Osakafu rigaku ry-oh-oshikai senshu burokku

第 10 回泉州ブロック新人症例発表
会
Osaka Physiotherapy Association Senshu Block 10th Congress
泉州ブロック新人症例発表会
Vol.10
10th
 日時:平成 27 年 1 月 25 日(日)
 会場:エブノ泉の森ホール(小ホール)
 主催:公益社団法人 大阪府理学療法士会 泉州ブロック
1
目
次
ごあいさつ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
会場見取り図、ご案内・・・・・・・・・・・・・・・・・3
演題発表要項、プログラム・・・・・・・・・・・・・・・4
一般演題
一覧
・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
一般演題(第 1 セクション)・・・・・・・・
・・・・・・8
一般演題(第2セクション)・・・・・・・・・・・・・・10
一般演題(第3セクション)・・・・・・・・・・・・・・13
一般演題(第4セクション)・・・・・・・・・・・・・・15
大会運営組織・委員一覧、編集後記・・・・・ ・・・・・19
2
公益社団法人大阪府理学療法士会泉州ブロック
第 10 回泉州ブロック新人症例発表会を開催するにあたって
公益社団法人大阪府理学療法士会泉州ブロック
第 10 回泉州ブロック新人症例発表会を、
平成 27 年 1 月 25 日(日)エブノ泉の森ホール(小ホール)で開催いたします。
泉州ブロックは、大阪府理学療法士会のブロック活動のさきがけとして活動を開始し、地
域における医療・保健・福祉の連携を深めてまいりました。特にこの新人症例発表会では、
第1回から(一社)大阪府作業療法士会泉州ブロック、第2回から(一社)大阪府言語聴覚
士会泉州ブロックのご協力を得て、理学療法のみでなく、作業療法および言語聴覚療法に関
する演題も発表していただくことができ、地域での連携も確かなものになっております。あ
らためてお礼申し上げます。第1回から回を重ねた、この新人症例発表会で、泉州ブロック
におけるリハビリテーションのレベルも飛躍的に向上し、地域の患者様によりよいサービス
を提供できるようになってきたと自負しております。
今回の大会でも、作業療法士会と言語聴覚士会のセッションを合わせて 20 演題と、多数
の発表がおこなわれます。
本大会が皆様にとりまして、実りのあるものになりますよう心から願っております。
第 10 回泉州ブロック新人症例発表会
大会長
鈴木俊明
3
会場案内・見取り図
小ホール
正面玄関
受付
喫煙所
第 10 回泉州ブロック新人症例発表会のご案内
1、参加費:無料
2、参加受付について
①受付は当日 9 時 15 分より行います。
②ネームカードに所属・氏名をご記入の上、ご着用をお願いします。ご着用されていない方のご入場はお
断りします。
3、留意事項
①会場内は飲食禁止です。また、当日弁当の準備はしておりません。近隣の飲食店をご利用下さい。
②喫煙は所定の場所でお願いします。
③会場内での携帯電話のご使用はご遠慮下さい。
④アナウンスによる呼び出しは原則として行いません。
⑤ご来場は公共交通機関をご利用下さい。
4
演題発表要項
Ⅰ 演者へのお願い



発表 7 分・質疑応答 4 分の時間を設定しています。発表および質疑応答に関しては
座長の指示に従ってください。
演者や所属などの変更がある場合には、当会場の演者受付に申し出てください。
原則としてアナウンスによる呼び出しは行いませんので、時間厳守をお願いします。
不測の事態で所定の時間に間に合わない場合は、大会本部または当会場の受付
までご連絡下さい。
Ⅱ 座長へのお願い
 開始時刻の 10 分前までに次座長席にお越し下さい。
 演題発表は 7 分の口頭説明の時間を設定しています。質疑応答時間の設定および
進行については座長に一任します。座長は討議が円滑に進むようにご配慮下さい。
 不測の事態にて座長の職務が遂行不可能であると判断された場合は、速やかに大
会本部または当会場の受付までご連絡下さい。
Ⅲ 質疑応答について
座長の指示に従って、活発なご討議をお願いします。なお、質問の際には必ず所属と氏
名を告げ、簡潔明瞭にして下さい。
第 10 回泉州ブロック新人症例発表会 タイムスケジュール
9:15
受付開始
9:55
開会式・大会長挨拶
10:00
第 1 セッション 5 演題 (運動器系Ⅰ)
11:00
休憩
11:10
第 2 セッション 5 演題 (神経系Ⅰ)
12:10
昼食・休憩
13:10
第 3 セッション 5 演題 (運動器系Ⅱ・OT・ST 推薦演題)
14:10
休憩
14:20
第 4 セッション 5 演題 (運動器系Ⅲ)
15:20
閉会式・準備委員長挨拶
15:30
終了
5
一般演題
一覧
一般演題発表プログラム
第 1 セクション 運動器系Ⅰ
10:00~11:00
座長:森
健一郎(佐野記念病院)
1.帯状疱疹後に腋窩神経単独麻痺を呈した一症例
葛城病院 野副 友菜
2.左膝内側部痛に対して膝外反・下腿外旋位に着目し理学療法を行った一症例
永山病院 荒井 亨子
3.股関節周囲筋の筋力増強と装具療法の併用により、歩行の安全性が向上した頚部脊柱管狭窄症
の一症例
大阪リハビリテーション病院 吉田 和樹
4.足部への介入により動作改善を経験した一症例 ~半月板損傷を呈した患者~
葛城病院 福本竜太郎
5.右内・外腹斜筋筋緊張低下により歩行の左右立脚期に転倒傾向を認めた一症例
ライフケアながやま 大崎 茉美
第2セクション 神経系Ⅰ
11:10~12:10
座長:高尾 耕平(岸和田盈進会病院)
6.疲労の強い左視床血腫除去術後の患者に対し、運動イメージを用いた介入を行った結果、
起立動作の向上を認めた一症例
野上病院 首藤 隆志
7.右片麻痺を呈した患者の立ち上がりと歩行に着目した一症例
河崎病院 下峠 朋弘
8.Pusher 現象を伴った左片麻痺症例の起立動作の介助量軽減にむけて
大阪リハビリテーション病院 山下 大輝
9.片麻痺患者の社会復帰に向け、立位練習を行うことで、歩行動作の実用性向上を認めた一症例
河崎病院 甲田 りさ
10.自動介助運動を用いた練習が麻痺側膝伸展筋力向上に繋がった脳血管疾患の一症例
野上病院 塩田 修平
第3セクション 運動器系Ⅱ、OT・ST 推薦演題
13:10~14:10
座長:今津 義智(野上病院)
OT 推薦座長:佐川 雅俊(葛城病院)
ST 推薦座長:一柳 律子(りんくう総合医療センター)
11.術創部癒合不良により荷重開始が遅延した踵骨骨折後の一症例
永山病院 西川 依里
12.右大腿骨頚部骨折術後に長期の疼痛性跛行から中殿筋の萎縮を生じた一症例 ~大腿骨頭壊死
から右人工股関節全置換術を施行して~
佐野記念病院 山中 裕貴
13.食事動作を自立することにより、個人的原因帰属の向上を促せた一症例
河﨑病院 森田 智也(OT)
6
14.家事動作の獲得が、趣味活動へ繋がった一症例
永山病院
宮前 美香(OT)
15.発声時の姿勢制御の改善が発声に影響を与えたと思われた一症例
大阪リハビリテーション病院
西田 克彦(ST)
第4セクション
運動器系Ⅲ
14:20~15:20
座長:西田 大希(ひがしはら整形外科リウマチクリニック)
16.原発性胆汁性肝硬変と受傷機転が明らかでない第 2 腰椎圧迫骨折を罹患した一症例
岸和田盈進会病院 成田 和香奈
17.易脱臼傾向を認めた左膝蓋骨脱臼骨折後の一症例
葛城病院 藤井 萌
18.四つ這い位を取り入れ、歩行自立となった右大腿骨頸部骨折の一症例
大阪リハビリテーション病院 岡崎 通大
19.超高齢患者における左大腿骨転子部骨折術後の一症例
永山病院 津本 和寿
20.肩関節鏡視下手術後、上肢挙上運動制限に対し肩甲上腕関節に着目した一症例
佐野記念病院
7
山元 慶紀
【一
第 1 セクション
(運動器系Ⅰ)
第 2 セクション
(神経系Ⅰ)
第 3 セクション
(運動器系Ⅱ)
(OT・ST 推薦演題)
第 4 セクション
(運動器系Ⅲ)
8
般
演
題】
1 第1セクション 運動器系Ⅰ
帯状疱疹後に腋窩神経単独麻痺を呈した一症例
2
第1セクション 運動器系Ⅰ
左膝内側部痛に対して膝外反・下腿外旋位に着目し理学療法を行
った一症例
野副 友菜 吉川 雅夫
医療法人大植会 葛城病院 リハビリテーション部
荒井 亨子 稲葉 悠人
永山病院 リハビリテーション部
key word:帯状疱疹・腋窩神経単独麻痺・三角筋
key word:下腿外旋、内側広筋、大腿筋膜張筋
【はじめに】帯状疱疹後に腋窩神経単独麻痺を呈した症例を経験
し、良好な結果を得られたため、ここに報告する。
【症例紹介】症例は 78 歳女性。帯状疱疹を発症し、その後左上
肢の挙上困難を訴え、当院受診される。主訴は左手が挙がらない
事であり、入浴動作は介助を要する状態であった。帯状疱疹発症
前の日常生活動作は全て自立していた。帯状疱疹後による発疹が
上腕外側~前面・前腕屈側の広範囲に認められていた。筋電図検
査では三角筋に脱神経所見(安静時:陽性 P 波、随意収縮時:多
相性電位、最大収縮時:干渉波減少と振幅低下)を認めたが、棘
上筋・棘下筋・上腕二頭筋には異常所見は認めなかった。
【理学療法評価および経過】帯状疱疹発症 27 日後より理学療法
開始。その際、関節可動域(以下 ROM,自動/他動)は左肩関節屈
曲 25°/145°外転 25°/150°外旋 25°/40°であり、徒手筋力
検査
(以下 MMT)
は左肩関節屈曲 2 外転 2 外旋 3 と低下を認めた。
他の筋に関しては筋力低下や左右差を認めなかった。肩関節疾患
治療成績判定基準は 54/100 点中であった。左肩関節自動屈曲・
