転落許されない家電量販店業界 1 位のヤマダ電機と3位のケーズホールディングス 国際地域学部 国際地域学科 3 年 1810090085 田中光徳 1.はじめに はじめに 都市部では、様々な名前の大型家電量販店が軒を連ね、価格競争を日々続けている。ま た、郊外ではより大型の店舗を展開し、顧客の獲得に努めている。テレビ CM などでも目 にすることが多い家電量販店業界は、どういった業態、競争をしているのかという疑問か ら、私はこの業界を選択した。その中でも、売上高首位を独走するヤマダ電機と、毎年売 上を伸ばしているケーズホールディングスに着目し、有価証券報告書を用い、財務分析を することにした。 家電量販店業界 家電量販店業界は、昔は地域ごとに店舗が分かれている状態であった。「地域電器店系」、 「カメラ店系」、 「郊外電器店系」 、「電気街、パソコン店系」と呼ばれ、それぞれのフィール ドで出店し、会社を成長させてきた。しかし、今では池袋や新宿、秋葉原など、都市部へ の大型店舗の乱立、また郊外への進出により激しい競争が繰り返されるようになってきて いる。また、その業態は「薄利多売」の戦略を取っており、大型の店舗を数多く所有し、メ ーカーから安く仕入れた商品を多く売る形態を取っている。恐らく、聞いたことがあるよ うに、他店との価格競争に打ち勝つために、他店の価格が安ければ値引きして販売する、 ポイントを付けてお得感を演出する。といった手法で競争がより激しくなってきている。 家電量販店業界でのヤマダ電機とケーズ HD の位置づけ 図表 1 を見るとわかるように、ヤ 上位5社の売上高 マダが他の 4 社に比べて、大きな売 (百万) 2500000 上高を有している。他 4 社は差がそ 2000000 れほど開いておらず、特にエディオ 1500000 ンとケーズ、ヨドバシとビッグは似 1000000 系列1 500000 0 図表 1 家電量販店業界上位 5 社の売上高の比較 1 た環境のために競争が激しい。 企業の概要 ヤマダ電機 1973 年に日本ビクターを退社した山田昇が個人商店として「ヤマダ電化センター」を創業 したのが始まり。その後 1983 年に株式会社ヤマダ電機が設立される。元々、群馬県を地盤 とした郊外型家電量販店チェーンとして会社を成長させていく。その後他社に先駆けて大 型店舗を設立する戦略に切り替え、全国展開を目指し始める。2000 年に東京証券取引所第 一部上場以降、提携や買収を繰り返し、全国展開を加速させ、2002 年には国内最大手とな る。2004 年からは都市部への進出も始めた。海外にも進出し、2010 年 12 月には中国の瀋 陽店、2011 年 6 月に中国の天津店をオープンした。現在ではビックカメラやヨドバシカメ ラなどの都市型家電量販店とも競争をする形となっている。 ケーズホールディングス 1947 年に現名誉会長である加藤馨が茨城県に加藤電機商会を創業したのがケーズホール ディングの始まりだ。その後、カトーデンキ、デンコードーを合併し、1997 年に株式会社 ケーズ電機に照明を変更、2002 年に東京証券取引所第一部に昇格し、会社を成長させてい く。ケーズ電機は他の家電量販店チェーンとは異なる特徴が何箇所かあり、まず「現金値引 き」をモットーにしている。ポイント割引制を打ち出している企業が多い中で、珍しい存在 だ。また、店舗の出店にはコストを抑えるためにスクラップ・アンド・ビルドを多用する ことも特徴の一つである。「頑張らない経営」を掲げており、基本的なことを確実に実行し、 無理な出店や、利益優先の経営をしない、堅実な経営を目指す。 注意事項 1.記載されているデータは 2007 年から 2011 年のヤマダ電機、ケーズホールディングスの 有価証券報告書から使用している。両社とも連結経営のデータを使用している。両社とも、 会計期間は 4 月 1 日から 3 月 31 日まで。 2.両社とも、多店舗展開している家電量販店においての小売業を主体としており、前セグメ ントの売上高の合計、営業利益及び前セグメントの資産の金額の合計額に占める割合がい ずれも 90%を超えるため、事業の種類別セグメント情報を省略している。 3.