就 任 に さ い し て 澤 田 勇 今年4月はからずも附属図書館々長に就任することになった。大学の図書館の性格は教官の研究なら びに学生諸君の学習活動を援助する場であり、したがって大学の中心的存在でなければならない。 私には学生時代、図書館について数々の思い出がある。戦後間もない昭和21年暮、卒論のテーマを選ぶ にあたり、くわしい実験方法について知りたい記事を掲載した雑誌が東大の中央図書館にのみ所蔵され ていることを知った。学生であったので詳しい閲覧規程などを読まないで本郷の東大キャン′ヾスに出か けた。ところが今と異って当時の東大中央図書館は東大生か主体であり、他大学の学生は東大の教官の 紹介がないと入館出来ないきまりがあったらしい。入口で私の読みたい雑誌名を告げて事務職員に入館 の許しを乞うたのであるが入館を拒否された。止むを得ず教わるままに東大の動物学教室へ行き、K教 官に事情を話して紹介状を書いてもらい、やっとの思いで入館が実現した。初めて入った大きな図書館、 あちこちのスタックをインデックスに従って探し求め、やっと夢みた雑誌につきあたった。そして雑誌 の中で必要な論文を眼のあたりに見た時の感動は今なお脳裏を去らない。静かな閲覧室の机の上で、ペ ージを繰る音のみが聞える。論文の内容が時間の経過につれて展開していくその瞬間、これ程私の研究 に対して強い刺激を与えてくれたものはない。又、ある日、品川区の上大崎にある国立予防衛生研究所 の附属図書館で外国雑誌の論文をコンサイスを広げながら読んでいた時、どうしても意味のわからない 熟語が出てきて、はたと困ってしまった。その時、幸運にも当時有名であった寄生虫学のl教授が隅に おられたので恐る恐るその意味を聞いたところ、親切に教えて戴いた時の感動など思い出せば図書館に まつわる思い出は限りがない。 昭和26年4月、縁あって本大学に赴任して間もない頃、初めて阪大や京大の図書館に文献の探索に出 かけた。ところが当時は今のようなコピーなどといった便利な機械などはあろう筈がない。重いカメラ と複写用三脚を持参して、周囲で本を読んでいる人々に迷惑にならないようそっとシャッターを押した ことなど昨日のように思えてならない。 最近の大学図書館は我々の学生時代とは巽って、書物数もぐんと増加し、国の内外を問わず文献のコ ピーが簡単にできるので、カメラを下げてあちこちの図書館まで出向く必要はない。必要な文献の入手 は極めて容易であるから学生諸君は本学の図書館にないからといってあきらめることなく、事務職員の 方に依頗して自分の求めている書物なり文献を徹底的に活用する努力をしてほしい。その場こそが図書 館である。図書館はレポートを書いたり、試験直前のにわか勉強をするところでもあるが、主体は自分 の必要とする参考図書なり論文を静かに読むところである。 本学図書館は近年建築も一応完成し、所蔵図書の数も増加し、学生諸君の勉学には十分満足を与えて くれる場となり得ることを確信する。本学図書館には将来、視聴覚設備を主体として、少人数の会合な らびに学会などのできるこじんまりとしたライブラリーホールの増設が望まれる。昨今のようなきびし い財政状況の中にあっては今日明日にとはゆかぬとしても、何とか実現したい夢である。 図書館の運営は全学の教官は勿論、全事務系職員ならびに学生諸君の図書館に対する自覚の向上こそ が発展につながる唯一の道である。今後、図書館に対する全学の皆さんの心からなるど協力を期待して 就任の挨拶にかえる次第です。 −1− ジュネーブの植物研究所の図書 北 川 尚 史 1969年の秋から1年間、スイスのジュネーブにある「コンセルバトワール・エ・ジャルダン・ボタ ニーク」という植物分類学の研究所で楽しい日々を過した。美しいレマン湖のほとりにあるその研究所 には、世界の各地で採集され、きちんと整理された無慮500万点にのぼる植物標本が所蔵されていた。 世界中の植物に関する文献も実によく揃っていた。古今東西の植物学の書籍が集められており、その中 には私の知らない日本の古い本まであった。植物学関係の雑誌のバックナンバーもほとんど完ぺきに揃 っていた。また、それらの膨大な文献の中から必要なものを探し出すための著者名別および植物の種名 別の文献カードも充実していた。そして、建物の困りは管理の行き届いた植物園で、研究に必要な生き た材料がすぐに手に入る仕組みになっていた。 資料の完備したこの研究所は植物分類学の専門家にとって理想的な環境であり、各国からの研究者の 来訪が絶えない。