伸展力誘導性 ATP が骨芽細胞の細胞外マトリックス タンパク遺伝子発現に及ぼす影響 日本大学大学院歯学研究科歯学専攻 仮谷 (指導:清水 典佳 教授,鈴木 太良 直人 1 教授,田邉 奈津子 准教授) 要 旨 歯槽骨に加わる適度な矯正力は,骨芽細胞によるプロスタグランジン (PG) E2 産生を増加させ,そのオートクリン作用によって骨形成が促進すると報告され ている。メカニカルストレスが負荷された骨芽細胞は,アデノシン 3-リン酸 (ATP) を産生し,P2X7 受容体を介して PGE2 およびリゾホスファチジン酸産生 を誘導して骨形成を促進する。 そこで,本研究では,そのメカニズムを解明するために,骨芽細胞への伸展 力 (TF) 負荷で誘導される ATP が PGE2 産生に及ぼす影響を,P2X7 受容体の選 択的アンタゴニスト A438079 を用いて検討した。また,PGE2 がオートクリン に作用して細胞外マトリックスタンパクの発現に及ぼす影響を,COX-2 選択的 阻害剤である NS398 を用いて検討した。 PGE2 産生,COX-2,I 型コラーゲン,bone sialoprotein (BSP),osteopontin (OPN) および osteocalcin (OCN) の発現は,6% TF 負荷によって有意に増加し た。TF 負荷で増加した PGE2 産生と COX-2 発現は,A438079 添加によって有 意に減少した。また,TF 負荷で増加した COX-2,BSP,OPN および OCN 発現 は,NS398 添加によって有意に減少したが,I 型コラーゲン発現にはその影響 は認められなかった。 2 以上のことから,骨芽細胞への TF 負荷によって誘導された ATP は,P2X7 受 容体を介する PGE2 産生と COX-2 発現を増加させ,PGE2 のオートクリン作用 によって,非コラーゲン性タンパク発現を増加させることが示唆された。 ランニングタイトル:TF 誘導性 ATP の ECMPs 発現への関与 キーワード:伸展力,ATP,P2X7 受容体,PGE2,ECMPs,骨形成 3 緒 言 骨リモデリングは,ホルモン,サイトカインあるいはメカニカルストレスの ような外的因子によって調節されている。また,成人における骨量は,破骨細 胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成のバランスによって維持されている。 骨へのメカニカルストレスがない状況下では骨形成が減少することから,メカ ニカルストレスは,骨量を調節する主要な因子の一つと考えられており,適度 なメカニカルストレスが負荷されることによって,骨リモデリングが起こるこ とが知られている 1)。 ヌクレオチドの一つであるアデノシン 3-リン酸 (ATP) は,骨芽細胞へのメカ ニカルストレス負荷に応じて産生される主要なメディエーターである 2,3)。伸展, 剪断応力,培地交換あるいは浸透圧等によるメカニカルストレスは,様々な細 胞において,ATP 産生を誘導する 4-8)。さらに,メカニカルストレス負荷によっ て産生された ATP は,細胞内 Ca2+ 濃度の上昇を介して Ca2+ 依存性エキソサイ トーシスに関わる 9)。これらのストレス応答性分子としての細胞外 ATP の作用, メカニカルストレスによって誘導される ATP の産生は,細胞障害を伴わないこ とが報告されている 10)。 P2 受容体は,骨芽細胞および破骨細胞で発現し,イオンチャネル型受容体で 4 ある P2X ファミリーおよび G タンパク共役型受容体である P2Y ファミリーの 2 つのグループに分けられる 11) 。メカニカルストレスや炎症によって放出された ATP は,骨リモデリングに対して,オートクリン/パラクリン作用を介して機能 する 5,12,13) 発現し 。また,骨芽細胞では P2X 受容体および P2Y 受容体の両方が 2,14) ,マウス頭蓋冠細胞の P2X7 受容体は剪断応力によって活性化 される 5)。さらに,骨芽細胞上の P2X7 受容体チャネルの開口が,メカニカルス トレス負荷による骨形成に影響を及ぼすことも明らかにされている 15)。 P2X7 ノックアウトマウスでは,長骨の長さに変化はなく,膜内骨化が減少す ることが報告されている 16)。これらの報告は,P2X7 受容体が,メカニカルスト レス応答性を有することで骨形成に関与することを示唆している。さらに, P2X7 受容体のアゴニストである 3' -O- (4-benzoyl) benzoyl ATP (BzATP) は,骨 芽細胞のリゾホスファチジン酸 (LPA) と PGE2 産生を誘導し,骨形成を促進す ることが報告されている 17)。 歯科矯正治療時における歯の移動によって生じる歯周組織中の細胞外マトリ ックス (ECM) の再構築には,歯肉,歯根膜および歯槽骨それぞれのリモデリン グが重要な役割を担っている 18) 。