ベトナム社会主義共和国における 鉱業政策の変遷と現状

金属企画部 国際業務課長
兼任 ハノイ駐在員事務所長
レポート
ベトナム社会主義共和国における
鉱業政策の変遷と現状
五十嵐 吉昭
ベトナムは共産党一党支配の社会主義共和国である。2013年ベトナム憲法第Ⅲ章第53条には、
「土地、水資源、鉱物
資源、海域、空域における利権、その他の天然資源及び国が投資、管理する財産は、全人民の所有に属する公財産で
あり、国が所有者を代表し、統一的に管理する。」とあり、同第63条第1項には、
「国は、環境を保護する政策をとる;
天然資源を管理し、効果的、持続的に使用する;
(後略)。」と規定されている(国際協力機構仮訳)。従って、ベトナム
の鉱業政策は、資源ナショナリズムが色濃く反映されたものとなり、基本的に自国で鉱物資源を開発・消費し、将来
に渡り使い切れない鉱物資源については付加価値を付けて輸出することである。この政策は、外資を呼び込み資源開
発を加速し、国の経済発展に寄与させるような資源国の鉱業政策とは根本的に異なっている。本稿では、ベトナムの
2005年以降の鉱業政策の変遷を振り返り、その結果、現在の鉱業政策がどのようになっているのかを詳らかにし、そ
の上で、ベトナムで鉱物資源開発が進まない背景を考察し、今後の展望について私見をとりまとめた。ベトナムの鉱
業政策を理解する一助となれば幸いである。
1. ベトナムの鉱業政策変遷の概要
ベトナムにおいて外資も巻込んだ鉱物資源開発が活
発化するのは、2005年10月に
「鉱物法
(1996年施行版)
の条項の一部についての修正及び補足に関する法律」
(法律No.46/2005/QH11)及び同年12月にその細則であ
る政令No.160/2005/ND-CPが発布されてからである。
本稿ではこの改正鉱物法が出されてから2014年に至る
までの期間を、①鉱業の活発化と乱開発
(2005年10月
~2008年4月)、②国家管理強化への転換と新鉱物法公
布
(2008年5月~2010年11月)
、③新鉱物法の施行と鉱
業投資環境の悪化(2010年12月~)、のように便宜的に
3分割して整理する。②の期間では2008年9月に鉱物資
源の探査、採掘、加工及び輸出活動に対する国家管理
強化を目的とする首相指示No.26/2008/CT-TTgが出
され、この頃からロイヤルティや環境保護費の引上げ
により鉱業税制が強化され、併せて新鉱物法が国会の
表1. ベトナム鉱業政策の変遷
鉱業政策及び鉱物法関連の動き
2005年
10月:改正鉱物法施行
12月:改正鉱物法施行細則
2006年
1月:改正鉱物法施行指針
2007年
2008年
9月:首相指示:鉱物資源の国家管理強化
2009年
2010年
11月:新鉱物法公布
2011年
4月:共産党政治局の議決
7月:新鉱物法施行
8月:首相府指示:鉱業権凍結
12月:首相決定:鉱物資源戦略
2012年
1月:首相指示:鉱物資源の国家管理強化
3月:新鉱物法実施細則
3月:鉱物採掘権の競売に関する政令
2013年
8月:首相決定:鉱物地質基礎調査計画承認
10月:鉱物資源分野の違反に対する罰則の政令
11月:鉱物採掘権取得費の計算法に関する政令
その他鉱業に関係する動き
2005年
11月:環境保護法、環境保護費政令
11月:投資法(外国投資条件付き)
2006年
5~6月:マスタープラン2件
9月:投資法政令付属資料C
2007年
7~11月:マスタープラン3件
2008年
3~8月:マスタープラン3件
5月:首相決議:鉱物採掘における環境復旧積立金
5月:環境保護費政令
6月:鉱物輸出に関する通達
9月:ロイヤルティ改正法令
2009年
11月:ロイヤルティ法
2010年
4月:国会常任委ロイヤルティ決議
11月:環境保護税法
2011年
8月:環境保護費政令
2012年
11月:鉱物輸出入税に関する通達
12月:鉱物輸出に関する通達
2013年
3月:首相決議:鉱物採掘における環境復旧積立金
9月:マスタープラン更新1件
12月:国会常任委ロイヤルティ決議
2014.5 金属資源レポート
1
(1)
ベトナム社会主義共和国における鉱業政策の変遷と現状
はじめに
レポート
ベトナム社会主義共和国における鉱業政策の変遷と現状
