CFA 協会ブログ 2014 年 7 月 23 日 No.194 プライベート・エクイティのパフォーマンス評価:PME vs. ダイレクト・アルファ Evaluating Private Equity Performance: PME vs. Direct Alpha プラサド・ラマニ, CFA 「プライベート・エクイティの評価:ダイレクト・ア ルファ法」と題された最近の論文において、著者であ るオレグ・グレディル氏、バリー・E・グリフィス氏、 ルディガー・ストゥッケ氏らは、一般的に用いられて いるプライベート・エクイティ評価手法における重要 な問題を克服するため、「ダイレクト・アルファ」と 呼ばれる新しい技法を提案しました。 ある投資案件のパフォーマンスを評価する標準的なア プローチは、それと関連する参照指数のパフォーマン スと比較することです。一般的に、ある投資からのリ ターンは、二つの要素、すなわちアルファとベータか ら成ると考えられます。ベータは、受動的なベンチマ しかしながら近年、PE 投資のアルファを推定するため に多くのヒューリスティックな(数学的に確固たるも のではなく、経験的なアプローチに近い)手法が用い られてきました。パブリック・マーケット・エクイバ レント(PME)として知られるこれらの手法が実際にヒ ューリスティックであるのは、関連する上場市場ベン チマークのリターンと比較することで、間接的にアル ファを分解しようとするものであるためです。 基本的にこれらの手法は、他の投資可能な資産に投資 することと比較した機会費用を測定することで、PE 投 資の価値を評価しようとします。 PME 手法 ーク投資から得られるリターンに相当する一方、アル ファは非市場的源泉に由来するリターンです。 PME 手法に共通した基礎は、PE 投資の投資キャッシ ュ・フローを一つの参照ベンチマークに適用して代替 アルファは運用者のスキルの結果であると見なされ、 資産配分と投資を決定する上で重要なインプットとし て用いられます。 アルファを算出するための統計的な手法では、モダ ン・ポートフォリオ理論の道具のなかから回帰分析が 的な内部収益率(IRR)を算出することです。アルファ は、従って実際の PE の IRR と代替的 PME の IRR との差 としてヒューリスティックに決定されます。よく用い られる PME 手法には以下のようなものがあります。 · ICM/PME · PME+ · mPME 用いられます。しかしながら、この手法が(少なくと も統計的な観点から)効くのは、投資対象が公に売買 され、流動性も高い場合だけです。これはプライベー ト・エクイティ(PE)投資には大きな問題です。という のは、PE は「プライベート」で流動性に欠けるだけで はなく、主観的な査定と評価の遅延に起因する平準化 という重大な問題も示すからです。 ロング―ニッケルズの指数比較法(ICM/PME)は 1996 年 に提唱され、最初の PME 法とされています。このアプ ローチでは、PE 投資の資本拠出と収益分配はすべて、 それぞれと金額と時期を同じくする参照ベンチマーク 日本 CFA 協会 1 の投資と売却に対応させられます。これによって、拠 ダイレクト・アルファ法の主な利点は、上記で論じた 出と分配は同一になりますが、残存する純資産価値 ヒューリスティックな手法の多くの問題を避けて、選 (NAV)は異なるものとなります。このように算出され 択された参照ベンチマークに対するアルファそのもの た PME IRR が、投資の実際の IRR を評価する基準とな の算出を実際に定形化することです。 ります。 この手法では PE の全てのキャッシュ・フローを同じ満 ICM/PME は理解しやすいものの、PE と同じようには現 期時点までの参照ベンチマークのリターンに掛け合わ 金化されないことが一つの問題です。大きなアウトパ せることで将来価値を算出し、これらと最終的な NAV フォーマンスやアンダーパフォーマンスがあると、参 を合わせてネット・キャッシュ・フローとします。こ 照ポートフォリオは後に大きなロングまたはショー れにより、実際の PE キャッシュ・フローに対する参照 ト・ポジションを抱えることになります。また、投資 ベンチマークの変動の影響は事実上中立化されます。 が満期に近づいたところでのベンチマークの大きな変 このように、ネット・キャッシュ・フローは参照指数 動は、投資残額には影響がないものの、参照ポートフ の変動に影響を受けない一方、指数リターンに対する ォリオの残余価値には大きな影響があります。 相対的な PE リターンのみを反映します。 PME+法は、クリストフ・ルヴィネ氏とキャピタル・ダ ダイレクト・アルファ法は、スティーブン・N・カプラ イナミクス社が導入し、残余価値が等しくなるように ン氏とアントワネット・ショアー氏が導入した KS-PME 分配に一定の基準化係数を適用することで前記の問題 と呼ばれる PME 手法と深く関係しています。これは、 を調整しようとしたものです。この手法の一つの大き 参照ベンチマークに対する PE 投資の資産乗数効果の測 な欠点は、計算された IRR に対する固定基準化係数の 定を図るものです。1を上回る(下回る)KS-PME は、 影響にあります。なぜなら、IRR は早期の分配に大変 その PE 投資が参照ベンチマークより高い(低い)リタ 敏感だからです。アウトパフォーマンスやアンダーパ ーンを産み出したことを示します。ダイレクト・アル フォーマンスによる分配の減殺または拡大は、計算さ ファは KS-PME 法を年率化したものと考えることができ、 れた IRR に拡張的に作用します。また、PME+は投資可 KS-PME が1のときはゼロとなります。 能な方法ではないため、実際のポートフォリオが複製 することができません。 これら異なる手法を過去のデータから検証すると、重 大な誤差が生じることがある他のヒューリスティック mPME 法はケンブリッジ・アソシエイツ社が開発し、 な手法と比較してダイレクト・アルファが優れている PME+法と似ていますが、一定の基準化係数の代わりに ことが示されます。 各中間期の PE NAV に基づいた時系列変動する基準化係 数を用います。しかしながら、これも前記のような計 算された IRR に対する係数の効果を除去するものでは ありません。実際、PE の中間 NAV に基づいて分配を再 基準化すると、中間 NAV 計算に何らかの価格問題があ る場合に追加的なバイアスをもたらします。 