排卵誘発剤とは? 排卵誘発剤

◆排卵誘発剤とは?
錠と服用する量も多く、また 7 ∼ 10 日間服用しなければなら
不妊治療は多くの場合、タイミング法からスタートします。
ないので、患者の心理的負担はクロミッドより大きいといえ
男性にも女性にも不妊に至る原因が特に見あたらなければ、
ます。
最初は薬を使用せず、経膣超音波法による排卵予測と、夫婦生
活のタイミング指導を行います。それから、少しでも妊娠率を
◆排卵誘発剤(注射薬)
向上させるために使用されるのが排卵誘発剤です。患者さん
注射薬の排卵誘発剤としては、HMG 製剤(ヒュメゴン、パー
の中には、排卵誘発剤と聞くと構えてしまう方も少なくあり
ゴナル、フェルティノーム P など)が頻用されます。この薬は
ません。これはひとはだれもより自然な妊娠を望むからでしょ
FSH と同じ作用を持ち、卵巣に直接働いて卵胞の発育を促し
う。しかし、排卵誘発剤にはほかに、黄体機能を高め、基礎体
ます。経口薬よりは作用が強く、使用目的によって用いる量も
温を安定させるなどの作用があります。
「奇形を持った子供が
違います。つまり、無排卵の患者さんに排卵を促す目的で用い
産まれてくることはありませんか?」という質問もよく受け
る場合と、体外受精のために 1 度にたくさんの卵を得るため
ます。しかし、これは排卵誘発剤を正しく理解していないこと
に用いる場合とでは使用量は全く違います。この薬は卵巣を
による誤解です。排卵誘発剤は卵巣を刺激しますが、卵子には
直接刺激しますので、一度に複数の排卵が起こることも多く、
作用しません。したがって、排卵誘発剤よる奇形の発生という
したがって、双子、三つ子などが生まれる確率は 20%前後あ
ことはあり得ませんし、報告もありません。排卵誘発剤は経口
ります。この薬は強い薬なので、用いる量や患者さんの病状や
薬と注射薬の 2 つに分けて考える事ができます。
薬に対する感受性によって卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とい
う副作用がでることがあります。
◆排卵誘発剤(経口薬)
経口の排卵誘発剤で最もよく使用されるのがクロミッド(一
◆卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
般名:クロミフェン)という薬です。この薬は無排卵や無月経
卵巣過剰刺激症候群は、排卵誘発剤を使用したとき、卵巣が
の患者さんのみならず、黄体機能不全、さらに人工受精におけ
強い刺激を受けて大きく腫れることをいいます。とくに HMG
る妊娠率を向上をさせるためなど使用範囲が広く、不妊治療
注射の後に HCG を注射したそのあとに生じやすいといわれて
では、排卵誘発剤といえばクロミッドの感さえあります。この
います。ほとんどは経過を見るだけで自然に消えますが、時に
薬は脳に作用して、卵巣を刺激するホルモン(FSH)の分泌を
お腹に水が溜まって脱水状態になり、入院治療が必要になる
促す事により、間接的に卵胞の発育、ひいては排卵を促します。
場合があります。最悪の場合には、血液が濃縮されることによ
しかし、この薬には「子宮内膜が薄くなる」
、
「経管粘液が減少
り、脳梗塞に至る事もあります。卵巣過剰刺激症候群は、若くて、
する」などの問題点があり、クロミッドの使用期間が長くなる
卵巣の反応性が良い方や、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方
につれて、こうした副作用の発生頻度が高くなります。また、
に発症しやすい事が知られています。最近、体外受精をおこな
この薬を用いて妊娠した場合には、通常の妊娠より流産率が
うケースが増えていますが、この場合 HMG の使用量も多いの
少し高くなります。この薬は生理が始まって 5 日目から、最初
で、卵巣過剰刺激症候群の発生も増加傾向にあります。体外受
は 1 日 1 錠を 5 日間服用するというのが基本です。しかし、副
精をおこなう患者さんは、治療のスケジュールについて、医師
作用を軽減するために、生理初日からや、3 日目から服用を指
から詳しく説明してもらってください。こうした薬を使用す
示するドクターもいます。この薬によって双子が生まれる確
る場合は、まず患者さん自身がこの注射を受けているという
率は約 5%といわれています。また、あとで述べる卵巣過剰刺
事実を知っておくこと、そしておなかがはる(腹部膨満感)、
激症候群という副作用が出る事はほとんどありません。クロミッ
下腹部痛、吐き気、嘔吐などの症状が出た場合や、急に体重が
ド服用中に、頭痛や吐き気がまれにおこることがあります。
増えてきた時には、速やかに医師に連絡し、対処してもらうこ
セキソビド(一般名:シクロフェニル)という薬もクロミッ
とが大切です。また、体外受精をクリニックでおこなう患者さ
ドと同様排卵誘発作用をもつ薬ですが、経管粘液減少や子宮
んは、そのクリニックと病院との連携についても、事前に説明
内膜が薄くなるなどの問題が小さいかわりに、排卵誘発作用
を受けておきましょう。
もクロミッドほど強くありません。ただ、この薬は 1 日 4 ∼ 6
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