臨床医学群・循環器「心筋虚血の生理学」(2013 年 12 月 2 日) 心筋虚血の生理学:心筋の酸素需要と冠循環の血流調節 附属心臓血管研究施設 分子細胞情報学部門 平野勝也 講義資料ダウンロード → http://www.molcar.med.kyushu-u.ac.jp 1. 筋収縮の興奮収縮連関 (Excitation-contraction coupling; E-C coupling) 心筋の微細構造 ② ① 興奮収縮連関(その1:細胞膜の興奮からカルシウム放出まで) 2+ 細胞質 Ca 濃度の主な調節機構 2+ 細胞質 Ca 濃度を低下させる仕組み ○ 細胞外への汲み出し(Ca2+ extrusion) - 細胞膜 Ca2+ポンプ(Ca2+-ATPase) - Na+/Ca2+交換輸送体(Na+/Ca2+ exchanger) ○ 貯蔵部への取り込み(Ca2+ uptake) - 小胞体 Ca2+ポンプ(Ca2+-ATPase) 2+ 細胞質 Ca 濃度を上昇させる仕組み 2+ 2+ ○ 細胞外 Ca の流入(Ca influx) 2+ - 電位依存性 Ca チャネル (VOC) 2+ - 電位非依存性 Ca 2+ チャネル 2+ ○ 貯蔵 Ca の放出(Ca release) - リアノジン受容体 (RyR) - IP3 受容体 (IP3R) 1/8 臨床医学群・循環器「心筋虚血の生理学」(2013 年 12 月 2 日) 心筋興奮から Ca2+シグナルの発生 Keywords T 管系(Transverse tubules) 電位依存性 L 型カルシウムチャ ネル(L-VDCC) 筋小胞体 (Terminal cisternae, longitudinal cisternae) リアノジン受容体 Foot structure(足構造) カルシウム誘発カルシウム放出 2+ 2+ (Ca -induced Ca release) 2+ 小胞体 Ca ポンプ(SERCA) 細胞膜 Ca2+ポンプ + 2+ Na /Ca 交換機構(NCX) 興奮収縮連関(その2:カルシウム放出から筋収縮) 収縮蛋白質:横紋筋と平滑筋 心筋 平滑筋 ミオシン……. 6 量体 ミオシン……. 6 量体 収縮蛋白質 Thick filaments 200 kDa myosin heavy chain x 2 18 kDa regulatory light chain x 2 25 kDa or 16 kDa essential LC x 2 Thin filaments 調節系蛋白質 200 kDa myosin heavy chain x 2 20 kDa regulatory light chain x 2 17 kDa essential LC x 2 アクチン(42 kDa) アクチン(42 kDa) トロポミオシン(33 kDa) トロポミオシン(33 kDa) トロポニン+トロポミオシン カルモジュリン 2+ トロポニン C (Ca 結合) ミオシン軽鎖リン酸化酵素(MLCK) トロポニン T (トロポミオシン結合) ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素(MLCP) トロポニン I (抑制性サブユニット) ミオシン ATPase 活性調節 2/8 臨床医学群・循環器「心筋虚血の生理学」(2013 年 12 月 2 日) 心筋の収縮機構 収縮蛋白質と調節蛋白質 Ca2+ TnC TM Actomyosin interaction 心筋傷害と逸脱蛋白質:トロポニン、クレアチンキナーゼ Molecular Biomarkers for the Myocardial Infarction Biomarkers MW (kDa) Times to initial elevations (h) Mean ime to peak elevations (Non-reperfused) Time to return to normal MB-CK 86.0 3-12 h 24 h 48-72 h cTnI 23.5 3-12 h 24 h 5-10 d cTnT 33.0 3-12 h 12 h – 2 d 5-14 d 3/8 臨床医学群・循環器「心筋虚血の生理学」(2013 年 12 月 2 日) 2. 心筋代謝と ATP 産生 ATP 産生 ADP + Pi (主に酸化的リン酸化) → ATP ADP + クレアチンリン酸 → ATP + クレアチン (クレアチンキナーゼ:CK, CPK) 心筋代謝の特徴 心筋のエネルギー貯蔵量は限られている。 1心拍で、ATP、クレアチンリン酸の 5%が消費される。 (20 心拍分の貯蔵) グリコーゲンと中性脂肪の貯蔵は、それぞれ 6 分および 12 分間分しかない。 エネルギー生成を支えるためには、継続的な基質、酸素の供給が不可欠になる。 心筋における酸化の燃料は、主に脂肪酸(60-70%) 。 → 好気的代謝 → 酸素需要 グルコースは食後インスリンが作用するときに燃料として利用される。 十分に酸素化され、 正常心室内圧を発生している状態 ATP、酸素消費が増加した状態の心筋 (発生心室内圧の増加、心拍数増加、強心剤投与) 脂肪酸供給が限られている グルコース消費は著しく抑制されている。 (脂肪酸酸化が主なエネルギー源) ↓グルコース取り込み ↓グリコーゲン分解 ↓ホスホフルクトキナーゼ活性 ↓ピルビン酸脱水素酵素活性 脂肪酸供給が十分にある場合 グルコースが利用される 心筋は脂肪酸を好んで利用する。 ↑グルコース取り込み ↑グルコース酸化(解糖) ↑ホスホフルクトキナーゼ活性 ↑ピルビン酸脱水素酵素活性 ↓グルコース取り込み ↓グリコーゲン分解 ↓ホスホフルクトキナーゼ活性 ↓ピルビン酸脱水素酵素活性 4/8 臨床医学群・循環器「心筋虚血の生理学」(2013 年 12 月 2 日) エネルギー代謝概要 グリコーゲン代謝 TCA サイクル 解糖系 電子伝達系と ATP 合成 脂肪酸の活性化とミトコンドリア輸送 脂肪酸の β 酸化 *Glucose の完全酸化による ATP 生成: 脂肪酸酸化による ATP 生成: パルミチン酸(C16)1分子の酸化により 106 分子の ATP が生成される。 1. 脂肪酸の活性化(ミトコンドリア外膜) 脂肪酸 + ATP + CoA → アシル CoA + AMP + PP 酸化1サイクル + Cn-アシル CoA + FAD + NAD + H2O + CoA 2. 脂肪酸のミトコンドリア内への輸送 → Cn-2-アシル CoA + FADH2 + NADH + アセチル CoA + H + パルミチン酸1分子の完全 酸化(7サイクル) + パルミトイル(C16)-CoA + 7FAD + 7NAD + 7H2O + 7CoA → 8 ア セチル CoA + 7FADH2 + 7NADH + 7H + FADH2 : 1.5 ATP 1.5 x 7 = 10.5 ATP NADH : 2.5 ATP 2.5 x 7 = 17.5 ATP アセチル CoA : 10 ATP 10 x 8 = 80 ATP 108 ATP 生成 パルミチン酸の活性化 - 2ATP 消費 106 ATP 生成 5/8 臨床医学群・循環器「心筋虚血の生理学」(2013 年 12 月 2 日) 3. 冠循環の調節 冠循環の特徴 安静時の冠血流量は 75-80 ml/100g/min(心拍出量の 5%) 、酸素摂取率は 70-80 %(腎、肝、脳では 10 %) 運動時冠血流量は、最大約 4 倍に増加する。酸素摂取率も 90 %近くに達する。 心筋の酸素摂取は安静時でも最大に近い。酸素需要を満たすには血流が増加する必要がある。 基質の摂取率は 10 %程度。→ 虚血により酸素供給不足の影響が先に現れる。 左冠動脈では、心拡張期に血流が大きい。 終末動脈である(正常では、側副血行路は発達していない)。 冠循環調節 冠循環調節の場所:抵抗血管 R1: Conductance artery (normal epicardial artery, 0.3-5 mm in diameter) R2: Pre-arteriolar vessels R3: Arterioles: main site of coronary flow regulation (1) Proximal pre-capillary arterioles, 100-500 m (2) Distal pre-capillary arteriolar vessels, < 100 m - 25-30 % of total coronary resistance - 40-50% of total coronary resistance - Myogenic/ Flow-mediated regulation - main site of Metabolic regulation 冠血流調節のメカニズム 1. Metabolic control 2. Endothelium-dependent control 3. Autoregulation 4. Myogenic control 5. Extravascular compressive force 6. Neuro-humoral control * Heterogeneity of coronary resistance control, depending on the vessel size (⇨ fine tuning of coronary resistance) Vessel size Large arterioles (100-150 m) Intermediate arterioles (30-60 m) Smallest arterioles (< 30 m) 6/8 Predominant regulatory mechanism Flow-mediated regulation Myogenic regulation Metabolic regulation 臨床医学群・循環器「心筋虚血の生理学」(2013 年 12 月 2 日) 1. Metabolic control(代謝性調節) 2. Endothelium-dependent control(内皮依存性調節) ① 心筋代謝は強く好気的代謝に依存している。 