計量経済学とは? –計量分析演習– 野村 友和 2011 年 10 月 1 日 計量経済学とは? 計量経済学は,統計データを用いて 1. 経済理論仮説の検証 2. 政策効果の検証(政策評価) 3. 予測 を行う学問。 分析に用いられる統計的手法は回帰分析による計量経済モデルの推定および仮説検定。 イメージ:経済学+統計学→計量経済学 1 消費者理論(効用最大化) : ある財の需要量 y は,その財の価格 p1,他の財の価格 p2,所得 inc により決まる。 y = f (p1, p2, inc) = β0 + β1p1 + β2p2 + β3inc (1) 経済理論(需要法則)が示唆するのは,β1 < 0。 →(他の財の価格と所得を一定として)財の価格が上がると,需要量は減少する。 計量経済学: • y, p1, p2, inc について記録されたデータを用いて,β0, · · · , β3 の値が具体的に いくらなのかを推定する。 • この財について,需要法則(β1 < 0)は成立しているかを統計的に検定する。 2 因果関係と相関関係 経済理論仮説の検証,政策効果の検証で重要なキーワードは因果関係 (causality)。 因果関係とは: x(原因)が変化したとき,それにともなって y (結果)がどのように変化するか。 [例] 人的資本理論:学校教育を受けることにより,労働者の賃金は上昇する。 需要法則 :たばこの価格(税金)を上げると,消費量は減少する。 いずれの経済理論(法則)とも,教育→賃金,価格→消費量という因果関係。 →どのようにすれば,統計データから因果関係を立証することができるか? ここで注意が必要なのは,相関関係 ̸= 因果関係ということ。 →変数間に相関関係があっても,それが因果関係によるものとは限らない。 3 例 教育水準と生産性 人的資本理論:学校教育や職場訓練が労働者の賃金(生産性)を向上させる。 → Becker (1964)∗や Mincer (1974)†。 25 データ:wage1.dta 0 5 average hourly earnings 10 15 20 教育水準の高い(修学年数が長い)労働者ほ ど,時間あたり賃金が高い。 →教育水準と賃金には正の相関関係がある。 0 5 10 years of education 15 20 この散布図により,人的資本理論(教育→賃 金の因果関係)が支持されるか? ∗ Becker, G. S. (1964) Human Capital, Columbia Univercity Press † Mincer, J. (1974) Schooling, Experience and Earnings, Columbia University Press 4 修学年数と賃金の正の相関関係は: (a) 修学年数の増加が生産性を上昇させるという因果関係。 (b) 修学年数以外の要因が,修学年数と賃金の両方に影響を与えている。 →見せかけの相関。 修学年数以外の要因:年齢,勤続年数,生来の能力… 見せかけの相関の例: 生来の能力が教育水準と賃金の両方に影響を与えていれば,教育水準が賃金に何の影 響も与えていなくても,教育水準と賃金に正の相関が観察される。 5 因果関係の立証 x が y に与える影響(因果関係)を知るためには: y に影響を与える x 以外の他のすべての要因を一定として(コントロールして), x だけが変化したときに y がどのように反応するかを見ればよい。 たとえば,教育水準が賃金に与える影響(因果関係)を立証するためには,教育水準以外の賃金に影 響を与える要因がすべて同じで,教育水準だけが異なる労働者間の賃金を比較すればよい。 他の要因をコントロールするとは: x 以外の要因が y に与えている影響を取り除く。 → x だけが変化したときに,y に与える影響を識別する。 他の要因をコントロールする方法: • 観察可能な要因 …重回帰分析 • 観察不可能な要因 …自然実験 6 重回帰分析 x 以外の要因をコントロールするには: y に影響を与えている x 以外の要因のうち,観察可能なもの(データに記録されて いる変数)は重回帰分析によってコントロールすることができる(その影響を取り 除くことができる)。 労働者の年齢や勤続年数などがデータに記録されていれば,それらの要因は重回帰分析によってコン トロールすることができる。 →年齢や勤続年数などの影響を取り除いて,年齢や勤続年数を一定として教育水準だけが変化したと きに,賃金がどのように変化するかを推定することができる。 単回帰:二変数の関係を最もよく表すような直線を 求める。 重回帰: (説明変数が 2 つの場合) 三変数の関係を最もよく表すような平面を 求める。 7 重回帰の解釈 d = β̂0 + β̂1educ 回帰直線:wage β̂1 は修学年数が 1 年増加したときにいくら賃金が上昇するかを表す。 d = β̂0 + β̂1educ + β̂2exper 回帰平面:wage β̂1 は経験年数を一定として修学年数が 1 年増加したときにいくら賃金が上昇する かを表す。 y に影響を与える変数が 3 つ以上あっても(4 次元以上の図を描くことはできないが) 考え方は同じ。 ŷ = β̂0 + β̂1x1 + β̂2x2 + β̂3x3 + · · · + β̂k xk (2) β̂1 は x2, x3, · · · , xk を一定として x1 が 1 単位変化したときに y がどれだけ変化す るか(限界効果)を表す。 8 重回帰と因果関係 重回帰分析により,教育水準が賃金に与える影響(因果関係)を明らかにすることが できるか? →いくつかの(あまり現実的ではない)条件が満たされている状況のもとでは Yes。 →現実には,そのような条件が満たされていることはあまり期待できない。 大きな問題は,賃金に影響を与える変数がすべて観察可能(データに記録されている) というわけではないということ。 教育水準の他に賃金に影響を与えている要因: 年齢,勤続年数などは通常観察可能 → 重回帰でコントロールすることが可能。 生来の能力などは観察不可能 → 重回帰ではコントロールできない。 9 自然実験―偶然を活かす― 教育水準が賃金に与える影響(因果関係)を計測するためには,観察不可能な要因も コントロールする必要がある。 →ある労働者の実際の賃金と,同じ労働者が異なる教育水準で働いていた場合の賃金 (counter factual:反実仮想)を比較する必要がある。 →もし実験が可能であれば容易。 社会科学では研究者が意図的に実験を行うことは難しい。 →自然実験を利用する。 →生来の能力(観察不可能な要因)をコントロールするためには,たとえば双子(一 卵性双生児)で教育水準だけが異なる兄弟の賃金を比較するなどの方法が考えられる。 10 練習問題 警官数と犯罪発生件数 200 データ:crime2.dta 50 crimes per 1000 people 100 150 人口 1000 人あたりの警官数が多いほど, 犯罪発生件数が多い。 →犯罪を減らすためには警官数を減らせば よいといえるか? 1 2 3 police per 1000 people 4 5 どのようにすれば,警官数→犯罪発生件数の因果関係を明らかにすることができるか? 11
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