開胸の要点

若⼿医師のための心臓手術の基本とその根拠
Ⅳ.閉胸の要点
.大動脈遮断を解除したら、閉胸の第一段階開始
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大事なことは閉胸操作中、❶循環動態(血圧・心拍数・モニター心電図・CVP・SaO2・
PO2・体温・カテコラミン量)を把握し、❷直視下に心収縮性(主に RV、⾒える範囲
で LV も)および RA・RV の大きさ❸経食道エコーで LV の動きと心腔内エアーの有無
❹縫合部からの出血と心嚢底面からの湧き上がり出血量、などを絶えず観察すること。
【その根拠】人工心肺回転中に閉胸操作を同時進⾏。
.心室ペースメーカーワイヤー装着
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RV 前面の心筋内に刺⼊。脂肪層ではペーシングがのらないことが多い。RV 流出路よ
り心尖部側の方がペーシング部位としてはベター。ただしあまり LV に近いと出血した
とき止血しにくい。ペーシングできるか必ずテストする。皮膚に出す針は、腹直筋の下
から刺⼊するが、その時上腹壁動脈を刺通しないように注意!
【その根拠】心臓が本格的に動き出す前にワイヤーを刺⼊。
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. 心房ペーシングの適応
❶低心機能で atrial kick を期待する場合❷AS❸術前 Af から術後 SR に戻り、overdrive
pacing で SR を維持したい時❹AV block で DDD ペーシングする時
【その根拠】カテコラミンを増量する前に⼼房ペーシングを考慮。
☝南先生のワンポイント・アドバイス
⼼房ペースメーカーは基本的には全例装着が望ましい!
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. 心房ペースメーカーワイヤー装着
SVC カニュ-レ RA 挿入部に縫着するか、上⾏⼤動脈と SVC の間にリード断端を置く
か、RA の新たな部位に縫着するかのいずれか。
【その根拠】心房ペーシングはのりにくいことが多く、縫着部から出血もしやすい。
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. 心嚢・胸骨下ドレーン留置
⼼嚢ドレーンと胸骨下ドレーンは必ず留置する。ドレーン刺⼊部の⽪膚切開は正中切開
創下端から、少し離れたところを切開。あまり深くメスを⼊れない。腹部正中線上(腹
直筋鞘)は避ける。心嚢ドレーンは心嚢下壁 RV 面に留置。胸骨下ドレーンは正中切開
線の頭側まで届く⻑さに挿⼊。リューエルでドレーン穴をたくさん開ける。
【その根拠】特に大事な点はバイパスグラフト吻合部やグラフト自体に直接接しないよ
うにドレーンを留置すること。心嚢ドレーンが跳ねないようにするには心膜横隔膜面に
電メスで⽳を開けてドレーンを通す⽅法が簡便。
☝南先生のワンポイント・アドバイス
術後⼼タンポナーデに対する穿刺やドレナージなどの処置に備えて、閉胸時に剣状突
起・心臓・横隔膜の解剖学的位置関係を常に把握するように努めること!
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. 胸腔ドレーン留置
開胸になったら、脱気して胸膜閉鎖せずに、ある程度⼤きく開けて、胸腔ドレーンを挿
入。ドレーンの位置は肺尖部方向背側に。肺底部横隔膜面でもよいが、ドレーンが跳ね
ることあり。
【その根拠】気胸になるのでドレーンを留置したほうがいい。開胸部位がどこであって
も、術後に血液の垂れ込みが予想されるので、はじめから胸腔ドレーンを入れておいた
方が無難。もし入れない場合でも、胸膜はある程度⼤きく開放しておく。チェックバル
ブによる緊張性気胸にならないようにするため。
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. ⼈⼯⼼肺離脱したら、閉胸第⼆段階
プロタミン中和まで待つ。大動脈縫合線にはガーゼを詰めてパッキング。ガーゼによる
SVC、RA、PA の圧迫に注意!
【その根拠】まずはプロタミンによる化学のチカラを信じて全量⼊るまで待つ。
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. 止血確認作業
心嚢内での⽌⾎を確認したら、⼀度開胸器をはずして、胸骨および⽪下からの止血確認。
再度開胸器を頭側から掛ける。
【その根拠】ペースメーカーワイヤーの開胸器への巻き込みを防止するため。
.心膜閉鎖
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上⾏⼤動脈および RV 前面の心膜を寄せる。ただし寄せ過ぎてバイパスグラフトや RA・
RV が圧迫されないように注意!
