3年1組道徳指導案

3年1組道徳指導案
平成18年9月20日(水)第4校時
授業者 堀川 真理
1.主題名
「人間の強さ弱さ」 「信頼・友情」
2.資料名
「カーテンの向こう」
3.主題設定の理由
①ねらいとする価値
人間の弱さや醜さを見つめつつも、それを乗り越えて人を愛する美しさ・信頼・友情を大事にし、気高く生きよう
とする心情を育てる。
②生徒の実態
2年時より現担任が持ちあがったクラスであり、3年時に女子1人が転出し、現在、男子13名、女子18名、合計
31名のクラスである。
2年時にはいじめの兆候やからかい、女子のグループ化による人間関係の対立、学習習慣の乱れ(私語や学
習意欲減退)などが見え、そのたびにいわゆる“説教”をしてきた。
実際に問題がクラスの中で起こっていることから、直接その事例を使って道徳性を訴えてもきた。事例が現実
に起こったこと、当事者が自分たちであることなど、生徒にとっては刺激が強い部分もあるが、その分、身をもっ
て物事の善悪について考え気づいてきたと思われる。生徒がいろいろな問題にぶつかるたびに「人権」や「差
別」「尊重しあうこと」をクラスみんなで考えざるをえなかったと言える。
また、生徒の生活経験により近い内容の資料を用い、自身の気持ちや考え、行動のあり方を思考させてきた。
現在3年1組は、自分と他人を尊重し支え合う雰囲気ができつつあると感じられる。今後は生徒が実生活では
触れることが少ない道徳性の価値や状況を取り上げ、この雰囲気の上に更に「いかに生きていくか」「生きる喜
び」を考えさせ、自分をしっかりもった人生を歩めるよう支援していきたいと考える。
以上の観点で授業に挑戦してみたいと思っている。
③資料の観点
この資料は、イスラエルの薄暗い重症患者のベッドが並ぶ病院の一室という舞台設定である。看護士たちも
あまりやってこない、医師の回診もめったにない、見舞いの客は今まで一人もやってこない、ただ死を待つだけ
の何の変化もない極限状態である。
現在の日本ではそのような極限状態は想像し難く、生徒の生活からかけ離れていると思われるが、あえてそ
のような極限とでもいうべき八方塞がりの中から、改めて希望を見出す術を考えることに価値があると思われ
る。
この「カーテンの向こう」は、そのような人間の生き方を考え合うのに適した資料である。つまり、なぜヤコブが
そのような道をたどったのかを考えることによって、友情や信頼、人間として生きることの自覚を深めることに寄
与すると考えられる。
4.単元全体計画
道徳
学活
総合
第
1
次
道
徳
第
2
次
学
活
第
3
次
総
合
第
4
次
総
合
第
5
次
学
活
第
6
次
道
徳
ね ら い
内
容
資
料
集団の中で責任を果たすこと
の意義を理解させるとともに、
進んで自己の役割を果たそう
とする。
体育祭のリーダー選出におけ
る自己の役割と責任を考え
る。
東京オリンピックで金メダルに輝いた女子
バレーボールチームの陰の力として、
黙々と自己の責任を果たしたマネージャ
ーのひたむきな姿を読みとる。
体育祭の組織作りにあたり、リーダーとフ
ォロアーの意味、自分の役割と責任を考
えながら適任者を選出する。
体育祭の準備をとおしてリー
ダーのあり方、集団の中での
自己の責任の果たし方を考え
る。
体育祭という行事の中で自己
存在感を確かめ、3年生という
チームのリーダーとしての責
任と役割を果たす。
体育祭をふり返り、自己存在
感や自尊感情の高まりを確認
し、リーダーとしてあるべき姿
を考える。
気高く生きることとはどういう
ことかを考え、自身の生活に
照らし、友情や信頼について
考えを深める。
体育祭準備・練習を行う中で、チームの中
心やリーダーとしての3年生のあり方を考 体育祭準備活動
え、よりよいチーム作りのための自他の
言動や下級生との関わりを考える。
体育祭における応援活動や競技参加を通
して自分の役割や責任、存在感を十分に 体育祭行事
感じ、先輩としてのリーダーシップを発揮
