来た喜佐子おばちゃんを広島駅で見
送ったとき,母親に背中を「どん」と押され汽車のなかへ。だまされ
-2-
て,佐賀へ旅立ったが,母子ともに涙のわかれだった。
②第二章 「貧乏から貧乏へ」
昭広が預けられるおばあちゃんの家は,日本昔話に出てくるような
茅葺きのぼろ屋だった。初めてあったおばあちゃんは,意外にも背の
高い色白の,すらっとした上品なおばあさんだった。そして,いきな
り朝の飯炊きの仕方を教わり,昭広の仕事になった。ワンランク上の
ど貧乏のばあちゃんは,歩きながら磁石を引いて鉄くずを集めたり,
川上から流れてくる野菜をとったりとすごい知恵の持ち主だった。
③第三章 「ピカピカの転入生」
金ボタンに革靴の昭広は,佐賀城内にある小学校に転校した。木登
りをして木の実を食べたり,筏を造って川を下ったり木の上に秘密基
地を作って遊んだ。剣道や柔道がはやっていたので習いたかったがお
金がかかるのでだめだった。その代わり「走りんしゃい」といわれ放
課後,一人で校庭を走った。「一生懸命走るな。腹へるから」「靴履い
て走るな」といわれる。
④第四章 「由緒正しい貧乏暮らし」
食事記録に伊勢エビと書いたら担任の先生が不審に思い家に来た。
伊勢エビは,実はザリガニだった。スイカの皮で作ったお面は,一晩
たったらスイカの皮の漬け物になっていた。貧乏暮らしは毎日の食べ
物が大変だった。茶殻も天日に干してフライパンで煎ってふりかけに
し,魚の骨も吸い物にして食べた 。「拾う物はあっても捨てる物はな
いと」と言っていた。川に棒を渡したスーパーマーケットは,お盆の
時は,グルメフェアでリンゴやバナナも流れてきた。
⑤第五章 「一番好きで,一番嫌いだった運動会」
ばあちゃんの助言で「走る」という究極に金のかからないスポーツ
に没頭した昭広は,走るのが速くなっていた。運動会に母ちゃんに来
てほしくて手紙を書いたが ,「来られない」という返事が来た。つま
らない気持ちでいた。ばあちゃんは,鶏に卵を産め埋めと声をかける。
そこに「ハイハイ」と合いの手が入るようになる。隣の「吉田ウメ」
さんが勘違いをして返事をしていた。運動会の50メートル走で一着
になっても一人寂しく質素な弁当を教室で食べている昭広に,担任の
先生は,お腹が痛いから弁当を取り換えてくれといい豪華な弁当を昭
広に渡した。それは,小学校を卒業するまで毎年続いた。6年生にな
ったとき ,「本当の優しさとは,人に気づかれずにやること」とばあ
ちゃんに教えられる。
⑥第六章 「湯たんぽが運んできた幸せ」
空腹と寒さで涙がこぼれる寒い夜に,湯たんぽが幸福をもたらした。
夜の急な来客のお茶に,遠足の水筒代わりにお茶を入れてと使い方は
一つではない。さすがに,遠足に持って行ったときは恥ずかしい思い
をしたが,帰り道にのどの渇いた友達にお茶を飲ませてやりお礼にお
菓子をもらった。「わらしべ長者」の気分を味わった。
⑦第七章 「金は天下の拾いもの!?」
自分のお金で,お菓子を買う方法を思いついた。ばあちゃんの知恵
を拝借して,磁石をひもで縛りそれを引いて歩く。するとたくさんの
-3-
釘がくっつく。それをクズ屋さんに持っていくとひとり10円になっ
た。それで,駄菓子を買った。また,城のお濠で筏遊びをしていたと
き,スッポンを捕まえた。840円で魚屋に売れた。そのお金で24
色のクレパスを買った。24色のクレパスは自慢だった。
⑧第八章 「かあちゃんと野球少年」
小学5年生になって,昭広は同級生と野球チームを作った。また,
毎年夏休みになると広島市民球場へプロ野球観戦に出かけた。昭広た
ちの野球チームは,なかなかの強豪だった。ある時,池沢君という老
舗菓子店の息子がやってきて野球の道具も提供してくれた。しかし,
運動神経が皆無で,試合に出すか,出さないか,道具は借りられなく
なるがどうするか。と論争を展開した。そのころ,佐賀に広島カープ
の選手がやってきて,昭広は古葉選手と思われる人から豆菓子をもら
った。ますます,広島カープファンになった。
⑨第九章 「ばあちゃんとかあちゃん」
かあちゃんからばあちゃんへの手紙に今月は二千円しか送れないと
書かれてあるのを読んでしまった昭広。考えた末,昭広は,ご飯を控
えることにした。
「お前手紙見たのか」と問いただされ「うん・・・」
と答えて家を飛び出す昭広。暗くなって家に戻ると大きなおにぎり一
つと「ごはんくらい,食べなさい 。」というばあちゃんの手紙。涙が
こぼれそうになりながらおにぎりを食べていると「帰っていたのか」
とばあちゃん。その時,初めてばあちゃんが涙を見せた。
⑩第10章 「一万円のスパイク」
中学生になった昭広は,野球部に入った。足の速さを認められて,
