タイトル情報 原書タイトル:THE CANTALOUPE CAT 直訳:カンタロープキャット 意訳:ぼくのたいせつなメロンずきのジェリー 書誌情報 出版社:Hannacroix Creek Books, Inc(アメリカの出版社、コネチカット州) 刊行年度:2012 年 9 月 16 日 ページ数:33 ページ ISBN:1-889262-12-9 対象年齢:幼児(1~5 歳)および年齢を問わず猫好きの方。 著者情報 作者:Jan Yager ノンフィクション、フィクション、絵本作家 26 歳の時に自身初となる本を出版(出版社:Scribner) 文学士(ホフストラ大学、美術専攻)/修士(犯罪社会学) 大学院生として 1 年間アートセラピーを学び、1983 年にニューヨーク市立大学で社会学の博士 号を取得 National Speakers Association、Authors Guild、American Society of Journalists and Authors など専門団 体の会員 以前は J.L. Barkas の名で書籍を出版 邦訳書「ひとりライフ―結婚する人しない人」(翻訳脇山怜)/ ASIN: B000J7SIKS ※これに該当する原書が確認できていません。 出版書に「125 Ways To Meet the Love of Your Life」などの自己啓発本や「Ultimately Death」など自 身の学歴を活かした心理スリラー小説などがある。 「Work Less, Do More: The 14-Day Productivity Makeover」などビジネス書や絵本などジャンルは多岐にわたる。 【参考:http://www.drjanyager.com/writing/】 絵:Mitzi Lyman グラフィックデザイナー兼アーティスト マサチューセッツ大学で理学士号を取得(人材開発専攻) アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨーク、スクール・オブ・ビジュアル・アーツ、 コーコラン・スクール・オブ・アートで絵画とイラストレーションを学ぶ。 シルバーマインアートセンターで絵画と彫刻を学ぶ。 書籍のイラストとしては本書が初。 (次いで『The Reading Rabbit』と『The Quiet Dog』のイラス トも手掛ける) 登場人物紹介 語り手:主人公ジェリーの飼い主。 (性別は絵からは判断し難い。男の子?) ジェリー:主人公。オス猫。メロンが大好き。猫のくせに外に出ることが嫌い。インドア派。 ブリジット:ジェリーの妹。メス猫。特段性格のわかる記述はなし。 絵のみの登場人物: 他の猫、人間(友達を表すための絵) 、犬、人間と猫(例題を表すための絵) 原書の内容要点と構成 語り手が他の猫とジェリーを比べることで、ジェリー「特有」の好みや性格を浮き彫りにしてい る作品。比較の形で話が進み、具体的な「ストーリーライン」はない。 単純な比較を通して、ジェリーにはジェリーらしさがあることを伝え、そこから人間や動物には ひとりひとり個性があること(その人らしさ、その人特有の性質)を読者に伝え、子供と親が共 に自分の個性について考えるきっかけを与える作品。 (あなたをあなたたらしめるものとは何か、 というメッセージの込められた作品) 目次(全訳) 絵本のため該当しない。 あらすじ ※短いため、仮訳の形とします。 みんなが ロープで あそんでいても ジェリーはおかまいなし だいどころで メロンをたべてるんだ -------------------みんなが おぎょうぎよく おさらにはいった みずをのんでいても -------------------ジェリーはおかまいなし シンクのみずを のむんだ -------------------なでなでされると ねこは みんな よろこぶ くつしたが おきにいりの ねこは たくさんいる -------------------でも ジェリーは とにかく はこのなかに いるのが だいすきなんだ -------------------きみも しってるよね ねこは そとで あそぶのが だいすきなんだ -------------------でも ジェリーは ちがう ジェリーは おうちが いちばんすきなんだ おしろを まもる もんばんみたいに おうちを まもってくれる -------------------ときどき ジェリーは いちにちじゅう ずーっと まどぎわに すわってる -------------------ひとりだったり いもうとの ブリジットと いっしょだったり -------------------いぬと じゃれたり ほかのどうぶつと あそんだりするのが すきな ねこもいる -------------------いっしょにいると たのしい ともだち きみにはいるかな? -------------------ジェリーは ぼくのねこなんだ ごらんのとおり ほかの ねことは ちょっとちがう きみにも みんなとちがうところ あるよね -------------------うん ぼくにもあるよ -------------------分析・評価(市場性含む) 文体、語彙は簡潔かつ易しい 内容も簡潔、伝えたいメッセージも明確である アイデンティティや個性といった類似のテーマを扱った作品として、谷川俊太郎の「わたし」や レオ・レオニの「スイミ―」が浮かんだ。