【その根拠】胸腺を寄せても癒着防止にはあまり関与しない。
10. 心膜閉鎖の目的
❶CABG 中枢側吻合部およびバイパスグラフトをカバーし、ドレーンと直接接触しない
ようにする❷上⾏⼤動脈をカバーすることで止血効果を得る❸再手術時の心損傷を防
止する❹人工血管をカバーすることで感染防御になる。
【その根拠】Gore-Tex などの人工心膜の使用は VAD の時のみ。過去の人工心膜は再
⼿術の時に必ずしも癒着防⽌に役⽴たず、かえって⼼表⾯との癒着が⾼度になり剝離を
困難にしている印象。
11. 胸骨ワイヤー
基本的に計 8 本。数多く用いることで胸骨動揺を防ぎ、術後創痛の緩和と縦隔炎の防止
につながる。ワイヤーは肋骨付着部の胸骨⾃体にかける。胸骨が脆弱な時は肋間にかけ
る。この際内胸動脈本幹あるいは末梢側分枝への刺⼊に注意!
【その根拠】解剖学的に胸骨には肋骨が 7 本付いている。胸骨ピンは原則使用しない。
その理由はひとたび胸骨感染が起こると胸骨ピン自体が感染巣となり、かえって感染拡
大の危険性が増すため。
12. ガーゼカウント
ガーゼカウントは基本的に 2 回⾏う。1 回目は止血の確認が終り、胸骨ワイヤーを掛け
始める時。2 回目は全部ワイヤーを掛け終わり閉胸する時。1 回目のカウントの後でガ
ーゼ数が合わない時には、DC を掛けれる状態で心臓を脱転し、心嚢の後壁まで直視で
確認する。
【その根拠】ガーゼの置き忘れは手術で最もあってはならないことで、いくら良い⼿術
をしても、ガーゼが残っていたら元も子もない。病院のリスクマネージメントからいっ
ても、ガーゼ遺残は何の申し開きもできない明らかな医療過誤である。ガーゼカウント
が合うまで徹底的に探し、合致するまで胸骨を閉めない。医師は看護師さんのカウント
作業に協⼒する。閉胸後に数え間違いなどでガーゼ数が合わないことがわかった時でも
X 線透視下で縦隔を探索するか、胸骨ワイヤーをはずし直視下でもう⼀度心嚢内を探す。
もちろん、ガーゼだけでなく、手術器具や針に関しても同様。大事なことは、前もって
カウントしやすくする方策を取っておくこと。そもそも小さいガーゼは丸まって潜みや
すいので、数量を限定して使うようにし、通常は大きめのガーゼを使う。使用する手術
器具は前もって外科チーム内で調整し、できるだけ最小限の種類と数に統一しておく。
針糸は、必ず⼿渡しで回収し、その都度確認する。
13. 閉創
筋膜と真皮の2層を埋没縫合。筋層を閉じ終わったら、創部を生食で高圧洗浄するか、
濡れたガーゼで擦る。
【その根拠】洗浄は SSI 防止に効果ある。
14. 創部ドレッシング
創部表面を生食ガーゼで拭いた後、カラヤヘッシブなどのドレッシング材で被覆。ドレ
ーン挿入部は切れ込みガーゼで覆う。創部表面にはステリストリップは貼らない。創部
をイソジンで消毒しない。
【その根拠】ステリストリップは肥厚性瘢痕形成の低減に有⽤だが、その強⼒な接着⼒
によりチリやごみが端に粘着し、かえって汚染環境を作り出す危険性があるため、通常
は使用しない。術後肥厚性瘢痕に対して最近ピタシート®を勧めている。
15. ICU への患者搬送は迅速に!
創部ドレッシングが終わったら、一目散に ICU へ搬送する。
【その根拠】移動の準備をしている時間帯は、❶体温が下がる❷モニターが少なくなる
❸モニター監視が散漫になる❹体位変換で血圧が下がりやすい❺急変時の対応がやり
にくい、などの盲点がある。⼿術終了間際には⿇酔科医にライン整理を始めておいても
らう。イソジンをハイポアルコールで拭くと体温が下がる。ガーゼチェックのための胸
部 XP 撮影は少なからず時間がかかるので、院内の医療安全上不都合がなければ省略。