自動外転ともに運動初期より左肩関節屈曲・外転が乏しく、左肩
甲帯挙上での代償がみられていた。左肩関節自動屈曲では、肩甲
帯での代償の後、左肘関節屈曲し、運動最終域では体幹伸展によ
る代償も認めた。理学療法は肩関節 ROM 訓練、回旋筋腱板・肩甲
骨周囲筋の筋力強化訓練を実施した。脱神経所見を認める三角筋
に対しては廃用性筋萎縮予防を目的に低周波を施行した。肩関節
屈曲時に三角筋の収縮が認められた段階から中周波に切り替え、
三角筋筋力強化をはかった。また、介入初期から帯状疱疹による
疼痛の訴えが続いたため、介入 2 ヶ月後より星状神経節へのレー
ザー照射を追加した。
【結果】介入開始4ヶ月後、左肩関節 ROM は屈曲 145°/150°外
転 140°/145°外旋 60°/60°となり、MMT でも左肩関節屈曲 4
外転 4 外旋 3 と改善を認めた。肩関節疾患治療成績判定基準は
68/100 点中へと向上した。入浴動作も介助なしで可能となり、
日常生活動作での制限は認められなくなった。筋電図検査におい
て、三角筋の多相性電位は認めたが、その他の異常所見は消失し
た。
【考察】腋窩神経の不全麻痺は保存療法・手術療法共に比較的早
期に回復するといわれているが、本症例では 4 ヶ月の期間を要し
た。その要因としては、年齢・発症後からの筋力低下が考えられ
る。筋電図検査上、三角筋の筋力低下が考えられたため、低周波・
中周波を段階的に施行することで筋力回復につながり、上肢挙上
が可能となったと考えられる。また、異常所見が認められない回
旋筋腱板や肩甲骨周囲筋の筋力強化訓練を行うことにより、動作
時の肩甲骨安定性が向上した事も動作改善につながった要因で
ある事が考えられる。
【はじめに】左変形性膝関節症(膝 OA)より左膝内側部痛が
生じ、長距離歩行が困難となった症例を担当した。左膝外反・
下腿外旋位に着目し理学療法を行った結果疼痛が消失したた
め報告する。
【症例紹介】80 歳代女性で平成 X 年 Y 月に左膝 OA と診断さ
れた。既往歴は平成 X-8 年に左膝蓋骨骨折がある。Hope は「痛
みなく長距離を歩きたい」
、Needs は独歩の安定性・耐久性の
向上とした。
【初期評価】独歩は左股関節屈曲による体幹前傾位・左膝関
節屈曲位で左初期接地となり、左荷重応答期から左立脚中期
では左股関節内転による骨盤の右下制と体幹左側屈が生じた。
左立脚終期で左下腿外旋が増強し 5 分で歩行困難となった。
FTA(右/左) は 173°/169°。Q 角は 18°/23°。ROM は膝関節
伸展 0°/‐5°。左膝蓋骨は内側への可動性が低下しており
外方偏位を認めた。MMT は股関節外転 4/4、膝関節伸展 5/2。
左立脚終期で左内側膝蓋支帯に NRS2 点、5 分後 NRS3 点に増
悪した。荷重位で knee-in toe-out させ下腿外旋を誘導する
と痛みの再現性が得られた。本症例は膝外反・下腿外旋変形
と左膝蓋骨骨折の影響で膝蓋骨外方偏位を認め内側広筋の筋
活動が低下し、外側支持筋群の筋活動が亢進するアラインメ
ントであった。歩行の問題点は左内側広筋の筋力低下・筋緊
張低下により左膝関節屈曲位で左初期接地となった。左初期
接地から荷重応答期での大腿四頭筋の筋力低下を代償するた
め左股関節屈曲による体幹前傾を行ったことで左中殿筋の筋
緊張が低下し骨盤の右下制が生じた。そのため左大腿筋膜張
筋の筋緊張が亢進し腸脛靭帯の作用で骨盤の右下制を制動し
たため左立脚後期に左下腿外旋が増大し左内側膝蓋支帯に伸
張痛が生じたと考えた。
【理学療法】週 2~3 回の外来リハビリテーションを 1 ヶ月間
行った。左大腿筋膜張筋・外側広筋・大腿二頭筋の筋緊張改
善を目的にダイレクトストレッチングを施行後、下腿外旋軽
減と終末強制回旋運動獲得を目的とした左膝関節伸展 ROM 練
習を行った。そして左膝蓋骨の外方偏位を修正し内側広筋の
筋力強化練習を行った。初期接地から荷重応答期で左内側広
筋の収縮を促したステップ動作を実施した。
【最終評価】左膝関節屈曲位は軽減し、体幹前後傾中間位で
左初期接地となった。左荷重応答期から立脚中期で体幹左側
屈は軽減し左股関節内転による骨盤右下制は消失した。左立
脚終期で左下腿外旋は軽減した。Q 角は 18°/21°。ROM は膝
関節伸展 0°/‐5°。左膝蓋骨は内側の可動域制限と外方偏
位が軽減した。MMT は股関節外転 4/4、膝関節伸展 5/4。歩行
の NRS は 0 点で 20 分間独歩可能となった。荷重位で knee-in
toe-out させ下腿外旋を誘導すると内側膝蓋支帯の伸張痛は
軽減した。
【考察】膝内側部痛の直接的な原因は大腿筋膜張筋による下
腿外旋の増大であった。大腿筋膜張筋の筋緊張亢進させてい
る原因は膝外反・下腿外旋位と膝蓋骨外方偏位による内側広
筋の筋力低下、外側支持筋群の筋緊張亢進であったため、今
回膝関節のアラインメント変化による筋活動の不均衡に着目
する重要性が示唆された。
9
3
第1セクション 運動器系Ⅰ
股関節周囲筋の筋力増強と装具療法の併用により、歩行の安全性
が向上した頚部脊柱管狭窄症の一症例
4
第1セクション 運動器系Ⅰ
足部への介入により動作改善を経験した一症例~半月板損傷を
呈した患者~
吉田 和樹 半田 千絵
大阪リハビリテーション病院 リハビリテーション療法部
福本 竜太郎 吉川 雅夫
医療法人大植会 葛城病院リハビリテーション部
key word:頚部脊柱管狭窄症・股関節周囲筋・歩行
key word:投球動作・足関節・装具
【はじめに】今回、頚部脊柱管狭窄症術後の症例を担当した。股
関節周囲筋の筋力向上に加え、装具療法の併用により歩行の安全
性が向上したので報告する。尚、発表に際し、症例の同意を得た。
【症例紹介】80 歳代男性。両上下肢の痺れを呈し、頚部脊柱管
狭窄症と診断され、23 日後に C3 椎弓切除術、C4-6 椎弓形成術を
施行した。尚、20 歳代から右下垂足があり転倒を繰り返してい
た。
【初期評価(術後 9 週目)】歩行は中等度介助で、右荷重応答期か
ら立脚中期にかけて胸腰部右側屈、右股関節屈曲・内転・内旋、
右足関節底屈・内反が徐々に増大し、右側方への転倒傾向を認め
た。右立脚後期では、右股・膝関節伸展、右足関節背屈が不十分
で、右遊脚期に右足関節底屈位で躓き、前方転倒傾向を認めた。
関節可動域(以下 ROM、右/左:°)は股関節伸展 0/5、膝関節伸展
-10/-5、足関節背屈 0/5、足部外返し−5/0。徒手筋力検査(以下
MMT、右/左)は体幹屈曲 3、 回旋 3/3、股関節屈曲 2/3、伸展 3/3、
外転 2/3、外旋 2/3、膝関節伸展 3/4、足関節背屈 0/4、底屈 1/2、
足部外返し 0/2。表在感覚は両側 C4 以下重度鈍麻、深部感覚は
両側足関節、足趾が軽度鈍麻で、下肢荷重量(右/左:㎏)は安静
時 20/35、最大荷重時 30/45 であった。以上より、右立脚中期及
び右遊脚期の各転倒要因は、右股関節周囲筋・右腹斜筋群・右足
関節周囲筋の筋力低下と、右足部の感覚鈍麻と推測した。
【理学療法】右足関節可動域運動、体幹・股関節周囲筋の筋力増
強運動、膝立ち練習を行った後、ステップ練習、歩行練習を実施
した。
術後 14 週目に大阪医大型足装具(以下 O.M.C.F)を作製し、
歩行における足部の安定を図った。
【最終評価(術後 17 週目)】歩行は、右荷重応答期から立脚中期
の胸腰部右側屈、右股関節屈曲・内転・内旋が減少し、右側方へ
の転倒傾向が軽減した。右立脚後期では、右股・膝関節伸展、右
足関節背屈が増加し、右遊脚期の右足関節は底屈位ながらも躓き
が軽減、見守りとなった。また、O.M.C.F 装着歩行では、右立脚
中期の右足関節底屈・内反が軽減し、右遊脚期の躓きが消失した。
ROM は股関節伸展 5/10、膝関節伸展-5/0、足関節背屈 5/10、足
部外返し 0/5。MMT は体幹屈曲 5、回旋 5/5、股関節屈曲 3/4、伸
展 4/4、外転 3/4、外旋 3/4、膝関節伸展 5/5、足関節底屈 2/3。
表在感覚は両側 C4 以下が軽度鈍麻、深部感覚は両側足関節、足
趾が正常、下肢荷重量は安静時 27 ㎏/28 ㎏、最大荷重時 40 ㎏/45
㎏となった。
【考察】安藤は、立脚中期での側方への安定性は股関節外転筋群
と足部外返し筋群が確保すると述べている。本症例は、術前まで
の経過により右足関節周囲筋の筋力改善は期待できず、股関節で
の安定性を図る事を目的とした。結果、右股関節周囲筋の筋力向
上のみならず、右足部の感覚や筋力の改善を得た。これは、右股
関節周囲の安定性が向上し、右下肢への荷重量が増加した事、加
えて反復した歩行練習より得られたと推測する。更に、O.M.C.F
の装着で、右足部の安定性が向上し、右下肢への荷重量増加と右
下垂足の制動が得られ、歩行の安全性が向上したと考える。
【はじめに】今回、クラブ活動中に半月板損傷を受傷し修復
術を施行した症例を担当し、身体状況を予想した治療考察を
行い、動作改善を確認したのでここに報告する。
【症例紹介】16 歳男性、身長 163cm、体重 51kg、野球部に
所属(二塁手、右投げ右打ち)。現病歴は中継プレーにて受
傷、当院受診し左外側半月板断裂と診断される。3 ヶ月間保
存的加療を行ったが疼痛軽減せず鏡視下縫合術を施行し翌
日からリハビリ介入となる。既往歴は 8 年前に下腿開放骨折
を受傷。矯正骨切術・創外固定・骨延長術を施行するが、左
側内果の低形成・左後脛骨筋健の断裂左母趾は軟部組織によ
る連続性のみ保たれている状態であった。
【理学療法評価】術前評価の主訴は膝の不安感、Hope はク
ラブ活動復帰。関節可動域測定で左足関節背屈 10°、左膝
関節伸展-5°に制限を認めたが、その他、著明な制限は認め
られなかった。徒手筋力検査は左足関節内がえし 3・母趾屈
