マイコプラズマ感染症~特に肺外症状について

2016/9/26
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小児科
津下 充
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マイコプラズマ感染症では肺炎のほかに、全身諸臓
器に及ぶ多彩な症状を呈する。
肺外症状を発症した時には必ずしも肺炎を伴ってい
ない。
肺炎の「合併症」ではなく、「肺外症状」と呼ばれる。
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長さ 1~2μmの細胞壁を有さない小型桿菌
潜伏期間 2~3週間
感染様式は感染患者からの飛沫感染による
小児や学童・若年成人に多く発症
咳嗽と発熱が主症状で乾性の咳を認める。解熱後も
長く続く(3~4週間)。後期には湿性の咳となることが
多い。
肺炎にしては元気で予後も悪くない。
多量の胸水、呼吸困難がみられる重症例が散発的に
見られる。
マイコプラズマ自体には直接的な細胞障害性はない。
活性酸素を産生し呼吸器粘膜を損傷する。
マイコプラズマに対する宿主の免疫応答が種々の肺
外病変の形成に強く関与する。
★ 直接型障害
★ 間接型障害
★ 血管閉塞型障害
直接型障害
マイコプラズマ
傷害を受けた上皮細胞の間隙
から侵入
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増殖の際に産生される活性酸素や過酸化水素により
線毛細胞が破壊され脱落する。
マイコプラズマ菌体の血流への移行により、遠隔臓器
に伝播する。
症状発現部位にマイコプラズマの菌体が存在してい
る。
細胞膜に含まれているリポ蛋白が局所において炎症
性サイトカインの産生を誘導される。
血液中に移行し、遠隔臓器に運ばれる
局所臓器でサイトカインを誘導し炎症を惹起する
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間接型障害
マイコプラズマ
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肺胞マクロファージが自然免疫を介して菌体を認識す
る。
インターロイキン8、18を介したTh1型サイトカインの
活性化が起きる。
血液中の炎症性サイトカイン増加(高サイトカイン血
症)によって、遠隔臓器の炎症が起きる。
獲得免疫によって自己抗体の産生が促される。
症状発現部位に菌体自体は存在していない。
肺胞マクロファージ
の活性化
IL-18
IL-8・TNF-α
抗原提示
好中球の遊走と活性化
自己抗体産生
T
B
IL-6などの炎症性サイ
トカインが血液中に増
加し遠隔臓器を障害す
る
局所臓器での抗体反応を惹起する
血管閉塞型障害
マイコプラズマ
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直接型あるいは間接型の機序に基づいて、局所の血
管内皮障害が起きる。
局所の血管内皮におけるサイトカインや,ケモカイン
産生が促される。
血栓形成あるいは血管炎による血管の閉塞が起きる。
肺胞マクロファージ
の活性化
IL-18
IL-8・TNF-α
抗原提示
好中球の遊走と活性化
T
血液中に移行し、遠
隔臓器に運ばれる
IL-6などの炎症性サイ
トカインが血液中に増
加し遠隔臓器を障害す
る
局所臓器での抗体反応を惹起する
マイコプラズマ感染症における肺外発症
系統
直接型
間接型
皮膚
StevensJohnson症候群
蕁麻疹,不定型紅斑,多形滲出性紅斑, アレ
ルギー性紫斑病,結節性紅斑,皮膚血管炎
感覚器
中耳炎
結膜炎,虹彩炎,ぶどう膜炎
神経
早発性脳炎
早発性脊髄炎
無菌性髄膜炎
遅発性脳炎,遅発性脊髄炎,急性小脳失調, 脳梗塞
Guillain-Barre症候群,急性散在性脳脊髄炎,
Opsoclonus-Myoclonus Syndrome,神経障害,
末梢神経(根)炎
心・脈管
心外膜炎,心内
膜炎
心筋炎,刺激伝導系障害(不整脈),川崎病
消化器
肝機能障害(早
発性)
肝機能障害(遅発性),急性膵炎
血液・造血器
運動器
泌尿器
自己免疫性溶血性貧血,血小板減少性紫斑
病, 血球貪食症候群,伝染性単核球症
関節炎
筋炎,横紋筋融解症
血管閉塞型
突発性難聴
川崎病
DIC
マイコプラズマ感染症に伴う皮膚疾患の報告は多い。
Stevens-Johnson症候群
感染に伴うStevens-Johnson症候群の原因のなかではマイコプラズマ感染症に
よるものの頻度が最も高い(16%)。
培養やPCRでマイコプラズマの存在が証明された例が複数報告されており,炎症部
位に菌体が存在して炎症を惹起している直接型の発症が考えられている。
蕁麻疹・不定型紅斑・多形滲出性紅斑・結節性紅斑・アレルギー性紫斑病(IgA血
管炎)
間接型の発症であると考えられる。
急性糸球体腎炎,IgA腎症
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マイコプラズマによる肺外発症の中で最も報告数が多い。
急性散在性脳脊髄炎
間接型障害・直接型障害・血管閉塞型のいずれかは明らかではない。
早発性脳炎・脊髄炎