議論を経て2010年11月に公布された。③の期間では新
鉱物法施行によっても鉱物資源の乱開発に歯止めがか
からない状況を憂慮し、政府は2011年8月、鉱業権を
一時凍結し、2012年1月の首相指示による鉱物資源の
更なる国家管理強化を推進し、鉱物輸出に関する規制
強化やロイヤルティ再引上げ等鉱業投資環境の悪化へ
と繋がっていった。2005年以降のベトナム鉱業政策の
変遷について、
鉱業政策及び鉱物法と関連する動きと、
環境、投資、鉱物輸出、マスタープラン等、その他鉱
業に関係する動きに分けて表1のように整理した。
2.鉱 業 の 活 発 化 と 乱 開 発(2005年10月 ~
2008年4月)
この期間はベトナム鉱業の黎明期であると同時に鉱
物資源の乱開発が一気に拡がった時期でもあった。
2006年に欧米の企業としては初めてとなるOlympus
Pacific Mineral社*1(加)がBong Mieu金鉱山の操業を
開始、同年にはSin Quyen銅鉱山が中国の技術と資金
援 助 を 得 て、 ベ ト ナム国営石炭鉱物産業グル ー プ
(Vinacomin)傘下のベトナム国営鉱物会社
(Vimico)に
より操業を開始、2007年には外資参入を認めた上で*2Tan
RaiとNhan Coのボーキサイト開発を政府が承認した。
90年代の探鉱活動の成果ではあるが、2005年にはNui
(加)
Phaoタングステン鉱床の採掘権がTiberon社 *3
に、2007年 に はBan Phucニ ッ ケ ル 鉱 床 の 採 掘 権 が
Asia Mineral Resources社
(加)に与えられた。この時
期、ベトナムは2007年1月のWTO正式加盟に向けて国
内の法整備を進め、2005年には国内外の投資差別を撤
廃する投資法や統一企業法が国会で承認された
(但し、
鉱業は外国投資条件付き分野に分類されている)
。ま
た、2005年には環境保護法も改定され、2006年以降国
の鉱業政策を定めた鉱種毎のマスタープランも順次作
成され、ベトナムの鉱物資源開発の環境が整備されて
いった。しかしながら、上記改正鉱物法の第56条に関
する修正・補足により、地方の人民委員会が地元の鉱
物資源開発に関する問題を自発的かつ積極的に取り組
むことを期待して、国の鉱業権発給の権限を一部地方
に移譲したことが、鉱物資源の乱開発に繋がったとさ
れる。
2005年改正鉱物法
1996年3月に制定されたベトナム最初の鉱物法の一
部条項を修正・補足するため、2005年5~6月に国会で
審議され、
同年10月から発効した。この改正鉱物法は、
決して野放しに鉱物資源開発を奨励した訳ではなく、
鉱業政策の基本方針は、企業による鉱物資源開発投資
のための条件を整備しつつ、最先端技術、環境保護、
効率的な資源利用、遠隔地における社会経済活動への
貢献等を求め、未加工鉱石を輸出せず高付加価値化に
より内需や輸出を満たすものであった。また、むやみ
に資源開発を促進せず、社会主義国らしい中長期的な
計画に基づく資源開発を推進するはずであった。しか
し実際の現場で起こったことは、隣国である中国の資
源需要の急拡大と資源価格の高騰もあり、地方政府が
鉱業権を乱発し、鉱物資源の乱開発や未加工輸出、及
びそれに伴う環境破壊や密輸等が進行したとされる。
マスタープラン
金属鉱物の鉱種毎のマスタープランは、2006年5月
の鉄鉱石を皮切りに、表2のとおり2008年8月までに16
種類の金属鉱物を対象として8つの首相決定または商
工省(旧工業省)大臣決定が出されている。このマスタ
ープランの中身は、鉱種により具体性に差はあるが、
将来の需給バランスや輸出入量を予測し、国内にある
資源をどこでどのように開発、生産、加工するかを決
定するもので、ある意味計画経済の名残とも考えられ、
現実から乖離していることも多い。2011年7月の新鉱
物法施行以降、チタン鉱石のみ新たなマスタープラン
に更新されている(2013年9月No.1546/2013/QD-TTg:
2030年を見据える、2020年までのチタン鉱石の探査、
採掘、加工及び使用ゾーニング計画の承認)。
表2. 金属鉱物に関するマスタープラン一覧
Decision No.
