大阪市立科学館研究報告 21 , 79 – 82 (2011) サイエンスショー「びっくり!どっきり!空気のちから」実施報告 長 谷 川 能 三 * 概 要 私 たちは大 気 の中 で暮 らしているが、ふだんその大 気 圧 を意 識 することはほとんどない。しかしその大 きさは、手のひらだけでも100kgのものが乗っているのと同じくらいである。 そこで、2010年 9月 1日 ~11月 28日 のサイエンスショーは、「びっくり!どっきり!空 気 のちから」と題 し、大 気 圧 をテーマに行 なった。またその期 間 中 、特 別 サイエンスショーとして、大 気 圧 によるドラム缶 つ ぶしの実 験も行 なったので、ここで合 わせて報告 する。 1.はじめに いった。吸 盤 の汚 れ等 によって多 少 の差 はあるが、 た 大気 圧 に関するサイエンスショーは、これまでも数 年 に一 度 行 なっており、最 近 では 2006~2007年 の冬 いていの場 合 、ペットボトル7本 、つまり約 14kgまでぶ ら下 げることができた。 に実 施 している。今 回 、これまでに行 なっていた実験を 元 に構成を見 直し、サイエンスショーを行 なった。 ところが 、吸 盤 は 手 ではずすことが できること や、い つの間 にかはずれてしまっているという経 験 もあるため 個 々の実 験 については、以 前 と同 じ内 容 であっても 、 実験をやりやすくしたり、見 やすくなるように工 夫を加え か、2Lのペットボトルが7本 もぶら下 げられるというのは、 かなり意外なようである。 た。また、展 示 改 装 に伴 いサイエンスショーコーナーも 新 しくなったため、上 からものを吊 り下 げる実 験 がしや すくなっている。 2.実 験内 容 前 回 、大 気 圧 のサイエンスショーを行 なったときには、 巨 大 な風 船 を使 って空 気 に重 さがあることを感 じてもら い、そ の 空 気 の 重 さ が大 気 圧 と なっ ている と 展 開 して いった。しかし、空 気 の重 さを実 感 しにくい、重 力 が下 方 向 であるのに対 し圧 力 は全 方 向 に働 くのがわかりに くいといった指摘があり、全 体 の構 成 を見 直 した。 これにより、吸 盤 がくっつくことから始 め、以 下 のよう な流れで実験を進 めた。但 し、演 示 担 当 者 や客 層など 写真1.ペットボトルをぶら下 げた吸盤 により、実験 の順序 等 は異 なる。 (2) 吸 盤 の強 さ② (1) 吸盤の強 さ① さらに、一 般 用 の吸 盤 ではあるが、ひとまわり大 きな 家 庭 で用 いられる吸 盤 (直 径 約 5.5cm)がくっつい 直 径 約 8cmで、吸 着 面 がゲル状 、プラスチックのカバ ている強 さがどのくらいであるか、水 平 面 の下 側 に取 り ーとロック機 構 付 きという、非 常に強 力 な吸 盤を見つけ 付けた吸 盤に、水 を入 れた2Lのペットボトルぶらさげて たので、この吸 盤 2個 でブランコを吊 り下 げた。この吸 盤 は、1個 あたりの耐 荷 重 が22kg(天 井 ガラス面 の場 * 大阪市立科学館 学芸員 hasegawa@sci-museum.jp 合 )もあるため、小 さな子 どもならブランコに座 ることが できた。 - 79 - 長谷川 能三 さらに直 径 約 16cmのガラス運 搬 用 吸 盤 を用 いると、 (4) 持ち上がらないゴム板と下 敷き 大人でも十分ブランコに座 ることができる。 空 気 が あ る のは 吸 盤 のく っついている 側 では なく 、 尚 、万 一 吸 盤 がはずれた時 も、ブランコの座 面 が床 反 対 側 であることから、空 気 の力 は押 す力 であることを まで落 ちないよう、吸 盤 部 分 をバイパスするような形 で 推 測 させた。その上 で、真 ん中 に取 っ手 をつけたゴム 安全用の鎖 もかけて行 なった。 板 や下 敷 きが 、机 の上 にく っついて 取 れ ないことを体 験してもらった。 