一年からレギュラーになれた。ばあちゃんが練習を見に来るようにな
った。野球道具や練習着を買うために朝三時頃から中央市場でアルバ
イトを始めた。授業にはでず,そのまま家で眠って午後三時頃からの
野球部の練習に出るようになった。二年生になり三年生が引退すると,
昭広は,キャプテンになった。するとばあちゃんは御紋の長持ちから
一万円を取り出し一番高いスパイクを買ってくれた。本当に嬉しくて
仕方がなかった。また,男の友情にも支えられた。南里君は,餅や野
菜を持ってきてくれたし,クリーニング屋の橋口君は毎週土曜日制服
をクリーニングしてくれた。
⑪第11章 「0点のテストと,満点の作文」
スポーツは万能だが,勉強はイマイチだった。中学校での通知票は,
体育の5をのぞいて1か2。
「1と2ばかりでごめんね」と言うと,
「大
丈夫,足したら5になる。」「人生は総合力」と言い切った。
⑫第12章 「忘れられない先生」
広島に帰るためにロッカーに入れておいた,特急券と現金二千円が
なくなっていた。野球部の顧問の田中先生は,「犯人捜しはするな。
もし見つかったら,そいつが罪人になる」と諭し当時,大金だった五
千円を握らせてくれた。釣り好きの牛ちゃんと呼ばれていた先生。早
朝五時に先生の自転車の後ろに乗って竹竿を10本抱えて釣りに行
く。また,理科の先生と音楽の先生が暗い教室で話し込んでいる姿を
目撃した後,からかいが昂じて彫刻刀で黒板に相合い傘を掘ってしま
-4-
う。黒板を弁償させられる羽目になる。
⑬第13章 「佐賀の有名人」
ばあちゃんは有名人だった。掃除婦をやりながら女手一つで七人も
の子どもを育てさらに,六十歳を過ぎて,今も孫の昭広を預かって育
てている。そんなばあちゃんを認め,がんばりを応援しようとしてく
れた周囲の人がいたおかげだ。豆腐屋のおっちゃんは,崩れた豆腐が
ない日は,自分の手で豆腐を崩して安く売ってくれた。自転車に乗っ
て目をけがしたとき,目医者のお医者さんは「治療代は,いいよ。」
といい,バス代もくれた。ばあちゃんは,払いに行ったが,受け取ら
なかった。また,ばあちゃんは,お金を借りに来る人には一度も断っ
たことがなかった。
⑭第14章 「うどんと,みかんと,初恋と」
私立高校のバスケット部員の少女は ,「あのう,間違えて注文して
しまったんですけど,これ食べてもらえませんか」と熱々のうどんを
差し出してくれた。昭広は,ありがたくごちそうになった。昭広も,
その少女にお返ししようと大きなお屋敷からミカンを泥棒し,少女に
手渡した。何度も,ミカン泥棒をして,少女に手渡したが,ミカンを
盗んでいたお屋敷が少女の家と分かる。昭広の初恋は終結し,野球部
のたまり場を他に移した。
⑮第15章 「最後の運動会」
佐賀での最後の運動会 。「今年は観に行きます。楽しみにしていま
す」という母からの返事。みんなから「良かったね」と言われ,母ち
ゃんが本当に来る喜びを何度もかみしめていた。運動会のメインイベ
ントのマラソン大会。そこになるまで,かあちゃんはきていない。も
うじき家の前,その時「昭広,頑張って!」かあちゃんが手を振って
いた。バイクで先導していた田中先生が嗚咽していた。涙をぬぐって,
一着でゴールインした。
⑯第16章 「おせっかいと優しさ」
修学旅行に野球部の仲間の久保が行かないという。母ちゃんが入院
し,金が必要になり積み立てをおろしたのだという。三年間一緒に頑
張ってきた野球部員が一人もかけることなく修学旅行に行こうと昭広
たちはアルバイトを始める。そして,みんなで稼いだ二万を久保に渡
したが久保は,受け取らなかったが,みんなは押しつけた。しかし,
修学旅行に久保は来なかった。問いつめる昭広たちに,久保は,二万
円で後輩のためにキャッチャーミットとバットとボールを買ったと真
新しい道具を見せた。昭広は,土下座をして久保に謝った。「本当の
優しさとは,相手に気づかれずにすること」というばあちゃんの言葉
を思い出していた。
⑰第17章 「バイバイ,佐賀」
昭広は,広島の広陵高校へ野球部の特待生として入学することが決
まった。しかし,ばあちゃんは「佐賀商業はいいよ」とつぶやくよう
になる。佐賀にいてほしいと一切言わないがつぶやくように「佐賀商
業はいい」と言う。昭広は,悩むが広陵高校に行くことに決める。ば
あちゃんの家を出て行く朝,別れの言葉をかける昭広に「はよう,行
-5-
け」と繰り返すばあちゃん。二三十歩,歩いたとき,背後から「行く
な」とばあちゃんの声が聞こえた。
2
「野ブタ。をプロデュース」でアニマシオン
(1) 作戦 49 「だれが,だれと?」
(2) ねらい