ヤマダ電機において、持分法による投資損益が有価証券報告書に記載されていなかったた め、ROI を求める際の計算からは省いている。 4.ヤマダ電機の当座資産は現金及び預金と受取手形及び売掛金を足した数値、ケーズホール ディングスの当座資産は現金及び預金と売掛金を足した数値で表記している。 5.以下の文章では、ヤマダ電機を「ヤマダ」、ケーズホールディングスを「ケーズ」と省略して 表記する。 2 2.ステップ1:収益性分析 最初に収益性分析から、財務分析を始める。まずは収益性を表す代表的な指標として、使 用総資本事業利益率(ROI)を分析する。 使用総資本事業利益率(ROI) % 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 ヤマダ ケーズ 2007年 図表 2 2008年 2009年 2010年 2011年 使用総資本事業利益率(ROI)の推移 図表1の使用総資本事業利益率(事業利益/使用総資本×100)の推移を見て、 ヤマダは 2009 年まで、ROI が下がり続けているが、その後急上昇している。ケーズは 2008 年から急上昇 し、ヤマダとほぼ並んだ状態となっている。ROI は高い方がより優れているため、2011 年 の段階では同程度に優れていると考えられる。何故このようになったのか、ROI を分解し て分析する。 総資本 1,000,000 900,000 800,000 700,000 600,000 500,000 400,000 300,000 200,000 100,000 0 ヤマダ ケーズ 2007年 図表 3 2008年 2009年 2010年 事業利益 (百万) (百万) 130,000 120,000 110,000 100,000 90,000 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 2011年 ヤマダ ケーズ 2007年 図表 4 総資本の推移 2008年 2009年 2010年 2011年 事業利益の推移 図表2を見ると、両社とも毎年総資本を伸ばしていることが分かる。また、図表3にお いても、ヤマダは 2007 年に事業利益を下落させているが、両社とも 2011 年の段階で 2007 年に比べ、大きく事業利益を上昇させている。図表2、3の両方において、両社とも上昇 はしているが、ヤマダがケーズに絶対的な差をつけている。 3 ヤマダの ROI が 2007 年で下落したのは、2007 年の事業利益が下落していることが関係 している。事業利益低下の要因は新規店舗出店に関する費用、また高率ポイント戦略によ る費用などの販管費の増加が主な要因となり、営業利益が前年比 75.7%まで落ち込んだ。 事業利益の構成 2007年 売上高 売上原価 売上総利益 販売費及び一般管理費 給料手当 営業利益 受取利息及び受取配当金 持分法による投資損益 事業利益 図表 5 100 77.9 22.1 18.4 3.8 3.7 -0.1 0.0 3.5 2009年 100 74.8 25.2 22.6 4.1 2.6 -0.1 0.0 2.6 2010年 100 74.6 25.4 21.1 4.2 4.3 -0.1 0.0 4.3 2011年 100 76.5 23.5 17.8 4.1 5.7 -0.1 0.0 5.6 (単位:%) ヤマダの事業利益の構成 売上高 売上原価 売上総利益 販売費及び一般管理費 給料及び手当 営業利益 受取利息及び受取配当金 持分法による投資損益 事業利益 図表 6 2008年 100 76.9 23.1 19.2 4.0 3.8 -0.1 0.0 3.6 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 100 100 100 100 100 83.8 81.2 79.2 78.0 76.7 16.2 18.8 20.8 22.1 23.3 14.8 17.6 18.8 18.7 18.0 4.0 5.0 5.3 5.0 4.9 1.4 1.3 2.1 3.4 5.3 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 1.4 1.2 2.0 3.3 5.2 (単位:%) ケーズの事業利益の構成 次に、両社の事業利益の構成を分析する。 