内皮依存性弛緩反応 内皮依存性収縮反応 ② 心筋の酸素摂取率は非常に高く、安静時でもほぼ最大に達し nitric oxide (NO) Endothelin prostaglandin I2 (PGI2) prostaglandin H2 (PGH2) hyperpolarization thromboxane A2 ている。 ③ 心臓における酸素貯蔵は乏しい。 → * large conductance artery: NO > hyperpolarization 冠血流は心筋の代謝レベルと密接に関連する。 * small resistance artery: ↑contribution of hyperpolarization 心筋代謝レベルを伝達する内因性物質:アデノシン、NO 3. Autoregulation(自動調節) ある範囲内で還流圧が変動しても、血液還流量を一定に維持す る仕組み。正常血管においては、平均大動脈圧 40-130 mmHg の 範囲で作動する。高血圧症、左室肥大においてこの仕組みが障 害される。 4. Myogenic control(筋性調節) - 血管平滑筋細胞は、血管内圧が上昇すると収縮する。 - Bayliss 効果(Bayliss, J Physiol 28: 220–231, 1902) - Autoregulation の主要なメカニズム 5. Extravascular compressive force(血管外圧縮力による調節)・・・冠循環に特異的な調節機構 - 冠動脈は心室内圧の影響を受け圧縮される。この影響は、左心室側で強く、また、心内膜側で強い。 - 心周期内における血流分布:特に左冠動脈では、拡張期により多くの血流が生じる。 - 心筋壁内の血流分布(心内膜側 vs. 心外膜側: 心内膜下領域はより大きな圧を受ける) - 正常の心臓においては、心周期を通して、心内膜側と心外膜側とに大きな血流の不均等は生じない。 - 冠動脈に狭窄病変があると、血流の再分布が生じる。しかも、①運動時、精神的ストレス、頻脈、②強力な血管拡張薬(dipyridamole、 adenosine)、③重度の左室肥大、心不全(左室拡張期圧が上昇)が、血流再分布を増悪する。 End diastole Mid systole 6. Neuro-humoral control(神経体液性調節) 1) 交感神経:ノルアドレナリン--- -アドレナリン受容体 (血管収縮) + -アドレナリン受容体 (血管拡張) 2) 副交感神経:Acetylcholine --- 内皮依存性血管弛緩反応 3) Non-adrenergic, non-cholinergic (NANC) neurotransmitters:ATP, amines (5-HT, dopamine), peptide (NPY, CGRP, VIP) 4) その他の血管作動物質:ホルモン(アドレナリン) 、内皮由来血管作動性物質(NO、PGI2、過分極因子、ET-1、PGH2、TXA2) 、 血小板由来血管作動性物質(5-HT、TXA2) 、白血球(ロイコトリエン)、Mast cells/Basophils(ヒスタミン) 7/8 臨床医学群・循環器「心筋虚血の生理学」(2013 年 12 月 2 日) 4. 心筋虚血 心筋酸素需要の決定因子と指標 『心筋酸素供給(Supply) 』の決定因子 『心筋酸素需要(Demand) 』の決定因子 1.心拍数(Heart rate) 1.冠血流量(Coronary blood flow) 2.心筋壁ストレス(Wall stress/tension) 前負荷(Preload)拡張末期容量、循環血液量 2.酸素運搬能(Oxygen carrying capacity) 酸素分圧、ヘモグロビン濃度 後負荷(After load)動脈圧 3.収縮性(Contractility) 酸素需要の指標 Pressure-rate product (PRP)/double product ----- clinical use Tension time index (TTI) Pressure volume area (PVA) = elastic potential (PE) + external work (EW) 酸素供給の指標:Diastolic pressure time index (DPTI) 心筋虚血の発症機構 心筋虚血は、酸素の「需要と供給の不均衡」 (相対的酸素供給不足)によって生じる。 1.Supply ischemia 2.Demand ischemia (1)血流低下: 冠動脈に有意狭窄病変が存在するとき、労作(運動、 血管攣縮あるいは血管狭窄・閉塞 感情、頻拍など)により酸素需要が増大しても、それ (2)低酸素血症(Hyoxia): に見合う血流増大が生じない場合に虚血が発生する。 Asphyxiation, CO poisoning, cyanotic congenital heart diseases, cor pulmonale, severe anemia, hemoglobinopathy ~ まとめ ~ 4つの歯車の関連を説明できますか? 8/8
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