・掘り下げて読むことに慣れる。
・状況全体のなかで,登場人物の持っている価値を見つける。
・登場人物の,幾重にもなった結びつきについて,論理的に考える。
・話のなかに論証する力があることを発見する。
「読書へのアニマシオン75の作戦 」M・MサルトP206
(3) 素材について 「野ブタ。をプロデュース」 白岩 玄著
河出書房新社刊
「舞台は教室。プロデューサーは俺!イジメられっ子は,はたして人
気者になれるのか!?」と帯にキャッチコピーが印刷されている。高校
2年に編入してきたいじめられっ子「野ブタ」を人気者にプロデュース
する話。アイドルを主役にTVドラマ化された話題の小説。
作者は,21歳の専門学校生。第41回文藝賞を受賞した作品である。
(4) 対象学年
高校生(全学年)
(5) 所要時間 50分
(6) 準備物
全員が,アニマシオンの前までに読んでこられるだけの冊数の本。
登場人物の名前と,人間関係の変化を図に描くための,黒板やホワイ
トボード。何色かの色チョークやマーカー。
(7) 実践方法
生徒は,本をを読んで集まり,黒板が見えるように座る。
① まず,アニマドールが,本の内容をざっと思い出させる。あらすじ,
主な登場人物の立場,最も印象的な場面等を10分から15分で確認
する。
<あらすじ>
高校2年生に編入してきた小谷信太(野ブタ)は,体型と自信のな
い言動からイジメの対象になってしまう。その野ブタを桐谷修二がプ
ロデュースして人気者に仕立て上げていく。プロデュースは,成功し
たが,同級生の森川が暴行を受けているのを見過ごしたために今度は,
修二がシカトされ孤立してしまう。修二に心を寄せるマリ子にも決定
的な暴言を吐いてしまう。自分の居心地のいい場所を求めて,修二は
転校し,自分のプロデュースを開始する。
<登場人物>
※この段階では,修二 野ブタ マリ子 森川を簡潔におさえる。
桐谷修二(主人公 プロデューサー)
小谷信太(対役 野ブタ イジメられっ子)
鈴原マリ子(修二に毎日弁当を作ってくる 修二に思いを寄せる)
森川(ヨゴレ役 修二の遊び仲間)
堀内健二(お調子者 凄腕切り込み隊長
作戦の目撃者
-6-
修二の遊び仲間)
協力者にさせ
奈美(修二にメールを送り恋の相談 恋人気取り)
られる。
佳苗(美咲の遊び仲間)
前川美咲(佳苗の遊び仲間)
真中 武山 (同級生 野ブタをいじめる)
前田(荒っぽい性格 野ブタを殴る)
小島君(脱走犯 野球部の練習をさぼって修二たちと遊びに行く)
高山(ノートハンター 修二からノートを借りる)
おっさん(担任の社会科の教師)
おばさん(国語教師)
数学教師(服裂けビリビリ作戦)
赤いジャンパーの男(作戦失敗)
ピアスの兄ちゃん(野ブタがタックルした相手。作戦成功)
スキンヘッドの兄ちゃん(森川を痛めつけた相手)
<印象的な場面>
「丸刈り作戦」「ヘコヘコ作戦」
「服裂けビリビリ作戦」「不良にから
む作戦」
「森川に問いつめられる場面」「マリ子に暴言を吐いてしまう場面」
「野ブタの肩で泣くマリ子を見てしまった場面」
「修二が転校して,紹介される場面」
(8)
次に,覚えている登場人物の名前を全員で黒板に書き出しましょう
と呼びかける。 生徒が,名前をあげるごとに,アニマドールは黒板
に書きとめていく。
上記の登場人物名を板書する。
(9) 登場人物が互いにどんな関係にあるかを探る。友人関係,学校,年
齢,性別,性格,ニックネーム,考え方,趣味,出来事などから,登
場人物をグループにまとめる。
鈴原マリ子
桐谷修二
森川
堀内健二
プロデュース
暴力
小谷信太
真中
武山
前田
イジメ
野ブタ
おっさん
おばさん
数学教師
奈美
佳苗
前川美咲
小島君
ノートハンター高山
赤いジャンパーの男
ピアスの兄ちゃん
スキンヘッドの兄ちゃん
-7-
(10) 人物の所属先を特定して,互いに結びつけられたら,どこにも所属
していない人物が何人いるか,それが誰かを調べる。そして,どこかの
グループに入れないか検討する。
小島君とノートハンター高山は,人物の友人関係からするとどこにも
属していないが,表面的な付き合いで居心地よく過ごしている関係でと
らえると森川グループや奈美グループと一緒にできるのではないか。
赤いジャンパーの男,ピアスの兄ちゃん,スキンヘッドの兄ちゃんは,
暴力という手段でしか自己表現できない苛立った世代のグループとして
まとめることはできないか。という,反応が予想できる。
(11) 何が全員をつないでいるのか,共通の目的は何か。
全員をつないでいるのは,深くつながりたくはないが,一人では孤独だ。
