管理会計を提供する 税理士の強み

2013年
(平成25年)10月5日号
税理士事務所
第1426号
税
理
士
新
聞
士業変革期 の 生き残り術
執筆:鳥飼
管理会計を提供する
税理士の強み
早 川:先生が先日仰っていた「税理士は弁護士を超える法律家」という
言葉、知り合いの税理士に言ったらびっくりされました。
早川
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三 田:税務問題になった場合に国民が最初に思い浮かべる相談相手は税
理士であって、つまり一般的に税法の専門家といえば税理士だと
三 田 思われている。ところが当の税理士は、自分たちを会計・税務の
専門家だと称していて、法律家という認識が薄いんだ。いわば、
税法という極めて重要な法律の担い手となる専門家が実質上いな
い状態となっている。それでは納税者の保護が図れない。
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早 川:この法律事務所で税務訴訟や税理士賠償責任の問題に関わってい
ると、多くの税理士がいかに法律に疎いか、そのために納税者に
どれだけ迷惑を与えているかということを実感しています。でも、
先生のそういう考えに賛同してくれる税理士先生も最近出てきて
いますね。
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三 田:そうなんだ。少数でもとても心強い。世の中の変化は小さなとこ
ろから始まって次第に大きなうねりとなり、大変化を起こす。変
化は始まったばかりの段階だけど、いずれは「税理士は法律家」
という考え方が大勢を占めて常識になるはずだ。税務調査の認定
講座を始めたいと思ったのもその考えが基にある。税理士と弁護
士はチームを組むべきだと思う。
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早 川:それと、先生は最近「税理士は公認会計士を超える会計専門家」
とも仰っています。これは一般的な考え方と異なります。
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三 田:会計には、管理会計、財務会計、税務会計という3つの類型があ
る。財務会計は会社債権者や株主、投資家など会社の利害関係者
が会社の実態を知るための会計で、税務会計は税務当局という国
の立場から適正な納税をさせるための会計だ。そして、経営者の
立場で使える会計といえば管理会計だね。つまり、経営者の立場
を考えると、一般的な考え方と異なる答えが見えてくるわけだ。
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早 川:大手企業の監査をしている会計士の中には「税理士は会計専門家
ではない」と言い切る人までいます。大企業対象の監査で難しい
仕組みの財務会計に関わっているから、財務会計に詳しくない税
理士を会計の専門家と認めたくないようです。
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三 田:仕事が難しいかどうかで専門家としてのレベルを考える発想は古
い。専門性の高さを誇ってみても、顧客によってはありがたさも
登場人物
第58回
7
(第三種郵便物認可)
クローズ アップ
重和 弁護士
早川小百合
税理士。税理士事務所に勤
務した後 、税 務 関 係を専 門
分 野のひとつにしている三
田総合法律事務所に移籍した。好奇心が
強く、遠慮なく質問や意見を言う性格。
三田弁護士
三田総合法律事務所の代表
弁護士。数多くの税務訴訟・税
理士賠償責任訴訟を担当し、
税理士界をよく知っている。裏表のない率直
な性格で、
「 何があっても上り坂」
が信条。
価値も感じない。顧客からお金を受け取る以上、顧客のためにな
ることがないと対価関係が成り立たないからね。もちろん上場企
業に関しては、投資家保護の要請で、上場企業の財務面の信頼性
を保護するために上場コストとして公認会計士監査に支払いをし
ているから、対価関係はしっかりしている。
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早 川:カネボウ事件やオリンパス事件のような不祥事がありましたから、
投資家の立場からは上場企業の財務安全性に保証が欲しいのは当
然です。
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三 田:その話に関連するけれど、一部の企業が不祥事を起こすと、不祥
事を起こさない企業にも厳しい規制が掛かることってどう思う?
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早 川:それはおかしいです。別に新しい規制をしなくても、企業体質が
抜本的に違う企業は不祥事を起こさないはずなのに。
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三 田:健康体の人に病気にならないための対策を何でもかんでも強いる
のと一緒だね。健康体なら本人に任せる方が実際的だと思う。自
律的経営に委ねるべきだ。会社が成長するには自律した考え、つ
まり自分のモノサシで経営すべきだよ。
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早 川:その自律的経営に必要なのが管理会計というわけですね。
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三 田:さすが小百合ちゃん。経営者の立場からすれば最も付加価値の高
いのが管理会計だ。未来の成長につながる自律的経営をするため
の管理会計が最重要で、それを充実させるためにはキャッシュフ
ローと密接に関連する税務会計も活用する必要がある。投資家を
意識しないでいい中小企業は、中核とすべき管理会計に税務会計
がセットになることで会社の存続・成長につながる。会計自体の
専門性の高さ云々で付加価値は決まらない。
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早 川:もしかしたら多くの税理士先生は、税務会計だけに目が行って、
管理会計を基本にするという発想をしていないかもしれません。
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三 田:TKCのお世辞を言うわけではないが、黒字経営を支援するとい
う姿勢は管理会計の中心の発想だから素晴らしいと思う。とにか
く、「税理士とは何か?」の原点を詰めていくと、「税理士は税法
面では弁護士以上の法律家」であり、「税理士は中小企業にとっ
ては公認会計士以上の会計専門家」だという発想に至るんだ。
(つづく)