124/2006/QD-TTg
決定日
鉱種
2006/5/30 鉄鉱石
期間
2020年を見据えて
2010年まで
鉛鉱石、
2020年を見据えて
176/2006/QD-TTg 2006/8/1
亜鉛鉱石
2006~2015年
104/2007/QD-TTg 2007/7/13 チタン鉱石 2025年に向けて
2007~2015年
33/2007/QD-BCN
2007/7/26 マンガン鉱石、2025年に向けて
クロム鉱石 2007~2015年
167/2007/QD-TTg 2007/11/1 ボ ー キ サ イ 2025年に向けて
ト
2007~2015年
05/2008/QD-BCT
2008/3/4 錫 鉱 石、 タ 2025年を見据えて
ン グ ス テ ン 2007~2015年
鉱 石、 ア ン
チモン鉱石
11/2008/QD-BCT
2008/6/5 金 鉱 石、 銅 2025年を見据えて
鉱 石、 ニ ッ 2015年まで
ケ ル 鉱 石、
モリブデン
鉱石
25/2008/QD-BCT
2008/8/4 レアアース鉱 2025年を見据えて
石、ウラン鉱 2015年まで
石、
(宝石)
1546/2013/QD-TTg 2013/9/3 チ タ ン 鉱 石 2030年を見据えて
(更新版)
2020年まで
3 . 国家管理強化への転換と新鉱物法公布
(2008年5月~2010年11月)
こ の 期 間 で は 2008 年 9 月 に 出 さ れ た 首 相 指 示
No.26/2008/CT-TTg以降、鉱物資源に対する国家管
*1 Olympus Pacific Mineral社は2012年11月にBesra社に社名を変更
*2 その後反対運動やザップ将軍の書簡等あり、2010年には外資を排除してVinacominの100%で開発することに
*3 2010年にベトナム食品大手のマサングループが権益を取得しその後開発、Tiberon社はオプション権を残すのみ
2
(2 )
2014.5 金属資源レポート
環境関連の負担
2005年11月に環境保護法が制定された際、環境保護
費(Environment Protection Fee)が政令No.137/2005/
ND-CPによって導入された。しかしながら、この政
令では石炭、ミネラルサンド(イルメナイト)及び工業
鉱物等に対する規定はあるが、金属鉱物に対しての規
定はなかった。その後、2008年5月に出された政令
No.63/2008/ND-CPにおいては、金属鉱物の鉱種毎に
細かく環境保護費が定められ、鉱石1t当り1万~5万
VND
(ベトナム・ドン)程度とされたが、鉛、亜鉛、
錫だけは18万VNDと突出して高額に設定された。更
に、2011年8月の政令No.74/2011/ND-CPにおいては、
表3に示すとおりその上限が引上げられ、最大では3万
~27万VNDと定められた。特に金、銀、鉛、亜鉛、
錫等の場合は、最低18万VND、最大27万VNDと突出
して高くなっている。一方、ボーキサイトの場合は、
最低3万VND、最大5万VNDと抑えられているが、大
量に鉱石を処理するため、2013年にVinacominがベト
ナムで初めて試験操業を始めたTan Raiボーキサイト
鉱山において、赤字操業の原因の一つにあげられてい
る。但し、環境保護費は地方における環境対策の財源
となるため、地方政府がこの政令の金額を参考として
金額を任意に決められることになっており、実際の適
用においては不透明な要素が残る。
環境保護費以外の環境関連の負担として、2011年10
月に国会で制定された環境保護税法No.57/2010/QH12
は、使用の際に環境に負荷を与える石油製品、石炭、
冷媒(HCFC)等に掛る間接税の一種で、地下から採掘
する際に課される税金である。また、鉱物採掘におけ
る環境復旧積立金については、2008年5月に首相決議
No.71/2008/QD-TTgが出されたが、実効性に問題が
あり、2013年3月に再度首相決議No.18/2013/QD-TTg
が出された。
表3. 金 属 鉱 物 採 掘 に 課 せ ら れ る 環 境 保 護 費( 政 令
No.74/2011/ND-CPより抜粋)
番号
1
2
3
4
5
6
7
8
金属鉱物鉱種
単位 最低額VND
鉄鉱石
t
40,000
マンガン鉱石
t
30,000
チタン鉱石
t
50,000
金鉱石
t
180,000
レアアース鉱石
t
40,000
プラチナ鉱石
t
180,000
銀鉱石、錫鉱石
t
180,000
タ ン グ ス テ ン 鉱 石、 t
30,000