しかしながら,骨芽細胞への伸展力 (TF) 負 荷によって誘導される ATP が PGE2 産生に及ぼす影響,産生された PGE2 が細 胞外マトリックスタンパク (ECMPs) 発現に及ぼす影響については不明な点が 5 多い。そこで本研究では,そのメカニズムを解明するために,骨芽細胞への TF 負荷で誘導される ATP が PGE2 産生に及ぼす影響を,P2X7 受容体の選択的ア ンタゴニスト A438079 を用いて検討した。また,PGE2 がオートクリンに作用 して ECMPs 発現に及ぼす影響を,COX-2 選択的阻害剤である NS398 を用いて 検討した。 6 材料および方法 1.細胞培養 本研究には,骨芽細胞として MC3T3-E1 細胞 (理研バイオリソースセンター, 茨城) を用いた。MC3T3-E1 細胞の培養は,10% ウシ胎児血清 (FBS; HyClone Laboratories,Logan,UT,USA) と 1% ペニシリン-ストレプトマイシン (Sigma-Aldrich,St. Louis,MO,USA) を含む -minimal essential medium ( -MEM; Gibco BRL,Rockville,MD,USA) を培養液として用いて,37 ºC,5% CO2 存在下で行った。培養液は 3 日毎に交換した。 2.TF 負荷 Flexercell Strain Unit (FX-3000,Flexcell Corp.,Hillsborough,NC,USA) を 用いて MC3T3-E1 細胞に TF を負荷した 19)。MC3T3-E1 細胞を, flexible-bottomed 6-well plates (Flexcell Corp.,Hillsborough,NC,USA) に 2×104 cells/cm2 とな るように播種し,Flexercell Strain Unit に設置後,陰圧を負荷して plate 底面を 下方に伸展させた。TF は放射状および円周方向に均等であり 20) ,その強度は 6% TF すなわち plate 底面の表面積を 6%増加させる強度を使用し,6 cycles/min (5 sec strain,5 sec relaxation) で細胞に 3 hours/day の TF を負荷した 19)。コ 7 ントロールは,同一条件で flexible-bottomed 6-well plates に播種し,TF の負荷 を加えないものとした。なお,P2X7 受容体アンタゴニストとして用いた A438079 の濃度は 10 μM 21,22) とし,COX-2 選択的阻害剤 NS398 の濃度は 0.5 μM とした 23,24)。 3.Enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) 細胞に TF 負荷後,FBS を含まない培地でさらに 24 時間培養し,培養上清を ELISA の試料とした。PGE2 産生量は,市販の ELISA kit (R&D systems, Minneapolis,MN,USA) を用いて定量した。 4.Real-time polymerase chain reaction (real-time PCR) 細胞を flexible-bottomed 6-well plates に播種し,14 日間培養を行った。培養 3,7 および 14 日目の細胞から RNeasy Mini Kit (QIAGEN,Hilden,Germany) を 用いて全 RNA を抽出した。RNA 量は NanoDrop 1000 (ND-1000; Thermo Fisher Scientific,Wilmington,DE,USA) を用いて測定した。Prime Script RT reagent kit (Takara Bio,滋賀) で mRNA から complementary DNA (cDNA) を作成し, SYBR-Green I を用いたインターカレンター法で,real-time PCR を行った。第 1 表に使用した上・下流のプライマー配列を示す。遺伝子の増幅は Smart Cycler 8 (Cepheid,Sunnyvale,CA,USA) を用い,SYBER Premix Ex Taq (Takara Bio, 滋賀) に cDNA を加え 95 ºC,10 秒間加熱した後,95 ºC で 5 秒間の denaturation, 60 ºC で 20 秒間の annealing/extension を 1 サイクルとして 40 サイクルを行っ た。結果の解析は Smart Cycler Software version 2 を用いて行った。あらかじめ 作成した検量線をもとに遺伝子の増幅量を求め,グリセルアルデヒド 3-リン酸 脱水素酵素 (GAPDH) の増幅量で補正した値を mRNA 発現量とした 25)。 5.統計学的分析 実験はいずれも 3 回繰返し,結果は平均値と標準誤差で表した。3 群以上の比 較は two-way ANOVA を行った後,Bonferroni による多重比較を行った。