奨学金裁判判決を受けての声明 2014(平成26)年4月15日 北海道奨学金問題対策弁護団 弁護士 西 弁護士 山 本 弁護士 池 田 弁護士 橋 本 博 完 賢 祐 和 自 太 樹 1 本日、札幌地方裁判所民事第1部は、独立行政法人日本学生支援機構(控訴人) が元奨学生(被控訴人)に対して奨学金の返還を求めた控訴審の裁判について、控 訴人の請求を棄却する判決を言い渡した。 当弁護団は、この判決を素直に歓迎する。 2 本件は、元奨学生は、高校生時代に日本育英会から奨学金を借りていたものの、 借入・返済等の全ては保護者においてなされ、元奨学生は借用証書等にサインはし たが、自ら借りたという認識はなかった。その後、元奨学生は自己破産手続を取っ たが、債権者一覧には奨学金債務を記載しなかったという事案である。 札幌簡易裁判所での第1審では、元奨学生本人が訴訟を遂行し、「本件貸付けを 認めるに足る証拠はない。」として日本学生支援機構の請求が棄却されていた。 控訴審においては、①元奨学生本人の認識・承諾のもとで、奨学金の貸付がなさ れたのか、②本件返還契約に基づく貸金返還請求権が破産法253条1項6号にい う「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権」に当たるか否か、が 争点となった。 3 札幌地方裁判所は、控訴審段階ではじめて日本学生支援機構が提出してきた借用 証書の効力を認めた。奨学金の特殊性を理解せず、金銭消費貸借契約の一般論の枠 でしか判断せず、①の争点で元奨学生の言い分を認めなかった。この点は、未成年 者である高校生が、将来的な職業・収入もわからないにもかかわらず、多額の債務 を負うことについて、その借入れの意味を正確に理解することが極めて困難である ことを見過ごしている。奨学金を金銭消費貸借契約と同視するものであり、その実 態を無視した判断と言わざるを得ず、この点は評価できない。 しかし、「本件返還契約に基づく債務の返済は、専ら被控訴人の母親がこれを行 っており、本件借用証書に署名押印した以降、控訴人から被控訴人に対して本件返 還契約に基づく債務を認識させる措置がなされておらず、本件借用証書署名当時、 被控訴人が高校生であって、その後破産・免責申立まで6年経過していることも合 わせ考えると、被控訴人が、本件破産・免責申立ての際に本件返還契約に基づく債 権の存在を失念し、債権者一覧表に記載しなかったこともやむを得ないというべき 1 であって、そのことについて被控訴人に過失があったと認めるには足りない。」と 認定し、②の争点において元奨学生の主張を認めた。この点は、破産手続時におけ る元奨学生の認識という実態に即した判断になっており評価できる。 また強調すべきは、日本学生支援機構が証拠として提出した「委託業者の業務シ ステムの記録」の信用性について、「業務システムに記録された内容の正確性には 大きな疑問がある。」としてこれを否定した点である。これは今後の同種裁判およ び日本学生支援機構の債権管理実務に大きな影響を与えるものであり、日本学生支 援機構の実務改善に強く期待する。 4 当弁護団は今後も、日本学生支援機構による硬直的な取立て、個別事情を踏まえ ない形式的・一律的提訴から、元奨学生を個別的に救済するための活動を継続する。 それと同時に、本判決を受けて、奨学金問題の本質が、教育を受ける権利の保障 であること改めて確認する。憲法上保障される教育を受ける権利が、家庭の経済的 事情により左右されてはならない。将来を切り拓くための奨学金が、将来を奪うよ うでは本末転倒である。日本の中等・高等教育における高学費・貸与型奨学金が持 つ問題点の改善に向けて、インクル(北海道学費と奨学金を考える会)、奨学金問 題対策全国会議等とも連携を取りつつ、より一層努力することを表明する。 以 2 上
© Copyright 2024 Paperzz