曲 2・足趾屈曲 3 と筋力低下を認めた。Mc Murray(+)、荷
重時痛(+)、足関節内反・外反ストレステスト(-)であった。投
球動作ではコックアップ期~アクセラレーション期にかけ
て重心の前方移動は不十分で左下肢の足部回内・下腿の内旋
が生じ knee in・toe out を呈した。術後 8 週の評価は膝関節
の可動域・筋力は術前と同程度まで改善し Mc Murray(-)、
荷重時痛(-)となった。半月板損傷による機能障害は改善し、
これに伴い投球フォームは重心移動がスムーズ行えるよう
になったが術前より呈していた足部回内・下腿内旋の増大に
加え股関節内転を認め、knee in・toe out、体幹左側屈が術
前より著明に増加、左下肢フォワードランジ・サイドランジ
で過度な体幹左側屈が出現し右下肢と比較し静止時間・ステ
ップ幅ともに低下していた。
【アプローチ】knee in・toe out という逸脱動作が投球動作
の安定性・連続性を低下させており、その原因が左足部支持
性低下と考えられた。著しい機能改善は難しく、補助具の使
用を考えた。選定基準は簡便・機能性を考慮し、足関節回内
制動を維持した左背屈制限のない軟性足関節装具を使用し
た。
【結果・考察】軟性足関節装具の装着により各動作での knee
in・toe out の軽減を認めた。本症例の足部は三角靱帯のみ
が実質的に足部回内を制動しており荷重により足部過回内
を強制され下腿の内旋・内側傾斜が生じ、knee in・toe out
を呈していた。投球時の振り出し下肢に要求される接地後の
支持と力(並進・回転運動)の伝達が阻害され機械的ストレ
スが膝関節に集中したと考えられる。本症例の投球動作では
下腿内側傾斜は下肢荷重を内側へ偏移させ、カウンターウェ
イトとして体幹の左側屈を過度に行なうと考えられ膝関節
外側への過度なストレスが生じる。下腿内旋は身体上方から
回旋運動が加わると膝関節にストレスが生じる。これらにス
テップ動作が加わることでストレスの増大が今回の受傷へ
大きく関与していると考える。よって軟性足関節装具により
足部支持性が向上したため動作改善したと考えられる。
10
5
第1セクション 運動器系Ⅰ
右内・外腹斜筋筋緊張低下により歩行の左右立脚期に転倒傾
向を認めた一症例
6
第2セクション 神経系Ⅰ
疲労の強い左視床血腫除去術後の患者に対し、運動イメージを用
いた介入を行った結果、起立動作の向上を認めた一症例
大崎 茉美 柴田 智美 寺中 和沙 柳澤 博志
介護老人保健施設 ライフケアながやま
首藤 隆志 外村 翔平
野上病院 リハビリテーション部
key word:体幹側屈・腹斜筋・動作時筋緊張
key word:脳血管障害・起立動作・運動イメージ
【はじめに】今回、杖歩行の左右立脚期に転倒傾向を認めた
症例を担当した。体幹に着目し理学療法を施行した結果、歩
行の改善を認めたのでここに報告する。
【症例紹介】80 歳代、女性です。X 年 Y 月 Z 日に胸腰椎圧迫
骨折と診断され入院となった。疼痛は徐々に軽減していたが
歩行に介助を要し Z+17 日に当施設へリハビリ目的で入所と
なった。
【理学療法評価】杖歩行は近位監視レベルで常に上部体幹屈
曲位、体幹右側屈位であった。左立脚中期~後期に体幹右側
屈、左股関節屈曲・過内転し骨盤が前傾・右下制位で左側方
移動し、転倒傾向を認めた。体幹右側屈位のまま右立脚期へ
移り、右立脚中期~後期では、体幹右側屈、腰椎前弯、骨盤
前傾・左挙上し、右股関節が外転位となり、体幹が右後方へ
傾き転倒傾向を認めた。坐位・立位でも体幹は右側屈位であ
った。ROM-T(右/左)は体幹伸展 0°、側屈 20°/15°、MMT
は股関節伸展 3/3、外転 4/4、体幹屈曲 4、回旋 4/4 であった。
坐位での右側方リーチは 21cm で体幹右側屈・右回旋がみら
れた。左側へのリーチは 10.5 ㎝であった。左右のリーチ動
作時、右内・外腹斜筋の筋緊張低下を認めた。問題点として、
坐位時より体幹右側屈位であり歩行時・坐位リーチ時では同
様の体幹右側屈が生じていた。このことから、右内・外腹斜
筋の動作時筋緊張低下により左立脚中期~後期に体幹右側
屈することで、左股関節は屈曲・過内転し、骨盤の左側方移
動が大きくなり転倒傾向が生じていると考えた。右立脚中期
~後期でも右内・外腹斜筋の動作時筋緊張低下により体幹右
側屈し、左下肢を振り出すことで腰椎前弯と右股関節外転が
起こり、体幹が右後方へ傾き転倒傾向が生じると考えた。
【理学療法】腹斜筋群の促通を目的として坐位・立位にてリ
ーチ動作練習、歩行練習では体幹右側屈を胸郭介助し正中位
で保持して右内・外腹斜筋の活動を促した。
【結果】歩行は左立脚中期~後期での体幹右側屈、左股関節
屈曲・過内転と骨盤前傾・右下制位での左側方移動は軽減し
た。さらに右立脚中期~後期でも体幹右側屈、腰椎前弯と骨
盤前傾・左拳上での股関節の外転は軽減し杖歩行は自立した。
ROM-T(右/左)は体幹左側屈 20°に改善した。右側方リーチは
体幹の立ち直りを認め 20.5cm、左側の距離は 19.5 ㎝となっ
た。その際の右内・外腹斜筋の筋緊張低下の改善を認めた。
【考察】右内・外腹斜筋の動作時筋緊張低下が改善したこと
で左立脚中期~後期での体幹右側屈は軽減し左股関節の屈
曲・過内転と骨盤右下制位での左側方移動が減少した。さら
に右立脚中期~後期では体幹の右側屈は軽減し、腰椎前弯と
右股関節外転による体幹の右後方への傾きが改善され杖歩
行が自立となり自宅へ退所した。
【はじめに】訓練中の疲労が強く、反復した動作訓練を行う
ことが困難な本症例に対し、運動療法と併用し運動イメージ
(Motor Imagery 以下 MI)を用いた介入を行った結果、起立動
作の向上を認めたのでここに報告する。
【症例紹介】30 歳代男性。X 年、脳動静脈奇形に対し放射線
療法施行。X+17 年後、徐々に拡大する血腫に対して左視床
血腫除去術、両側脳室ドレナージ術施行、術後 88 病日目より当
院にて理学療法開始。なお、症例には発表の趣旨を説明し、
同意を得た。
【初期評価(術後 101 日目)】Brunnstrom Recovery Stage
Test(BRS−T)は右下肢Ⅲ、Modified Ashworth Scale(MAS)は
右膝関節屈曲筋群 2、右足関節底屈筋群 3、関節可動域制限
は右足関節背屈 0°、表在・深部感覚ともに右下肢軽度鈍麻で
あった。起立動作は、屈曲相で両股関節屈曲による体幹前傾
が乏しく、臀部離床以降の右膝関節伸展が乏しいため、支持
物使用にて重度介助であった。1 回の起立動作後、脈拍数 85
→110 回/分、呼吸数 16→18 回/分、Borg scale(BS)8→16 で
あった。MI の主観的鮮明度の評価は Kinesthetic and Visual
Imagery Questionnaire(KVIQ-10)を用い、1 人称的な MI の平
均得点が 4/5 点であった。Communication 面では、喚語困難
が あ る も 、 ジ ェ ス チ ャ ー な ど の Non-Verbal
Communication(NVC)は可能であった。
【理学療法(術後 102 日〜115 日)】関節可動域訓練、神経筋
再教育、起立動作訓練と併用し、MI の想起を反復的に行った。
特に起立動作の体幹前傾時は両股関節、腹部の圧迫感に、臀
部離床以降は右膝関節伸展筋の筋収縮に注意を向けた。また、
実運動後に MI と実運動での比較を行い、
運動学習を促した。
【最終評価(術後 116 日目)】BRS−T は右下肢Ⅳ、MAS は右膝
関節屈曲筋群 1+となり、その他著明な変化は認めなかった。
起立動作では、屈曲相で両股関節屈曲に伴う体幹前傾、臀部
離床以降の右膝関節伸展が可能となり、支持物使用にて見守
りとなった。起立動作前後での脈拍数、呼吸数は著明な変化
を認めず、BS は 6→12 となった。
【考察】一人称的な MI 中には、運動実行とほぼ同様の脳活
動領域が活動している(Bonda ら,1995)と報告されており、特
に一人称的な MI 中には下頭頂小葉の活動が強い(Guillot
ら,2009)と報告されている。本症例は、KVIQ-10 にて一人称
的な MI の想起が良好であることや NVC が可能であり下頭頂
小葉を含む運動関連領野の活動が良好であることが考えら
れた。そのため、疲労が強く反復した動作訓練が困難な本症
例に対し、MI の想起を反復して行うことにより、起立動作や
それに伴う膝関節伸展筋などの運動神経ネットワークの反
復的な賦活化が考えられた。これらより、実運動による学習
と同様の学習が生じたため、起立動作の向上を認めたのでは
ないかと考える。
11
7 第2セクション 神経系Ⅰ
右片麻痺を呈した患者の立ち上がりと歩行に着目した一症例
8 第2セクション 神経系Ⅰ
Pusher 現象を伴った左片麻痺症例の起立動作の介助量軽減にむ
けて
下峠 朋弘 野村 佳史 檜垣 貴徳
山下 大輝 今城 恭祐
社会医療法人慈薫会 河崎病院 リハビリテーション科
大阪リハビリテーション病院 リハビリテーション療法部
key word:右片麻痺、立ち上がり、歩行
key word:Pusher 現象・起立動作・左片麻痺
【はじめに】今回、ACA、MCA 領域の脳塞栓により右痙性片麻痺と
重度感覚障害、失語を呈した患者を担当した。歩行練習では麻痺
肢への感覚入力、体幹筋への促通を行いにくいため練習難易度を
下げ座位、立ち上がりでの練習を中心に行い体幹筋にアプローチ
を行うことで立ち上がりと歩行の動作改善につながったので報
告する。
【症例紹介】70 代後半の女性。左脳梗塞の診断を受け発症 21 日
目にリハビリ目的で当院に転院される。既往歴に 13 年前、左大
腿骨頚部骨折(人工骨頭置換術)が有る。