する。
体育祭練習・準備、体育祭当日のできごと
をふり返り、そのときの気持ちや自分のと 体育祭ふり返り用紙
った言動を想起する。
イスラエルの誰もやってこない病院という
極限とでもいうべき八方塞がりの中から、
改めて希望を見出す術を考え、人間とし
て気高く生きる姿をとらえる。
新学社「私たちの新
しい生き方」3年
「明かりの下の燭
台」
体育祭のリーダー選
出用紙
立石喜男著「カーテ
ンの向こう」
5.本時の学習
① ねらい
・ 人間の弱さ・醜さを理解し、さらにそれを乗り越えて気高く生きることとはどういうことかを考えさせる。
・ 自身の生活に照らし、友情や信頼について考えを深める。
② ねらい達成の手立て
・ 再現構成法を使い、生徒を資料の世界に引き込ませる。
・ 構成的グループエンカウンターの手法を取り入れ、生徒の意見や考えを出しやすくする。
<再現構成法とは>
再現構成法とは、資料の語る世界を生徒たちがイメージを膨らませながら再現し、構成していけるように
援助する授業方法である。それは次のような点に特徴がある。
① 物語資料を活用するが、資料は全文を一度に示さない。場面ごとに区切りを付けて提示する。
② 提示の仕方は教師の語りと学習支援材によって行う。したがって文章は生徒たちに与えない。
③ 場面ごとに資料の状況を判断し、今後の資料の発展のしかたを推論したり、自分だったらその状
況下でどのような行為をするかを想像し、話し合う。
④ 場面ごとの資料提示の段階で基本発問や補助発問を盛り込み、資料読みが済んだ段階で、ずば
りと主人公の行動原理となっている倫理的な問題点や道徳的価値を中心発問として生徒に問う。
このような「語り聞かせ」は生徒たちに強い興味と豊かな想像力を喚起する。そしてそのことを話さずにい
られないという欲求もかりたてる。いわば、生徒の主体性を生かした授業展開の方法と言える。
※この方法は10年ほど前に小学校を中心に開発されたものであるが、中学生にも十分通用する展開方法
だと手応えを感じている。
③ 展開
展開の大要(再現構成法)
*ウオーミングアップ
2人組になって肩もみをす
導 る。
入
5 *閉ざされた空間の中に押
分 しやられた人(私)は、どんな
ことを考えるか。
1. 情景図を見て話し合う。
・ヤコブ・ニコル・「私」の
人物像、病室の様子をつ
かむ。
「この病室を見てどんな感じ
がしますか。」
学習支援材
・情景図
・人物は絵で添付
・暗いイメージ
・じとじとした空気
・生の躍動感は感じられない
・ヤコブの場所はいい場所
「今まで入院したことのある人
はいますか。どんな気分でし
たか。」
展 2. ストーリーを読む
開 ①「誰もやってこない。何の
楽しみもない」なかの生活
3
をイメージする。(希望の
5
ある生活との対比)
分
・はじめはお見舞いに来てくれる人も多く
てよかったけど、だんだん退屈になってく
る。
カード1
何の楽しみもない
(青の紙を使いブルーな気
分を暗示)
「この部屋のどのベッドの場
所に行きたいですか。」
*病室にもたらされるヤコブ
からの情報の波紋
②ヤコブはどんな話をする
か、他の人たちはその話
をどんな様子で聞くか、ど
う応答するかを話し合う。
(先生がヤコブ役を取り、
役割演技)
「中庭の向こうを誰か歩いて
いるよ。」
「ちっちゃい女の子がこっちを
向いて手を振っているよ。」
予想される生徒の反応
・恥ずかしがりながらも楽しく行う。
・ぼんやりと死を待つだけなんて耐えられ
ないという感情もなくしてしまうかもしれ
ない。
・私たちの生活って、楽しいことを想像し
たり、心弾むことがあるから、それに支
えに生きていられる。
・窓際のベッドが1番いい。
カード2
期待と夢
(明るい色)
・かわいい子なんだろうなあ。
(ヤコブの話からふくらむ話と夢)
・おれも外を見たいなあ。
(ヤコブの役がやりたくなる)
・その場所を譲ってくれ。
(ヤコブが憎らしくなる)
・誰だろう?何をしているのかな?