ダイレクト・アルファ法 日本 CFA 協会 2 ICM/PME法 2001年末 2002年末 2003年末 2004年末 2005年末 2006年末 2007年末 2008年末 2009年末 2010年末 実際のPE ポートフォリオ 参照指数 C D NAV PE Net CF 100 0 -100 100 0 0 0 78 100 25 -75 100 0 0 0 111 50 150 100 117 0 0 0 135 0 150 150 142 0 0 0 90 0 100 100 113 0 0 75 75 131 IRR 17.5% ICM/PMEによる仮想ポートフォリオ C D NAV ICM Net CF 100 0 100 -100 0 0 78 0 100 25 175 -75 0 0 194 0 50 150 105 100 0 0 121 0 0 150 -23 150 0 0 -14 0 0 100 -118 100 0 0 -137 -137 ICM IRR ΔIRR 6.0% -11.5% PME+ 法 2001年末 2002年末 2003年末 2004年末 2005年末 2006年末 2007年末 2008年末 2009年末 2010年末 実際のPE ポートフォリオ 参照指数 C D NAV PE Net CF 100 0 -100 100 0 0 0 78 100 25 -75 100 0 0 0 111 50 150 100 117 0 0 0 135 0 150 150 142 0 0 0 90 0 100 100 113 0 0 75 75 131 IRR 17.5% PME+による仮想ポートフォリオ C s ・D NAV PE Net CF 100 0 -100 0 0 0 100 13 -87 0 0 0 50 80 30 0 0 0 0 80 80 0 0 0 0 53 53 0 0 75 75 基準化係数 s 0.53 PME+ IRR 4.0% ΔIRR -13.5% mPME法 2001年末 2002年末 2003年末 2004年末 2005年末 2006年末 2007年末 2008年末 2009年末 2010年末 実際のPE ポートフォリオ 参照指数 C D NAV PE Net CF 100 0 100 -100 100 0 0 95 0 78 100 25 190 -75 100 0 0 235 0 111 50 150 170 100 117 0 0 240 0 135 0 150 130 150 142 0 0 60 0 90 0 100 40 100 113 0 0 75 75 131 IRR 17.5% mPMEによる仮想ポートフォリオ C D mPME NAV mPME Net CF 100 0 100 -100 0 0 78 0 100 23 177 -77 0 0 196 0 50 120 137 70 0 0 158 0 0 89 77 89 0 0 49 0 0 44 18 44 0 0 20 20 mPME IRR ΔIRR 表中の C は PE およ び参照ベンチマーク に基づく仮想ポート フォリオへの拠出 額、D は分配額。 Net CF は各期のネッ ト・キャッシュ・フ ローと満期時 NAV の 合計。 sは基準化係数で、 s・D は PE ポートフ ォリオの分配額に一 定の基準化係数をか けたもの。 D mPME は PE ポー トフォリオの分配額 に各期の基準化係数 をかけたもの。 FV(C)、FV(D)は、PE ポートフォリオの C、 D に当該期末から満 期となる 2010 年末 までの参照指数リタ ーンをかけたもの。 4.6% -12.9% ダイレクト・アルファ法 実際のPE ポートフォリオ 将来価値 参照指数 C D NAV PE Net CF FV (C) FV (D) NAV PE FV (Net CF) 2001年末 100 0 -100 100 131 0 -131 2002年末 0 0 0 78 0 0 0 2003年末 100 25 -75 100 131 33 -98 2004年末 0 0 0 111 0 0 0 2005年末 50 150 100 117 56 168 112 2006年末 0 0 0 135 0 0 0 2007年末 0 150 150 142 0 138 138 2008年末 0 0 0 90 0 0 0 2009年末 0 100 100 113 0 116 116 2010年末 0 0 75 75 131 0 0 75 75 IRR 日本 CFA 協会 17.5% ダイレクト・アルファIRR ΔIRR 12.6% -5.0% 3 結論:PME かダイレクト・アルファか?観点の問題 アラブ首長国連邦に拠点を置くあるファミリー・オフ ィスのダイレクターで、ポートフォリオ全体の投資リ この議論のあと、ダイレクト・アルファは PME より優 スクとリポーティング体制の開発、管理、監督を担当。 れており、好ましいと結論できるほど明瞭になったで ファイナンシャル・リスク・マネジャー。ジョージア しょうか?私の経験では、ダイレクト・アルファは 工科大学で修士。 PME 分析よりも強固であるように見えます。PME を用い た IRR 計算は、キャッシュ・フローや指数値の比較的 (翻訳者:清水 英佑) 小さな変動に対して大変敏感となることがあります。 また、ダイレクト・アルファは、モダン・ポートフォ リオ理論をプライベート・エクイティに適用するとい う点で、最も正解に近いものです。 最後に考慮すべき最も重要な疑問は、参照ベンチマー クがファンド投資の機会費用を正確に示しているかと いうことです。これは、どんな分析も現実に即したも のであり、無益な数値演習にとどまらないようにする ためです。 執筆者 英文オリジナル記事はこちら http://blogs.cfainstitute.org/investor/2014/07/2 3/evaluating-private-equity-performance-pme-vs-d irect-alpha/ 注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記事 を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版および 英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の 内容が優先します。 プラサド・ラマニ(Prasad Ramani) 日本 CFA 協会 4
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