発熱から7日以内に中枢神経系症状を発症し,かつ脳脊髄液中にマイコプラズマの
菌体を検出し得る。直接型障害と考えられる。
脳神経障害,末梢神経(根)炎
間接型障害,漠然と間接型の発症で はないかと考えられている。
遅発性脳炎・脊髄炎
発熱から 8日以後4週間くらいまでの間に中枢神経系症状 を発症し,脳脊髄液中に
マイコプラズマの菌体は 検出できない。間接型障害と考えられる。
脳梗塞,線条体壊死
血管閉塞型障害と考えられる。局所におけるサイトカイン産生などによる血管炎の結
果としての血流障害が推測されている。
無菌性髄膜炎
発熱から早期に発症し,また脳脊髄液中にマイコプラズマの菌体を検出し得る。
直接型障害と考えられている。
急性小脳失調,Guillain-Barre症候群
脳脊髄液中にマイコプラズマの菌体が 証明された例はわずかで間接型障害と考えら
れている。
心炎に関する報告も多い。
心外膜炎・心内膜炎
心嚢液や血液からマイコプラズマが検出された報告があり、直接型と考
えられる。
心筋炎
自己免疫的機序による間接型発症が推測されている。
川崎病
日本において多数の報告例がある。間接型発症として考えられている。
自己免疫性溶血性貧血(寒冷凝集素症)
間接型肺外発症。
多くの場合,一過性で自然治癒するが,ステロ イドやガンマグロブリン治療が必要
とされた重症例の報告もある。
血小板減少性紫斑病,血球貧食症候群,伝染性単核球症
免疫応答の異常や自己免疫,全身的なサイト カイン産生の亢進など,間接型の発
症機序が考えられている。
DIC
血管閉塞型肺外発症。
損傷された肺組織からの凝固物質の放出やさまざまなサイトカインの活性化,免
疫複合体形成による補体の活性化など,さまざまな説が提唱される。
肝機能障害
発熱直後の急性期にすでに肝機能障害が存在している早発性と,発症から1週
間程度経過してから肝機能障害が現れる遅発性の2峰性に分布している。
早発型はマイ コプラズマ感染による炎症性サイトカイン産生など直接型の機序
によるものと考えられている。
遅発型は自己免疫的な機序による間接型の発症説や,あるいはマイコプラズマ
そのものではなく,抗生剤や解熱剤などによる薬剤性などマイコプラズマ感染以外
の原因が混在している可能性がある。
急性膵炎
典型的な膵炎症状を呈した例は少なく,多くの場合,他の全身症状に伴って
血清アミラーゼの上昇が認められたという例が多い。
これについては直接説,間接的な傷害説あるいは血流の阻害による血管閉塞説
など諸説があるものの,とくに有力な説はない。
関節炎
主に膝関節や股関節などの大関節に発症し,単関節の場合も多
関節の場合もある。
肺炎を伴わないことが多い。
培養やPCR法で関節液からマイ コプラズマが検出された報告も
多く,菌体の血行性伝播による直接型の肺外発症である。
筋炎
筋逸脱酵素の上昇を伴う。直接型の発症が推測されている。
横紋筋融解症
局所におけるサイトカイン産生など直接型発症説,自己抗体産
生などの間接型発症説,微小血栓による血管閉塞説などが考え
られている。
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方法
有用性の特徴
要する時間,
器具・機械
微粒子凝集法
(PA法)
大きな欠点はない
イムノカード
感染の有無の目安に15分以内,
なる
器具不要
補体結合法(CF)成人診断に有用
約3時間,
一般器具で可能
1日を要す
「急性期診断法」 としての特異
感度
性
単独で320倍以上もしくはペア血
IgM反応の強度
清で4倍以上の変動を認めれば
に依存
高い
キットとしては
及第点
陽性結果=感染急性期
健常人でも30%陽性
単独で64倍以上もしくはペア血
IgG反応の強度
清で4倍以上の変動を認めれば
に依存
高い
ELISA法
正確な免疫状態の把1日を要す, 専用の 高く, 精査・研究 IgA抗体測定は成人の急性期診
握が可能
器具・機械を要す 目的にも使える 断法として有用
遺伝子診断法
方法自体の感度・
特異度は高い
時間単位, 専門知 検体の種類, 手
陽性は, ほぼ間違いなく感染急
識と専門機械を要 技, 保存, 運搬に
性期を示唆
す
依存
簡便に行える
30分以内,
迅速抗原検出法 陽性なら早期から確
器具不要
実な治療が行える
必ずしも十分で 陽性は, ほぼ間違いなく感染急
はない
性期を示唆
肺外症状の診断
肺炎を伴わない場合もあり,地域や家族内における流行状況によりマイコプラズ
マ感染の関与を疑うことが重要である。
無症状の健常人の約30%がマイコプラズマ抗体を保有しているため、ペア血清
を用いた抗体価の上昇を証明することが必要である。
肺外発症では 炎症部位に菌体自体が存在していない間接型発症が多く,炎症
部位からの抗原検査や遺伝子診断による診断は困難である。
肺外症状の治療
脳炎における脳圧管理や川崎病におけるガンマグロブリン療法など,それぞれ
の疾患に対する一般的治療を行う。
マイコプラズマ感染症に対する抗菌薬投与のみでは,肺外疾患に対する効果は
期待できない。
肺外疾患が宿主の免疫応答が関与している免疫発症であることから,ステロイド
剤の効果も十分期待されるが、個々の例における適応の判断は難しく,現時点で
は残念ながら一定の基準はない。
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