アンチモン鉱石
9 鉛鉱石、亜鉛鉱石
t
180,000
10 ボーキサイト鉱石
t
30,000
t
35,000
11 銅鉱石、ニッケル鉱石
12 クロム鉱石
t
40,000
13 コバルト鉱石、モリ
t
180,000
ブデン鉱石、水銀鉱
石、マグネシウム鉱
石、バナジウム鉱石
14 その他金属鉱物鉱石
t
20,000
注:2014年3月時点で1US$=21,000VND程度
最高額VND
60,000
50,000
70,000
270,000
60,000
270,000
270,000
50,000
270,000
50,000
60,000
60,000
270,000
30,000
2014.5 金属資源レポート
3
(3)
ベトナム社会主義共和国における鉱業政策の変遷と現状
ロイヤルティの引上げ
元々ベトナムの鉱物資源に対するロイヤルティは、
1998年4月の法令
(ordinance)
No.5/1998/PL-UBTVQH10
の第6条において、金が2~6%、レアアースが3~8%、
及びそれ以外の金属鉱物は1~5%と定められたのが最
初 で あ る。 引 き 続 き 同 年9月 に、 政 令No.68/1998/
ND-CPにより鉱種毎の具体的な率が定められたが、
その率はどの鉱種についても2~5%の範囲内であっ
た。この数値が大幅に引上げられたのは10年後の2008
年9月の法令No.26/2008/CT-TTgによる上記第6条の
改正で、金が6~30%、レアアースが8~30%、及びそ
れ以外の金属鉱物は5~30%に跳ね上がった。その後、
法令(ordinance)は一定期間施行された後に、法律と
して国会に提出されることになっているため、2009年
秋の国会において正式なロイヤルティ法No.45/2009/
QH12として審議され、2009年11月に発布された。こ
のロイヤルティ法では、改正された第6条と同様に鉱
種毎に5~25%と幅を持った率が設定されており、最
終 的 に は 2010 年 4 月 の 国 会 常 任 委 員 会 決 議
No.928/2010/UBTVQH12により、鉱種毎に具体的な
率が決定されたものである。この決議におけるロイヤ
ルティは、既に各鉱種10~15%にも達しており、世界
的にも相当高率となっていた。更に、ロイヤルティ法
によれば、ロイヤルティは採掘した天然資源の価格か
ら付加価値税を除いた額に掛るため、鉱業企業の利益
とは関係なく徴収される。
レポート
理強化へと方針転換が図られ、新鉱物法への議論に繋
がっていく。この首相指示では、鉱物資源が戦略も計
画もなく非効率に採掘され、ほとんどが未加工の鉱石
または精鉱のまま輸出され、鉱山の労働条件や環境汚
染に対する対策も不十分であると断罪し、その原因を
国家の鉱物資源管理が貧弱で不十分なためとした。そ
の上で、鉱物資源を直接所管する天然資源環境省や、
商工省、国防省、地方の人民委員会等に対して、各種
鉱業権のチェック、違法操業の監視、労働安全や環境
汚染に対する管理強化等々、鉱物資源の採掘、加工及
び利用が定められた規則に沿って適切に実施されてい
るのかを調査して首相に報告するように求めている。
また、この間、鉱物資源採掘に対するロイヤルティ及
び環境保護費が大幅に引上げられ、鉱業企業の負担増
が図られた。更に、2008年9月の首相指示に先立つ3か
月 前 に は、 鉱 物 輸 出 ガ イ ド の 通 達No.08/2008/TTBCTが出され、省レベルの人民委員会の許可を得た
上で、商工省に指導を求めることとなり、未加工の鉱
物資源の輸出に対する規制強化が図られた。一方、新
鉱物法については、2010年5月以降国会において本格
的に議論が行われ、
不透明で情実ベースの鉱業権発給、
無駄で重複のある地方への権限移譲、違反に対する非
効率なチェック機能、鉱業活動による環境破壊とその
修復の問題点等、2005年の改正鉱物法における多くの
問題点が列挙された。最終的には2010年秋季国会に上
程され、同年11月に新鉱物法No. 60/2010/QH12が公
布された。
レポート
ベトナム社会主義共和国における鉱業政策の変遷と現状
新鉱物法の特徴
2005年の改正鉱物法の結果進行した鉱物資源の乱開
発に対して、新鉱物法では、①競売制度及び②鉱業権
付与権限の厳格化により、少なくとも鉱業活動の入口
における改善は図られた。しかしながら、新鉱物法の
施行からかなり遅れて細則や政令等、新鉱物法を補足
する法規規範文章が出されたこと、及び後述のとおり
中央官庁と地方政府の連携の不備により、根本的な解
