東京電機大学 情報環境学部 出展部門:ICT/クロスメディア部門 ホール 5、小間番号 5602 世界初の没入型聴覚ディスプレイ装置「音響樽」を開発 ― 音場を「あるがまま」に収録し再現できる新世代3D オーディオの登場 ― Inter BEE 2015 2015 年 11 月 18 日~20 日 東京電機大学 伊勢史郎教授を中心に九州大学 尾本章教授、明治大学 上野佳奈子准教授、情報通信研究 機構(NICT)榎本成悟研究員の共同研究グループから成る JST CREST(注)の聴空間共有プロジェクト研究チ ームは、音の三次元波面を厳密に再現することにより3D 空間への没入感(まるでその空間にいるような感覚) が得られる没入型聴覚ディスプレイ装置の開発に世界で初めて成功しました。3D 空間への没入感が得られ る装置は、映像に関しては CAVE や CAVIN などの没入型ディスプレイ装置、HMD などの3D ディスプレイ技術が 知られていますが、音響に関してはこれまで実現されていません。新しい音場制御理論(境界音場制御の原理) に基づくことにより、世界で初めてピュアな3D 音場を実現しました。 従来のサラウンドシステムの技術では、オーディオエンジニアが収録した音響信号を操作することに より空間的な味付けをしてコンテンツを創作しますが、本技術は空間情報を含めた音場を 80 個のマイク ロホンにより収録し、音の三次元波面を「あるがまま」に再現するため、まさに「その場にいる」感覚が 得られる3D 音場再生システムを実現することができます。特に、話者の動きがわかるような繊細な音 場の再現は会話における相手の存在感を強め、耳元でささやく声や音源が頭の上を越えたり、近づいた りするような立体感は今回の技術によって初めて実現されます。 収録用マイクロホンシステム(写真1、フラーレンマイクロホン)は C80 フラーレン構造のフレームに 80 個の無指向性マイクロホンを取り付けたものです。また音場再生室(音響樽)は断面が九角形となる 樽形状の室内壁面に 96 個のフルレンジスピーカを取り付けたものです(写真2)。 境界音場制御の原理に従い、フラーレンマイクロホンにより計測したある空間領域を取り囲む境界面上の音 圧信号に、音響樽内の逆システムを畳み込むことにより再生信号を計算し、音響樽内のスピーカから出力する ことにより、その空間領域内の音の 3 次元波面を高い精度で再生します。本技術の実現のために 96ch 小型フ ルディジタルアンプを開発し、音響樽内床下に収納しました。それにより光ケーブル 2 本を音響樽に接続する だけで、96ch 音響信号による3D 音場再生が可能となります。 写真1: フラーレンマイクロホン 写真2: 没入型聴覚ディスプレイ 音響樽 応用分野 コンサートホール、教会の音環境をバーチャルに実現 音響樽内で楽器を演奏することが可能であり、コンサートホールや教会等の響きを再現することによ り、リアルな音場体験が可能となります。国内外の様々なコンサートホールでリハーサル練習をしたり、 ステージ上での自分の演奏を客席の位置で聴きながら確認したり、また複数の音響樽をインターネット で接続することにより、遠隔環境において演奏家がコンサートホールでアンサンブル演奏を行うのと同 じ感覚で演奏したり、実空間ではできない多様な演奏空間を創造することができます。 高級オーディオルームやハイレベル音楽スタジオをバーチャルに実現 好きな CD を超高級オーディオルームで聴くための音環境、22.2ch サラウンドシステムのような高精 細ステレオ収録のミキシング作業を行うためのハイレベルな音楽スタジオをバーチャルに実現すること ができます。大規模で高額な音響設備がなくても、良質な音響空間を自宅や会社に創ることが可能とな ります。 癒し空間、リアル音声サービス 自然環境から離れて生活する都市生活者が、自然の音に囲まれて過ごすことができる癒しの空間を提 供することができます。また、まさにそこにいるような感覚を相手に与えながら音声メッセージを送り 届けるサービスを実現することができます。 3D 音楽コンテンツの創造 3D オーディオ専用の音楽コンテンツを制作することにより、新しい音楽産業の流れを創り出す ことができます。 大学ベンチャー設立に向けて 上記はいずれも未開拓の応用分野ですが、3D 音場の創造は音響学の長い歴史の中で夢の技術で あり、その可能性は際限なく広がります。しかし、音は目に見えないため、その素晴らしさが伝わ りにくいこと、前例のない応用分野への投資が(特に日本国内では)難しいことなどから、3D 音 響装置の産業化は一向に進んでいません。そこで、我々の研究チームは大学ベンチャーの設立を視 野に入れて研究開発を進めています。 (注)本研究成果は 国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(略称 JST CREST)の 研究領域:共生社会に向けた人間調和型情報技術の構築 研究期間:2010.10ー2016.3 課題:音楽を用いた創造・交流活動を支援する聴空間共有システムの開発 研究代表者:伊勢史郎 チーム構成 システムグループ:東京電機大学 伊勢史郎教授 データベースグループ:九州大学 尾本章教授 心理評価グループ:明治大学 上野佳奈子准教授 物理評価グループ:情報通信研究機構(NICT)榎本成悟研究員 により開発したものです。
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