・可愛いだろうなあ。手を振り返してやりた
いな。
③ヤコブに対する「私」の気
持ちを確認する。
板書
「うらやましい」
「憎らしくなってきた」
④なぜヤコブはガンとしてそ
の場を譲らないのかを考
える。
隣同士で話し合わせて発表
させる。
・自分だけがこの楽しみを独占したい。
・やっとこの場所を手に入れたのだから誰
にも譲らない。
「どうしてヤコブはベッドを代
わらないのでしょうか。」
⑤ニコルの死に面して「私」は
ヤコブをどう思ったか考え
る。
「『私』はヤコブをどう思ったで
しょうか。」
隣同士で話し合わせて発表
させる。
⑥「私」の気持ちを考える。
カード3
・ヤコブはひどいヤツ
・最期のお願いも聞かないなんて。
・思いやりのかけらもない。
・憎らしい。
私だって…
そのためには…
・外を見たい。
・ヤコブが死ねばいい。
(…の部分を推測させる)
⑦ヤコブの死を願う「私」をど
う思うか考える。
「こんな風にヤコブの死を願う
『私』をどう思いますか。」
*ヤコブの死に接した「私」の
心の動きを捉える。
⑧ニンマリ笑いがこみ上げて
くる『私』の気持ちを考え
る。
板書
・ヤコブの病気が重くなれ
ば…。
・心の底ではニコリともしな
い。
・ひどいヤツ
・ひどいこととわかっていても、気持ちは
わかる。
カード4
悲しんだ
笑っている自分
外の様子がひとり
占め
ひとりだけで楽しむ
ニンマリ笑いが
⑨ヤコブの幽霊になって恨み
を言う。
「ヤコブの幽霊になって一言
言ってください。」
・なんという罰当たりな。
・地獄へ落ちるぞ。
・人間として最低だ。
※事実を知ってしまった私
・カーテンを掲示し、希望者
に外をのぞかせる。
・振り向く生徒の表情に着
目させる。
⑩「私」はこの後どうするか考
える
隣同士で話し合わせる。
「『私』はこの後どうすると思い
ますか。」
⑪ヤコブはどうしてこんなこ
とをしたのか、どうしてこん
なことができるのか考え
る。
「ヤコブはどうしてこんなこと
をしたのでしょう。また、どうし
てこんなことができるのでしょ
う。」
・驚く。
・絶句する。
・本当のことを言う。
・ヤコブのように嘘をつきとおす。
隣同士で話し合わせる。
・仲間を愛しているから
・人間として気高く生きたいから
・生きている証拠
⑫ふりかえり用紙に感想を記
入する。
終 ⑬自分の生活の中で体験した
末 り見たり聞いたりしたこと
1
で、ヤコブのような気持ち
0
になったことはないか考え
分 る。
「自分の生活の中で体験した
り見たり聞いたりしたことで、
ヤコブのような気持ちになっ
たことはありませんか。」
・体育祭のとき、後輩の前でがんばったこ
と
・友達を思って自分の気持ちを抑えたこと
⑭教師のまとめの話を聞く。
6.評価
・人間の弱さ・醜さに共感しながらも、気高く生きることを目指す気持ちをもてたか。
・体育祭等の行事や自身の生活を振り返り、友情・信頼について気づきがあったか。
7.学習支援材とその扱い
① 情景図
下記の絵を拡大コピーで拡大し、部屋の様子を暗く冷たい感じを出すために、周りの壁は灰色で床は薄茶で塗る。ま
た、ベッドの布団も汚れた感じで塗っておく。
※情景図を筒状に丸めておき、資料提示の際、少しずつ見せていき、生徒の興味関心をひきつける。
② 登場人物の切り絵
ヤコブと「わたし」の顔の切り絵を用意する。「わたし」の切り絵は裏返すと“にんまり笑い”を浮かべている。
③ フラッシュカード
「何の楽しみもない」「期待と夢」など、キーワードをその感情に合わせた色で作っておく。スプレーのりなどを使い重
ねて貼っておき、どんどんはがしながら気分が変わっていく様子を再現する。
④ カーテン
めくると窓の外にレンガの壁が見えるカーテンを用意し、希望生徒にのぞかせる。その際、他の生徒にカーテンの向
こうが見えないように工夫する。
レンガの壁を外すと、「ヤコブはどうしてこんなことをしたのか、こんなことができるのか。」という中心発問が書いて
ある。
8.成果と課題
<成果>
本授業は本時のねらいを達成するために「再現構成法」という手法をつかった。授業中の生徒の発言・表情・
雰囲気、また、授業後の振り返り用紙の評価・感想から、ねらいは達成できたといえる。
「再現構成法」は有効な
手立てであると検証できた。
【授業参観者の感想】
・
・
・
・
・
・
情景が分かる絵(拡大版)やカードなどを使い、視覚に訴えており、効果的だった。
カーテンを実際に覗く方法を取ることによって、覗いた生徒も覗かなかった生徒もより引き付けられて
いた。
再現構成法は、わかりやすく、振り返りやすい方法であると感じる。授業対象者によっても、今回の進
め方だけではなく、やり方が変わってくると思う。
ねらいよりも、展開のどんでん返しや生徒の心が動くための手法が再現構成法だろう。
再現構成法によって気持ちが魅かれやすい。紙上ではなくよりリアルに考えることができ、わかりやす
い。生徒にとってとても有効!