ヤマダ ヤマダはやはり 2009 年の販管費による営業利益、事業利益の低下が目立つ。販管費に関 して、2010 年では 2009 年よりも多く販管費が計上されているが、前年の大型店舗出店に より、売上高が上昇したため、百分率で見ると少ない数字となっている。実際の数値で見 ると、ヤマダは 2007 年から 2011 年で 6 千億以上売上高が伸びている。 ケーズ ケーズでは 2007 年を基準年として考えると、販管費が増加しているが、これは新規店舗 出店や、他グループの吸収による経費だ。結果として 2009 年以降は売上高が伸びたことで 販管費の割合が少なくなっている。こちらも数値で見ると、3 千億以上売り上げが伸びてい る。 4 続いて、自己資本利益率(当期純利益/自己資本×100)を分析する。これは株主の出資に対 しての利益率を見る指標だ。 自己資本利益率(ROE) % 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 ヤマダ ケーズ 2007年 図表 7 2008年 2009年 2010年 2011年 自己資本利益率(ROE)の推移 図表6を見ると、2007 年の時点ではヤマダが上回っていたものの、2009 年からケーズが ヤマダを超え 2011 年には差を見せる結果となっている。何故このようになったのか、まず ROE を構成する自己資本と当期純利益を見る。 当期純利益 80,000 自己資本 (百万) 500,000 450,000 400,000 350,000 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 70,000 60,000 50,000 40,000 ヤマダ 30,000 ケーズ 20,000 10,000 0 2007年 図表 8 2008年 2009年 2010年 2011年 ヤマダ ケーズ 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 図表 9 当期純利益の推移 自己資本の推移 まず図表7の当期純利益の推移を見ると、ヤマダは 2009 年に大きく下落しており以降回 復している。ケーズは順調に上昇を続けている。ヤマダが 2009 年に大きく当期純利益を落 とした原因は、上記したように、販管費が増加した結果だ。図表 8 の自己資本の推移を見 ると、ヤマダがケーズに対して大きな差をつけている。また、上昇率もヤマダのほうが高 いことが分かる。やはり数値だけを見るとヤマダがケーズに対して大きな差をつけてリー ドしているが、ROE に変換すると当期純利益と自己資本の割合から、ケーズがヤマダを上 回る結果となる。 5 次に、ROE を売上高当期純利益率、総資本回転率、財務レバレッジに分解する。 % 売上高当期純利益率(ROS) 総資本回転率 3.5 3.0 3.0 2.5 2.5 回 2.0 2.0 1.5 ヤマダ 1.5 ヤマダ ケーズ 1.0 ケーズ 1.0 0.5 0.5 0.0 0.0 2007年 図表 10 倍 2008年 2009年 2010年 2011年 2007年 図表 11 売上高当期純利益率(ROS)の推移 2008年 2009年 2010年 2011年 総資本回転率の推移 財務レバレッジ 3.5 3 2.5 2 ヤマダ 1.5 ケーズ 1 0.5 0 2007年 図表 12 2008年 2009年 2010年 2011年 財務レバレッジの推移 図表 9 の売上高当期純利益率(当期純利益/売上高×100)では、ROI と似たような推移でヤ マダが常にケーズを上回る水準を維持している。図表 10 の総資本回転率(総資本/売上高× 100)の推移をみると、2010 年まではヤマダが上回っていたが、ケーズが 2011 年でヤマダ を抜いた。これはヤマダの売上高及び総資本がなだらかな上昇を続けていたが、2011 年に ケーズの売上高の上昇率が前年より高いものになったからだ。