合同会社 北海道OTセンター 事故救急時対応マニュアル 基本的な考え方 OTセンター関連施設(以下当施設)を利用されている方は、事故・緊急事態に際して、 自ら迅速に対応することが難しいため、適切な対策が必要となる。事故は、第1には「起こ さない」予防が最も重要であり、職員全員がリスク要因を理解し、日常的な気づかいや確 認をする必要がある。その上で、事故が万一起こってしまった場合の「適切な対応方法」 について習熟しておくべきである。 当施設での業務では、送迎、食事、入浴など、様々な事故が起こる可能性がある。普段 から「どのような事故、緊急事態が起こるのか」を予測し、「どう対応するのか」を前も って理解しておかなければ、事故の未然防止、事故緊急時の適切な対応が図れない。具体 的には、普段から利用者の顔色、表情、様子の変化を的確に把握できるように《よく見る》 こと、同時に現場に死角(時間的にも)を作らない、利用者に背中を向けたまま仕事をし ないということが、最初にできる予防的な危機管理となります。また、事故が起こったと きに動揺して慌てふためかないためには、頭の中でその時にどの様に行動するかを何度も シミュレーションしておく必要がある。合ってはならないことではあるが事故が起こって しまった場合には、冷静になるように努め、自分の役割を遂行するとともに、職員間での 連携が図られるよう声をかけあう必要がある。当施設で作製しているマニュアルでは、手 分けをして連絡通報する、当事者の様子を観察する、気道確保、安全な場所、安楽な姿勢、 保温、救急車が来るまでの蘇生術、見守り、バイタルチェック、そして当事者の保険証や 手帳など個人情報の準備等の実際の対応について示している。職員はマニュアルに精通し、 その上で《臨機応変》な対応ができるよう心がけることが望まれる。 Ⅰ・事故や緊急事態として想定される事柄 1.異食、誤飲 2.誤嚥 3.誤薬 4.転倒転落・捻挫・脱臼・骨折 5.溺水 6.持病による体調急変やてんかん発作 7.出血 8.嘔吐 9.熱傷 10.送迎時、車中の事故 いずれの場合も緊急時は、できるだけ早く家族、管理者等に連絡や報告を行う。また通 院や救急車要請に備え、保険証や必要な個人情報のコピーをすぐに出せるようにしておか なければならない。 1.異食、誤飲 [予防と発見] 食事以外の時間に利用者が何か口に入れている様子であれば、必ず何を口に 入れているのか確認しなければならない。飲み込む前に「水ぎわ」で防ぐこと が大切である。異食情報のある利用者の手近にはカプセル剤や小物類を放置し ないなど注意を払う。 [対応] 誤飲や異食は口の中にあればこれを吐き出させるが、飲み込んでしまったら 確認は難しい。利用者の様子がいつもと違うとか、腹やのどに痛みを訴えるよ うであれば、周りの状況を調べて誤飲や異食の可能性も疑うべきである。自覚 症状があるときはすぐに医師に連絡して受診させる。 また消毒液や洗剤などの液体を飲んでしまったときは、水や牛乳の服飲を促 しつつ、ただちに救急車を要請する。医師に指示を仰いでいる余裕はない。 2.誤嚥 [予防と発見] 誤嚥事故は早期に発見しなくてはならない。「すべての利用者に誤嚥の危険 がある」と認識しておく必要がある。食べ物を咀嚼し、固まりにして飲み込む 一連の筋肉の動きを衰えさせないため、普段からうがい、歯ブラシ、口笛、会 話などをリハビリとして意識する。食事中に異常を感じたらすぐに食事を中止 し、嘔気・咳込み・呼吸困難、チアノーゼはないか確認する。 [対応] 誤嚥事故には2種類の事故がある。食べ物が食道内に詰まり気管を圧迫して、 窒息状態になる事故と、気管に直接食べ物が侵入し窒息する事故である。対処 の仕方が異なる。 ・食道内に食べ物が詰まった場合 (入れ歯を外し)、口の中の食物を掻き出し、食道内の異物除去のために頭部を 肩より下にして、前屈姿勢をとらせ、タッピング(背中を叩く)や吸引を行う。 