【初期評価(発症より 18 週)】立ち上がりは、監視レベルで骨
盤前傾、下腿前傾が見られず上位胸椎を屈曲させ体幹屈曲を行う
が、右前下肢への荷重が不十分であった。殿部離床の際、右股関
節屈曲が生じず骨盤右回旋し、伸展相で右股関節伸展が生じにく
い。立位姿勢では右股関節屈曲位であり骨盤右回旋となり右膝関
節過伸展が生じ後方転倒のリスクがあった。歩行は、監視レベル
で右立脚初期に右股関節屈曲位となり骨盤右回旋し右膝関節過
伸展が生じ右足関節底屈位となる。右遊脚初期で骨盤右傾斜し足
尖クリアランスが低下し足趾のひっかかりが生じる。
機能的評価では SIAS25/76 点、10m 歩行テストは 49 秒/64 歩であ
った。Brunnstrom stage 右上肢Ⅱ、手指Ⅰ、下肢Ⅲであった。精
神面はうつ傾向、訓練意欲の低下認めた。感覚検査は表在、深部
とも右上下肢重度鈍麻を認めた。反射反応テストでは右側立ち直
り反応はみられず、右足クローヌスは陽性であった。筋緊張は、
右内・外腹斜筋、右腸腰筋、右大殿筋、右ハムストリングス、右
前脛骨筋に低下を認め、右脊柱起立筋、右腓腹筋に亢進を認めた。
【理学療法】座位で左右へ重心移動を行い、右内腹斜筋を促通し
た。その後、骨盤前傾を反復して誘導し、立ち上がり練習にて骨
盤前傾、下腿前傾を促すことで腸腰筋、大殿筋の促通を行い腓腹
筋の筋緊張抑制を図った。その後、歩行練習を実施した。
【最終評価】初期評価より 5 週後、SIAS32/76 点。基本動作は立
ち上がり、歩行とも監視。10m 歩行テストは 17 秒/38 歩。右内腹
斜筋、右腸腰筋、右大殿筋は初期に比べ筋緊張改善認めた。立ち
上がりでは骨盤前傾が生じ、十分前方移動が可能となった。歩行
は、右立脚中期で右股関節伸展が出現したことで骨盤右回旋が減
少した。右遊脚初期で骨盤右傾斜が減少、足趾ひっかかりも減少
した。
【考察】立ち上がり動作ではハムストリングスの筋緊張改善によ
り下腿の引き込みが得られた。また腸腰筋、脊柱起立筋の筋緊張
改善により、屈曲相で骨盤前傾での重心前方移動が可能となり大
殿筋の収縮が得られやすくなった。歩行では大殿筋、ハムストリ
ングスの筋収縮が得られたことで立脚初期での股関節安定性が
向上し立脚中期から後期にかけて伸展が生じやすくなった。それ
により歩幅の拡大が生じた。また、腸腰筋の筋緊張改善に加え、
座位重心移動練習による内腹斜筋の筋緊張改善が歩行時の骨盤
水平保持を可能とし、足趾の引っかかり減少に繋がったと考える。
12
【はじめに】今回、右被殻出血により左上下肢の重度運動麻
痺と感覚障害、及び Pusher 現象を呈した症例を担当した。理
学療法により身体機能の改善・Pusher 現象が軽減し、起立動
作の介助量軽減に繋がったので報告する。尚、発表に際し症
例の同意を得た。
【症例紹介】発症当日に開頭血腫除去術が施行され、術後 10
週が経過した 60 歳代男性である。
【初期評価】端座位は、胸腰部屈曲・左回旋・右側屈によっ
て骨盤が後傾・左下制し、両股関節外転(右側優位)・外旋位
で軽介助を要した。起立動作は、屈曲相での骨盤前傾が不十
分であった。殿部離床相では胸腰部右側屈し、前足部への重
心移動が不足していた。伸展相では、胸腰部伸展・骨盤前傾、
左股・膝関節伸展が不十分であった。端座位から起立動作に
移行するに合わせ、右下肢の Pusher 現象が強くなり、左後方
への転倒傾向を認め、中等度介助を要した。身体軸は、閉眼
の端座位で姿勢が麻痺側方向に 10°傾いた際に正中位である
と言われ、Leg Orientation では体幹を正中位に修正した際
の非麻痺側(右)股関節外旋を認めた。Brunnstrom recovery
stage(以下 BRS)は左上肢Ⅱ・下肢Ⅱ。左下肢表在・深部感覚
ともに脱失。端座位において、筋緊張(触診)は、左内・外腹
斜筋、大・中殿筋に低下、右広背筋・脊柱起立筋に亢進を認
め、体幹立ち直り反応は右(-)/左(+)であった。Scale for
Contraversive Pushing(以下 SCP)は 5.5/6 点で重度であった。
【理学療法】筋緊張低下筋の促通・感覚入力を目的に、台を
用いた座位バランス練習(両側方リーチ)や、左側に長下肢装
具を装着した立位で、両下肢への荷重練習(右半身を壁にあて、
支持面として利用)を実施した。また、歩行練習・右下肢を 10cm
の段差に乗せるステップ練習も行い、起立動作に近い荷重感
覚を促通した。
【結果】術後 14 週の端座位は、胸腰部の右側屈位、骨盤後傾・
左下制位、両股関節外転・外旋位が改善し、見守りとなった。
起立動作は、屈曲相で股関節屈曲が増加し、骨盤前傾がみら
れ、殿部離床相では胸腰部の右側屈が改善し、前足部への重
心移動が可能となった。さらに、伸展相では骨盤前傾不足が
改善した。起立動作移行時の右下肢の Pusher 現象が軽減し、
軽介助となった。また身体軸は、麻痺側に 5°傾くと正中位で
あると言われ、Leg Orientation での非麻痺側(右)股関節外
旋が軽減した。BRS は変化なく、一方、左下肢の表在・深部感
覚は中等度鈍麻となった。筋緊張低下筋は改善し、亢進筋は
軽減した。端座位での体幹立ち直り反応は右(+)/左(+)、SCP
は 3.75/6 点と軽減した。
【考察】本症例は、筋緊張異常・感覚障害により、姿勢バラ
ンス(反応)が低下していた。今回、台や壁を使用し、立位よ
りも支持基底面が広い端座位から、段階的に荷重練習を行う
ことで、筋緊張の改善や正中軸の補正に効果的であったと考
える。これらにより、本症例の内観と実際の姿勢の不一致が
修正され、Pusher 現象による後方への転倒傾向が軽減し、端
座位・起立動作の介助量の軽減に至ったと考察する。
9 第2セクション 神経系Ⅰ
片麻痺患者の社会復帰に向け、立位練習を行うことで、歩行動作
の実用性向上を認めた一症例
10 第2セクション 神経系Ⅰ
自動介助運動を用いた練習が麻痺側膝伸展筋力向上に繋がった
脳血管疾患の一症例
甲田 りさ 鍜治 亮祐
社会医療法人慈薫会 河崎病院 リハビリテーション科
塩田 修平 井上 直彦
野上病院 リハビリテーション部
key word:左片麻痺、歩行、社会復帰
key word:脳血管障害・膝伸展筋力・自動介助運動
【はじめに】今回、右被殻出血により左片麻痺となった症例に対
し、社会復帰に必要となる歩行動作に着目し、立位練習を行うこ
とで、歩行動作の実用性向上を認めたため報告する。
【症例紹介】40 歳代前半男性、診断名は右被殻出血。現病歴は、
出勤途中に左片麻痺出現、
10 日後リハ目的で当院転院となった。
【初期評価(発症 3 ヵ月後)】Brunnstrom Stage(以下 BRS)は左上
肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅳ。感覚は正常。座位の体幹立ち直り反応に
左右差は認めないが、立位での体幹立ち直り反応は、左側で立ち
直りが乏しく、左前方へ動揺を認めた。歩行動作(独歩)は、左立
脚中期に、腰椎部過伸展、体幹左側屈、左股関節屈曲にて骨盤前
傾・右下制が生じ、左股関節内転に伴う骨盤左側方移動は不十分
となり、左前方への動揺を認めた。距離が延長すると、更に骨盤
左側方移動は不十分となり、体幹左側屈、左股関節屈曲が増強し、
左前方への動揺が著明となり、歩行速度低下を認めた。歩行時筋
緊張検査は、
左大・中殿筋・内腹斜筋に低下。
歩行速度は 26.3m/min。
Timed Up and Go test(以下 TUG)は 25’40 秒、6 分間歩行は 131m
であった。これらにより、歩行動作における安定性・耐久性・ス
ピード低下を認め、監視が必要であった。
【理学療法】左大・中殿筋・内腹斜筋の筋緊張改善を目的に、静
的立位練習で、左側へのウエイトシフトを行った。動的立位練習
では、片脚立位、ステップ動作練習を行い、立位での左大・中殿
筋・内腹斜筋の筋緊張改善を触診で確認し、歩行練習を実施した。
【最終評価(発症 5 ヵ月後)】BRS、座位での体幹の立ち直り反応
に変化は認められなかった。立位での体幹の立ち直り反応は、左
側でも出現し、左前方への動揺が軽減した。歩行動作の左立脚中
期において、腰椎部過伸展、体幹左側屈、左股関節屈曲、骨盤前
傾・右下制の軽減を認め、左股関節内転に伴う骨盤左側方移動が
初期に比べ出現し、左前方への動揺が軽減し、歩行距離延長、歩
行速度向上を認めた。歩行時筋緊張検査では、左大・中殿筋・内
腹斜筋に改善を認めた。歩行速度は 34.5m/min、TUG は 19’11 秒、
6 分間歩行は 169m と改善。これらにより、歩行動作における安
定性・耐久性・スピード向上を認め、屋内独歩自立となった。
【考察】座位での立ち直り反応に左右差はなく、立位での立ち直
り反応には左右差を認め、左前方への動揺を認めた。この左右差
は、左下肢支持性低下が原因であると考えた。左下肢支持性低下
の原因として、左大・中殿筋の筋緊張低下により、骨盤左側方移
動が不十分となった。更に左内腹斜筋の筋緊張低下により骨盤水
平保持が困難となり、左前方への動揺が助長されたと考える。そ
こで理学療法を実施し、立位訓練にて左大・中殿筋・内腹斜筋の
筋緊張改善し、歩行時においても改善を認めた。結果として、左
下肢支持性向上し、骨盤左側方移動が可能となり、左前方への動
揺が軽減し、歩行の実用性が向上したと考えられる。
13
【はじめに】今回、歩行時の麻痺側立脚期に膝折れが生じ
た脳血管障害患者を担当した。麻痺側膝伸展筋に対し自動
介助運動を行った結果、筋力向上を認め、歩行時の膝折れ
が軽減したので報告する。なお、症例には発表の趣旨を説
明し、同意を得ている。
【症例紹介】50 歳代女性。X 年にくも膜下出血を発症し、
コイル塞栓術施行した。しかし、発症 17 日目に再発し、再