なお, 危険率 5% 未満を有意差とした。 9 結 果 1.TF が P2X7 受容体を介した PGE2 産生に及ぼす影響 骨芽細胞への 6% TF 負荷が,P2X7 受容体を介した PGE2 産生に及ぼす影響 について検討した (第 1 図)。 培養 3,7 および 14 日目の PGE2 産生量は,6% TF 負荷によって,コントロ ールと比べてそれぞれ 2.6,1.8 および 1.6 倍有意に増加した。TF 負荷によって 増加した培養 3 日目の PGE2 産生量は,P2X7 受容体の選択的アンタゴニストで ある A438079 添加によって有意に減少したが,培養 7 および 14 日目には有意 な減少は認められなかった。 2.TF が P2X7 受容体を介した COX-2 遺伝子発現に及ぼす影響 6% TF 負荷が P2X7 受容体を介した COX-2 の遺伝子発現に及ぼす影響を検討 した (第 2 図)。 培養 3,7 および 14 日目の COX-2 の遺伝子発現は,6% TF 負荷によって, コントロールと比べてそれぞれ 2.6,2.1 および 2.2 倍有意に増加した。TF 負荷 によって増加した培養 3 日目の COX-2 発現は,A438079 添加によって有意に減 少したが,培養 7 および 14 日目には有意な減少は認められなかった。 10 3.TF による COX-2 遺伝子発現への NS398 の影響 6% TF 負荷による COX-2 の遺伝子発現への NS398 の影響を検討した (第 3 図)。 培養 3,7 および 14 日目に 6% TF 負荷によって増加した COX-2 の遺伝子発 現は,NS398 添加によって有意に減少した。 4.TF および NS398 が ECMPs 遺伝子発現に及ぼす影響 6% TF 負荷および NS398 が ECMPs の遺伝子発現に及ぼす影響を検討した (第 4 図)。 培養 3 および 7 日目の I 型コラーゲンの遺伝子発現は,6% TF 負荷によって, コントロールと比べてそれぞれ 2.0 および 1.7 倍有意に増加したが,培養 14 日 目の I 型コラーゲン発現には,TF 負荷の影響は認められなかった。TF 負荷によ って増加した培養 3 および 7 日目の I 型コラーゲン発現には,NS398 添加の影 響は認められなかった (第 4 図 a)。 培養 7 および 14 日目の bone sialoprotein (BSP) の遺伝子発現は,6% TF 負 荷によって,コントロールと比べてそれぞれ 4.8 および 3.3 倍有意に増加したが, 培養 3 日目の BSP 発現には,TF 負荷の影響は認められなかった。TF 負荷によ って増加した培養 7 および 14 日目の BSP 発現は,NS398 添加によって有意に 11 減少した (第 4 図 b)。 培養 3,7 および 14 日目の osteopontin (OPN) の遺伝子発現は,6% TF 負荷 によって,コントロールと比べてそれぞれ 2.3,2.8 および 1.5 倍有意に増加し た。TF 負荷によって増加した培養 7 日目の OPN 発現は,NS398 添加によって 有意に減少したが,培養 3 および 14 日目の OPN 発現には,NS398 添加による 有意な減少は認められなかった (第 4 図 c)。 培養 14 日目の osteocalcin (OCN) の遺伝子発現は,6% TF 負荷によって,コ ントロールと比べて 1.7 倍有意に増加したが,培養 3 および 7 日目の OCN 発現 には,TF 負荷の影響は認められなかった。TF 負荷によって増加した培養 14 日 目の OCN 発現は,NS398 添加によって有意に減少した (第 4 図 d)。 12 考 察 矯正治療時のメカニカルストレスによって圧迫側では骨吸収が起こり,牽引 側では骨形成が起こる 26,27) 。圧迫力は,骨芽細胞の PGE2 産生を介して骨芽細 胞の分化を促進する 28) のみでなく,破骨細胞の分化を促進する炎症性サイトカ インやメディエーターを誘導することも報告されている 27) 。しかしながら,牽 引側における骨形成に対する PGE2 の役割については未だ不明な点が多い。 ATP は,骨芽細胞から恒常的または誘導的に産生される 5,29)。Komarova ら 30) は,in vitro においてラット頭蓋冠細胞が産生し細胞外に放出する ATP 産生が骨 形成を促進すること,培養 10-14 日目における ECM 中の ATP 濃度が約 5 倍に 増加することで,骨芽細胞の分化が促進されることを報告した。 ATP および P2X7 受容体のアゴニストである BzATP は,Na+,K+ および Ca2+ を透過する P2X7 受容体のチャネルの開口を誘導する。この P2X7 受容体の活性 化は,細胞内 Ca2+ 濃度の上昇および細胞膜の脱分極を誘導する 31) 。