「わたし」は直接的に「アイデンティティ」の問題に 触れているためそこまで類似性は見られないが、「スイミ―」は動物を主人公にし、他の同種の 動物と比較することで、個性を描いている点は類似していると思う。ゲルダ・ヴァーゲナーの「ち びおおかみ」もテーマは同じだが、個性を否定する( 「変」などネガティブな捉え方)ところか ら入り、そこから主人公自身が葛藤して個性を見出すという構成になっており、本書に比べやや 難解かつ高い年齢層向けの作品であると思う。本作は上記の作品に比べ対象年齢が低いため、か なり平易な文章でストーリー自体も心理の深いところまで踏み込んでいない点で大きく異なる と思う。 「わたし」との類似点は、事実のみを羅列し、読者が主人公に感情移入しない点である。 「わた し」は、長新太さんの独特のイラストの中で淡々と事実が列記され、読んだ後「ストーリー」を 感じることがない。そして、決して読者に感情移入しない。同作も同様で、他の猫とジェリーを 比較していくことでジェリーの「個性」を浮き彫りにしている。手法としては類似していると思 う。 「スイミー」や「ちびおおかみ」は「ストーリー」が付随するため同じメッセージを読者は 主人公を通して感じる構成になっている。 対象年齢は、Amazon でも幼児(1~5 歳)とされているように、小さいお子さん向けである。ま た年齢を問わず猫好きの方はイラストを楽しめる一冊である。 日本での受け入れ: 懸念事項 1【絵】 :1 歳からのお子さんを対象とした絵本は、日本の作家さんのものだと親しみや すいイラストやキャラクターが使われていることが多い。有名なミッフィーシリーズやしろくま ちゃんシリーズのように、動物も簡易化され、三頭身のキャラクターが多い。本作は実写に近い 絵が使われているため、親しみやすさの点が不安材料。逆に実写ものが少ないので珍しく目をひ くという利点はあるかもしれない。実写の絵で成功しているピーターラビットや池田あきこさん の作品で有名な猫のダヤンに比べると、個性やアイデンティティを題材にしている作品であるの に、ジェリーの絵に読者を引き付ける力が少ないように感じる。ただし、繰り返しとなるが、ス トーリー同様、魅力がありすぎて感情移入するのを避けているのかもしれない。しかしながら、 やはり絵本という観点、そして絵本の購買者の立場から考えると、もう少し愛くるしさやキャラ クターとしての個性があっても良いかと思う。色が少ないのも懸念事項。また、例えば 18 ペー ジと 20 ページの猫が同じ猫に見えない(両方ジェリーだと思うが)点も無視できない点である (特に絵で小さいお子さんの混乱を招くのは絶対に避けなくてはいけないと思うため)。 懸念事項 2【コンセプト】 :「私は他の人とどんなところが違うか」 「わたしをわたしたらしめる のは何か」を考えるきっかけを作る作品であるがゆえに、子供がお気に入りの一冊として読むと いうよりは、親や幼稚園の先生など教育現場の方が読み聞かせ、個性について学習する機会を作 るためのツールとして使うような印象が強い。書店に並んでいるところを想像すると、本の帯に そういったコンセプトが書かれて売られている印象を受ける。 文化的相違などで受け入れが難しいと感じる点はなし。 セールスポイント:「教育絵本」の位置づけでセールスすると良い作品だと思う。アメリカなど では肌の色の違いや人種の違いなど、「人と違うこと」が常に社会に根付いた問題である一方、 日本はあまりその問題を扱う機会がない。また、以前よりも「人と違うこと」がプラスとされる 時代になってきているため、テーマとしてはそこまで時代にはまっていない印象を受ける。 (一 昔前に人気だったテーマという印象)あえてそれを逆手にとって、自分が他の人と違う点はどこ だろう、と考えるきっかけを与えるという方向でマーケティングすると良いかと思う。実際最終 ページにディスカッションで推奨される質問が記載されているため、教育面では使える作品だと 思う。 