居心地のいい適当な関係でつながりたいという願望。もしくは,本当に深
くつながりたいという願望。そして,修二のプロデュースの脇役として存
在しているのではないか。
(12) 最後に,だれかを小説から除外するとすれば,だれなら除外できる
か。それは,なぜか,その人物なしでもその小説は成り立つかを考える。
小島君 ,高山は小説は成り立つ。修二の付き合いの広さや頭の良さ勉強
ができることを表現しているが二人が絡まなくても十分に分かるから。
国語教師のおばさんもいなくても成り立つ。しかし,教師をも揶揄する
修二の言葉の巧みさ,頭の回転の速さが表現されなくなるが,話の展開
には影響しない。などの意見が予想される。ここまでで,アニマシオン
は終了する。次回の,予告をして終わる。
3
「きみの友だち」でアニマシオン
(1) 作戦 9 「だれのこと言ってる?」
(2) ねらい
・読んだことを理解する。
・感情や態度を大切にする。
・注意力を鍛える。
「読書へのアニマシオン75の作戦 」M・Mサルト P70
(3) 対象学年 中学生,高校生で実施可能。15人~20人が適切な人
数。
(4) 所要時間 50分
(5) 素材について 「きみの友だち」重松清 作 新潮社刊
和泉恵美(恵美ちゃん)は,小学校五年生の時,交通事故で左足が
不自由になった。それと同時に,交通事故を相合い傘の中に無理矢理
に入ってきた級友のせいにしたため友だちも失ってしまう。唯一の友
だちは,腎臓病で長い間入院生活をしていた由香ちゃん。二人の友情
がゆっくりと深められていく。しかし,知り合って5年後の中三の時
由香ちゃんは死んでしまう。恵美ちゃんは,大学を卒業して,NPO
が運営するフリースクールを手伝うようになる。そこを,取材に訪れ
た,僕と知り合い結婚をする。この小説は,僕が恵美ちゃんの友だち
の小説を書くという設定で,僕の視点で語られていく 。「いなくなっ
ても一生忘れられない友だちが,一人,いればいい 」「一生忘れたく
ないから,たくさん思い出,ほしい」
「だから・・・『みんな』に付き
-8-
合ってる暇なんてない」という恵美ちゃんの言葉が胸を打つ。最後の
章になって話者である「僕」の存在が明らかにされる構成も読み手を
引きつける。読者は,恵美ちゃんの友だちの一人一人に自分を重ねて
読み進めることができる作品である。
(6) 準備物
・事前に本を読んでおくのに十分な冊数の本。
・厚紙でカードを作り,これに登場人物の描写を一つずつ書き入れる。
・感情や態度や心理 的特質などがよく表れている部分を書き抜く。
(7) 実践方法
① アニマドールは,あらすじを手短に話す。子どもたちに作品の内容
容を思い出してもらう。
② 配り終わるまで読まないようにと言いながら,一人に一枚ずつカー
ドを伏せて配る。全員に行き渡ったら黙読して,誰のことか静かに
考える。5分くらい沈黙の時間をとる。
③ 時間がきたら,アニマドールは一人を当て,カードを読み上げるよ
うに言う。読み終えたら「だれのことを言っている?」と尋ね,その
子の意見をきく。順々に全員を当てていく。
④ 全員が発表したら,だれが一番魅力的だったか,だれが一番優しか
ったか,だれが一番友だち思いかなど,人間にとって大切な特質を浮
き彫りにしていく。
(8) 人物描写カード
① 恵美ちゃん
「わたしは『みんな』って嫌いだから 。『みんな』が『みんな』でい
るうちは,友だちじゃない,絶対に」
「いなくなっても一生忘れない友だちが,一人,いればいい」
「一生忘れたくないから,たくさん思い出,ほしい」
「だから・・・・『みんな』に付き合ってる暇なんてない」
② 僕
「『もこもこ雲』について,お話を聞かせてもらえませんか」
「違うんです,『みんな』のために聞きたいんじゃないんです」僕はす
かさず言った。「僕が,知りたいんです」僕は部屋じゅうの雲をざっと
指さして「なんとなく,みんな寂しそうな雲だから」と言った。
③ ブンちゃん
「だめだよ」きみは怒った顔で言った 。「ちゃんと投票して,多数決
で決めようぜ」
はっきりと「勝ち」がわかったほうが気分がいい。負けるはずがない。
勉強でもスポーツでも,五年三組の男子で君にかなう子は誰もいない。
④ 堀田ちゃん
「あんたってカメレオンみたいじゃん。ふらふらしててさ-,そーゆー
子って信用できないんだよねって,みんな言ってんの。意見一致してん
の,悪いけど自業自得ってやつ?」
みんなを笑わせた。次から次へとギャグをとばし,芸を見せて,「苦し
いよお,おなか痛ーい」「死にそーっ」
「もう,涙出てきちゃった」と,
みんなを笑って泣かせてやった。
-9-
⑤
三好君
そこから先は足がすくんで,どうしても進めない。怖かった。でも,