さらに, BzATP は,ホスホリパーゼ D およびホスホリパーゼ A2 (PLA2) の活性化を介し て LPA の産生を誘導すること,また,COX-2 は,LPA 受容体とともに,骨芽細 胞における P2X7 受容体を介した骨形成に関与することが報告されている 17) 。 これらの背景から,著者は,1) TF が骨芽細胞に負荷されることによって,細胞 13 外へ ATP が放出され,骨芽細胞の P2X7 受容体が活性化される,2) 活性化され た P2X7 受容体を介して PGE2 産生が促進される,さらに,3) 産生促進された PGE2 がオートクリン作用によって ECMPs の遺伝子発現に影響を及ぼすのでは ないか,という仮説に基づいて,本研究を企図した。具体的には,骨芽細胞様 細胞である MC3T3-E1 細胞に TF 負荷し,産生誘導された ATP が P2X7 受容体 を介して PGE2 産生に及ぼす影響を調べ,さらに,産生された PGE2 が ECMPs の遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。その結果,3 hours/day の TF 負荷は, MC3T3-E1 細胞の PGE2 産生を促進し,P2X7 受容体競合的アンタゴニスト A438079 21,22) は,TF 負荷による影響を有意に抑制した。Genetos ら 5) は, MC3T3-E1 細胞へのメカニカルストレス負荷によって誘導された ATP は, PGE2 産生を誘導すると報告している。一方,P2X7 ノックアウトマウスの骨芽細胞で は,メカニカルストレス負荷によって誘導された PGE2 産生量は,wild-type マ ウスに比べて減少していたと報告されている 32) 。これらの報告は,メカニカル ストレス負荷によって細胞外に放出された ATP は,P2X7 受容体を活性化し, PGE2 産生を促進することを示唆している。 PGE2 は,細胞膜リン脂質(主にホスファチジルコリン)から PLA2 の作用で 遊離して生合成されるアラキドン酸からなる生理活性物質エイコサノイドの一 つである。COX-2 は,アラキドン酸を PGE2 に変換させる酵素であり,メカニ 14 カルストレスや炎症によってその発現は誘導される 33) 。さらに,骨芽細胞に加 わる適度な矯正力は,骨芽細胞による PGE2 産生を増加させ,そのオートクリン 作用によって骨形成を促進したと報告されている 34)。本研究では,6% TF 負荷 が,骨芽細胞による COX-2 発現を促進し,PGE2 産生を増加させた。さらに, A438079 は,6% TF 負荷によって増加した PGE2 産生および COX-2 発現を減少 させた。これらの結果から,TF 負荷によって誘導された ATP は P2X7 受容体を 活性化し, COX-2 発現の増加を介して PGE2 産生を促進することが示唆された。 また,本研究で使用した COX-2 選択的阻害剤 NS398 は,COX-2 の酵素活性 を阻害するだけでなく,転写活性も抑制すると報告されており 23,24),本研究結 果では,NS398 はすべての培養日数において,6% TF 負荷による COX-2 の遺 伝子発現の増加を減少させた。 I 型コラーゲンは,骨の ECM における主要な有機成分であり,石灰化におい て,ヒドロキシアパタイト結晶核形成のための足場になると考えられている。 一方,非コラーゲン性タンパクは,ヒドキシアパタイト結晶の形成および成長 の調節において重要な役割を担う 35) 。骨における主要な非コラーゲン性タンパ クとして,BSP,OPN および OCN が知られている 36)。BSP は,高度にリン酸 化およびグリコシル化されたシアロタンパクである。ECM 中に分泌された BSP は,ヒドロキシアパタイト結晶核形成を介して骨の初期石灰化に関与する 15 37) 。 OPN は,高度にリン酸化したリンタンパク質で,骨の石灰化 ECM における主 要な構成成分である 38)。また,OPN は,生体防御および組織修復などにおいて, 骨形成および骨リモデリングに間接的に作用する 39)。OCN は,骨芽細胞におい て特異的に発現する -カルボキシグルタミン酸含有タンパクであり,Ca2+ と結 合することで過剰な石灰化を抑制する 40)。本研究では,6% TF 負荷が I 型コラ ーゲンの発現を促進させる一方,NS398 が非コラーゲン性タンパクの発現を抑 制することが明らかとなった。また,TF 負荷によって産生された PGE2 は,培 養初期においては P2X7 受容体依存的に産生され,産生された PGE2 は,オート クリン因子として作用することが示唆された。これらの結果から,TF 負荷によ って増加する PGE2 が,骨芽細胞の非コラーゲン性タンパク発現を増加させ,石 灰化の環境づくりに関与する可能性が考えられた。 したがって,骨芽細胞への 6% TF 負荷によって誘導された ATP は,培養初期 において,P2X7 受容体を介する PGE2 産生と COX-2 発現を増加させ, PGE2 のオートクリン作用によって非コラーゲン性タンパク発現を増加させることが 示唆された。 