あるいは利用者を抱えこみ、上腹部を急激に押し、圧迫で吐かせる。また、こ れらの処置が効果を上げない時のために、できる限り迅速に救急車を手配する ことが必要である。 ・気管に直接食物が侵入した場合 気管に入ってしまった細かい食物を出すには「むせる」ことが一番である。鼻腔や口腔 を刺激してむせると小さな異物は出てくる。むせることができなければすぐに救急車を手 配。気管に直接食物が侵入すると、無事に排出できても誤嚥性肺炎になる可能性があるの で、必ず受診することが必要である。 気管内異物除去の方法とポイント ⅰ自分の咳で出す 自分の咳で異物を吐き出させる。これが一番有効な方法であるため、本人を 励まして咳を続けさせる。 ⅱ指でかき出す(指拭法) 口の開き方=親指で上の歯を、人差し指で下の歯を押さえて口を開けさせる (指交差法) 人差し指に布を巻き、下になった頬の内側に滑らせ、異物が指にひっかかった ら掻き出すようにして出す。 ⅲ背部打叩法 立位・座位の場合=片手の手の平で相手の胸を支え、もう一方の手の平(付 け根に近い部分)で相手の肩胛骨の間をすばやく4~5回力強く連続して叩く。 このとき必ず相手の頭を胸より下に向ける。 仰臥位の場合=膝をついて、相手を自分の方へ向けて側臥位にする。このとき自分の膝 を相手の胸骨に押し付けて固定する。掌で肩胛骨の間を4~5回力強く連続して叩く。 3.誤薬 [発見] できる限り確認の声をあげながら投薬するのが原則である。誤薬かなと気付 いたときは持参の薬の種類と数を照合する。特に坑てんかん剤、高血圧、糖尿 病、低血糖など既往症の薬を飲んでいる利用者には注意が必要である。 [対応] 薬の飲み忘れや飲み間違いが判明したときは、すぐに看護師に連絡をして指 示を仰ぐようにする。「このくらいの薬なら飲み忘れても大丈夫だろう」と安 易に判断しない。必要とあれば主治医に連絡を入れる。 4.転倒転落・捻挫・脱臼・骨折 [発見] フロアでは物音、叫び声などで気づきやすいが、トイレや廊下では発見が遅 れることがある。利用者をずっと見守っていることはできないが、利用者の動 きを頭の中でなぞっていなければならない。できる限り頻繁に様子を確認する ことが必要である。よしんば転倒していたら場面をよく観察しなければならな い。転倒してから移動している場合もありうる。 [対応] 転倒・転落事故でもっとも危険なのは頭部打撲である。腕や足の骨折など他の部位では、 多少処置が遅れても生命の危険に直結しないが、頭部打撲だけは利用者の状態を見誤って 受診が遅れると命取りになることがある。転倒・転落事故が起きたときは、すぐに名前を 呼びかけて意識の確認を行う。返答がなかったり、意識に不安があったりすると思われる 時は、すぐに救急車の手配を行う。また意識に問題がなくても明らかに頭部を 打撲している時、捻挫・脱臼・骨折が疑われる時には医師の診断を受ける。簡 単な打撲であれば湿布、消毒などをして様子を見るが、部位、程度の確認と転 倒した場所の観察をしっかり行っておく。また確認する際には、痛み・腫れ・ 熱感・吐き気・めまいの有無も具体的にしておくべきである。 [注意] 頭部~腰部の打撲、外傷の疑いがある場合 ・体位の管理。本人の希望する、もっとも楽な体位を取らせる。適した体位は 大事だが体位を強制してはならない。体位を変える場合は不安や痛みを与え ないようにして行う。 ・身体が楽になる程度に、衣服をゆるめる ・体温が逃げないように毛布などで保温する(血圧が下がれば体温が下がる) ・ショックに注意、バイタルサインをチェックする。顔面蒼白、冷や汗、無気 力の状態になると血圧降下の心配。意識異常、呼吸異常は心拍の乱れが考え られる。長い苦痛、乱暴な取り扱い、不適切な運搬、多量の出血はショック を倍加させる。 5.