それだけではない。殴られるのは怖い。泣き出したくなるほど怖い。で
も,それだけではない。わからない。わからないことばかり,増えて,
増えて,増えて,・・・。「うああああああああーっ」
思いっきり声を張り上げた。階段の途中に立ったまま,ゲンコツをつく
った両手で自分の頬を殴りはじめた。
⑥ 由香ちゃん
「来週,わたしの誕生日なんだけど・・・恵美ちゅん,もしよかった
らでいいんだけど,暇だったらの話しなんだけど,遊びに来てくれたり
してくれたら,いいなって,思っているんだけど・・・」すごく照れく
さそうに遠慮がちに,申し訳なさそうに言った。誕生日に友だちを呼ぶ
のは-というより,友だちを家に呼ぶことじたい,初めてだった。
⑦ 佐藤くん
制服の上から,もう一度胸に触れた。チョコの固さが指先に伝わった。
甘さと,そして苦さも,伝わったような気がした。走り出した。明日,
琴乃に会ったら,やっぱりビデオテープを返してもらおう。俺の大切な
ものだから,なんて言えるかどうかは,わからないけれど,ブンにもき
ちんと「ごめんなさい」と-そっちのほうが難しそうな気はする。
⑧ 西村さん
変わらないことが,仕返しになる。目立ちすぎないように気をつけて,
押しつけがましくならないように注意して,それでも,わたしはわたし
なんだ,と言いつづけたい。あんな奴らのために自分の性格が変えられ
てしまうのは,絶対に嫌だ。負けない。ほんとうは思い出したくもない
千羽鶴の記憶と向き合って,あいつらとは違う,新しい学校の優しい友
達と一緒に,病気と闘う友達のために心を込めて鶴を折ることが,「負
けない」こと-だと思う。
⑨ モトくん
俺はだめだな。自分が嫌になる。なんで ,「だいじょうぶだよ」なん
て言ったのだろう。つまらない謙遜だった。ほんとうは,謙遜ですらな
い。もっと底意地が悪くて,もっとずるくて,ブンを励ましたり気をつ
かったりしているわけではなくて・・・メンバー発表のときにブンの名
前がなかったら,その瞬間,やったぜ,と勝ち誇って笑うはずの自分が
いる。
⑩ ハナちゃん
まいっちゃうよねー,と寂しそうに笑う君が,そこにいる。鏡に向か
って,目のマッサージをした。あーがり目-目がつり上がって,怒った
顔になる。さーがり目-目が垂れ下がって,泣き顔になる。ぐるっと回
って,にゃんこの目-目尻が横にひっぱられ,まぶたがふさがって,な
にもみえなくなってしまった。
⑪ 由香ちゃんのお父さん
うやうやしい手つきでローソクに火を灯しながら,
「よーちえん」「し
ょーがっこう,にゅーがく」「にねんせーい。
」と,その年の由香ちゃん
の学年を歌のような節をつけて口にした。でも,
「さーんねんせい。」
「よ
- 10 -
ねんせーい 。」とつづいたあとの十一本目は,「ごねんせーい。」ではな
かった。おじさんは「おーともだちがでーき,まーし,たーっ」と歌っ
たのだ。
⑫
石川美紀
意外とつまらないオンナだったんだな,ときみは思う。どうして,い
ままでそれがわからなかったのだろう。女子のみんなに「あっつーい!」
「オーストラリアに連れてってもらいなよ,新婚旅行 」「ブンちゃんに
婚約指輪買ってきてもらえばいいじゃん」とからかわれて,やだぁ,も
う,やめてょお,と嬉しそうに嫌がる顔なんてーサイテーだ。
⑬ 和歌子ちゃん
バンソウコウを巻いた指に息を吹きかけながら言って ,「裏切り者も
一人出ちゃったしさ!」とつづけた。
「明日の昼休み,A組とフリースロー対決することになったからねー」
と言った。「あとで選手決めるし,選ばれなかった子も応援団ってこと
でよろしく!」
⑭ 瀬川ちゃん
急に血相を変えて,「なにそれ」,なんか文句あるわけ?」といった。
「うちらがサボってんの,そんなにむかつくわけ?」
「・・・・え?」
「い
ばってんじゃねえよ! バカ!」
廊下に響きわたる声でさけんだ
⑮ 細田くん
「じゃあ,投票にする?」
自信なげにきみを見て言った。学級委員のくせに,困ったときにはいつ
もきみを見る。
「さんせーい!」
きみが手を挙げて応えると,ほっとした顔になり,ようやく学級委員の
威厳を取り戻して「じゃあ,投票にします」と言った。
⑯ 万里ちゃん
三度目。調子よく進んでいた流を断ち切ったのは,また堀田ちゃんだ
った。輪にはいるときにしくじって,なわを踏んづけてしまった。
「サイテー,こいつ,もう死ね!」
「クラスに迷惑かけんなよ,ばーか,くそ,死ね,土になれ」
⑰ 琴乃ちゃん
「あのね・・・ちょっと友だちから頼まれたんだけど,佐藤くん,サ
ッカー部のビデオ持ってるんでしょ」
「それって,試合のゴールの場面とか出てるんだよね?」