度コイル塞栓術施行、右片麻痺、記銘力の低下を認めた。
発症 21 日目より当院にて理学療法を開始した。
【初期評価】発症 21 日目の Brunnstrom Recovery Stage
Test(以下、BRS-t)は右上肢・手指・下肢Ⅴ、右下肢深部
腱反射正常、右下肢 Modified Ashworth Scale は 0 であっ
た。支持物なしでの歩行は右立脚中期に右股関節、右膝関
節軽度屈曲位となり、膝折れが生じており、軽介助レベル
であった。Manual Muscle Testing
(以下、MMT)では膝伸展筋力は右 2/左 4 であった。発症 21
日目の右膝伸展筋へのアプローチは除重力位運動、膝伸展
筋の等尺性収縮を中心に施行していた。しかし、発症 48 日
目においても歩行時の膝折れは認めており、右膝伸展筋力
の MMT は変化なく、ハンドヘルドダイナモメーター(μ-Tas
F-1、アニマ社製:以下 HHD(単位:kgf/kg))で測定を行った
結果、膝伸展筋力は右 0.02/左 0.43 であった。右膝伸展運
動初期、及び歩行時の右立脚中期にかけて、触診にて右大
内転筋、右ハムストリングスの収縮が生じ、右膝伸展筋の
十分な筋収縮を得ることが難しかった。
【理学療法】発症 49 日目より、14 日間、端座位にて右膝伸
展自動介助運動を右大内転筋、右ハムストリングスの収縮
が生じないよう負荷量を調整しながら行った。反復回数は
筋疲労を認めた 30 回とした。並行して歩行練習を施行して
いた。
【最終評価】発症 55 日目の BRS-t は変化を認めず、膝伸展
筋力は MMT 右 3/左 5、HHD 右 0.15/左 0.50 まで向上し、右
大内転筋、右ハムストリングスの収縮は軽減した。歩行時
の右立脚中期の右股関節、膝関節の屈曲角度は減少し、膝
折れは軽減し、近位監視レベルとなった。右膝伸展筋力を
練習前後で比較すると、発症 63 日目の練習前は HHD にて
0.19、練習後は 0.35 へ向上を認めた。
【考察】右膝伸展運動を行う際に右大内転筋、右ハムスト
リングスの収縮が生じていた。右大内転筋の収縮は、右内
側広筋の補助と考えられるが、本症例では右大内転筋の過
剰な収縮が生じ、右内側広筋の筋出力低下の原因に繋がっ
たと考えられる。また、市橋らは、Closed Kinetic Chain
において、脚伸展動作時の最終域でハムストリングスが関
わると報告しており、本症例は歩行において、ハムストリ
ングス優位の膝伸展運動を学習したと考えられる。本症例
の筋力低下は運動麻痺による運動単位の動員異常が原因と
考えた。今回、右大内転筋、右ハムストリングスの収縮が
生じないよう自動介助運動による反復運動を行った結果、
右膝伸展筋の運動単位が増員した可能性が考えられる。結
果、右膝伸展筋の筋力が向上し、歩行時の膝折れが軽減し
たと考えられる。
11 第3セクション 運動器系Ⅱ OT・ST 推薦演題
術創部癒合不良により荷重開始が遅延した踵骨骨折後の一症例
12 第3セクション 運動器系Ⅱ OT・ST 推薦演題
右大腿骨頚部骨折術後に長期の疼痛性跛行から中殿筋の萎
縮を生じた一症例
西川 依里 加島 知明
永山病院 リハビリテーション部
~大腿骨頭壊死から右人工股関節全置換術を施行して~
key word:踵骨骨折・術創部癒合不良・歩行
山中 裕貴 1) 松本 隆幸 1) 吉田 博一(MD)2)
【はじめに】右踵骨骨折の手術後に術創部の癒合不良のため足関
節可動域練習と荷重開始が遅延し、歩行の安全性・スピード低下
が生じた症例を担当した。4 週間の理学療法の結果、動作の改善
を認めたので報告する。
【症例紹介】60 歳代の女性で、1mの段差から転落し右踵骨を骨
折した。受傷後 6 日目に観血的骨接合術施行、術後 20 日目に右
足関節可動域練習開始となった。しかし、表在感染や既往歴の糖
尿病の影響と考えられる術創部の癒合不良により術後 28 日目に
部分荷重、術後 52 日目に全荷重開始と遅延が生じた。
【初期評価】術後 53 日目の歩行は、右足底接地から踵離地に足
部外転位でわずかに足関節背屈し、足部が相対的に回内位となる。
この時遊脚側の左下肢は右足部回内増大により、踵接地位置が安
定せず安全性が低下するため近位監視を要した。右立脚後期では
足関節底屈が乏しかった。関節可動域検査(右/左:°)は足関節背
屈 5/10(膝伸展位)・10/15(膝屈曲位)、底屈 40/70。徒手筋力検査
は足関節底屈 2/4、底屈(膝屈曲位)2/3、足部内返し 2/4。下腿最
大周径(cm)31.5/32.0、10m 歩行テスト 15.7 秒・24 歩であった。
以上より、手術後の足関節底背屈 0°でのギプスシャーレ固定に
加え、術創部の癒合不良により足関節可動域練習と荷重開始に遅
延が生じ、右足関節背屈可動域制限と右後脛骨筋・右ヒラメ筋の
筋力低下が全荷重開始時に残存していた。そのため、右足関節背
屈に伴い足部外転・外返しが生じ、歩行時における右足部過回内
に関与していると考えた。また腓骨遠位後縁から第 5 趾に向かう
L 字状の術創部に対し足部の回外は離開ストレスを生じさせるた
め、足部を回内することで回避していたと考えた。右足関節背屈
可動域制限は立脚後期の足関節底屈運動減少の要因にもなると
考えた。
【理学療法】術創部の状態を確認しながら離開ストレスを考慮し
た足部回内外中間位での右足関節背屈可動域練習を中心に、右下
腿三頭筋・後脛骨筋の筋力強化練習、荷重位での右足関節背屈位
からの底屈運動、足部外転・外返しを抑制させた上で足関節背屈
を意識させたステップ動作練習、歩行練習を行った。
【最終評価】歩行は自立レベルで、右足底接地から踵離地に足関
節背屈が増大、足部回内が減少し左下肢の踵接地位置も安定した。
右立脚後期では足関節底屈が増大した。関節可動域検査は足関節
背屈 10/10(膝伸展位)・15/15(膝屈曲位)、底屈 60/70。徒手筋力
検査は足関節底屈 3/4、底屈(膝屈曲位)3/4、足部内返し 4/4。下
腿最大周径(cm)34.0/35.0、10m 歩行テスト 7.94 秒・15 歩であっ
た。【考察】本症例は、術後早期から術創部の癒合不良が認めら
れた。術創部の治癒が遷延している時期に積極的な運動により関
節機能の維持に努めても、可動域制限と筋力低下をきたし易いと
言われている。そのため全荷重開始時期に関節可動域制限と筋力
低下が残存していたと考える。瘢痕形成を強める術創部への離開
ストレスが生じないように運動方向や手の把持位置を考慮し、理
学療法を施行した。その結果、関節可動域と筋力が改善し、歩行
の安全性・スピードの向上に繋がったと考える。
14
1)佐野記念病院 リハビリテーション科
2)佐野記念病院 整形外科
key word:大腿骨頭壊死 人工股関節全置換術
中殿筋
【はじめに】本症例は右大腿骨頚部骨折に対し観血的骨接合
術(以下 ORIF)後に大腿骨頭壊死と診断され、右人工股関節
全置換術(以下 THA)を施行した。ORIF から右 THA 施行まで
長期間の疼痛と跛行から中殿筋の萎縮を認めたため、中殿筋
に着目して理学療法を行い、歩容の改善を得たので報告する。
尚、症例には発表の趣旨を説明し同意を得た。
【症例紹介】長距離バス運転手の 50 代男性。平成 X 年 Y 月
に右大腿骨頸部骨折を受傷。受傷 2 日目に他院で ORIF 施行
し、34 日目に当院へ転院。66 日目に当院を退院するも 117
日目でも骨癒合せず疼痛が残存した。また MRI で大腿骨頭壊
死を疑う所見もあり、受傷後 5 ヶ月で右 THA 施行した。
【初期評価】右 THA 後 12 日目の歩容は、右立脚初期から中
期にかけて骨盤が前傾し、立脚後期の股関節伸展を代償して
いると考えた。さらに右下肢は軽度外転位で接地するも体幹
右傾斜し、中殿筋の収縮が乏しかった。ROM(R/L)は股関節屈
曲 100/110、伸展 0/20 外転 25/45、外旋 30/40、MMT(R/L)は
股関節屈曲 3/5、外転 2/5、外旋 2/4、腹斜筋 4/4 で右臀部痛
は NRS4~5、院内 T 字杖歩行は自立、10m 歩行 15.8 秒であっ
た。長期の疼痛と跛行から中殿筋筋力低下を認め、Duchenne
徴候が出現していた。MRI 上でも中殿筋萎縮が認められた。
【理学療法】検査結果より中殿筋の筋力増強と収縮時期の再
学習で跛行が軽減すると考えた。右荷重時の中殿筋の筋出力
向上を目的に、CKC で股関節外転運動を臥位・立位で行い、
歩行中で適切な時期に中殿筋の賦活を狙いタッピングを行
った。
右遊脚相では股関節伸展制限による右立脚後期の過度の骨
盤右回旋位から、過度に左回旋させて右下肢を振り出し、骨
盤を固定位で股関節屈曲が不十分であると考え、腸腰筋、大
腿四頭筋の持続伸張と骨盤前後傾中間位での座位、立位で股
関節屈曲-伸展(屈曲伸展中間位までの)運動を行った。
【最終評価】術後 37 日目 ROM(R/L)は股関節屈曲 105/120、
伸展 10/20 外転 30/45、外旋 50/55、MMT(R/L)は股関節屈曲
4/5、外転 3/5、外旋 2/4、右臀部痛が NRS:2、院内独歩自立
で 10m 歩行 6.9 秒であった。立脚初期から中期にかけての右
臀部痛は軽度残存していたが、立脚中期以降の股関節伸展が
出現し、右下肢振り出しも過度に骨盤前後傾・回旋せずに股
関節屈曲して振り出せるようになり、Duchenne 徴候も軽減し
た。
【考察】右股関節伸展が 10°改善し、立脚後期に股関節伸展
が出現したことで、骨盤右回旋が軽減したと考えられた。立
位で骨盤固定させてのステップ動作を行うことで、右遊脚相
加速期に骨盤挙上、左回旋で代償しての振り出しも軽減した
と考える。Duchenne 徴候は軽減したが、外転 ROM が拡大した