溺水 [発見] 入浴中、スリップだけでなく、お湯のゆれでの姿勢の崩れ、意識不全などでも思わぬ溺 水事故は起こる。リフトや浴槽台を使っていてもスリップの可能性はあるので利用者が浴 槽内にいる時には決して目を離してはいけない。発見した際、自分の持ち場をとっさに離 れることが多いので、必ず人を呼ぶ。顔が水に浸かってもすぐに対応すれば溺れることな く救出できる. [対応] 溺水事故では、いかに素早く水中から頭を上げさせて、呼吸を確保できるか が生死の境目となる。慌てることなく利用者の「頭を起こす」ことを最優先で 対応する。体重の重い人の場合、浴槽から引き上げるのに懸命で頭は水中に浮 き沈みということになりがち。引き上げ困難な場合、お風呂の栓を抜いてお湯 を抜くこともひとつの方法である。 誤嚥時の対応を参考に側臥位にして水を吐かせ、気道を確保する。救急車を呼 ぶ手筈をしながら、一方で心マッサージ、保温、呼びかけなどで意識回復を図 る。 6.持病による体調急変やてんかん発作 [発見] 持病による体調急変やてんかん発作を未然に防ぐことは困難だが、利用者の様子の変化 から敏感に察知し、迅速な対処によりリスクを少なくする(例えば転倒を免れる)ことは 可能である。そのためには、既往症や慢性疾患などの情報や過去の体調急変、発作誘発要 因の情報をあらかじめ入手しておき、どのような症状が起こるのか具体的に知っておくこ とが大切である。適切な情報と観察が素早い発見と迅速な対応に繋がる。 [対応] 持病による体調急変やてんかん発作はあわてずに観察し、得ている情報から どの段階か、どのパターンかを判断し対応する。緊急時対応の基本である、観 察、気道確保、安楽な姿勢、保温を行い、発熱がないか、失禁がないかなど確 かめる。ただ、体調急変や発作は同時に上記①~⑤までのトラブルを伴うこと が多いので①~⑤までの対応が必要とされる。観察した内容は場所や時間まで 具体的に看護師や救命士、医者に言えるようにしておく。 7.出血 ⅰ出血の種類 外出血→体表面に現れるもの内出血→皮下組織、臓器内に現れるもの 動脈血の出血→勢いよく飛び出す静脈血の出血→持続的にジワジワと ⅱ出血の危険度 全血液の「三分の一」以上出血で生命の危険全血液の「二分の一」以上出血 で死亡 種類 動脈>静脈(動脈の出血は短時間で大量出血のおそれあり。) ⅲ出血時の危険な症状 顔面蒼白、耳鳴り、めまい、吐き気、嘔吐、あくび、呼吸が速くなる、痙攣 ⅳ止血法 血液に直接触れないよう注意すること、ビニール袋などを使って行う 直接圧迫法→きれいな布を傷の上に強く押し当てて圧迫することによって止 血する方法(静脈の出血に効果的). 指圧法→出血部より心臓に近い血管を圧迫することにより出血量を減少させ 止血するで,動脈の出血に効果的。 止血帯法→布を巻いて血液循環をとめる方法。手足の切断など、生命の危険 が迫った場合の最終手段として用いられる ⅴ安静と保温 頭を低くする、出血部位を心臓より高く上げる、顔、頭の出血は動かさない 毛布などで全身を保温、精神的な安静、言動注意、傷を見せないなど 8.嘔吐 [発見] 吐物の様子((性状・匂い・量・潜血)はどうか観察する。また利用者の顔色を確認 し、どこかに痛みを感じているかどうかを聞く。 [対応] 緊張を和らげる。側臥位をとらせ、膝を深く曲げさせる。顔面の吐物の清拭、 場合によってはうがい。吐物の匂いによる再嘔吐、不快感の除去。当然、吐物 を処理することになるが、素手では行わず、吐物はビニール袋などに残してお く 9.熱傷 [発見] 状況の確認、やけどの部位の確認を行い、範囲・深度を確認する。 集団の中では「熱い」と叫んでいる人の他に熱傷を負っている人があるかもしれない ことを忘れてはならない。 [対応] まず、水、氷で冷やす。その部分の衣服を脱がせる、又ははさみなどで切る。(火傷 にあたらないようにする)。 