電子メール等のネットワークを用いた 学校カウンセリングの可能性と課題 筱 更 治 (奈良県立奈良工業高等学校) Ⅰ 目的 21 世紀をひかえ、文部省 (1999)は、高等学校 学習指導要領案で、情報化社会に生きる子どもに 育成すべき生きる力の一つとして、情報の収集や 整理あるいは発信能力にかかわる新しい教科「情 報」の新設を示した。すでに、中央教育審議会 (1996)は、 「学校は、情報機器やネットワーク環境 を整備し、これらの積極的な活用により、教育の 質的な改善・充実を図っていく必要がある」と述 べている。これらは学習者のインターネット接続 をとおして情報化社会に生きる力を培う時代を見 通している。更に、いじめや学級崩壊あるいは不 登校等、学校教育の生活場面において、心理臨床 の専門家を学校カウンセラーとして非常勤で配置 するなど、対応する施策が模索されている。 こうした中、これからの社会では情報通信ネッ トワークを活用した学校カウンセリングの在り方 も考えられる。本発表は、情報化に対応を進める これからの学校で、電子メール等のコミュニケー ション手段を援用した学校カウンセリングの在り 方についてその可能性を検討する。 Ⅱ 方法 今日、情報化が進展し、4000 万台を越えた携帯 電話等個人が使用する通信端末が急速に普及した。 また、文部省は平成 12 年度にはすべての学校が インターネットに接続できる手だて講じるとして いる。電子メール等のネットワークを用いたコミ ュニケーションは、対面による従来の様式とは異 なるネットワーク社会を顕現するであろう。 こうした状況のもと、発表者は、1998 年、ネッ トワークサーバー上で、電子メールを始め電子掲 示板システムおよび Web コンテンツを組み合わ せ、 「ヒューマン・プラザ 教育相談室」(以下ネッ ト相談室)を開設した。通常の電子メールによる方 法の他、 依頼者の匿名性が保持される方法そして、 電子掲示板システムによる方法である。また、最 低限のルールとして、ネット相談室は、相談する 個人が特定される内容について守秘義務を保持す ることとした。このようにして、ネットワーク上 で教育や学校等の問題を共に考える場や電子メー ル等による相談を呼びかけた。同時に、国内のサ ーチエンジンにネット相談室を紹介し、電子メー ルを受けて、依頼者に応答した。 Ⅲ 結果 掲示板に投稿されたものは電子メールのそれに 比べてわずかであり、 後者による結果を検討する。 1998 年 4 月からの 1 年間で、電子メールによる 相談が 63 件あった。依頼者の男女別では、男 30, 女 24,不明 9 であった。依頼者の階層と相談の概 要及び件数は以下のとおり。中学生:進路や生活 (2),高校生:将来の進路や性格傾向あるいは仲間関 係(6)、学生(専門学校、短大、学部生、院生):進 路や教官との意見不一致や性格(17)、教員:不登 校や盗癖、虚言、子どもの指導等について(6)、保 護者:不登校、盗癖、生活態度、性的行動など(17)。 比較的月曜日は相談依頼が多く、年間では 4 月か ら 3 か月ごとの相談依頼数の推移は、15,11,25,12 であった。 Ⅳ 考察 依頼者の主訴は多岐に渡っていた。債務債権関 係や宗教問題、精神科にかかわると思われるもの など発表者の領域外や力量を越えると判断される ものは、依頼者に適宜他の機関等への接触を提案 した。全般的には進路にかかわる依頼が目立ち、 保護者の依頼は学校に話しにくい内容があり、電 子メールでの支援の役割が首肯された。相談は短 い回数で終了するものが大半であったが、姉の問 題につづき、妹の相談を改めて依頼される場合も あった。また外国に滞在する留学生からの進路に かかわる依頼があり、 地球規模での相談を受けた。 依頼は電子メール登録者に限られたが、 Web-Mail の利用者もあり、今後学校カウンセリ ングの一つの形態としての可能性が留保されると 考えられた。特に、電子メールは危機的介入を必 要とする場合、迅速な対応も可能であり、依頼者 にとって有効な手段として理解されると考えられ る。 【引用文献】 文部省,1999, 高等学校学習指導要領案 中央教育審議会,1996,21 世紀を展望した我が国の教育 の在り方について(第一次答申)
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