ひきつけ方が上手だったので、楽しく、内容がわかっていても入り込めた。再現構成法は、いろいろ創
造性を働かせることができ、よいと思った。
【生徒の感想(抜粋)
】
ふり返り用紙 集計
本日の授業はどうでしたか。
5 とてもそうだ
4 ややそうだ
3 どちらともいえない
2 ややそうではない
1 まったくそうではない
ア 今日の授業は楽しかった
5(20人)65% 4(4人)13%
3(3人)10% 2(1人)6%
1(1人)3% 無回答(2人)6%
イ 今日の授業はためになった
5(25人)81% 4(5人)16%
3(0人) 2(0人) 1(0人)
無回答(1人)3%
ウ 私は積極的にできた
5(18人)58% 4(7人)23%
3(5人)16% 2(0人) 1(0人)
無回答(1人)3%
エ 私は仲間の話を真剣に聞いた
5(27人)87% 4(3人)10%
3(0人) 2(0人) 1(0人)
無回答(1人)3%
オ 安心して授業ができた
5(22人)71% 4(2人)6%
3(5人)16% 2(0人) 1(0人)
無回答(2人)6%
感想
・自分もいつ死ぬか分からないくらい辛いのに、周りの人のためにそんなことが出来るってすごい。ヤコブさん
のおかげで生きたいと思った人もいるはずだ。誰かの生きる力になるって、かなりかなり、スバラシイ。私は
今、誰かの力になれているかわからないけど、いつか本当になりたい。それから、この人がいるから自分は生
きているって人も見つけたい。そういう人がいるだけで大っきな心の支えになるのです。生きてて良かったと
思えるのです。
・私がもしヤコブの立場だったらと考えても、ヤコブと同じことができたかのかはわからないと思います。でも
ヤコブは嘘をついてまでもみんなに期待・夢を持ってほしいと思い、最期まで本当のことを言わなかった。ヤ
コブは人としてとても尊敬できる人です。でも私は半分悲しい気持ちになりました。そんなの自分が不幸なだ
けです。でもこういう気持ちは人として必要な気持ちだと今日の授業で感じました。
・日の話はすごく辛い話でした。ヤコブはみんなに元気をあげるためにウソとか言ってたと思う。もしヤコブが
ウソをついていなかったら、みんなは全く元気がなかったかもしれない。もし自分が窓側のベッドだったらみ
んなに元気になってほしいから、
同じことをするかもしれない。
今日の授業はすごく自分のためになりました。
・ヤコブみたいに他の人に期待や夢を持たせるためにウソをつき続ける優しい心をみんな持ったほうがいいと思
う。常に現実を知っていたヤコブはとても辛かったと思うけど、みんなのためにがんばったと思う。
・ 私は最初、誰にも場所を譲ってあげないヤコブがむかついていました。
「わたし」の気持ちもよくわかりまし
た。でも私はカーテンの外を見たとき、とても驚きました。ヤコブはみんなのためにずっとウソをついてきた
と思うと「死ねばいい」とか思ったのがもうしわけなく思ってきました。今思うとヤコブはとても思いやりの
ある人だったんだと思いました。もし私が「わたし」になって窓側のところに行ったら、辛いけどみんなを元
気に明るくするために、ヤコブみたいにウソをつき続けてウソの風景を伝えると思います。
<課題>
再現構成法は効果的であったといえるが、学習支援材等、事前の準備に時間を要する。また、熟練しないと有
効には働かない手法でもある。更なる研修が必要である。
【授業参観者の感想】
・
・
再現構成法はやり慣れないと、時間配分等うまくできない。
生徒をひきつけるために再現構成法は有効かもしれないが、それを有効にするためには教師の話術や雰
囲気作りが大切だと思う。