なお,本研究結果では,I 型コラーゲンの発現が TF 負荷により産生された PGE2 の影響を受けなかったこと,培養後期において TF 負荷による PGE2 産生 が A438079 によって抑制されなかったことなどから,骨芽細胞のコラーゲン代 16 謝における TF 負荷の P2X7 受容体を介した LPA および PGE2 の相互作用につい ては,今後の検討が必要である。 17 結 論 骨芽細胞への TF 負荷で誘導される ATP が PGE2 産生に及ぼす影響および 産生された PGE2 が ECMPs の遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。 その結果,以下に示す結果および結論を得た。 1.培養 3,7 および 14 日目の PGE2 産生量は,6% TF 負荷によって有意に増加 し,3 日目の PGE2 産生量は,P2X7 受容体の選択的アンタゴニスト A438079 添加によって有意に減少した。 2.培養 3,7 および 14 日目の COX-2 の遺伝子発現は,6% TF 負荷によって有 意に増加し,3 日目の COX-2 発現は,A438079 添加によって有意に減少した。 さらに,3,7 および 14 日目の COX-2 発現は,NS398 添加によって有意に減少 した。 3.培養 3 および 7 日目の I 型コラーゲンの遺伝子発現は,6% TF 負荷によって 有意に増加した。しかし,TF 負荷によって増加した 3 および 7 日目の I 型コラ ーゲン発現には,NS398 添加の影響は認められなかった。 4. 培養 7 および 14 日目の BSP の遺伝子発現は,6% TF 負荷によって有意に増 加し,7 および 14 日目の BSP 発現は,NS398 添加によって有意に減少した。 5. 培養 3,7 および 14 日目の OPN の遺伝子発現は,6% TF 負荷によって有意 に増加し,7 日目の OPN 発現は NS398 添加によって有意に減少したが,3 およ 18 び 14 日目の OPN 発現にはその影響が認められなかった。 6. 培養 14 日目の OCN の遺伝子発現は,6% TF 負荷によって有意に増加し,14 日目の OCN 発現は,NS398 添加によって有意に減少した。 以上のことから,骨芽細胞への 6% TF 負荷によって誘導された ATP は,培養 初期において,P2X7 受容体を介する PGE2 産生と COX-2 発現を増加させ,さ らに PGE2 のオートクリン作用によって非コラーゲン性タンパク発現を増加さ せて骨形成を促進することが示唆された。 19 謝 辞 本研究遂行に当たり,格別たるご指導ご鞭撻を賜りました日本大学歯学部矯 正学講座の清水典佳教授に謹んで心より感謝申し上げます。 また,本研究を通じ多大なるご協力とご助言を賜りました本学部生化学講座 の鈴木直人教授および田邉奈津子准教授,衛生学講座の前野正夫教授および川 戸貴行准教授を始め,矯正学講座,生化学講座および衛生学講座の皆様に深く 感謝致します。 本研究は,平成 23 年度大学院歯学研究科研究費 (学生分,仮谷太良),平成 24 年度大学院歯学研究科研究費 (学生分,仮谷太良) および平成 25 年度大学院 歯学研究科研究費 (学生分,仮谷太良) によってなされた。 20 引用文献 1) Robling AG, Castillo AB, Turner CH (2006) Biomechanical and molecular regulation of bone remodeling. 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Virchows Arch A Pathol Anat Histopathol 417, 505-512. 28 第 1 表 プライマーの配列 29 第 1 図 TF が P2X7 受容体を介した PGE2 産生に及ぼす影響 ** p ˂ 0.01 vs control, ++ p ˂ 0.01 vs 6% TF 30 第 2 図 TF が P2X7 受容体を介した COX-2 遺伝子発現に及ぼす影響 * p ˂ 0.05 vs control, ** p ˂ 0.01 vs control, ++ p ˂ 0.01 vs 6% TF 31 第 3 図 TF による COX-2 遺伝子発現への NS398 の影響 ** p ˂ 0.01 vs control, + p ˂ 0.05 vs 6% TF, ++ p ˂ 0.01 vs 6% TF 32 第 4 図 TF および NS398 が ECMPs 遺伝子発現に及ぼす影響 ** p ˂ 0.01 vs control, + p ˂ 0.05 vs 6% TF, ++ p ˂ 0.01 vs 6% TF 33
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