この要因は前年度に 42 店舗、 当年度に 26 店舗を開店し、また新規店舗の売上が好調だったことだ。図表 11 の財務レバ レッジ(総資産/株主資本)では両社とも似たような推移を見せているが、ケーズが過去 5 年 間においてはより高い水準を見せている。 収益性に関しては、過去はヤマダの方が安全して収益を上げていた。しかし、最近にな ってケーズも収益性が伸びてきており、一部ではヤマダを超える収益性を見せることもあ った。 6 3.ステップ2 安全性分析 次に、安全性の分析へ移る。まず両社の連結キャッシュフロー計算書から、資金調達活 動と投資活動の状況を見る。図表 12 は両社の連結キャッシュフロー計算書における主要項 目を抜粋したものである。 ヤマダ 2010年 2011年 Ⅰ 営業活動によるキャッシュ・フロー 税金等調整前当期純利益 減価償却費 貸倒引当金の増減額(-は減少) 支払利息 売上債権の増減額(-は増加) 棚卸資産の増減額 仕入債務の増減額 その他の流動資産の増減額(-は増加) その他の流動負債の増減額(-は減少) 営業活動によるキャッシュ・フロー Ⅱ 投資活動によるキャッシュ・フロー 定期預金の預入による支出 定期預金の払戻による支出 有形固定資産の取得による支出 無形固定資産の取得による支出 差入保証金の差入による支出 差入保証人の回収による収入 投資有価証券の取得による支出 投資有価証券の売却による収入 関係会社株式の取得による支出 貸付金の回収による収入 投資活動によるキャッシュ・フロー Ⅲ 財務活動によるキャッシュ・フロー 短期借入金の純増減額(-は増加) 長期借入による収入 長期借入金の返済による支出 リース債務の返済による支出 配当金の支払額 財務活動によるキャッシュ・フロー 現金及び現金同等物の増減額 現金及び現金同等物の期末残高 図表 13 ケーズ 2010年 2011年 95,241 23,148 46 1,802 -8,469 -4,813 26,504 7,107 10,611 133,718 122,726 21,657 -72 1,817 -7,672 -18,704 -26,527 -6,366 986 93,071 27,795 -19 29 993 -4,497 3,709 9,654 ND ND 49,077 41,951 -435 17 885 3,338 -12,354 -7,504 ND ND 31,153 -5,054 186 -76,591 -26,433 -10,557 12,214 -2 212 -3,146 1,891 -108,218 -13,917 10,676 -16,739 -1,768 -5,624 8,113 -1 250 -2,495 2,395 -25,237 40 ND -22,256 ND ND ND -5,263 5,323 -11 1,542 -26,152 ND ND -14,356 ND ND ND -6,424 5,006 ND 1,794 -18,014 -7,662 61,900 -26,850 -5,939 -3,106 8,555 33,945 83,045 -1,200 500 -36,043 -5,821 -3,769 -45,940 21,673 104,814 -20,512 12,800 -14,158 -298 0 -21,747 1,179 8,437 -8,895 20,000 -12,003 -652 0 -11,640 1,505 9,943 (単位:百万円) 連結キャッシュフロー計算書 ヤマダ まず、営業活動におけるキャッシュフローを見ると、前年比約 30%減少している。これ は主に、仕入債務の減少があったが、税金等調整前当期純利益の増加と、棚卸資産の減少 によるものだ。投資活動によるキャッシュフローは、前年比約 76%減少している。最も大 きな要因は前年に比べ、有形固定資産の取得による支出が減ったことだ。財務活動による 7 キャッシュフローでは短期及び長期借入金の返済による支出が増えたために、45940 百万 円の支出となっている。 ケーズ まず、営業活動によるキャッシュフローを見ると、総合的には落ち幅は少ないものの、 構成内容の金額の変化は激しい。