ことにより最終域の中殿筋短縮位での筋力改善が不十分で
あったため、
筋力が MMT3 レベルでとどまったと考えられた。
13 第3セクション 運動器系Ⅱ OT・ST 推薦演題
食事動作を自立することにより、個人的原因帰属の向上を促せた
一症例
14 第3セクション 運動器系Ⅱ OT・ST 推薦演題
家事動作の獲得が、趣味活動へ繋がった一症例
宮前 美香 岡本 陽子 田中 健司
永山病院 リハビリテーション部
森田 智也
社会医療法人慈薫会 河崎病院
key word:趣味活動、活動性、家事動作
key word:脊髄損傷・自助具・食事動作
【はじめに】本症例は、すべての ADL は全介助であり、ベッド上臥床
が続いていた。また、抑うつ的(悲観的)な発言もあった。人間作業モ
デルスクリーニング(以下、MOHOST)を用いて、食事動作に介入し
たので報告する。
【症例紹介】
性別:男性 年齢:60 代後半の男性
疾患名:非骨傷性頸髄損傷 C5
既往歴:脳梗塞(右片麻痺)あるも詳細不明。
病前 ADL:全て自立。生活環境:アパート 1 階に独居。
訴え:なにもできない。早く死にたい。等の発言あり。
【評価(発症 4 週)】
ROM:制限なし。
筋力:三角筋 1+/2 上腕二頭筋 2-/3 手根伸筋 0/2上腕三頭筋 2-/2 指伸筋 2-/2 指屈筋 1+/1+
食事動作:右上肢は抗重力に対しての自動運動不可。左上肢は口ま
でのリーチ可能であるが、スプーンの把持動作が不可。
【作業療法経過】
介入当初(発症1か月後)、MOHOST では、交流技能、処理技能に
は利点があった。しかし、作業への動機、作業パターン、運動技能、
環境に問題があった。そこで実現可能である ADL 動作として非利き
手である左上肢を使用した食事動作を提案した。
食事動作を行うにあたり、運動技能として不足している部分は、コック
アップスプリントとスプーンを一体化した自助具と自作スリングを作成
することによって食事動作が自分でとれるようになり、食事は毎食自
分で食べるという日課ができ、作業パターンの変化を促せた。
発症 2 か月後には、運動技能が向上したことにより、スリングを外し、
自助具のみでの食事が可能となった。また、本人の左上肢において、
自己能力の評価も向上した。それに伴い、左上肢でベッドの操作、
テレビのチャンネルを変える等、今までは、スタッフに介助してもらっ
ていたことも自分で行うようになり、スタッフとの交流関係にも変化が
あった。
発症3 か月後には、今までベッドでとっていた食事を車いすに座り取
ることが可能となり、環境面でも向上がみられた。
発症 4 か月後には、車いすに座り、普通のスプーンでの食事も可能
となった。
【結果】
MOHOST の全般において向上が見られた。
食事動作が車椅子座位、普通スプーンのみでも可能となった。
【考察】
MOHOST を用いることで、現状の作業遂行の評価を適切に行うこと
ができたと考える。また、早期に自作スリングと自助具を導入したこと
によって、食事動作(出来る活動)を提供することが可能となった。そ
うすることで、本人の個人的原因帰属を向上させることにより、食事能
力の向上に繋がったと考える。また、訓練以外で左上肢の ADL 参加
を促せることができた。
15
【はじめに】左上腕骨骨幹部骨折を受傷後、趣味活動への参
加意欲の低下を認めた患者の精神面・活動性を評価し、家事
動作指導や環境設定を行った結果、趣味活動の再開に至った
ので、経過を以下に報告する。
[症例紹介]70 歳代女性。平成 X 年 Y 月自宅で転倒し受傷。当
日当院受診し左上腕骨骨幹部骨折と診断され入院。受傷 2 日
後、髄内釘手術施行。2 か月後、自宅退院し外来作業療法と
なる。趣味は日本舞踊、ニーズは家事の自立と日本舞踊の再
開であった。
【評価】肩関節自動屈曲 80°外転 70°外旋 45°内旋 L1 と可
動域制限が残存した状態で自宅退院。JOA スコア 65.5、患者
立脚肩関節評価法(以下 sh36)は疼痛 2.0 可動域 2.8 筋力
2.0 健康感 2.2 日常生活機能 2.1 スポーツ能力 0、FIM123/126
であった。日舞動作や、着物の着脱が困難なことから「もう
踊りもできない」と精神的落ち込みを認めた。加えて家事動
作へも影響を及ぼし、上肢挙上動作で疼痛を生じた事で家事
が億劫となり、日中は座って過ごす事が増え、体調不良の訴
えや活動性の低下を認めた。
【方法】まず、洗濯竿や食器の配置変更といった環境設定を
行い、疼痛が起こらないような家事動作指導を行い、自己に
て行えるという事を認識してもらった。次に、機能改善に応
じて可能な日舞動作を説明し、趣味活動への参加も促した。
[結果]外来開始 2 か月後、肩関節自動屈曲 95°外転 75°外
旋 55°内旋 Th11 と可動域改善は乏しいが、家事動作が自立
し、
「一人でできるようになった」との発言を認めた。JOA72.5
に向上した。sh36 は疼痛 3.3 可動域 3.2 筋力 2.0 健康感 3.5
日常生活機能 3.3 スポーツ能力 2.0 であり、疼痛、健康感、
日常生活機能、スポーツ能力が向上した。FIM 減点なしであ
った。日舞動作困難であったが体調不良の訴え減少し、「ま
た踊りたい」と趣味活動への参加意欲が生まれた。 6 か月
後、肩関節自動屈曲 125°外転 110°外旋 65°内旋 Th9 と可
動域改善し、JOA88 となる。sh36 は疼痛 3.7 可動域 4.0 筋力
3.3 健康感 3.8 日常生活動作 3.7 スポーツ能力 2.5 と改善を
認めた。着物の着脱や日舞動作は可動域内で可能となり、
「踊
れるようになった」と話し、意欲的に教室に参加できるよう
になった。
【考察】趣味活動の再開には、主婦として習慣化された身近
な家事動作が行えるようになる事で、精神面や日中活動性の
向上が図れると考え、まずは家事動作にアプローチした。可
動域の改善が乏しい段階でも家事動作が獲得できたことで
自信がつき、趣味活動に目が向けられるようになり「また踊
りたい」という気持ちが芽生えた。主婦である自己の役割の
再獲得により自己有能感が得られた事が、活動の広がりのき
っかけとなり、趣味活動の再開に至ったと考える。
15 第3セクション 運動器系Ⅱ OT・ST 推薦演題
発声時の姿勢制御の改善が発声に影響を与えたと思われた一症
例
16 第4セクション 運動器系Ⅲ
原発性胆汁性肝硬変と受傷機転が明らかでない第 2 腰椎圧迫骨
折を罹患した一症例
西田 克彦1) 高田 晃宏1) 仲原 元清 2)
1)大阪リハビリテーション病院
2)社会医療法人慈薫会 河崎病院
岸和田盈進会病院 リハビリテーション部
成田和香奈
玉置 理紗
高尾 耕平
大工谷新一
key word:原発性胆汁性肝硬変・腰椎圧迫骨折・脊柱後弯角
key word:dysarthria・発声・姿勢
【はじめに】今回、原発性胆汁性肝硬変(primary biliary
cirrhosis、以下 PBC)と、受傷機転が明らかでない第 2 腰
椎圧迫骨折を罹患した症例を担当した。骨折部の疼痛軽減お
よび圧潰の増悪を予防する目的で、端座位と立位の脊柱後弯
角に着目し、2 週間の理学療法を実施した結果、改善を認め
たので報告する。なお、症例には発表の趣旨を説明し同意を
得た。
【症例紹介】症例は 70 歳代の女性で、平成 X-10 年に PBC
と診断された。平成 X 年 4 月に肝性脳症による意識障害のた
め入院となった。同年 6 月に当院に転院後、腰痛の訴えがあ
り、検査を行った結果、第 2 腰椎圧迫骨折と診断され、前方
と左側方に椎体の圧潰を認めた。
【初期評価】骨折部の疼痛は左側への寝返りの際に生じ、
NRS7 から 8 点であった。また端座位・立位では、胸腰椎は
屈曲・左側屈・左回旋位、骨盤は後傾位であった。スパイナ
ルマウス(index 社)を用いて、端座位・立位における自動
運動による最大伸展時の胸腰椎の後弯角を測定した。その結
果、端座位で胸椎 53°、腰椎 39°、立位で胸椎 35°、腰椎
37°で、端座位・立位ともに胸腰椎は後弯位であった。MMT
は股関節の屈曲は両側共に 3 であった。また、端座位・立位
で体幹を最終可動域まで自己にて伸展困難であったため、体
幹の伸展の筋力低下があると判断した。本症例は、第 2 腰椎
の圧潰に加え、股関節の屈曲および体幹の伸展の筋力低下に
より、端座位・立位で最大伸展時でも腰椎の後弯が軽減せず、
その状態で胸腰椎が左側屈・左回旋位となるため、骨折部に
圧縮・回旋ストレスが生じていたと考えた。
【理学療法】端座位・立位で胸腰椎の左側屈・左回旋を修正
し、左後方への傾きを軽減させた上で、骨盤の前傾運動を練
習した。骨盤が前傾した位置で介助量を徐々に減らし、骨盤
を前傾位、体幹を伸展位に保つように練習した。また ADL
練習、寝返りの動作指導を合わせて行った。
【2 週間後評価】左側への寝返り時の骨折部の疼痛は消失し
た。端座位・立位で胸腰椎の屈曲・左側屈・左回旋位、骨盤
の後傾位が軽減した。最大伸展時の胸腰椎の後弯角は、端座
位で胸椎 29°、腰椎 21°、立位で胸椎 47°、腰椎 17°で、
初期評価時と比べ端座位では胸椎・腰椎の後弯が軽減し、立
位では腰椎の後弯が軽減した。股関節屈曲の MMT は両側共
に 4 となった。
【考察】端座位・立位で自動運動により腰椎を伸展する能力
が改善した。安静時の姿勢も改善したが、胸腰椎の後弯は残
存した。さらに治療を継続し、安静時に胸腰椎の後弯が軽減
することで、骨折部への圧縮・回旋ストレスを軽減する必要
がある。また本症例は PBC の増悪により腹水が貯留し、腹
部の圧迫感を回避するために、骨盤後傾・体幹左回旋の姿勢
を取る機会が増えたことが受傷機転となったとも推測され
る。今後は、PBC の症状の増悪による姿勢の変化について
