ここから始めるIT活用 わかりやすく楽しい音楽の授業を 実現する IT 活用 岸 本 抄 録 厚 子 ず指導しにくい。しかしプロジェクタで楽譜を投影し, IT活用により,どの子にとっても「見せればわかる 顔を上げて演奏させると,子どもたちは俄然生き生きと 音楽科」 「楽しみながら力のつく音楽科」を目指している。 表現する。ダンスしながら歌うことも容易になる。新曲 手立てとして,プロジェクタによる歌詞・楽譜・楽器等 を覚えるときも,投影した楽譜を見て歌う。両手で指揮 の拡大投影,読譜指導時の反復練習用スライドの投影を をとりながら歌わせるようにしているので,子どもたちは し,テンポよく進められるよう授業を組み立てている。 前を向き,のびのびと拍の流れにのって歌える。 (写真3) <キーワード> 音楽科でIT活用,見せればわかる,視線と意識が集中, 無駄なくテンポよく,反復練習,音楽に浸る 1 音楽科でITを使うねらい (1)空白の時間をなくし,集中力アップ! 使い始めたきっかけは,机がなく座席から黒板が離れ ている音楽室の環境で,子どもたちを1時間集中させた いと願ったことである。板書,準備等空白の時間がある と,たちまち意識が途切れる子どもたち。テンポよく授 業を進めるためには指示を明確にし,瞬時に情報を共有 することが必要である。そこにIT活用は非常に有効で あった。今何をすればいいのか,どこを歌えばいいのか, 即わかる授業になり,どの子も集中して活動できるよう になった。 写真2 写真3 手書きや拡大印刷,板書で楽譜を用意することもでき る。しかし時間とコストが甚だしくかかる。ましてや教 科書や楽譜の一部分だけ取り出して指導するためには, 印刷や手書き楽譜を複数用意したり,前時をふり返るた めにもう一度掲示し直したりと,なおさら時間を無駄に 使うことになる。それに比べ,何度も繰り返して使えた りその場で教科書を拡大投影したりできるIT活用の授 業では,時間的にも余裕が出て,その時間で真に個別指 導の必要な子どもに寄り添うこともできる。 写真4 写真1 板書のみ 写真5 IT活用時 視線と意識が集中 (2)顔を上げて生き生きと表現させたい! また子どもたちの表現力を高めるためにも有効であ 2 「見せればわかる」授業での実践 (1)楽譜を映す る。写真2のように,教科書を見ながら歌うと視線は下 教科書をそのまま実物投影機で映し,必要に応じて拡 を向き,両手がふさがっているので体でリズムをとるな 大機能を使えば,必要な部分だけ見せることができる。 どの表現もしにくい。歌声も響かない。また楽器を演奏 写真6は,3年生の「選んでふしを作ろう」の実践。 するときには譜面台を使っていたが,個々の手元が見え 単音をつなげて旋律を作るという学習である。教科書に KISHIMOTO Atsuko:富士市立元吉原小学校(静岡県富士市今井3-4-2) - 32 学習情報研究 2006.5 書き込ませてから個々の作った旋律をその場で共有し, 標準をあわせてしまい,読めない子は読めないまま。こ 鍵盤ハーモニカで演奏した。教科書がそのまま映るから の差を埋めるために,継続的な読譜指導を短時間で行っ 子どもにとってはわかりやすく,個々の思いもストレー ている。ここでもIT活用は有効である。その学年の必 トに伝わる。写真7は歌詞を投影し,クラスのレパート 修用語をフラッシュカード的に見せるほか,どの曲も階 リー曲を歌っている場面。長い楽曲を続けて演奏をする 名で歌わせている。慣れていない子のために,まず全部 ときには,スキャナで楽譜を読み取っておいてプレゼン 階名を書き入れた楽譜を見せ,少しずつ消していく。ま テーションソフト等でスライド化しておけば,クリック た,多くのパートがあって見方が難しい合奏の楽譜も, だけで楽譜を替えられてよりテンポよく進められる。 前もってパートがはっきりわかるように加工してスライ ド化しておくと,どの子にとってもわかりやすくなる。 このようにいろいろなパターンで作って保存しておき, 実態に応じてすぐ出せるようにしてある。(資料) 写真6 写真7 資料 (2)楽器を映す 写真8は鍵盤ハーモニカを映しての運指指導,写真9 はリコーダーを投影し,1オクターブ上の音を出す「サ (4)音楽体験に浸る ミング」という技法の親指の動かし方を提示している。 週2時間の貴重な音楽の時間,どの学年も皆で歌うこ 「見せればわかる」代表例である。その他,音楽室にあ と・奏でることに浸りきり,1時間たっぷりと音楽体験 る楽器は全部デジカメで撮影してスライドにして保存し をさせようと心がけている。そのためにいつでもどのク てあり,奏法やかたづけ方の指導時に見せて使っている。 ラスでも使えるように,曲や歌詞等の教材をディジタル 化し,すぐに提示できるようにしてある。 写真 10 は,歌詞を覚えたので曲にあった背景を投影 して今月の歌を歌っている場面.。指揮者が次々と替わり, クラスのレパートリー曲を歌い続ける。写真 11 は,月1 回の朝礼で今月の歌の歌詞を投影している。歌詞が次々 に出るので,全校で初めてあわせても自信を持って歌う 写真8 写真9 ことができる。全校で音楽に浸るひとときである。 現在使用しているプロジェクタの機種は,画像がとて も明るく美しく,部屋を暗くしなくても楽器や楽譜の細 かい部分まではっきり映り,大変便利である。 「見せれば わかる」というねらいを達成するための大きな役割を担 う機器の選択も,重要であると感じている。 写真10 写真11 (3)読譜能力の差を埋めるために どの教科もそうであるように,音楽にも基礎基本の技 3 おわりに 能がある。読譜力は,歌唱・楽器演奏等全ての音楽技能 今後はただ「効果がある」というのではなく,IT活 の礎となる力である。しかし,子どもたちの読譜能力に 用による音楽科で児童にどんな力がどれほどつくのかを はとても差がある。音楽教室等の楽器経験者が30%以 データとしてまとめ,さらにどの場面で使うとより効果 上を占めるクラスもあり,ともするとその子どもたちに 的なのかについても検証していきたい。 - 33 岸本厚子:わかりやすく楽しい音楽の授業を実現するIT活用
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