また、ここには記載していないが、災害の影響で災害損 失引当金と災害損失により 4863 百万円の資金が増加した。次に投資活動によるキャッシュ フローだが、有形固定資産の取得による支出が減少した。財務活動によるキャッシュフロ ーは、短期及び長期借入金の返済に支出が生じたが、新たに長期借入金を収入としている ので、10000 百万円の減少となった。 次に、安全性に関する各指標を分析する。流動比率、当座比率、自己資本比率、固定長 期適合率、インタレスト・カバレッジ・レシオの 5 つの指標を取り上げる。 流動比率 % 当座比率 % 70 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 60 50 40 ヤマダ ヤマダ 30 ケーズ ケーズ 20 10 0 2007年 2008年 2009年 2010年 2007年 2011年 2008年 2009年 2010年 2011年 図表 14 流動比率の推移 図表 15 当座比率の推移 まずは企業の短期支払能力を示す指標として流動比率(流動資産/流動資産×100)と当座 比率(当座比率/流動比率×100)を見ていく。流動比率は短期に支払期限が到来する流動負債 に充当することが可能な流動資産をどの程度持っているかを示す指標で、200%以上が一般 的に望ましいとされている。当座比率は流動比率の中でも、換金性の高い資産である当座 資産をどの流動負債に対してどの程度持っているかを示す指標だ。100%を超えることが一 般的には望ましいとされている。 図表 13 の流動比率の推移では、常にヤマダがケーズを大きく上回っており、ケーズより も安全性が高いと言える。図表 13 では、ヤマダがケーズを大きく上回っているが、両社と もに 100%には及ばず、一般的には安全的でないと判断をされる状況にある。短期の安全性 においてはヤマダがケーズよりも安全性が高いと判断できる。 次に、長期における安全性を分析する。その指標として、自己資本比率と固定長期適合 率を利用する。 8 自己資本比率 60 固定長期適合率 % % 90 80 50 70 40 60 30 ヤマダ 20 ケーズ 50 ヤマダ 40 ケーズ 30 20 10 10 0 0 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2007年 図表 16 自己資本比率の推移 図表 17 2008年 2009年 2010年 2011年 固定長期適合率の推移 自己資本比率(自己資本/総資本×100)が高いと、外部の債権者が利子を支払う可能性が少 ないことを意味し、そのため経営の安全性が高いということである。固定長期適合率(固定 資産/[純資産+固定負債]×100)は 100%以下が理想とされている指標で、固定資産を自己資 産でなくても、長期的な負債でカバーできるかという指標だ。 図表 15 を見ると、自己資本比率は両社とも横ばいに推移しており、過去 5 年間はヤマダ がケーズより高い水準を維持している。図表 16 を見ると、固定長期適合率では両社とも低 い水準を維持しており、ケーズの方がより高い水準を維持している。長期の安全性に関し ては、両社とも同じ水準にある。 最期に、インタレスト・カバレッジ・レシオ([営業利益+受取利息+受取配当金]/支払利息) を分析する。 インタレスト・カバレッジ・レシオ 倍 70 60 50 40 ケーズ 30 ヤマダ 20 10 0 2007年 図表 18 2008年 2009年 2010年 2011年 インタレスト・カバレッジ・レシオの推移 これは、「支払わなければならない利息の何倍の利益を稼いでいるか」を示す指標である。 そのため、数値は大きければ大きいほど好ましい。図表 17 を見ると、過去 5 年間は両社と もに似たような推移を見せ、常にヤマダが高い水準を維持している。 安全性においては、ほとんど全ての面でヤマダがケーズを上回る数値を出しているため、 ヤマダの方がケーズより安全性が高いという結論になる。しかし、短期の安全性において は両社とも低い数値を出しているため、短期において両者とも安全性が保証されていると は言い難い。 