科学計測用CMOSカメラCP002の基礎的特性の測定

科学計測用CMOSカメラCP002の基礎的特性の測定
科学計測用カメラの基礎的な特性である入出力特性、ダイナミックレンジ、
エレクトロン/カウント変換係数、SN比特性を測定しました。
エレクトロン/カウント変換係数の測定は、Photon Transfer Method1)
と直接的な方法との両方で行いました。なお、今回のデータはすべてカメラ
ゲイン1で測定しました。
1) James R. Janesick, Kenneth P. Klaasen and T. Elliott, Chargecoupled-device charge-collection efficiency and the photon-transfer
technique , OPTICAL ENGINEERING, Vol.26 No.10, 1987
1.入出力特性の測定
入出力特性
入出力特性は、カメラが計測器として使え
るかどうかを示す重要な特性です。この特性
10000 が線形であれば、画像の定量化が可能になり
ます。測定では輝度が非常に暗い状態からか
なり明るい状態まで変化する白色LEDの発光
傾き 1
1000 面をCP002で撮像して、輝度をグラフの横軸
にまたCP002出力を縦軸に取り、取得データ
をプロットすることにより測定しました。白
色LEDの輝度は、分光放射輝度計で測定しま
出力 (カウント)
100 10 した。
図1に結果を示します。入射光量比で数
1 1 10 100 1000 10000 千:1の広い範囲に渡って入出力特性が線形
であることが確認できます。
この線形に応答する範囲がダイナミックレ
ンジです。次にこの範囲を正確に求めます。
0.1 入射光量 (A.U.)
図1 入出力特性:縦軸、横軸ともに対数なので傾きが
1よりγ=1を示している
2.ダイナミックレンジの測定
ダイナミックレンジの定義として、ピクセルの飽和電荷量(e-)を読み出しノイズ(e- r.m.s.)で割ったとき
の数値がよく使われています。ここではカメラのADコンバータの最大出力カウントを、カウント値に換算
したノイズで割ってダイナミックレンジとしています。
CP002のADコンバータは12bitなので、最大出力カウントは2^12-1、4095カウントです。読み出しノ
イズは、図2のPhoton transfer curveから求めたところ約0.9カウントでした。これらの値からダイナ
ミックレンジD.R.を計算すると、約73dBとなります。
D.R.=20Log
4095
! 73dB
0.9
3.エレクトロン/カウント変換係数の測定
Photon Transfer Curve
エレクトロン/カウント変換係数とは、AD変換さ
100 れたカメラ出力の1カウントが、光子によってピク
セル内のフォトダイオードに発生した光電子何エレ
クトロンに相当するかを表している係数です。この
傾き 1/2
係数と波長毎の量子効率つまり分光感度がわかって
いれば、撮像した画像のカウント値からイメージセ
ンサーの1ピクセルに入射する光子数を推定するこ
標準偏差 (カウント)
10 とができます。さらにカメラレンズのF値や分光透過
率等がわかっていれば、被写体の放射輝度の推定も
可能となります。
読出しノイズ 0.9 count
Photon Transfer Methodによりこの係数を求め
ます。図2に結果を示します。横軸はカメラ出力、
縦軸は画像100 x 100ピクセルの標準偏差です。標
1 4.5 5.0 e-­‐/count
0.1 0.1 1 10 100 カメラ出力(カウント)
1000 準偏差=1における横軸の切片が係数の値となります。
カメラ出力の減少に伴い標準偏差は一定値に近づい
て行きます。入射光量に依存しないこの一定値が読
み出しノイズとなります。
図2 Photon Transfer Curve:光源は波長590nmのLED
測定結果は、エレクトロン/カウント変換係数が4.5∼5.0 e-/count、読み出しノイズは0.9countでし
た。グラフでは線の引き方で値が変わってしまいがちです。差分画像の分散値と画像輝度値の平均値から
計算により求めることもできます。この方法では変換値は4.8 e-/countでした。
またLED光源の光拡散板における分光放射輝度の測定値と、カメラレンズの光学特性からイメージセン
サーの1ピクセルに入射する光子数を計算しました。この光子数の値と、量子効率、LED光源を撮像した
ときの画像輝度値(カウント)から求めたエレクトロン/カウント変換係数は5.0 e-/countとなり、
Photon transfer methodによる値といい一致を示しました。
4.信号対雑音(S/N比)特性の測定
S/N比特性
撮像された画像の信号と雑音の比(S/N比,
1000 SNR)は、画質の目安となります。一般に次式で定
義されます。
SNR=
N pQt
N pQt+Dt+!
2
r
読み出しノイズが
支配的な領域
100 傾き 1/2
式の中のNp、Q、t、D、σr^2は、それぞれ1秒間に
1ピクセルに入射する光子数、量子効率、露光時間、
SN比
暗電流(1秒間に1ピクセルに発生する)そして読
光子ノイズが
支配的な領域
10 み出しノイズとなります。
入射光量を一定に保った状態で露光時間を変えて
撮像したときのS/N比特性を右図に示します。露光
時間が非常に短い領域では、入射光量も微弱で暗電
0.05 1 0.5 5 50 500 流も小さいために、ノイズのなかでは読み出しノイ
ズが支配的になりSNRの値は露光時間に比例します。
一方光量が増えると光子ショットノイズが支配的に
なり、SNRの値は露光時間にの平方根に比例します。
S/N比が理論式で記述されることが確認できまし
た。S/N比の推定が可能です。
傾き 1
0.1 露光時間 (msec)
図3 S/N比特性:露光時間が長くなると理論式の分母の暗電流
と読み出しノイズの項が無視できるようになり、傾きは露
光時間の平方根に比例するようになる