決には至っていない。
①競売制度は、鉱物資源権益取得の透明性及び公平性
を確保するために導入された言わば新鉱物法の目玉
であり、その詳細については細則とは別に政令が出
された。採掘権は原則競売により付与され、参加者
は鉱業の経験、能力、資金力等事前に審査を受け、
特に採掘段階の案件では採掘後の加工方法や使用目
的まで吟味され、
参加資格の厳密化が図られている。
②新鉱物法では地方政府が許可できる対象が厳格に定
め ら れ て お り、 一 般 的 な 建 材、 泥 炭、 零 細 鉱 業
(artisanal mining)及び小規模鉱床のみに許可証の
発給が限定され、それ以外は中央政府である天然資
源環境省の所管となっている。小規模鉱床の定義を
厳格にするため、後の細則には小規模鉱床の予想資
源量を鉱種毎に千t単位
(一部t単位)
で定義する別
表が添付されており、更に天然資源環境省がどの既
知鉱床が小規模に該当するのか公表することになっ
ている。
4.新 鉱 物 法 施 行 と 鉱 業 投 資 環 境 の 悪 化
(2010年12月~)
この期間は、新鉱物法の制定を受け、先ず共産党政
治局によって鉱業政策の方向性が示され、それを具体
化 す る 鉱 物 資 源 戦 略 が 2011 年 12 月 に 首 相 決 定
No.2427/2011/QD-TTgと し て 承 認 さ れ た。 併 せ て
2011年7月の新鉱物法施行後には、その細則の政令
No.15/2012/ND-CPや鉱物採掘権の競売に関する政令
No.22/2012/ND-CP、各種通達等、関係する法規規範
文章が順次出され、新鉱物法の運用が本格的に始まっ
た。その一方で、新鉱物法施行直後の2011年8月に首
相府から全ての鉱業権の発給を一時停止する指示が出
され、2012年1月には首相指示No.02/2012/CT-TTgに
よる鉱物資源に対する国家管理強化が打ち出されてい
る。その後、2012年12月、鉱物輸出に関する通達によ
り鉱物の輸出規制が強化され、2013年12月にはロイヤ
ルティの更なる引上げに至り、新鉱物法を出しながら
ベトナムの鉱物資源開発を更に停滞させることになっ
た。 実 際 新 鉱 物 法 下 で は、2011年 前 述 のOlympus
Pacific Mineral社
(加)が2つ目の金鉱山となるPhuoc
Sonの操業開始、2012年末にVinacominのTan Raiアル
ミナプラントが試験操業を開始、2013年にはMasan
Resources社
(越企業と米ファンド)のNui Phaoタング
ステン鉱山及びAsian Mineral Resources社
(加)
のBan
Phucニッケル鉱山がそれぞれ操業を開始し、外資も
4
(4 )
2014.5 金属資源レポート
参入した鉱山が稼働し始めてはいるが、金属価格の下
落もあり、課税の低減や輸出規制の緩和等、政府によ
る特別な配慮を求めるケースが多く、外国企業から見
たベトナム鉱業の投資環境は芳しくない。
共産党政治局の議決
共産党一党支配下のベトナムにおいては、2013年憲
法改正においても、共産党が国家と社会の指導勢力で
ある条項を変更していない(憲法第4条第1項)。中でも
共産党政治局
(Politburo)は党の決定権限を持つとさ
れ、その決定は国の方針を決めることになる。新鉱物
法の発布を受けて共産党政治局は2011年4月に、
「2030
年まで見据えた、2020年までの鉱物及び鉱物採掘産業
の方向性を定める議決」
(02-NQ/TW)を決定した。こ
の議決では、鉱物資源は全国民の財産で、国家により
統一的に管理され、国家の経済・社会開発のための重
要な資源と位置づけ、鉱物の賦存量を正確に把握した
上で、効率的な採掘や使用計画の必要性を説き、比較
的賦存量の多いボーキサイト、チタン、レアアース等
については採掘・加工産業の設立が必要としている。
その一方で、再生不可能な資源として資源の節約や効
率的な使用、及び先端的な技術の導入の重要性に触れ、
国防・治安、環境保護、歴史・文化遺産の保護、及び
地域住民との共存にも配慮を求めている。この政治局
の議決は、2011年12月の鉱物資源戦略の首相決定に引
継がれており、後述の首相指示もこの議決を実現する
ために作成されている。
首相指示
実 質 的 に は2012年1月 の 首 相 指 示No.02/2012/CTTTgが現在のベトナムの鉱業政策を規定しており、
2008年9月に出された首相指示No.26/2008/CT-TTgに
置き代わるものである。先ずその前文において、以下