9 4.ステップ3 効率性・生産性分析 次に、効率性と生産性を分析していく。ここでは、ステップ 1 で見た総資産回転率を、 棚卸資産回転率、有形固定資産回転率、売上債権回転率、投資その他の資産回転率の 4 つ に分け、それぞれの回転性を分析していく。 棚卸資産回転率 回 有形固定資産回転率 16 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 14 12 10 8 ヤマダ 6 ケーズ 4 2 0 2007年 図表 19 2008年 2009年 2010年 ヤマダ ケーズ 2011年 2007年 図表 20 棚卸資産回転率の推移 2008年 2009年 2010年 2011年 有形固定資産回転率の推移 まず棚卸資産回転率は(売上高/棚卸資産)と有形固定資産回転率(売上高/有形固定資産)は、 それぞれの資産が効率的に活用されているかどうかを示す指標である。図表 18 を見ると、 棚卸資産回転率はヤマダの方がケーズより高い水準を維持している。図表 19 を見ると、有 形固定資産回転率に関してはケーズの方がヤマダよりも高い水準を維持している。どちら の指標においても、近年上昇傾向にあるのは、新規店舗出店の成功が影響していると考え る。 売上債権回転率 70 回 回 投資その他の資産回転率 16 14 60 12 50 10 40 30 ヤマダ 8 ヤマダ ケーズ 6 ケーズ 20 4 10 2 0 0 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 図表 21 売上債権回転率の推移 図表 22 投資その他の資産回転率 次に、売上債権回転率(売上高/売掛金+受取手形)と投資その他の資産回転率(売上高/投資 その他の資産)を分析する。図表 20 を見ると、売上債権回転率は 2010 年まではある程度の 差でヤマダがケーズより高い水準だったが、ヤマダが下落し、ケーズが常用したことで 2011 年にケーズがヤマダを抜いた。図表 21 を見ると、投資その他の資産回転率は両社ともほぼ 横ばいの状態で近い数値を維持している。 以上の 4 つの回転率から、ケーズが回転率においてはヤマダと同等もしくはヤマダより 高い水準になったことがわかる。 10 5.ステップ4 成長性分析 次に、2007 年を基準年(100%)として、売上高、総資本、営業利益、純資産に関して趨勢 分析を用いて成長性を分析する。 % ヤマダの成長性 240 220 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 ケーズの成長性 800 700 600 売上高 500 売上高 総資本 400 総資本 営業利益 300 営業利益 自己資本 200 自己資本 100 0 2007年 図表 23 2008年 2009年 2010年 2011年 2007年 図表 24 ヤマダの成長性 2008年 2009年 2010年 2011年 ケーズの成長性 ヤマダ 営業利益の成長が著しく、2009 年に新規店舗を出店するため、営業利益が低下するが、 それからはさらに急成長している。売上高、総資本、自己資本も右上がりで順調に成長し ている。 ケーズ ケーズも営業利益の急成長ぶりが 700%に届きそうになるなど、目立つ。自己資本に関し ては 2009 年に下落してから横ばいの状態が続く。 両社ともに、営業利益に関しては伸び率が高く、特にケーズに関しては目を見張るもの がある。これはエコポイントや、テレビの地デジ化など、家電量販店業界に追い風となる ような出来事が多く重なったことも関連しているだろうが、この 2 社に関しては、この 5 年間で、営業方針を大きく変えたことが成長性に大きな影響を与えていると考える。 ヤマダは本格的に都市部への進出を開始し、ケーズは「頑張らない経営」を掲げ、新規店 舗を多く出店させている。このようなことから、両社ともに右肩上がりの成長を続けてい るのだと考える。 その影響から、ケーズ電気はヤマダ電機に比べて平均年収の上がり方が急だ。また、平 均勤続年数もケーズの方が上回っている。