「三年生だけ? 二年生とか一年生がゴールを決めたときも,ちゃん
とはいってる?」
「でね,悪いんだけど,それって貸してもらっていい?すぐにダビン
グして返すから,ちょっとだけ貸してほしいんだけど」
「名前は言えないんだけど,二年生の和泉くんとか中西くんの大ファ
ンがいるのよ。卒業したらもう会えないから,ビデオ欲しいんだって」
4
「きよしこ」でアニマシオン
- 11 -
(1)
(2)
作戦 33 「こう始まり,こう終わる」
ねらい
・深く読めるようにする。
・小説のなかの重要な部分を見つけられるようにする。
・協力する精神を養う。
・読んだことを表現する力を引き出す。
「読書へのアニマシオン75の作戦 」M・Mサルト P147
(3) 対象学年 中学生,高校生で実施可能。10人~25人が適切な人
数。
(4) 所要時間 50分
(5) 素材について 「きよしこ」 重松 清 作 新潮社刊
ぼくは,吃音で悩む少年のために,小説を書く。主人公の少年の名前
は,白石きよし。父親の仕事の関係で転校が多いし,吃音のために思っ
たことを上手に伝えることができない。ひとりぼっちの少年である。こ
の少年を主人公にした小説である。ある聖夜に出会った不思議な「きよ
しこ」は,少年に言った 。「それが,君のほんとうに伝えたいことだっ
たら・・・伝わるよ,きっと」その言葉に支えられて成長していく物語
である。
(6) 準備物
・事前に本を読んでおくのに十分な冊数の本。文庫本なので生徒に購入
させて読ませたい。
・ある章のできごとと関連した重要な場面を表している短い段落か文を
選ぶ。どうして起 こったか,またどういう結果になったかにはふれ
ていないものを選ぶ。
・その段落または,文をカードに書き抜いたものを用意する。ふたリペ
アで行うので,同じものを人数分用意する。
(7) 実践方法
① あらすじを手短に話す。細かい部分にはふれない。
② アニマドールは一人に一枚ずつ用意したカードを配り,どうして
この状況になったのか,その結果どんなことになったのかを探るよ
うに言う。
③ 配られたカードの段落を一人ずつ読み上げてもらう。
④ 10分程度時間をとり,発表の準備をする。
⑤ 最初の発表者を当て,できごとが書いてある部分を読んでもらう。
続いてアニマドールは「どのように始まったの?」とその出来事の
原因を尋ねる。答えたら,合っていても違っていても,「それで,
終わりはどうなったの?」と続けて尋ねる。
⑥ 全員が発表し終えたら,アニマドールはまだはっきりしていない
部分を明らかにしておしまいにする。
(8) 段落カードと展開例
「きよしこ」
少年は包みを両手でタンスの角にたたきつけた。なにかが割れる音がし
た。母親が悲鳴をあげて,妹をかばって抱き寄せた。もう一度,叩きつけ
た。中腰になった父親が,手を伸ばして止めようとした。少年はその手を
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かわして,包みをタンスの角に叩きつけた。力任せに,何度も,何度も,
泣きながら何度も・・・・。
○どうして始まったの
クリスマスのプレゼントは,何がいいと訊かれて,本当は,
「魚雷戦ゲーム」
がほしいのに,「ギョ」が言えない。飛行船ではなくてこっちがいいの「こっ
ち」が言えない。そのために,プレゼントは飛行船がほしいと本意でないこと
を言ってしまう。飛行船をもらい,「ありがとうは,?」と母親に促されたと
き,自分の思いをうまく伝えられない鬱憤が爆発してしまう。
○どうなった
夜中に,目を覚ますと「きよしこ」が遊びに来てくれた。きよしことの心の
中でのおしゃべりは,よどみなくはなせた。楽しい時間だった 。「君はだめに
なんかなっていない。ひとりぼっちじゃない。ひとりぼっちのひとなんて,世
の中には誰もいない。抱きつきたい相手や手をつなぎたい相手はどこかに必ず
いるし,抱きしめてくれるひとや手をつなぎ返してくれるひとも,この世界の
どこかに,絶対いるんだ」きよしこのいうとおりしたら母親にあやまることが
できたし父親に魚雷戦ゲームがほしいと伝えることもできた。
「乗り換え案内」
少年は身を乗り出すようにして机の両端をつかんだ。手の甲や指先が力
んでこわばると,それが腕や肩や背中や顎にも伝わり,全身が小刻みに震
えはじめた。
机の脚がかすかに浮いて,板張りの床に落ちる。また浮いて,落ちる,
ガタガタと音がして,それでやっと先生は目を少年に向けた。
○どうして始まったの
「吃音矯正プログラム」での,おばさんの先生の心ない発言 。「ほら,みん
な,顔が下を向いちゃってるわよ。胸を張って,もっと堂々として。吃音なん