しかし、下 敷 きを横 に滑 らせて机 からはみ出 したり、 角 を持 ち上 げて下 敷 きの下 に空 気 が入 るようにすると、 簡 単 に持 ち上 げることができる。 このように吸 盤 でなく ても大 気圧 によってくっつくが、吸 盤は空 気が入 らない ように工夫 した形であることも話した。 写真4.持ち上 がらないゴム板 写真2.吸 盤 でぶら下 げたブランコ (3) 自然に落ちる吸 盤 吸 盤 がくっついている力 が空 気 の 力 であるなら、空 気 がなければどうなるかということで、真 空 鐘 の内 側 に 吸 盤 を多 数 くっつ け、真 空 にした 。あれだ けはずれ な かった吸 盤 がポロポロ落 ちていくことで、空 気 の力 を印 象づけた。 写真5.下敷きが貼 り付いて持ち上がった机 (5) 勝手に膨 らむ風 船 空 気 が押 している力 -大 気 圧 は、1cm 2 あたり約 1 kg重 (約 10N)もあり、例 えば手 の平 くらいの面 積 では ざっと100kg重 にもなる。しかしこのような力 で押されて いると 感 じないのは 、ひと つは上 か らだ けでなく 、どの 方 向 からも押 されているために重 さとしては感 じないた 写真3.真 空 にすると自 然 に落 ちる吸 盤 めであ る 。も う ひと つは 、私 た ちの 体 はこ の よう な大 気 圧 の 中 で暮 らしていく よう に なっ ており 、体 の 中 か らも 尚 、このとき 1個 だ け吸 盤 を 真 空 鐘 の 外 側 にくっ つ け、偶 然落 ちたのではないことも見 せた。 同 じ圧 力 で押 し返 しているからである。このため、私 た ちはふだんの生活 で大 気圧 を意識することがない。 - 80 - サイエンスショー「びっくり!どっきり!空気の力」実施報告 そこで、真 空 鐘 に少 しだけ膨 らませて口 を縛 った風 そこでボーリングの球 にぴったり合 う筒 をかぶせ、掃 船 を入れ、風 船 のまわりを真 空 にすることによりどうなる 除 機 で上 側 の空 気 を薄 くすることで、ボーリングの球 を かを観 察 した。真 空 鐘 に入 れる風 船 は、今 回 はキャラ 浮 かせた。このとき、「掃 除 機 でボーリングの 球 を吸 っ クターの絵 の入 ったものを使 うことで、真 空 鐘 の中 に入 ている」というイメージにならないよう心がけた。 ったのが自 分 だったらどうなるかを意 識 して観 察 しても らうようにした。 まわり が真 空 に なることで膨 らんだ 風 船 が、真 空 鐘 に再 び空気を入れるとしぼんで元 の大 きさに戻 ることか ら、自 分 たちの体 が空 気 に押 されているというイメージ をもってもらった。 更 におまけの実 験 として、シェービングクリームで模 したプチケーキが 、真 空 鐘 の中 で大 きく膨 らむのも見 てもらった。 写真8.浮かぶボーリングの球 (7) フラスコの中 に膨らむ風船 ここまで大 気 圧 を変 化 させるのに、真 空 ポンプや掃 除 機を使ってきたが、この後 の実 験 で水 蒸 気の凝 縮を 用いるため、それがわかりやすいようにフラスコを使った 実 験 を行なった。 あらかじめ少 量 のお湯 をフラスコの中 で沸騰させ、フ ラスコ の中 を 水 蒸 気 で満 た しておく 。お湯 を 捨 てて風 写真6.周 りが真 空 になると膨 らむ風 船 船 をかぶせると、水 蒸 気 が凝 縮 してフラスコ内 の圧 力 が下 がるた め、風 船 が フ ラスコの 中 へ吸 い込 まれ 、や がてフラスコの内側 で膨 らんでしまう。 写真7.クリームが大 きくふくらんだプチケーキ (6) 浮かぶボーリングの球 写真9.フラスコの内側で膨 らんだ風船 大 気 圧 の存 在 と、その力 の大 きさがおぼろげにイメ ージできたところで、大 気 圧 でボーリングの球 を持 ち上 (8) 空き缶つぶし・ドラム缶 つぶし げる実 験 を行 なった。