しかし、今年度の新規出店数は、ケーズが 31 店 舗であることに対し、ヤマダが 71 店舗と、資本の差があるとしても、大きな差が開いてい る。 11 6.ステップ5 グループ別経営分析 ここからはグループ経営分析を行う。グループ本社とグループ子会社の関連性はどうな っているのだろうか。また、グループ全体でどの部分が利益を上げ、グループ全体に貢献 しているのかを分析する。 有価証券報告書の[3.対処すべき課題]を要約し、両社のグループ経営に対する姿勢を分析 する。 ヤマダ 長期化する株安・円高の影響、雇用環境不安、東日本大震災の影響による消費者の急速 な冷え込みなど、厳しい経営環境が続くと予想する。今後は 2011 年 7 月の地上デジタル放 送への切り替えに向け、地上デジタル対応テレビ及びそのアクセサリー機器の普及推進強 化を行う。また、スマートハウスビジネス展開を強化するために、太陽光発電システム、 オール電化商品、電気自動車等の普及を目指し、再生可能エネルギーの利用を促進させ、 同時に省エネ家電を販売促進し、エネルギー問題に向き合う。そのために、住宅メーカー のエス・バイ・エルを買収、子会社化した。同時に、新たな家電製品である3Dテレビや スマートフォンなども普及させていく所存。また、店舗展開も積極的に行い、新たな顧客 を獲得し、海外展開においても注力していく。その例が、冒頭でも紹介したように、中国 への 2 店舗の出店だ。 ケーズ 「本当の親切」を徹底し、家電専門店として顧客満足度の充足と株主価値の向上を目指す。 また、出店競争や価格競争等の中で、家電量販店業界の競争は激しくなる一方だが、省エ ネ・節電へと顧客のニーズが高まっていく中で、顧客が満足できるような販売促進をして いく。同時に、2011 年 7 月の地上デジタル放送開始へ向け、テレビや周辺機器の品ぞろえ も揃えていきたい。その中で、健全かつ安定した財務体質を維持しながらも積極的な店舗 展開を行い、新たな顧客に満足してもらえるように努める。 次に、両社のグループ経営について、連単倍率分析とセグメント分析を行う。連単倍率 とは、分母に単体数値、分子に連結数値をとった倍率であり、親会社単体に対してグルー プ全体の規模が何倍であるかを示す指標だ。つまり、1より大きければ大きいほど、親会 社以外のグループ会社の貢献度が大きいことを示す。なお、セグメント分析については、 両社とも日本国内のみのデータしか記載されていなかったために、所在地別セグメント分 析は記載せず、販売の状況に関するセグメント分析のみ記載することとする。 12 ヤマダ 連単倍率 1.2 % 1.1 1.1 売上高 1.0 総資本 1.0 営業利益 当期利益 0.9 0.9 2007年 図表 25 2008年 2009年 2010年 2011年 ヤマダ 連単倍率 ケーズ 連単倍率 2.0 1.8 1.6 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 売上高 総資本 営業利益 当期利益 2007年 図表 26 2008年 2009年 2010年 2011年 ケーズ 連単倍率 ヤマダ 図表 24 のヤマダの連単倍率によると、やはり 2009 年は下がっているものの、他の年で は 1 を超えた数字を出している。当期利益が 2011 年で落ち込んだようだが、他の 3 つは 1 を超えている。 ケーズ 図表 25 のケーズの連単倍率によると、 2007 年の段階では営業利益が低い水準だったが、 2011 年には上昇し、すべての数値でヤマダを超える数値を出している。 13 次に、セグメント別の販売実績を見ていく。 ヤマダ 2011年 販売実績 ケーズ2011年 販売実績 7% 8% 家電 24% 家電 29% 情報家電 情報家電 その他 63% 69% 図表 27 ヤマダ 2011 年 図表 28 販売実績 ケーズ 2011 年 その他 販売実績 両社とも家電量販店なので、やはり家電の販売量が最も多い。しかし、情報家電は主に パソコン、携帯電話で構成されるので、それぞれの売上自体は全体の中では高い。では、 家電の売上の細かい内訳を見ていく。 