タイトル情報 原書タイトル:THE QUIET DOG 直訳:おとなしいいぬ 意訳:ビング~ほえないいぬの ひみつ~ 書誌情報 出版社:Hannacroix Creek Books, Inc(アメリカの出版社、コネチカット州) 刊行年度:2013 年 12 月 13 日 ページ数:32 ページ ISBN-10:1889262617 ISBN-13:978-1889262611 著者情報 作者:Jan Yager ノンフィクション、フィクション、絵本作家 26 歳の時に自身初となる本を出版(出版社:Scribner) 文学士(ホフストラ大学、美術専攻)/修士(犯罪社会学) 大学院生として 1 年間アートセラピーを学び、1983 年にニューヨーク市立大学で社会学の博士 号を取得 National Speakers Association、Authors Guild、American Society of Journalists and Authors など専門団 体の会員 以前は J.L. Barkas の名で書籍を出版 邦訳書「ひとりライフ―結婚する人しない人」(翻訳脇山怜)/ ASIN: B000J7SIKS ※これに該当する原書が確認できていません。 出版書に「125 Ways To Meet the Love of Your Life」などの自己啓発本や「Ultimately Death」など自 身の学歴を活かした心理スリラー小説などがある。 「Work Less, Do More: The 14-Day Productivity Makeover」などビジネス書や絵本などジャンルは多岐にわたる。 【参考:http://www.drjanyager.com/writing/】 絵:Mitzi Lyman グラフィックデザイナー兼アーティスト マサチューセッツ大学で理学士号を取得(人材開発専攻) アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨーク、スクール・オブ・ビジュアル・アーツ、 コーコラン・スクール・オブ・アートで絵画とイラストレーションを学ぶ。 シルバーマインアートセンターで絵画と彫刻を学ぶ。 書籍のイラストとしては本書が初。 (次いで『The Reading Rabbit』と『The Quiet Dog』のイラス トも手掛ける) 登場人物紹介 語り手:実際には登場せず ビング:主人公。オス犬。おとなしいがどんな犬よりも自分の周りの状況を把握している。 サム:ビングの飼い主の少年。ビングを自慢に思っていることはストーリーから伺える。 小さな女の子:公園で一人で泣いているところをビングが見つける。 絵のみの登場人物: 他の犬、小さな女の子の母親、人間と犬(公園の場面) 原書の内容要点と構成 他の犬とビングが比較される形で話が進んでいく。 17 ページから、ビングの勇敢なエピソードを紹介する形で実際にストーリーが始まる。タイト ルとは対象的に「しずかな犬」はただ「しずかな犬」ではなく、周りの状況を把握し、勇敢に置 かれた状況に立ち向かう「多くは語らないが行動で示す犬」であることがストーリーを通じて描 かれている。 前半は、単純な比較を通して、ビングにはビングらしさがあることを伝え、そこから人間や動物 にはひとりひとり個性があること(その人らしさ、その人特有の性質)を読者に伝え、子供と親 が共に自分の個性について考えるきっかけを与える作品となっている。(あなたをあなたたらし めるものとは何か、というメッセージの込められた作品) 後半は、考えを口にださない=考えがない、ではなく、人も動物もそれぞれ色々な考えを持って いてそれを言葉で示すのか、行動で示すのか、その表現方法はそれぞれであるというメッセージ が伝わる作品。 目次(全訳) 絵本のため該当しない。 あらすじ ※短いため、仮訳の形とします。 いぬは みんな ワンワン キャンキャン おおきなこえで ほえます みみをふさがないと うるさくて うるさくて たまりません -------------------このこは ビング おどろくほど おとなしい いぬです ほかの いぬとは おおちがい -------------------うなったり おおきなおとを だすのは きらい だけど -------------------おんがくがすきで はしるのも だいすき もちろん おもちゃで あそぶのもだいすきです -------------------ビングのかいぬしのサムは ビングを いろいろなところに つれっていってくれます -------------------ときどき にんげんが おおきなこえで さけんでも ビングは ほえたりしません -------------------あるひ サムはビングを こうえんに つれていきました こうえんでは いぬたちが じゆうにかけまわったり ワンワン おおきなこえで ほえたりしていました リスをおっかけて きにのぼろうとしている いぬまで いました -------------------とつぜん いぬたちの なきごえが どんどん おおきくなっていきました でも なにがおこっているのか だれにも わかりません -------------------でも ビングには