のごとく厳しく鉱業活動の現状を批判している。
「
(前略)金鉱床や鉄の鉱石、チタン、白大理石、建
設用砂利などの採掘は実際の需要に適さない。発給さ
れた鉱物の採掘・加工許可証は大幅に増加する一方、
高度な加工に対する投資はあまり重視されていない。
採掘に先端技術が必要となる石油、ガスや石炭、銅、
セメント製造用の石灰石などの鉱物を除き、殆どの鉱
物は時代遅れの古い技術により採掘・加工されている。
労働安全や環境保護の違反が頻発している。鉱物の違
法採掘は多くの地域で行われており、これらは石炭、
金、チタン、スズ、鉛、亜鉛、鉄、マンガン、建設用
砂利の違法採掘が主である。増加の傾向がありながら、
監督できていない鉱物の密輸出や不正なビジネスは社
会安全や秩序を乱し、住民に不満を与える。鉱物に関
する法律や知識の周知徹底、宣伝事業はまだ効果的で
はなく、鉱物の採掘・加工活動を監査、監督する事業
はあまり重視されていない。その原因のひとつは鉱物
に対する国家管理の貧弱さ、中央機能機関と地方機関
の協力が緊密ではないことにある。また、鉱物の探鉱・
省、建設省等の所管する官庁や地方政府に対して、果
たすべき役割を明記し、首相指示を確実に履行するよ
うに求めている。
表4. ‌首相指示No.02/2012/CT-TTg中の鉱種毎の探査、採掘、加工、輸出方針
鉱種
レポート
採掘・加工における違反行為の処罰がまだ厳格かつ明
確ではないことも挙げられる。
(後略)
」
特に重要な鉱種については、表4のとおり具体的な
方針を打ち出している。また、天然資源環境省、商工
指示内容
(抜粋)
鉄鉱石
鉄鉱石の輸出を完全に停止する。国内の製鉄業のため、
Thach Khe及びその他の鉄鉱山開発を効果的に実施する。
採掘中の鉄鉱山でも効率性や環境影響に問題がある場合は閉山する。
チタン
新規の探査・開発許可を発給しない。採掘中の鉱山に対して、環境保護ができない場合は許可を停止し、環境
回復を求める。2012年7月以降、加工度の低いチタン鉱石は輸出せず、輸出は首相の認可を必要とする。
鉛・亜鉛
鉱石・精鉱の輸出をしない。操業製錬所において埋蔵量を増やすため深部の探査及び採掘量の拡大を継続する。
新たな地域における探査・開発は製錬・加工計画とリンクしなければならない。
クロム鉄鉱
鉱石・精鉱の輸出をしない。2030年までのクロム製品の需要に応じて、使用量や備蓄量に適した開発許可を発
給する。
マンガン
鉱石・精鉱の輸出をしない。ハザン、トゥエンクアン及びカオバンの3省において探査・開発を進め、フェロ
マンガン及び二酸化マンガン生産プロジェクトの原材料とする。
金・銅鉱石
銅鉱石の輸出をしない。砂金採掘の許可をしない。金の探査・開発は加工度を上げ、先端技術を導入して環境
汚染をしない。採掘中の金・銅鉱山でも効率性や環境影響に問題がある場合は閉山する。銅製錬所に更に投資
するためラオカイ省の銅探鉱を完了する。各地域における銅探査・開発は製錬・加工計画とリンクしなければ
ならない。
レアアース
許可の発給された探鉱事業を完了する。先端技術を導入し経済社会や環境への要求を満たす採掘・加工の連携
プロジェクトを実施する。採掘・加工・輸出には首相の認可が必要。
鉱物輸出に関する通達
2005年の改正鉱物法において、
「第5条 国の鉱物政
策の第4項には、国は鉱石及び精鉱の輸出を制限し、
制限される輸出鉱物の詳細を公表する」とした。具体
的には前述のとおり、2008年6月に鉱物輸出に関する
指導に関する通達No.08/2008/TT-BCTの中で、輸出
可能な鉱物の条件がリストとして添付されている。こ
の通達の結果、日本に対するイルメナイト精鉱の輸出
が激減する等、
一定の影響力はあったと推察されるが、
指定された鉱山の生産物は輸出が認められており、地
方政府や商工省によるチェックにも限界があり、密輸
に至っては止めようもなかったと考えられる。実際、
中国に対するイルメナイト精鉱輸出は2008年以降も拡
大し続けたとされる。これに対して、2012年3月に発
布された新鉱物法の細則を定める政令第2条第1項にお
いて、輸出可能な鉱物とその条件の公表を求められた
商工省は、2012年12月に鉱物輸出に関する新しい通達
No.41/2012/TT-BCTを出し、輸出可能な鉱物を絞り、
更に厳しい条件を課した
(施行は2013年2月から)。こ
の通達により、ミネラルサンドの精鉱の一部、並びに
2013年に操業を開始したNui Phao鉱山及びBan Phuc
鉱山の生産物を期限付きで認めた以外、鉱石や精鉱の
輸出はできなくなった。但し、現実には政府が指導す