て恥ずかしいことじゃないんだから 」「吃音を笑う友だちのことは,笑い返せ
ばいいのよ。つまらないことで笑う,つまらない奴なんだなあって」ぜんぜん
気持ちを理解してくれないおばさん先生に感情が爆発した。その気持ちを表現
するために机の脚を床にたたきつけた。
○どうなった
加藤君も言葉を発することなく,うめき声をあげて抗議した。次の日から少
年は加藤君のちょっかいに反応するようになり心が通い合い友だちになった。
「どんぐりのココロ」
打席に入っても声援はなかった。誰かが聞こえよがしに「もえ帰ろうで」
と言ってまわりの何人かが大げさに笑った。少年はバットをいっぱいに長
く持って,かまえた。おっちゃんの顔を思い浮かべ,グリップを強く握っ
た。ランナーはいなかったが,ホームランでサヨナラ勝ちだ。
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○どうして始まったの
雑木林で,少年はおっちゃんと知り合い,野球を通じて友だちになった。お
っちゃんとは松ぼっくりで野球の練習をした。ソフトボールの試合で練習の成
果を発揮する時が来た。
○どうなったの
ホームラン。「歓声も,拍手も,出迎えもない。でも,みんなが驚いて息を
呑んでいるのはわかった。「よそ者」を見るまなざしが変わったのも,はっき
りと。」それから少年は野球の練習の仲間に入れてもらえた。それ以来少年は
おっちゃんとは会わなくなった。
「北風びゅう太」
出番が近づくと,胸の重さは激しい鼓動に変わった。何度深呼吸しても
おさまらず,しまいには膝まで震えてきた。出番が来た。舞台の袖から飛
び出した。
○どうして始まったの
「お別れ会」のクラスの出し物「希望のマッチ」の脚本を書くことになった。
半年間の思い出を脚本にした。少年の役は,北風びゅう太。担任の石橋先生は,
娘の手術のために姿を見せない。クラスのみんなは,そわそわと落ち着かない。
○どうなったの
「ひゅーっ」―自分の声を自分で聞いた瞬間,ああ,もうだめだ,と思った。
演技は,だめだった。そのとき,先生が来ていた。娘の手術も成功だった。び
ゅーう太は,石橋先生に向かって,全力疾走。
「びゅぅぅぅぅぅっ。」言えた。
先生とクラス全員が喜びを分かち合いクラスが一つになった感動を味わった。
「ゲルマ」
少年は自分の席に座ったまま,身をこわばらせた。キャロルのテープい
まになって気づいた。ゲルマの兄貴と絶交していたのなら,まともに借り
られるはずかなかったのだ。
○どうして始まったの
友だちのゲルマは,施設から出てきたギンショウのために少年に話し相手に
なってくれと頼む。なかなか話しかけられずにいたときに,ギンショウはキャ
ロルのテープのことでゲルマを問いただす。少年がゲルマから借りていたもの
だった。少年は,ゲルマが勝手に持ち出したと悟る。
○どうなったの
ゲルマとギンショウが,喧嘩になる寸前少年は,
「あった!あった!あった!」
と叫びながらゲルマとギンショウの間に割って入った。ギンショウは,彫刻刀
を少年に突き立てた。彫刻刀は少年のカバンに刺さった。ギンショウは再び施
設に送られた。ゲルマとは疎遠になっていった。高校になって再び再会し,ギ
ンショウと同じ泣き出しそうな顔に出会う。ラジオとともに忘れられない友だ
ちの思い出となった。
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「交差点」
少年は練習の始まる時間よりだいぶ早めに部屋に入って,家から持って
きた背番号4のユニフォームをマサのロッカーに置いた 。『ごんぎつね』
みたいだな,と思うと,涙が出そうになった。
○どうして始まったの
マサは転校生の大野にポジションを取られた。そして,セカンドの少年のポ
ジョンをマサに奪われてしまった。野球は実力の世界。マサからの電話に少年
は,「がんばれ」が言えずに受話器を置く。自分のユニフォームをマサのロッ
カーにおいた。
○どうなったの
少年は,大野と二人で,いくつもの交差点を渡り二人で歩いた。大野に返せ
と迫ったアンターシャツにネバーギブアップと書いてあった。
「がんばるけん」。
父親の転勤もなくなり,どうでもいいような気持ちでいた少年にふたたび元気
がわいてきた。
「東京」
東京に行かせてください―また ,「ト」がだめだった 。「ク」でもつっか
えた。キャンディーポットみたいだ,といつも思う。色とりどりのキャン
ディーの詰まったガラス容器のように,心のどこかに,言葉がたくさん入
った場所がある。
○どうして始まったの。
「いつも手に取りやすいキャンディーを選んでしまう。これからも―?
