論文(paper,PDF)

航海教育における電子教材の活用について
(富山商船高等専門学校)河合雅司
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航海算法講義資料1)のトップページを図1に示す。
緒言
情報伝達手段としてのインターネットを誰もが
利用出来る環境が急速に整備されつつある今日、
教育の分野においてもインターネットを活用して
より質の高い教育環境を提供することが益々重要
になってきているように思われる。また、従来は
航海教育に関する講義資料を紙に印刷して、学生
に配布していたが、これらの整理も量が増えてく
ると大変であり、必ずしもきちんと整理されてい
ないのが現状である。そこで、現在講義資料の
Webページ化を進めることによりいつでもどこから
でも講義資料の閲覧ができる環境を整備してい
る。この一環として、航海算法や天測計算等の授
業において、これらの算法の説明及び問題を解く
ための手順等に関する情報を容易に得ることがで
き、かつ問題を入力するとその途中計算結果も含
めて解答を全て表示する航法計算自習教材、及び
自習中に分からない点等がでてきた場合に利用で
きる24時間いつでも受付可能な質問コーナーを作
成し、インターネット上で学生に提供している。
これらの電子教材は、ハイパーテキスト、
JavaScript、CGI(Common Gateway Interface)等を
用いて一つのぺージに多くの情報を埋め込み、必
要な情報を瞬時に取り出せるようにすることで教
育効率の向上を実現するための電子ファイルであ
る。そして、ブラウザ(インターネットエクスプ
ローラ,Firefox等)さえインストールされていれ
ば、リナックス等どんなOSの計算機からでも利
用できる利点を持っている。ここでは、航海教育
に関するこれらの電子教材について紹介する。
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電子教材
航海算法や天文航法等の航海教育に関する授業
で使用される電子教材は、電子講義資料、航法計
算自習教材、質問コーナーの3つである。ここで
は、これらについて簡単に紹介する。
2.1 電子講義資料
これは、従来紙に印刷して授業中に配布してい
たものを、HTMLファイルにしてインターネット上
で閲覧できるようにしたものである。例として、
2.2 航法計算自習教材
これは、航海算法や天文航法等の航法計算につ
いて学ぶための教材であり 、JavaScriptやCGIを用
いて、計算原理・計算手順・計算例・問題等を表
示すると共に、計算データを入力することにより、
途中の計算結果や作図等を含む全ての解答を瞬時
に表示させることのできるHTMLファイルである。
航法計算の中でも、天測計算と大圏航海算法に
ついては、船舶職員になるために取得しなければ
ならない海技従事者国家試験[二級海技士(航海)]
の筆記試験に頻繁に出題され、非常に重要な航法
計算である。天測計算は、17∼19世紀に開発され
た天体を観測して位置を求めるための計算であ
る。1964年に衛星航法システムが登場し、現在で
は衛星航法システムを用いて、測位が行われるた
めに、天測計算はほとんど行われていないが、測
位原理を学ぶための例題としては非常に適してお
り、現在でも商船教育機関で教えられており、又
海技従事者国家試験に出題されている。これらの
航法計算は、衛星航法等における測位計算と比較
すれば、計算量が少なく電卓で計算可能である。
しかし、かなりの計算を行う必要があり、途中で
計算を間違えた場合にそれをチェックするのは大
変である。そこで、データを入力するだけで途中
計算の結果や作図を含む全ての解答が表示される
教材があると勉強をする際に非常に便利である。
これらの教材を図2∼3に示す。
大圏航海算法電子教材で使用されている針路の
計算式は、筆者が考案した計算式である。2)天測計
算自習教材では、作図表示を行っている。作図に
ついては、小山智史氏が公開しているJavaScript
グラフィックライブラリ3)を改良したものを用いて
行っている。主な改良点は、次のとおりである。
(1) 任意サイズの文字が表示できるように改良
(2) 直線が正常に表示されない場合がある点を改
良
(3) 任意の方向へ矢印を表示できるように改良
本電子教材で使用されているグラフィックライ
ブラリの使用方法の説明及びダウンロードについ
ては、航海科学研究室のウェブページ4)で紹介され
ている。
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図1
電子講義資料(航海算法)の例
図2大圏航海算法自習教材
天測計算を行うためには、天体位置に関する情
報(E値と赤緯)が必要である。一般にこれらの情報
は、海上保安庁水路部が毎年発行する天測暦から
得られるが、天測暦は一冊約4000円であり、学生
がこれを購入することは困難である。そこで、天
測暦と同等の電子航海暦を開発し、公開している。
天体の位置計算は、Fortranプログラムによりサー
バ上で行われる 。電子航海暦はCGIを利用してブラ
ウザから入力されたデータをFortranプログラムに
渡し、その計算結果をブラウザ上で表示するよう
にしたものである。この電子航海暦5)と天測計算自
習教材6)を利用することにより 、天測計算の勉強を
することが可能である。
大圏航海算法、天測計算等の自習教材は、基本
的にブラウザ上で動作しているので、ファイルを
ダウンロードしてそれをブラウザで開くことによ
り、インターネットに接続しなくても利用するこ
とができる。これに対して、CGIを利用する電子航
海暦は基本的にサーバ上で動いており、各自のパ
ソコン上で動作させることは困難である。これを
各自のWindowsパソコン上で動作させるには、次の
作業が必要となる。
(1)An HTTPD及びActivePerlをインストールして各
自のパソコンをサーバ化し、CGIを利用できる
ようにする。