ボーリング球 は約 5kgであるのに フ ラス コ と 同 じよう に 空 き 缶 の 中 で少 量 の お湯 を 沸 対 し、その断 面積 にかかっている大 気 圧 は400kg重も 騰 させ、空 き缶 を上 下 逆 さまにして水 につけると、水 蒸 あるために、ボー リング球 の 上 側 の空 気 圧 を0 .98気 気 の凝 縮 によって空 き缶 がつぶれる。さらに同 じことを 圧程度にするだけでボーリングの球 を浮 かすことができ ドラム缶 で行 なえば、ドラム缶 でもつぶすことができるこ る。 とを、ビデオで見 てもらった。会 場 内 には実 際 にこの方 - 81 - 長谷川 能三 法 で潰 したドラム缶 も展 示 し、次 にいつドラム缶 つぶし サイエンスショーを見 ていない方 も、何 のために何の実 の実験を行なうか案 内 した。 験を行なっているのかがわかるようにする意味もある。 毎 回 、300~500人 の方 が集 まり、ドラム缶 つぶしも 失 敗 することがなかったが、それ以 外 の実 験 が強 風 の ため十 分 できなかったこともあった。 また、今 回 は幸 い 雨 が降 ることがなかったが、屋 外 の実 験 では天 気 の心 配もしなければならない。 写真10.大 気 圧 でつぶれた空 き缶 これ以外に、人 間 の力 で人 間 をぶら下 げる実験も用 意 した。これは、上 から吊 るした板 と取 っ手 を付 けた板 の2枚の間の空 気 を人 間 が吸 って圧 力 を下 げ、取っ手 を付 けた板 にぶら下 がるというものである。しかし、実際 に実験を行 なうのに時 間 がかかる、人 間 が吸 うことで吸 ってくっつけるというイメージにならないかという指 摘 な どがあり、サイエンスショーでは行 なわなかった。ただ、 ジュニア科学 クラブではふだんのサイエンスショーよりも 詳しく行なうことができるため、10月 のジュニア科学クラ ブではこの人 間 の力 でぶ ら下 がる 実 験 を含 め大 気 圧 に関 する実 験 を 、3月 にはド ラム缶 つぶ しの 実 験 を 行 なった。 3.特 別サイエンスショー 写真11.ドラム缶 つぶしの様子 今 回 のサイエンスショー実 施 期 間 中 の9月 20日 (月・祝)、10月11日 (月 ・祝 )、11月 3日 (水 ・祝)、11 4.考 察 月 23日 (火 ・祝 )に、特 別 サイエンスショー「びっくり! 今 回 の 流 れ では 、前 回 の 流 れと比 べて、大 気 圧 の どっきり!ドラム缶 つぶし」と題 して、実 際 にドラム缶 つ 存 在 を天 下 り的 に与 えているイメージが強 くなってしま ぶしの 実 験 を 行 なった 。場 所 は 正 面 玄 関 前 広 場 で、 ったが、その代 わりに全 体 の流 れがスッキリして、観 覧 幅広 の階 段部 分 を客 席 代 わりにし、いずれも通常 のサ 者にもわかりやすかったようである。20~30分 で行 なう イエンスショーが終 わった後 の16時 か ら30分 間 程 度 サイエンスショーでは、このあたりをどうするのがいいか、 で行なった。 このサイエンスショーに限 らず、検 討 ・議 論 の余 地 があ この特 別 サイエンスショーでは、まずドラム缶 に少 量 ると思 われる。ただ、特 に空 気 (大 気 圧 、風 )や電 流 な の水 を入 れ、沸 騰 してドラム缶 の中 が水 蒸 気 でいっぱ ど目 に 見 え ないものを 扱 う 場 合 には、ある程 度 天 下 り いになるまでの間 に、サイエンスショーの中 からいくつ 的 に与 える方 が内 容 をイメージしやすい傾 向 が強 いよ かの実 験 を抜 粋 して行 なった。これは、観 覧 者 の中 で うに思われる。 参考 小 野 昌 弘 「サイエンスショー「空 気 パワー」実 施報 告」 大阪 市立科学 館研究 報告 13(2003) 長谷川能 三 「サイエンスショー「空 気 パワー」実 施報告」 大阪 市立科学 館研究 報告 17(2007) - 82 -
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