私にとってもこの研究所は学生時代から夢みていたパラダイスであり、貧乏人か大富 豪の家に招かれて自由な生活を許されたようなもので、のぼせ上って、なんともガツガツと研究に励ん だ。研究所に行けない週末の休日がうらめしく、平日の昼食に出かける時間さえ惜しかった。ジュネー ブ市民の生活のスタイルはフランス式で昼食にもむやみに長い時間をかけるのである。そのため、はじ めの頃は研究室の片隅でインスタントラーメンをつくって昼食をすまし、時間の節約をはかった。しか し、それはあまりにもさもしい印象を与えて日本人に対する評価を落としめるのではないかという配慮 から、また、研究室に味噌の匂いがたちこめるため同僚達か内心不快な思いをしているのではないかと いう気くぼりから、やがてインスタントラーメンはやめた。そして、附近のレストランに出かけ、スイ ス人なみにビールやワインを飲んでゆっくりと食事をとることにした。 研究室では朝から晩まで顕微鏡をのぞいていたが、目が疲れると図書室に入って自分の専門以外の分 野の本を繰った。アンドレア・チェサルピーノ、ガスパルト・パオヒン、ジョン・レイ、ジョセフ・ピットン・ド ・ツルネフォールなど、日本では見ることができないリン刹以前の植物分類学関係の古典を手にするとき、い つも名状Lがたい一種の酷訂感を覚えていたが、それは昼食のワインに酔ったためではない。 植物分類学は学問の全領域から見れば、あまり日の当たらない、ごく小さな分野に過ぎない。しかし、 人はこの地味なアカデミズムの世界になんと巨大なェネルギーを費やしてきたことか。ヨーロッパの自 然科学はなんと堅固な伝統に支えられていることか。これが、ジュネーブのこの研究所をはじめ、ロン ドンの大英博物館(自然史)やキュー植物園、パリの国立自然史博物館などを訪ねて、おびただしい標 本や文献を眼前にするとき、いっも抱く私の感懐であった。 第30回国立大学図書館協議会総会(報告) 第30回国立大学図書館協議会が、6月9・10日 の両日にわたり北海道厚生年金会館で開催された。 本学から図書館長と事務長が出席した。 総会は協議会々長(東大図書館長)の挨拶から 始まり、午前中は各種の報告がなされた。午後か ら文部省係官により文部省所管事項の説明などが あった。そのあと、研究集会があり、九州大学・ 名古屋大学・京都大学の3大学から、それぞれの 地域における地域ネットワークの形成状況につい て、報告と研究発表があった。 第2日目は分科会(第1分科会運営サービス・ 第2分科会予算・第3分科会人事)か開かれ、本 学は第1分科会に出席した。第1分科会では、 学術情報センター設置の促進について 学術情報システムの早期実現について 学術情報センターシステムにおけるニューメ ディアの利用について 国立大学図書館問の相互利用の促進について そのはか各地区から出された協議題に基づき熱心 に討議された。 本年度の協議会総会としては、国の財政事情が 緊迫している時期でもあり、文部省に対する要望 はなく、又、特に決議された事項もなかった。た だ全国的な動きとして、学術情報センターの設置 が予定より遅れているので、その業務を当分の問 東京大学の文献情報センターが、代って続けてい くことになったことと、地域的には九州地区、名 古屋地区、大阪地区、近畿北部地区等の大学が、 地域ネットワークを形成して徐々にではあるが学 術情報システムの完成にむけて、各大学が努力さ れているということを強く感じた。 −2 − 附属 図書館運営委員会 昭和58年度委員名簿 大学の当面する諸問題について 委員長 澤田 勇 0学術情報システムの現況について 委 員 稲垣正浩 今井靖親 内田 茂 奥 忍 須田紘太 滝野千春 宮下福太郎 西田史朗 第1回委員会(4月27日) 0図書館の管理運営組織の改善について 0図書館のサービスの向上について 0図書館職員の養成と人材確保について 。国立大学附属図書館の開放(一般利用)に ついて ・大学院院生の図書貸出しについて 貸出冊数を5冊までとし、期間は2週間以 内とした。 ・本年度収書方針について審議した。 ・本年度も引き続き増加図書目録を刊行するこ とにし、刊行費の予算要求をすることになっ た。 ・学芸談話会の実施について、今回は美術科の 先生にお願いし、7月頃開催の予定。 ・全国共同利用大型コレクションの申請につい て。 ・推薦図書の選定 第2回委員会(7月8日) ・国立大学附属図書館事務部課長会議の報告 文部省学術国際局長及び情報図書館課長等か らの説明事項又は要望事項等会議の内容につ いて事務長から説明があった。以下説明事項 。昭和58年度図書館関係予算について ・推薦図書の選定 第3回委員会(10月12日) ・昭和58年度図書購入費の配分計画 昭和58年度の図書購入予算が決定したので、 それに基づき本年度図書購入費の細分が決 まった。 ・推薦図書の選定 ・開館時問の延長(夜間開館)について 利用者に対するサービスの一環として、開 館時間を延長する方針を立てた。 なお、人事・予算・施設等の諸問題につい ては、今後事務局と接渉し、昭和59年4月 から実施の予定で準備をすすめることにな った。 ・本年度第2回学芸談話会の開催について 西田和夫教授にお願いし、12月中に開催予定 −一 学 芸 談 話 会 く− 7月13日(水)午後3時から、図書館長室において、恒例の学芸談話会が開催されました。今回は赤 井達郎教授が「浮世絵とその環境」と題して、スライドを混じえて興味あるお話しをして下さいました。 当日は他の委員会と重なりましたが、学長はじめ三十数名の先生方や事務職員の方がご出席下さいまし て、盛会のうちに終りました。このお話しは大変好評で、是非っづきを聞きたいという声も出ています。 いつか機会があればアンコール談話会を開きたいと思います。お話し下さいました赤井先生に厚くお礼 申し上げます。 大学紀要総目次第2号刊行 このたび、本学紀要の総目次第2号を下記のように刊行いたしました。第1号(1971)と併せてど 利用下さい。 奈良教育大学紀要総目次第2号 人文・社会科学 第21巻(1972)一第30巻(1981) 自 然 科 学 第21巻(1972)−第30巻(1981) −3 − 寄 贈 図 書 紹 介 各方面からさまざまの図書が寄贈されています。その主なものを紹介いたします。 『図書寮叢刊・壬生家文書 五』 宮内庁書陵郡 『図書寮叢刊・新修本草』 宮内庁書陵部 『皇族制度史料・皇族篇』 宮内庁書陵部 以上宮内庁より管理換 『西原亀三日記』 山本四郎編 発行及寄贈者 京都女子大学 『続二歌舞伎年代記 坤の巻』 利倉幸一編著 発行及寄贈者 演劇出版社 『蔵』 柑文芸春秋事業出版コーナー編 発行及寄贈者 東京海上火災保険賦 『事業所名鑑』昭和57年坂 総理府統計局 『昭和56年社会生活基本調査報告』総理府統計局 『奈良県遺跡調査概報』1981年度 奈良県立 橿原考古学研究所 年史・県市史等 大阪大学50年史 部局史 千葉大学30年史 熊本大学30年史 香川大学30年史 岡山大学史昭和亜∼54年 琉球大学30年史 弘前大学20年史 鹿児島大学30年史 茨城大学30年史 大阪市立大学の100年 京都市立芸術大学百年史 札幌大学15年史 武蔵野工業大学50年史 女子美術大学80年史 造幣局百年史 資料編 大蔵省財務局30年史 『学校基本調査報告(高等教育機関)』52・53年 度 文部省 日本銀行百年史 第2巻 東京電力30年史 『地方教育費の調査報告』 50・51・52年度 文部省 学内教官著作寄贈図書 寄贈者 池尾和子 『高等学校理科指導資料 理科1・理 科Ⅲの指導』 池尾和子ほか著 実数 出版社 文部省 長田光男 『奈良点描≪1≫』長田光男著 清 文社 田中恒子 『新しい住生活』 田中恒子著 連合 出版 中川喜代子 『同和行政論』 中川喜代子はか著 明石書店 滝野千春 『教養心理学』 滝野千春はか著 誠信書房 牧野英三 『奈良のわらべ歌(日本わらべ歌全集 17上)』牧野英三著 柳原書店 諸 議 4.23 近畿地区国立大学図書館協議会 於京都大学 5.24 昭和58年度国立大学附属図書館事務部課長会議 (文部省主催) 於東京医科歯科大学 6.3 第52回近畿地区国公立大学図書館協議会総会 於大阪大学附属図書館吹田分館 6.9∼10 第30回国立大学図書館協議会総会 於北海道厚生年金会館(北海道大学) 7,2ト22 第14回全国国立教育系大学附属図書館協議会研究部会 第8回全国国立教育系大学附属図書館事務(部・課)長会議 第16回全国国立教育系大学附属図書館協議会総会 於愛知教育大学 於京都教育大学 於京都教育大学 近畿地区国公立大学図書館協議会第8回館長・事務(部・課)長連絡会議 於兵庫教育大学 − 4 −
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