ずっと,一生―?」どもるために,自分が一番したいことを遠慮してきたきよ
し。そんな自分の生 き方に疑問を持つようになった。
○どうなった。
「東京に行きたい」ついに,きよしは言った。自分を守ってくれる父,母,
「わっち」懐かしい友だちと別れ一人東京に旅立つ。
5
「子どもたちの8月15日」でアニマシオン
(1) 作戦 62 「この文には,意味があります。」
(2) ねらい
・テクストで表明されていることを論理的に考える。
・最も表現力の豊かな文を見つける。
・批判力を身につける。
「読書へのアニマシオン75の作戦 」M・Mサルト P250
(3) 素材について 「子どもたちの8月15日」 岩波新書編集部編
岩波書店刊 700円
「国民学校世代からの伝言 戦争を語り継ぐ」と帯にキャッチコピー
が印刷されている。1945年8月15日,悲惨な戦争は終わった。子
どもたちの目にこの日はどのように映り,そしてこの日を境に生活は変
わったのだろうか。国民学校世代の山藤章二,永六輔,大林宣彦,小澤
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征爾,梁石日,湯川れい子氏ら33名の回想録である。一人の著者のペ
ージ数が7~8ページと簡潔であり,戦争中の様子から書き出し,8月
15日の思い出,その後の様子の変化という書き方であり読みやすい構
成になっている。どこからでも読み始められると同時に適切な見出しが
理解を助けてくれる。岩波新書に抵抗を感じる世代にも親しみやすい本
になっている。
(4) 対象学年 中学生以上,20人~25人が適切な人数。
(5) 所要時間 50分
(6) 準備物 ・本から影響力の強い思考を表した文を六つか七つ選び,
断片に分けて書き入れたカードを準備する。
・どの文のカードかを見分ける目印として,すべてのカー
ドの左上にもとの文の最後のことばを書き入れる。
・作戦のはじめに,一人三枚は配れるようにカードを用意
する。
・何枚かのカードには,別の思考を表す文を断片に分けて
書いておく。ただし,こちらはところどころことばを抜
いて,並べても完全な文にならないようにする。
・黒板もしくはホワイトボード
(7) 実践方法
アニマドールは,指定の本を読んできたか,そのなかで目にとまった
文があったか尋ねる。
また,筆者が多数いるので,印象に残った体験談を尋ねる。そして,
これから配るカードの言葉を組み合わせて,本のなかに出てきた筆者の
思考を表す文をつくっていくことを話し,進めていく。
① 一人に三枚か四枚ずつカードを配る。人数によっては一人あたりの
カートの枚数が多少違ってくる。この遊びで取り上げられている思考
を,グループごとにもとどおりに組み立てる。なかに完全な文になら
ないカードも混じっていることは告げておく。
② カードを配り終わったら,カードには目印の言葉が書いてあるの
で,どの思考に属しているか確認できることを説明し,カードを交
換し合って,同じ目印を持つカード同士でグループを作る。
③ カードを並べて文を作る時間をとる。
④ 全グループが作り終えたら,グループごとに作った文を読み上げて
もらう。
⑤ すべてのグループが発表し終えたら,アニマドールは答えが正しか
ったかどうかを発表する。
⑥ それぞれの文についてどう思うか,自由に意見を言ってもらう。作
者の言っていることは通用すると思うか。作者の思考にためらいなく
賛成するか。どうして賛成か。どうして反対かなど。
⑦ 話し合いが終わったら終了する。
(8) 取り上げた思考を表した文。
※文頭の数字はページを示す。
56 平和なときにこそ,女は特に戦争にならないように注意しなくて
はならない,警鐘を鳴らすのは女の役目。
扇 千景
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50 「民主主義」とは何のことやらよく理解できない少年にとっても,
それが無闇に体罰や制裁を加えることを認めない時代の到来を意味
することはわかった。
筑紫哲也
23 それに軍隊を持たない。戦争をしない,というのはすがすがしい。
人を殺すくらいなら自分が死ぬほうがいい。
阿刀田 高
91 平和憲法を変える必要などさらさらないが,平和憲法があれば戦
争が起きないと考えるのも妄想である。
中村 敦夫
101 アメリカ民主主義が,怒濤の如く日本に押し寄せ,自由を謳歌し
たものの,その見返りとして,日本人の美意識や大和心を失い,八
月十五日から六十年たっても,真の独立国になれてはいない。
山川 静夫
107 主義でも思想でも,右でも左でもなく,憲法九条を失ってはいけ
ないという,祈りにも似た悲願として,私の中にずっしりと存在し
つづけている。
湯川れい子
121 もし死者の霊というものがあるとすれば,それは誰かが記憶し,
思い出すことによってのみ,この世にとどまる。
東郷克美
127 あの頃のガキ大将は,弱い者をいじめたりはしなかった。弱い者
をいじめたりするとガキ大将にはなれなかった。
梁石日
145 戦後六十年,仮にも平和が続いたのは,三百万人もの人が亡くな
ったから。その犠牲を忘れてはいけません。
宮内義彦
152 これからは,自分で判断し自分で生きるしかない・・・。八月十
五日は,私の原点になった。
下重暁子
158 先生はそうした事情についてはなにも触れず,また喧嘩の様子や
理由なども聞かず,ただ一言 ,「自分より弱い相手とは喧嘩をする
な」,とだけ言った。
安丸良夫
169 人間にとって最も大事なのは,日常の暮らしである。誰もが自分
の人生を,できるだけ自分らしく生きるには ,・・・。そう考えた
時,最もあってはならないのが戦争である。
中村桂子
208 何しろ戦争が終わって,自由に,空襲警報を聞かないで外で遊べ
たり,学校で遊べたり,川に遊びに行ったり,野球ができたり,と
いうのが嬉しくてしかたなかった。
小澤征爾
<参考文献>
M・M・サルト著
( 2001) 『読書へのアニマシオン
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75の作戦』