事例に学ぶ! 処方箋監査 vol.5 下 平 秀夫 先生 帝京大学薬学部実務薬学教室 / 富士見台調剤薬局 このシリーズでは、新人薬剤師ハツミさんの失敗談を例に処方箋監査を学びます。 おやおや? ハツミさん、なにか困っていますね。どうしたのでしょうか? 事例 処方箋 氏 名 山本 花子 生年月日 昭和12年10月1日(76才) 交付年月日 平成 ○ 年 △ 月× 日 処 方 医 療 機 関 アルシス病院 渋谷区******* 電 話 番 号 03-6861-**** 保 険 医 河村 五郎 処方箋の使用期間 1) デュロテップMT パッチ (フェンタニル経皮吸収型製剤)(8.4mg)3枚 3日ごとに張り替え 新人薬剤師ハツミさんは、麻薬処方箋を受付まし た。その処方箋は患者さんの娘さんが薬局へ持参 されました 。処方備考欄には処方医から「基本投 与とレスキュードーズについて患者さんのご家族 に説明してください。」とコメントが ・・・ 2) アブストラル舌下錠 (フェンタニルクエン酸塩舌下錠) (100μg) 1回1錠 疼痛時10回分 2時間は空けて ど レスキュー? 解 説 ? すれば ・・・ うやって説明 ? 基本投与? オピオイドの基本投与及びレスキュードーズの考え方や、薬剤の特徴・副作用につい ておさらいしておこう。ここ数年で発売されたオピオイド製剤もチェックしておこう! 娘さんから聴取できた内容 山本さんの疼痛緩和には、以前はモルヒネ製剤が処方されていたのですが、便秘がひどくて下剤の服用でも対処できな かったので、フェンタニル製剤に変更になったようです。 強オピオイド 我が国で癌性疼痛に用いる強オピオイドは、従来、『モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル』の 3 種でしたが、2013 年 3 月からメサドン塩酸塩 ( メサペイン錠 ) が販売されました。また、さらにタペンタドール塩酸塩 ( タペンタ錠 ) が 2014 年 3 月に承認されており、選択肢が増えつつあります。 基本投与・レスキュードーズ 癌性疼痛は、オピオイド鎮痛薬の基本投与により疼痛をある程度緩和できても、一時的に増強する痛み(突出痛)がし ばしば出現します。この突出痛を緩和するために、速放性のオピオイド製剤を使用した追加投与(レスキュードーズ) が必要となります。 横軸に時間、縦軸にがん患者さんの痛みの強さを表す模式図を 右に示しました。WHO 鎮痛薬使用の 5 原則のひとつに「時刻を 決めて規則正しく」というのがあり、これが右図のオレンジ色 の基本投与の部分です。徐放性オピオイドが基本投与されてい る時は、レスキューとして、通常同一成分の速放性オピオイド を使用します。 痛みの強さ 突出痛 レスキュー 基本投与 持続痛 8 時 14 時 20 時 2 時 8 時 ⇒次ページにつづく 2014年6月作成 事例に学ぶ! 処方箋監査 vol.5 下 平 秀夫 先生 帝京大学薬学部実務薬学教室 / 富士見台調剤薬局 下にレスキュードーズに使用できる強オピオイドを示しました。これまでフェンタニル製剤にはレスキュードーズでき る製剤が発売されていなかったのですが、2013 年 9 月にイーフェンバッカル錠、同年 12 年にアブストラル舌下錠が発 売され、レスキューについても選択肢が増えてきました。 レスキュードーズに使用できる強オピオイド製剤 種類 フェンタニル 製剤 オキシコドン 製剤 モルヒネ製剤 製品名[一般名] アブストラル舌下錠 [フェンタニルクエン酸塩] イーフェンバッカル錠 [フェンタニルクエン酸塩] 販売会社名 規格 製剤写真例 協和発酵キリン 舌下錠 100μg、200μg、400μg 200 μ g 大鵬薬品工業 バッカル錠 50μg、100μg、200μg、400μg、 600μg、800μg 200 μ g 第一三共 注 0.1mg 2mL1管、0.25mg 5mL1管 0.1mg ヤンセン 注 0.1mg 2mL1管、0.25mg 5mL1管、 0.5mg 10mL1管 アクレフ口腔粘膜吸収剤 [フェンタニルクエン酸塩] 田辺三菱 口腔粘膜吸収剤 200μg、400μg、600μg、800μg オキノーム散 [オキシコドン塩酸塩水和物] 塩野義 散 2.5mg、5mg、10mg、20mg 5mg オプソ内服液 [モルヒネ塩酸塩水和物] 大日本住友 内服液 5mg 1包、10mg 1包 5mg モルヒネ塩酸塩錠・原末 [モルヒネ塩酸塩水和物] 各社 錠 10mg、末 1g 10mg フェンタニル注射液 [フェンタニルクエン酸塩] (本誌作成時、未発売) フェンタニル製剤の特徴と留意点 〈便秘、悪心・嘔吐〉 便秘は、オピオイドを投与された患者さんに高頻度におこり、耐性形成がほとんどないといわれています。フェンタ ニルの特徴として、便秘を引き起こすとされるμ 2 オピオイド受容体よりもμ 1 受容体への選択性が高いため、モル ヒネに比べて便秘をおこしにくく、モルヒネからのオピオイドローテーションなどで有用とされています。また、悪心・ 嘔吐についてもμ 2 受容体が関与しているので、軽減が期待できます。 〈効果発現時間(レスキュードーズの場合)〉 モルヒネ経口製剤が 30 ∼ 40 分、オキシコドン経口製剤が 30 分に対し、フェンタニル口腔粘膜製剤は 5 ∼ 10 分と、 効果発現が速いといわれています。 〈相互作用〉 フェンタニルは、主として肝代謝酵素 CYP3A4 で代謝されるため注意が必要です。 (例)グレープフルーツジュースが本剤の血中濃度を上昇させる場合がある など 基本投与とレスキュードーズについてハツミさんが説明した内容 ハツミさんは、ご家族に次のように説明しました。 『処方されたパッチを貼ることで痛みが取れるのですが、 一時的に痛みが強くなる場合には舌下錠を使います。30 分たっても痛みが引かない時は1錠追加してください。 再び痛みが強くなった場合には 1 回目から 2 時間はあけ て使用してください。このお薬は 1 日に 4 回までにして ください。足りなくなりそうでしたら、早めにご相談く ださい。』 (参考)アブストラル舌下錠追加投与時の投与間隔について 100μg 追加 30 分以降 100μg 追加 30 分以降 2 時間以上 ・舌下錠を使用して30分経っても痛みが残る場合には 1 度 だけ追加投与できる ・次の突出痛に対する投与は初回投与から2時間以上あける 2014年6月作成
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