充分冷やしたら、赤くなる程度の火傷であれば消毒し、軟膏をつける。この段階では アロエも大変有効である。火傷により、水泡ができたり、皮がむけたりした場合は、軟 膏など何もつけず、清潔なガーゼなど当てて、冷やしながら病院へ連れて行く。 10.送迎時の事故 送迎時には、車内での利用者の健康障害、車両事故、乗降車時の転倒や接触事故など様々 なリスクがある。安全運転管理に関しては完全運転管理規定に定めるが、ここでは予防の ための配慮、事故時の具体的な対応について示す。 【予防】 ・エンジンをかけたまま、利用者だけが車中にいるという瞬間を作らない。 ・アイドリングはできるだけストップ。 ・運転者一人で送迎する場合には、他の利用者を後部座席に残して車両を離れ てはいけない。必ず、利用者の御家族に迎えに出て貰うようにする。 ・人間は上体の方がはるかに重い、バランスを崩しやすいのは車に乗り込む時 より、前かがみで降りようとする時で目や手を離してはならない。 ・乗降の際、持つ所、足を下ろす所をはっきり教える。 ・当施設の駐車場では、いざという時のために乗降が済めば玄関前は空けてお く。 ・運転前のブレーキ、ドアの開閉などの点検や整備を毎回行う。 ・助手席に物を積み上げたり、サイドやバックミラーを死角にしてしまわない。 ・運転手は緊急の場合に連絡が取れるように携帯電話を必ず持ち込む。 ・運転手は踏切や信号のロスタイムを考えることはあっても、時間を気にして はならない。 【事故対応】 1.利用者が怪我をしたとき ①携帯にて施設に事故があった事を伝え、指示を仰ぐ。救急車が必要な場合は 119番に通報する。 ②一次救命処置が必要であれば行う。 ③副主任もしくは相談員が家族に連絡し、事故があった事実を報告する。 ④受診が必要であれば家族に勧め、職員が一人病院まで付き添う。 ⑤救急車を要請した場合に一人の利用者の送迎がまだの時は、待機職員が迎え に行き、変わりに送迎を行う。 ⑥待機職員が間に合わない場合は、救急隊員に連絡先(施設・通報者)を伝え「残 った利用者を施設からの迎えのスタッフに頼んだ後から病院に行く」事を伝え る。 ⑦救急隊員からの連絡を待つ。連絡があった後、副主任もしくは相談員が病院 へ行く。 ⑧第一発見者が事故報告書を記入する。 ⑨再発防止検討会を開催し、再発防止策を考える。 ⑩事故報告書を施設長に提出する際に事故の経過と再発防止策を報告する。 →防止策 ①利用者の家での状態を家族から聞き取る。 ②送迎車での利用者の様子を観察する。 2.車輌の事故があった場合 ①警察に通報する。また利用者が怪我をしている場合は、119番に通報する。 ②施設に事故があった事を報告し、指示を仰ぐ。 ③利用者の送迎が残っている場合は、施設に報告する際、待機職員に応援を頼 み、事故現場に来てもらい残りの送 迎を待機職員が行う。 ④事故を起こした職員は事故現場に残り警察の指示を受ける。 ⑤施設にもどったらまず施設長にその後の経過を報告する。 ⑥交通事故報告書を記入し、提出する。利用者が怪我をした場合は、事故報告 書も記入し提出する。 →防止策 ①歩行者、他の車の走行等の安全確認をする。 ②法定速度を守る。 3.利用中に転倒した場合 ①打撲部位や痛み、腫脹等の確認、及びバイタルチェック。 ②骨折の疑いがある場合は、部位の固定をし施設長に報告、救急依頼し家族に 連絡する。 ③救急車に職員が同乗する。かかりつけ医がなければ、救急隊に任せ、搬送先 が決まれば家族に連絡を取る。 ④病院で家族に経過の説明をし、交替する。 4.その他 ①利用中の血圧上昇やおう吐などの症状があり改善が見られなければ,主治医 などに連絡し相談する。また,家族にも連絡する。 作成日 平成 25 年 3 月 合同会社北海道 OT センター
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