わかっていたのです ビングは まえあしを サムの ひだりあしにのせて あいずを おくりました -------------------すると ビングはサムの ずぼんのすそをひっぱりだしました あわてて ビングについていったサムは おおきなきのしたで ひとりぼっち ないている おんなのこを みつけました -------------------サムは こうえんの かんりにんさんに まいごがいることを つたえました そして おんなのこのおかあさんが ぶじ みつかりました -------------------まいごのおんなのこを すくったのは ワンワン ぎゃんぎゃん ないていた いぬたちではなく ビングでした -------------------そのとおり ビングはおとなしいけど だれよりも いろんなことを しってる おりこうないぬなのです -------------------分析・評価(市場性含む) 文体、語彙は簡潔かつ易しい 内容も簡潔 前半のメッセージは比較的明確だが、後半のエピソードで若干ずれるような印象が残る。 後半の犬が活躍して物事が解決するという流れは、ディック・ブルーなの「こいぬのくんくん」 に類似しているが、全体的な流れは異なる。 他の犬と比べることで個性を尊重する点では、同様のテーマを扱った作品は多いが、本作は一般 的に個性尊重をテーマにした絵本と異なり、個性を尊重される主体であるビングの「声」が語ら れていないのが大きな特徴である。通常、他とは違う特徴を持ったキャラクターを題材にした絵 本では、そのキャラクターの観点からストーリーが展開されることが多い。 「ペンペンのなやみ ごと」や「まっくろネリノ」などがそうである。「ぞうのエルマー」でも主人公エルマーが自分 が皆と違うと自覚した上でストーリーが展開されている。本作で興味深いのは、主体である「ビ ング」が自分のことをどう思っているかまったく描かれていない点である。あくまでも語り手と サムの視点で「ビングは他の犬と違う」のである。この手法は、みんなと違っていてもそんなこ とは気にせず、我が道を行く、というビングの姿を通して、自分の個性を大切にし自分らしくい ることの大切さを伝えるという点では非常に効果的に働いている。その一方で、この手法を用い ることで、単におとなしい犬でも大胆に行動し人の役に立つこともある、というだけのストーリ ーにもなり得る危険性が生まれる印象を受けた。 対象年齢は、語彙の容易さや、ストーリーの単純さを考慮すると幼児(1~5 歳) 。 日本での受け入れ: 懸念事項 1【絵】 :同じ犬を題材にした絵本で有名なガブリエル・バンサンの「アンジュール― ある犬の物語―」と比べると明らかにデッサン力が不足している。絵を楽しむというより、絵を 指摘したくなってしまうページもある。また色の使い方もあえて部分的に入れる手法をとってい るようだが、その効果が見受けられない。 また、対象年齢を考慮すると、絵と文はできるだけ一致していたほうがストーリーに入り込みや すいと思うが、18 ページなど、文章に「chased squirrels up a tree」とあるのに絵にそれが反映さ れていないため、 絵の中に入りこむ妨げとなる点が見受けられた。13 ページの「Sam is his owner」 の部分も絵の中ででは果たしてどれがサムなのかが不明瞭すぎる。 また複数犬がでてくる中で、ビングにとりたてて特徴がないため、ビングがあまり引き立ってい ない印象を受ける。特に一番重要なシーンである 23 ページにいたっては、走っている躍動感が プラスされたせいか、他のページにでてくるビングと同じ犬に見えないおそれもある。(常に耳 がたれさがっていたのに、ここだけ耳があがっているため、違う種類の犬に見える)絵をカバー するほどのパンチ力のあるストーリーであれば手にとる人も増えると思うが、そこまでのパンチ 力はない印象。ただし、この本を読んだ上で、個性について考えるなど、きっかけづくりのツー ルとしては良い絵本だと思う。 セールスポイント:繰り返しとなるが、ストーリーが単純で分かりやすいため、教育現場のツー ルとしてマーケティングするのが良いかと思う。 市場性:今の子供達は、アニメーション技術の進歩もあり、良質な「絵」に触れているので、本 作にように写実的な絵を使う場合はやはりデッサン力が必要かと思う。先に触れたガブリエル・ バンサンの「アンジュール―ある犬の物語―」などは絵だけで手にとる読者は多いと思う。本作 の表紙の仕上がりは優れているので、犬の好きな子供達が手に取る可能性はあるが、肝心の中身 の絵の仕上がりが十分とは言えないと感じた。 「お気に入りの一冊」になるのは難しそうだが、 犬を飼っているご家庭で親子で個性について話をするためには良い作品である。
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