る高付加価値化政策が急速に進むことはなく、例えば
イルメナイト精鉱の場合、チタンスラグの製錬所は限
られ、合成ルチルや二酸化チタン
(顔料)
への加工施設
もなく、輸出できない大量のイルメナイト精鉱が積み
上がることとなった。そのため新しい通達には例外条
項があり、規定の品位に達しない輸出可能鉱物、採掘
期限が失効した鉱山に残された鉱物、及び輸出は認め
られていないが国内に需要の無い鉱物等については、
特別な場合として地方の人民委員会の承認を得たうえ
で商工省が可否を決定するとなっている。表5に新旧
通達の鉱物輸出が許可される条件の比較を示す。
なお、
鉱物の輸出税については、別途財務省の通達により定
められている。
表5. 鉱物輸出が許可される条件(金属鉱物のみ抜粋)
鉱種
通達No.41/2012/TT-BCT 通達No.08/2008/TT-BCT
ミネラルサンド イルメナイト精鉱を除外 イ ル メ ナ イ ト 精 鉱
チタンスラグ(TiO2 ≧(TiO2≧52%)
チタンスラグTiO2≧85%
85% or 70%)
ジルコンパウダージルコンパウダー
(ZrO2≧65%)
(ZrO2≧65%)
ルチル精鉱、モナザイ ルチル精鉱、モナザイ
ト精鉱
ト精鉱
ボ ー キ サ イ ト Al2O3 ≧98.5%( ア ル ミ Al2O3≧48%
(アルミニウム) ナ)
Al2O3≧64%(水酸化物)
銅
Cu≧20%(Nui Phao鉱山)Cu≧18%
タングステン
WO3 ≧ 55%(Nui Phao WO3≧65%
鉱山)
ビスマス
Bi≧70%
リストに記載なし
ニッケル
Ni ≧ 9.5%(Ban Phuc Ni≧9.5%
鉱山)
レアアース
酸化物TREO≧99%
精鉱TREO≧15%
鉛亜鉛、鉄、マ 鉱石および精鉱を除外 鉱石または精鉱も定め
ンガン、クロム
られた品位以上であれ
ば輸出可能
2014.5 金属資源レポート
5
(5)
ベトナム社会主義共和国における鉱業政策の変遷と現状
ボーキサイト Tan Rai及びNhan Co両鉱山の開発を進め、それ以外のプロジェクトについては、これら2件の経済・社会的な
効果を評価するまで開発は許可しない。北部における探査許可は発給しない。
レポート
ベトナム社会主義共和国における鉱業政策の変遷と現状
ロイヤルティ再引上げと採掘権取得費
財務省は国の財源確保の必要性から、再生不可能な
鉱物資源の採掘を抑制して国内産業の利用のために資
源を保護し、国・企業・地元住民間における利益の調
和を図るため、前述の2010年4月の国会常任委員会決
議No.928/2010/UBTVQH12から3年ぶりにロイヤルテ
ィ引上げを提案した。当初財務省は7つの鉱種につい
て大幅な引上げを提案していたが、地方政府、操業鉱
山、或いは業界団体による活発なロビー活動が行われ
た結果、外資系の操業鉱山がある金とニッケルの引き
上げは見送られ、
鉄と銅については引上げが緩和され、
当初の提案どおりに引上げられたのはチタン、タング
ステン及びアンチモンのみとなった。最終的には2013
年12月の国会常任委員会決議No.712/2013/UBTVQH13
により、表6のとおり定められた。
一方、新鉱物法には第77条に採掘権取得費の支払い
を定めており、その具体的な計算方法について2013年
11 月 に 採 掘 権 取 得 費 の 計 算 方 法 に 関 す る 政 令
No.203/2013/ND-CPが発布された。これは国が鉱物
資源の探査等に要した費用を取り返す意図があり、競
売を実施する案件は落札額を支払う。鉱業関係者から
はロイヤルティとの二重課税ではないかとの疑問も呈
され、ベトナムビジネスフォーラムの鉱業部会は、既
にベトナムの鉱業企業にはロイヤルティ、法人税、輸
出税、環境保護費等、12種類もの税金、使用料、手数
料等が課されており、採掘権取得費は13番目の負担と
なり、ベトナムにおける鉱業活動では利益を上げるこ
とが困難であると主張している。
表6. ‌ベ ト ナ ム 金 属 鉱 物 ロ イ ヤ ル テ ィ( 決 議
No.712/2013/UBTVQH13から抜粋)
番号
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
ロイヤルティ
(%)
鉄
12
マンガン
11
チタン
16
金
15
レアアース
15
プラチナ
10
銀、錫
10
タングステン、アンチモン
18
鉛、亜鉛
10
アルミニウム、ボーキサイト
12
銅
13
ニッケル
10
コバルト、モリブデン、水銀、マグネシウム、
10
バナジウム
その他金属鉱物