(2)電子教材のHTMLファイル、CGI、Fortranプログ
ラム、スクリプトファイル(バッチファイル )
をダウンロードする。
(3)ダウンロードしたファイルを所定のディレクト
リにコピーする。
ここで、電子航海暦をダウンロードして、パソ
コンにインストールする方法については、航海科
学研究室のウェブページ7)で紹介されている。
2.3 質問コーナー
これは、フリーソフトWwwLoungeVer2.168)を利用
して学生からの質問を受付け、その質問に対する
解答を表示するためのCGIプログラムである。航海
算法や天文航法等の電子講義資料のトップページ
からリンクが張られている。自宅等で授業の予習
・復習又は試験勉強等をしていて、分からない事
が生じた場合、それを解決するために利用するウ
ェブページである。過去の質問と解答を調べても
解決しない場合は、新規に質問することができる。
質問コーナーの画面を図7∼8に示す。
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3
考察
図3
図4
天測計算自習教材(説明表示部)
図5
天測計算自習教材(作図表示部)
図6
電子航海暦(2005年度版)
天測計算自習教材(データ入力部)
天測計算の電子教材は、作成したばかりで授業等
でまだあまり使用していないが、大圏航海算法の
電子教材については、2003年後期から本校商船学
科航海コース3年の航海測位論で使用している。
アンケート調査により学生から本電子教材に対す
る意見を聞いたところ、21名中18名の学生から
(1)とても便利な教材だと思う。今後利用してい
きたい。
(2)計算手順が分かり、計算間違いをしたところ
が容易に確認できて便利である。
(3)計算間違いをしたところを自動的に指摘する
ように改良してほしい。
等の肯定的意見を得ることができた。しかし、
否定的意見の学生も3名おり、それは次のような
ものであった。
(1)この授業のためだけにパソコン室へいくのは大
変である。
(2)自宅でインターネットにアクセスできない学
生は不利になる 。自分はパソコンを持っていな
いのでパソコンを使わない授業の方がよい。
以上のアンケート結果から、否定的意見もある
が大多数の学生から好評を得ていることが分か
る。また航海測位論の成績については、本電子教
材を使用していなかった2002年度商船学科航海コ
ース3年後期の航海測位論の成績と比較して、
2003年度の成績は平均点が約8点高くなった。
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図7
ここでは、航法計算に関する教育環境を充実さ
せるための一つの手段として、電子講義資料・航
法計算自習教材及び質問コーナーで構成される電
子教材について紹介した。教材を利用するのに、
インターネットエクスプローラやFirefox等のブラ
ウザ以外、特別なソフトウェアを必要とせず、更
に計算機のOSにも依存しない点が本電子教材の
大きな特徴である。
情報技術(Information Technology)を活用する
ことにより、教科書と黒板とノートを中心とした
従来の教育よりもより効率的で質の高い教育サー
ビスを提供することが可能になる。そして、学生
は勉強する意志さえあれば、いつでもどこでも勉
強し学力を身につけることができるのである。
国家試験に対応した教育のように何か決まった
ことを教える分野においては、情報技術の活用に
より一層の省力化が可能であり、卒業研究やロボ
ットコンテスト・プログラムコンテストの指導に
代表される創造性教育の分野に人的資源を振り分
けることが、今後益々重要になってくるものと思
われる。又、学習達成度の評価についても電子化
が可能である。学力試験をウェブ上で行い、採点
及び評価を自動化するシステムの開発について
は、今後の課題である。
質問コーナー(質問タイトル一覧表示)
参考文献
図8
質問コーナー(質問・解答表示)
これは、学生が本電子教材を利用してよく勉強し
た結果であると考えることができる。ただし、本
電子教材は、学生が勉強をする環境を充実させる
ための一手段であり、本教材の導入により直ちに
学生の成績が向上するものではないことは、認識
しておく必要がある。
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結言
1)河合雅司,航海算法,http://www.toyama-cmt.
ac.jp/‾mkawai/lecture/sailing/sailing.html
2)河合雅司,大圏針路の計算式とその計算精度につ
いて,日本航海学会誌 NAVIGATION,第137号,
pp.1-5,1998
3)小山智史,グラフィック・ライブラリ,http://
siva.cc.hirosaki-u.ac.jp/usr/koyama/glib/
4)河合雅司,JavaScript Graphic Library(glibk)
の使用方法,http://www.toyama-cmt.ac.jp/
‾mkawai/htmlsample/graphic/graphic.html
5)河合雅司,電子航海暦(2005年度版),http://
www.toyama-cmt.ac.jp/NE/cgi-prog/mkawai/
nalmanac/2005/nalmanac.html
6)河合雅司,天測計算解答表示システム,http://
www.toyama-cmt.ac.jp/‾mkawai/lecture/tensoku
/example/answer/index2.html
7)河合雅司,電子航海暦のダウンロード,http://
www.toyama-cmt.ac.jp/‾mkawai/almanac/nadown/
nadownweb.html
8)杜甫々,とほほのWWW入門,http://tohoho.
wakusei.ne.jp/www.htm
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