も注意が必要である。
【はじめに】長谷川(1995)は,中枢神経系における運動制御の特
徴は,全身性に働き筋活動を制御する「姿勢の制御」機構と,目
的に応じた適切な(個々の)筋の緊張・協調性制御,つまり「機能
的運動」との統合的な働きであり,脳血管疾患などの神経生理学
的な変化により,筋制御のくずれを生じた結果あらわれた声と構
音・プロソディーの異常が dysarthria として聴取されると述べて
いる.今回,このような視点から運動制御の崩れが発声に影響を
及ぼしたと考えられる自験例について検討する.【症例紹介】<年
齢>80 代 <性別>女性 <医学的診断名>脳幹梗塞(橋腹側) <
主訴>「話しづらくなった」<神経学的所見>左片麻痺,左一側性
中枢神経性 dysarthria 【初期評価(病後 3W)】安静時呼吸に異
常所見はみられないも,発話時に声量の低下・声域の狭さがみら
れ,発話明瞭度は 2(時々わからない言葉がある)だった.安静時
座位において骨盤後傾,体幹屈曲しており,努力呼気時,体幹
の過屈曲を伴った.また触診において両側腹部補助呼気筋群の
運動性低下を認めた.最長発声持続時間(MPT)は 13 秒(cut
off < 10 秒)だが,努力性嗄声-気息性嗄声間の揺れを認め,平
均的な発声持続時間は 5 秒だった.また発声中,頸部の前突・
緊張亢進を認めた.【統合と解釈】発声時の姿勢(骨盤後傾・体
幹屈曲)から胸郭の容積減少(全肺気量の減少)・腹部補助呼気
筋群の筋力発揮の不十分さを生じ,発声時の呼気制御を困難に
しているものと考えた.また頸部の緊張亢進が発声を制御する器
官である喉頭の緊張調整に影響を与えているものと考えた.そこ
で胸郭容積の拡大,腹部補助呼気筋群・内外喉頭筋群の運動
性改善を目的とし,姿勢調整(骨盤中間位・体幹伸展・頭頸部軽
度屈曲)を行いつつ,呼気課題・発声課題を実施した.【最終評
価(病後 6M)】気息性嗄声・声の揺れの軽減,声域拡大により聴
覚印象的に声量に改善を認め発話明瞭度 1(すべて聴取可能)と
なった.呼気時,腹部補助呼気筋群が運動性改善し,5cmH2O
ブローイングは 13 秒であり,文レベルでの発声に必要な呼気制
御が可能な水準だった.MPT7 秒であり,ブローイングに比べて
短いことから喉頭調整に問題を認めた.平均的な発声持続時間
7 秒であり,MPT との著明な乖離はみられなくなった.呼気に伴
う体幹の過屈曲に軽減がみられたが,発声努力に伴う頸部の緊
張亢進は残存した.【考察】本症例では,各器官の運動制御にあ
わせ姿勢制御に対する介入を行った.呼吸面では,姿勢制御
(骨盤・体幹・頭頸部)改善により胸郭容積の拡大・腹部補助呼気
筋群の運動性向上が得られた結果,発声に必要な呼気の調整
が安定し,また発声面では,姿勢制御改善(特に頭頸部)による
喉頭調整機能の向上・呼気制御の安定による声門下圧調整の
安定が声質の改善に影響を与えたものと推測される.このことか
ら本症例において,姿勢制御面からのアプローチが有効であっ
たものと考えられる.
16
17 第4セクション 運動器系Ⅲ
易脱臼傾向を認めた左膝蓋骨脱臼骨折後の一症例
18 第4セクション 運動器系Ⅲ
四つ這い位を取り入れ、歩行自立となった右大腿骨頸部骨折の一
症例
藤井 萌 吉川 雅夫 斉藤 繁樹
医療法人大植会 葛城病院 リハビリテーション部
岡崎 通大
奥村秋月咲
大阪リハビリテーション病院 リハビリテーション療法部
key word:膝蓋大腿関節、膝蓋骨脱臼
key word:大腿骨頸部骨折・四つ這い位・歩行
【はじめに】左膝蓋骨脱臼骨折後に脛骨粗面移行術を行った
症例を担当した。以前より易脱臼傾向を認め、動作時には左
膝蓋大腿関節の動揺が生じていた。今回再脱臼予防を目的と
した理学療法を行い、動作の改善を認めたため報告する。
【症例紹介】16 歳男性。X 年 5 月に体育の授業にてバレーボ
ール中に左下肢で踏み込んだ際、左股関節が内転・内旋、左
膝関節が外反位を呈し(以下 knee-in)、左膝蓋骨脱臼骨折を
受傷。手術までの 1 ヶ月は左下肢伸展位固定で保存的加療を
行った。X 年 6 月に脛骨粗面移行術を施行され、翌日より理
学療法開始。術後 2 週間で退院後、外来通院となった。術後
3 週間は左下肢伸展位固定、4 週目より左膝関節可動域練習、
左膝関節伸展位での荷重、7 週目より左膝関節抵抗運動、8
週目より左膝関節屈曲位での荷重開始となった。
【術後評価】術後 1 週目の徒手筋力テスト(以下 MMT)では左
股関節外転 3、触診で左大腿筋膜張筋、左外側広筋の筋緊張
亢進を認めた。術後 8 週目の MMT は左股関節外転 5、左膝関
節屈曲 3、左膝関節伸展 3 で、伸展運動時における内側広筋
(以下 VM)の収縮が乏しかった。また左下肢のフォワードラン
ジ動作(以下左 FL)では、足底接地後から左股関節内転・内旋、
下腿外旋が生じ左側の knee-in を認めた。この時、左膝蓋大
腿関節の不安定性の訴えがあった。著明な左膝関節屈曲可動
域制限は無く、足部にも問題点は認めなかった。
【理学療法】左下肢伸展位固定中は左中殿筋の筋力強化練習
を中心に行い、さらに左外側広筋と左大腿筋膜張筋のリラク
ゼーションを行った。術後 8 週目では左 FL 時において左股
関節内転は軽度であったが、左股関節内旋・下腿外旋を伴う
左側の knee-in を認めた。そこで左 VM と左内側ハムストリ
ングス(以下 MH)の筋力強化練習を追加した。
【結果(術後 4 ヶ月)】
MMT は左股関節外転 5、
左膝関節屈曲 5、
左膝関節伸展 5 と筋力が向上し、左 FL では足底接地後の左
股関節内転・内旋、下腿外旋が減少したことで knee-in が改
善され、膝蓋大腿関節の不安定性の訴えが消失した。
【考察】本症例は画像所見で膝蓋骨高位、関節低形成を呈し
ており、左膝蓋骨亜脱臼の既往がある。今回左 FL 時に受傷
していることから、脛骨粗面移行術に加えて動作改善による
再脱臼予防の必要があると考えた。左下肢伸展位固定中から
knee-in が生じる問題点を予測し、早期から左股関節外転筋
力強化練習を行ったことが左 FL 時における左股関節内転の
制動に働いた。さらに術後 8 週目の再評価では左 FL 時に左
側の knee-in を認めたため、
治療プログラムの追加を行った。
その結果、VM による膝関節内側の安定化と MH による下腿外
旋の制動が協調的して行われたことで左膝蓋大腿関節の動
揺が軽減し、動作改善につながった。動作改善に加えて運動
時における膝蓋大腿関節の動揺が軽減したことから膝蓋骨
脱臼の再受傷の予防が可能ではないかと考えた。
【はじめに】今回、転倒により右大腿骨頸部骨折を受傷した症例
を担当した。膝立ち位・立位練習に加え、四つ這い位での練習を
実施した結果、歩行自立となったので報告する。尚、発表に際し
症例・家族の同意を得た。
【症例紹介】70 歳代女性。自宅で転倒し歩行困難となり、静養す
るも改善なく、35 日目に他院受診、右大腿骨頸部骨折と診断され
る。転倒 43 日目に右大腿骨人工骨頭置換術を施行、術後 2 週目
に当院転院となった。前院から、術後より全荷重は許可されてい
た。
【初期評価(術後 3 週目)】立位姿勢は、胸椎後彎、腰椎前彎、骨
盤前傾・右回旋、両股関節屈曲、右股関節軽度外転、右膝関節屈
曲、右足部内反位であった。左側荷重優位の姿勢であり、荷重時
痛は見られなかった。歩行は支持物が必要であり、平行棒内歩行
は自立ながらも、歩行周期全般で過度な骨盤前傾を認め、右荷重
応答期は骨盤右回旋、立脚中期では右股関節・膝関節屈曲位であ
った。
徒手筋力検査(以下 MMT、
R/L)は、
股関節屈曲 2/4、
伸展 2/4、
外転 2/4、
膝関節伸展 2/5、
足関節底屈 2/4、
体幹屈曲 2、
回旋 2/2。
立位下肢荷重量(以下R/L:kg)は安静時15 /35、
最大荷重時18/50。
片脚立位は右側不可能で、左側は 10.9 秒であった。以上より、
右荷重応答期から立脚中期にかけて右中殿筋・右大殿筋・腹直
筋・両腹斜筋(右側優位に低下)の筋力低下により骨盤右回旋が
生じ、右下肢荷重困難が歩行の安定性低下に繋がっていると考え
た。
【理学療法】支持物なし歩行自立を目標に、体幹・右下肢の筋力
増強練習を中心に実施した。右中殿筋・大殿筋の収縮を狙い、膝
立ち位や立位で右側への荷重練習を行うが、骨盤前傾位・右回旋
を認めていたため、
術後4週目、
四つ這い位での練習を追加した。
四つ這い位にて骨盤後傾位にし、腹直筋・両側腹斜筋を収縮させ
ながら右側へ荷重し右中殿筋・大殿筋の収縮を図った。その後、
膝立ち位・立位での右側荷重練習を行った。
【最終評価(術後 10 週目)】立位姿勢は、腰椎前彎軽減、骨盤前
傾・右回旋軽減、右股関節外転が軽減した。歩行時の支持物は不
要となり、歩行周期全般で認めた過度な骨盤前傾は軽減し、右荷
重応答期で骨盤右回旋の軽減、立脚中期で右股関節・膝関節屈曲
の改善を認め、自立となった。MMT は股関節屈曲 4/4、伸展 3/4、
外転 3/4、
膝関節伸展 4/5、
足関節底屈 3/4、
体幹屈曲 4、
回旋 4/4。
下肢荷重量は安静時 25/25、最大荷重時 46/50。片脚立位は右側
9.8 秒、左側は 46.0 秒であった。
【考察】理学療法開始時、膝立ち位や立位での右側への荷重練習
を行うも、骨盤前傾・右回旋し、右中殿筋・大殿筋の収縮が乏し
かった。四つ這い位では、股関節筋群と体幹筋群は協調して働く
と言われており、骨盤前傾・右回旋を修正し易いと考えた。四つ
這い位での練習により骨盤前傾が軽減し、腹筋群の収縮が得られ
た。その後、膝立ち位・立位での右側荷重練習における、骨盤右
回旋が軽減し、右中殿筋・大殿筋の収縮が増加し、筋力向上に繋
がったことで、歩行自立に至ったと考察する。