ヤマダ 家電販売の内訳 ケーズ 販売家電の内訳 カラーテレビ カラーテレビ 13% ビデオ・DVD 23% 34% ビデオ・DVD オーディオ 38% 15% 冷蔵庫 冷蔵庫 洗濯機 11% 洗濯機 5% 調理家電 5% 6% 9% 8% オーディオ 調理家電 6% 季節家電 9% その他 5% 9% 季節家電 その他 4% 図表 29 図表 30 ヤマダ セグメント別売上高 ケーズ セグメント別売上高 両社ともカラーテレビが 1 番売れている結果となり、割合は似たような結果になった。 強いて言うならば季節家電はケーズの方が他の商品に比べてよく売れていることだ。 14 7.総合評価に代えて 最後に締めくくりとして、株価純資産倍率(PBR)と株価収益率(PER)、株価を分析する。 株価純資産倍率(PBR) 株価収益率(PER) 株価(取引値) 1.11 7.34 5,520 1.31 7.27 3,055 ヤマダ ケーズ 図表 31 ヤマダとケーズの PBR・PER・株価 (2011 年 9 月 12 日現在) 株価収益率 倍 30 25 20 15 ヤマダ 10 ケーズ 5 0 2007年 図表 32 2008年 2009年 2010年 2011年 ヤマダとケーズの株価収益率の推移 PBR(時価総額/純資産の薄価)は現在の株価が一株当たりの利益の何倍かを示す指標で、企 業評価を行う上で重要な指標の 1 つだ。これはケーズの方が上回っている。 PER(株価/一株当たりの利益)は、現在の株価が一株当たりの株主資本の何倍になっている かを示す指標で、標準値は 14~20 倍となっている。低ければ割安、高ければ割高という評 価になる。2 社ともに 2007 年の段階では標準地に達していたが、2011 年の段階では低くな ってしまっており、割安といえる。株価収益率が年々下落している可能性の一つとして、 家電という商品の特性が挙げられる。エコポイント等の追い風を受け、家電の販売量は増 加したが、買い換えまでのスパンの長さを考えると、利益が増加し続けることは難しいだ ろう。また、出店が進み、ある程度地域内での需要が満たされてきている影響もある。 最後にこれまでの分析についてまとめる。ステップ1の収益性では、実際の数値では絶 対的にヤマダが上だが、収益性に着目するとヤマダもケーズもほぼ同じ収益性を 2011 年で は持っていることが分かった。ヤマダに比べ、ケーズの収益性の伸び率の方が高いため、 今後の成長が楽しみだ。ステップ2では、短期では両社とも家電量販店チェーンの性質上、 15 安全性に難があるが、長期では安全性が増した。しかし、2 社間で比べるとヤマダの方が安 全性に優れている。ステップ3の効率性では、棚卸資産回転率こそケーズの方が低かった ものの、 他の 3 点では 2007 年からヤマダに追いつく、もしくは追い抜く勢いで迫っている。 ステップ4の成長性では、ケーズが 2007 年から 2011 年まで驚くべき成長性を見せている ことが分かった。ステップ5のグループ別経営分析では、ケーズがヤマダに比べグループ 会社の貢献度は高かったが、グループ会社の貢献率は低く、親会社の利益がグループを引 っ張っていることが分かった。 今後の両者の課題は、ヤマダは売上高3兆円を達成するために、今後も国内で店舗数を 拡大させるとともに、海外進出して事業の規模を広げていくべきだと考える。ケーズは、 今後も堅実な「がんばらない経営」で国内シェアを広げ、成長率を維持していくべきだと考 える。また、ケーズも地盤が整ってきたら、都市部へもっと積極的に参入し、利益拡大の チャンスを作るべきだと考える。私は驚くべき速度で成長しているケーズ電機に、「首位か ら陥落したら 2 度と首位には戻れない」ジンクスのある家電量販店業界でヤマダ電機首位陥 落の瞬間を見せてほしい。 参考文献 伊藤邦雄「ゼミナール現代会計入門(第8版)」日本経済新聞社(2010 年) ヤマダ電機 HP:http://www.yamada-denki.jp/ ケーズ電機 HP:http://www.ksdenki.com/ Yahoo!ファイナンス:http://finance.yahoo.co.jp/ 16
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