17
19 第4セクション 運動器系Ⅲ
20 第4セクション 運動器系Ⅲ
肩関節鏡視下手術後、上肢挙上運動制限に対し肩甲上腕関節に着
目した一症例
超高齢患者における左大腿骨転子部骨折術後の一症例
津本 和寿 今奈良 有
山元 慶紀 1) 森 健一郎 1) 小倉亜弥子 1) 小藤 定 1)
永山病院リハビリテーション部
阪根 寛(MD)2) 伊藤 陽一(MD)3)
1)佐野記念病院 リハビリテーション科
key word:超高齢患者・左大腿骨転子部骨折・インソール
2)佐野記念病院 整形外科
3)大阪市立大学 大学院医学研究科 整形外科学
【はじめに】超高齢患者では筋力増強の効果が得られにくく ADL
が低下し、二次的に廃用症候群を招くことにより、自宅復帰困難
となるケースが多い。今回、左大腿骨転子部骨折術後に杖歩行の
安定性が低下した症例に対してインソールを用いて筋活動を促
したことにより、杖歩行の改善に至ったので報告する。
【症例紹介】94 歳の女性で独居。病前 ADL は屋内杖歩行自立、
屋外シルバーカー歩行自立であった。X 年 Y 月にデイサービス中
に転倒、左大腿骨転子部骨折を受傷し、4 日後に ɤ-nail 術を施
行した。既往歴として 8 年前の両 TKA 術後に左腓骨神経麻痺様症
状を呈していた。
【初期評価(術後 23 日)】立位姿勢は骨盤後傾・左回旋し、左
股関節屈曲・内旋、左膝関節屈曲、左足部外転・回内位であり、
左内側縦アーチの低下と下腿内旋位であった。杖歩行は左股関節
外旋位で接地し、立脚中期にかけて股関節伸展が減少しており、
骨盤左回旋・右挙上、股関節軽度外転・内旋が生じ、左側への動
揺が見られた。ROM-t(右/左)は、足関節背屈 10°/5°であっ
た。MMT は股関節伸展・外転 3/2、足関節背屈 4/2、足趾屈曲・
母趾外転 4/3、足部内がえし 3/2、足部外がえし 3/2 であった。
触診では、立位時の左大殿筋、歩行時の左大・中殿筋の筋緊張低
下を認めた。
【理学療法経過】左内側縦アーチの低下に対して、杖歩行開始か
ら 4 日後にパッドと剛性の高いスポンジで作成したインソール
を舟状骨底部に挿入した。左足部アライメントの修正により立位
の左下腿内旋、足部外転位が軽減し、それに伴い左股関節・膝関
節の伸展向上を認め、骨盤後傾・左回旋位が軽減した。また触診
にて左大殿筋の筋緊張向上を認めた。今回、左大・中殿筋には筋
力低下に加えて、左足部アライメント不良による筋緊張の低下を
認めた。インソールを用いて、動的な左立脚期の筋緊張向上を目
的としたステップ動作や歩行訓練を行った。さらに左足関節背屈
可動域訓練、左股関節伸展・外転、足関節背屈、足趾屈曲の筋力
増強訓練を並行して行った。
【最終評価(術後 61 日)】院内 ADL は術後 24 日にシルバーカー
歩行が自立し、術後 41 日で病棟内杖歩行が自立となった。左足
関節背屈は 10°/10°と向上し、MMT は股関節伸展・外転 3/3、
足関節背屈 4/3、足趾屈曲 4/4、足部外がえし 3/3 と向上した。
杖歩行は左股関節外旋位の接地が軽減し、立脚中期に左股関節伸
展の向上を認め、骨盤左回旋・右挙上、股関節軽度外転・内旋が
軽減した。また左側への動揺が改善した。触診では歩行時の左
大・中殿筋の筋緊張が向上した。
【考察】本症例は超高齢患者であり、手術侵襲による大殿筋の筋
力低下が生じ、歩行時に骨盤左回旋、股関節屈曲・内旋が生じて
いた。また左足部アライメントに伴う左大腿外旋、下腿内旋位に
より左股関節外旋位で接地し、左大殿筋の筋緊張を得られにくく
なっていた。さらに、左足部アライメントにより骨盤右挙上、左
股関節軽度外転が生じ、中殿筋の筋収縮が得られにくくなってい
たことで歩行再獲得が遅延し、長期入院に至る要因があった。今
回、筋力・筋緊張低下の 2 つの要因があった左大・中殿筋に対し
て早期よりインソールを用いて、歩行時の大・中殿筋の筋活動を
ステップ動作で促したことで杖歩行が改善し、早期退院に至った
と考える。
key word:肩関節拘縮・関節鏡視下肩峰下除圧術・肩甲上腕関
節
【はじめに】今回左肩関節拘縮を発症後に関節鏡視下肩峰下
除圧術(以下 ASD)
、関節包切開術を施行され、後療法に難渋
した症例を報告する。尚、症例には発表の趣旨を説明し同意
を得た。
【症例紹介】40 代女性、X 年 1 月頃より疼痛出現し、上肢挙
上困難となった。その後当院へ紹介受診され左肩関節拘縮と
診断される。6 月に手術施行され固定期間、運動制限はなか
った
【初期評価】本症例は 40 代の女性であり、家事業に加え仕
事も行っている。よって今回は前方及び側方での作業を行う
ために屈曲及び外転方向への ROM 改善を図る必要があると考
えた。術後約 1.5 ヵ月の関節可動域(以下 ROM)は、肩関節
屈曲(右/左)180°/110°外転 180°/75°1st 外旋 95°/15°
1st 内旋 40°/40°2nd 外旋 110°/15°2nd 内旋 90°/20°で
あった。さらに肩甲上腕関節(以下 GH 関節)の可動性を計
測する為肩甲骨を固定し計測したところ、屈曲 120°/45°外
転 120°/30°であり GH 関節での制限も強い状態であった。
第一に 1st 外旋の可動域低下により挙上時の外旋方向の制限
がみられていることを考えた。鳥口上腕靭帯部・肩甲下筋部
に圧痛を認めており、肩甲骨固定位での伸展・内転の ROM を
計測したところ伸展 50°/15°内転 30°/-15°であり特に鳥
口上腕靭帯部の伸張性低下が強いと考えられた。第二に触診
にて骨頭の後方への副運動の低下が認められていた。1st に
比べ 2nd 内旋の可動域がより制限されていることや小円筋の
緊張・圧痛が特に強かった為小円筋の伸張性低下が考えられ
た。
【理学療法】鳥口上腕靭帯への超音波・ストレッチング及び
肩甲下筋・小円筋のストレッチングを実施した。その後に屈
曲・外転方向へ他動運動を実施した。
【最終評価】術後約 2 ヶ月後 ROM は(以下左のみ)屈曲 120°
外転 85°1st 外旋 25°2nd 外旋 25°2nd 内旋 40°へ改善を認
めた。また肩甲骨固定位の GH 関節 ROM も屈曲 85°外転 45°
内転 0°伸展 30°と改善認めた。
【考察】伊藤らは屈曲及び外転可動域の改善時期と 1st・2nd
外旋可動域の改善時期が一致していると報告している。矢野
らは屈曲では平均 40°外転では 10°から外旋の動きが出現
したと報告している。今回鳥口上腕靭帯及び肩甲下筋アプロ
ーチにより屈曲・外転の改善を認めたことより 1st 外旋の制
限が強く影響していたのではないかと考える。さらに小円筋
アプローチにより伸張性が得られたことにより骨頭の後方
への副運動が改善し屈曲方向への可動域が改善されたので
はないかと考える。今回は他動 ROM に着目しアプローチを実
施した。しかし本症例が日常生活で上肢作業を行うためには
自動 ROM の改善が必要となる。よって今後筋力増強練習を加
え自動 ROM の改善を行っていく必要があると考える。
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第 10 回泉州ブロック新人症例発表会 運営組織・委員一覧
(下線は責任者、順不同)
大 会 長
準備委員長
相 談 役
鈴木 俊明
柳澤 博志
大工谷新一
三原 修
中村
昌司
守安 久尚
村西 壽祥
運
営 局
演題部
松本
岩見
城戸
今城
松田 洋平
岡
健司
藤野 文崇
西田
平
竹村
大希
勝秀
享子
安田 一平
森 健一郎
塩田 修平
南田 史子
加島 知明
谷埜予士次
今津 義智
今奈良 有
橋本 雅至
会場部
鎗水 崇文
大仲 知子
坂井 広志
打越慶一郎
宮前 直希
山口 和美
楠田 啓介
西廼 健
甲斐 昭嘉
下代
鈴木
鳥山 公成
岡
賢良
辻井健太郎
伊達 嵩
事
務 局
広報部
総務部
財務部
隆幸
大輔
悠佑
恭祐
浜田 仙子
西川正一郎
竪川 勇樹
富山 真
南口 真
真也
貴子
編 集 後 記
新人症例発表会は記念すべき第 10 回を迎えます。これは泉州ブロックの理学療法士のみならず、作業療法
士、言語聴覚士、皆様方のご尽力の賜物と感謝しております。
本発表会は、泉州ブロックの理学療法士がコーディネータ、査読指導者、予演会指導者となり、新人理学療
法士に発表の協力を行います。このスタイルは第 1 回から続けています。これは職場で指導者のいない 1 人職
場の新人理学療法士にもより良い発表ができるように、地域で新人理学療法士を育てようと言う想いからです。
この温かい想いが実り、第 20 回、30 回と続くことを願いたいと思います。
最後になりましたが、運営にご尽力賜りました皆様に深く感謝いたします。
(公社)大阪府理学療法士会泉州ブロック
第 10 回泉州ブロック新人症例発表会
準備委員長 柳澤博志
第 10 回泉州ブロック新人症例発表会誌
第 10 号
平成 27 年 1 月発行
発
行 公益社団法人 大阪府理学療法士会 泉州ブロック
発行責任者 第 10 回泉州ブロック新人症例発表会 大会長 鈴木俊明
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会場案内図
〒598-0005
泉佐野市市場東 1 丁目 295 番地の 1
TEL:072-469-7101
エブノ泉の森ホール
公益社団法人 大阪府理学療法士会 泉州ブロック
・泉州ブロックホームページ
・Facebook ページ
http://senshubrock.blog.fc2.com/
http://www.facebook.com/opta.senshu
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