10
金属鉱物鉱種
5. ベトナム鉱業政策の現状
現在のベトナムの鉱業政策について模式的に示した
概念図を図1に示す。ベトナムには多種多様の鉱物資
源が賦存するが、量的に比較的多いとされているのは
ボーキサイト
(アルミニウム)
及びミネラルサンドを主
体とするイルメナイト(チタン)である。銅、クロム、
6
(6 )
2014.5 金属資源レポート
タングステン等、比較的量のまとまった鉱床が開発さ
れるケースはあるが、世界的な大規模鉱床は知られて
いない。鉱物資源探査についても、国の機関である地
質鉱物総局(GDGMV)が首相決定No.1388/2013/QDTTgに従って進める鉱物地質基礎調査が中心であり、
外資を含む民間企業による先進的な探査は進んでいな
い。特に、新鉱物法においては、探査権を取得する前
の概査(鉱物地質基礎調査)について民間企業の参入を
奨励しているが、発見した鉱床の探査権や採掘権が確
実に発見者に与えられる保証はない。鉱山開発につい
ては、国の産業政策であるマスタープランによって縛
られ、生産された鉱石は精製や加工されて先ず国内需
要を満たすことが優先され、輸出する場合は高付加価
値政策と輸出政策に従い輸出税が課される。輸出が許
可されるのは基本的に十分な資源量がある鉱種に限ら
れ、将来世代に資源を残す発想から国による国家鉱物
保護区域が設定される。鉱山開発による利益は、ロイ
ヤルティや各種税金、手数料等により国または地方の
財源となり、雇用や地域の社会経済開発に貢献するこ
とを求められる。従って、外資に対しては技術や資金
の提供は期待されても、彼らが受取る利益は僅かなも
のとなる。鉱業活動による利益を、国(地方)と企業で
どのように分け合うかはその国の政策次第であるが、
ベトナムではあまりに国の取り分が多く、民間企業で
あっても、国有企業のように国家の経済・社会開発の
一翼を担わされると考えられる。実際、ベトナムにお
ける鉱山開発は、石炭、ボーキサイト及び大型の鉄鉱
山はVinacomin、銅、鉛、亜鉛、錫等の金属鉱物では
Vimicoによる開発があり、外資も含む民間企業によ
る開発は小規模なものが多い。主な開発鉱山と鉱業政
策の影響を表7に示す。
一方、新鉱物法の運用については問題点が多々指摘
されている。新鉱物法の目玉であるはずの競売制度が
施行後2年以上経ても1件も実施されていない。その原
因について天然資源省副大臣は、政令等法整備の不備
に加えて、中央の天然資源環境省と地方の人民委員会
の調整不足にあることを認めた。実際、2011年から
2012年に発給された957の採掘権の内、半数以上は専
門知識に欠ける地方政府が、政府の鉱業政策の意に沿
わず発給しており、中には、本来地方政府に採掘権を
発給する権限のない規模の鉱床を、分割して複数の小
規模採掘権に分けて発給するケースもあるとされる。
また、本来権限を持たない機関からの採掘権の発給や、
未登録企業や環境影響評価を実施しない企業への採掘
権発給も報告されており、新鉱物法運用上の管理・監
査体制の不備は明らかである。政府は漸く2013年10月
に鉱物資源分野の違反に対する罰則の政令
No.142/2013/ND-CPを発布したが、その効果は未知
数である。
レポート
ボーキサイト
チタン
ジルコン
技術
資金
外 資
国の経済社会開発に組込まれ
るため長期的な視点が不可欠
利益配分
ベトナム社会主義共和国における鉱業政策の変遷と現状
レアアース
密輸・乱開発
レアメタル
銅
錫
利益
将来世代に
資源を残す
国内需要
輸出政策
輸出税
マスタープラン
産業政策
付加価値
輸 出
国営企業+民間企業
鉛亜鉛
ロイヤルティ、手数料
環境税、法人税.....
国・地方の財源、雇用
経済社会開発への貢献
図1. ベトナム鉱業政策の概念図
表7. 主な開発鉱山と鉱業政策の影響
開発鉱山
Bong Mieu(金)
Phuoc Son(金)
会社名
Besra(加)
80%または85%*1
鉱業政策の影響
金地金の輸出の課税問題から一時輸出が差し止められた
生産開始時期により2鉱山でロイヤルティに大きな差
2013年のロイヤルティ引上げに強く反対
Sin Quyen(銅、金、磁鉄鉱) Vimico 100%
埋蔵銅量で50万t以上ありながら年産銅量で1万t程度
銅精鉱は全て近くの銅製錬所で純度の劣る地金に精錬
外資受入れは実質的に困難
(商工省談)
Tan Rai及びNhan Co(ボーキ Vinacomin 100%
サイト・アルミナ)
2010年外資を排除してVinacominが100%となる
2012年首相指示により2案件以外は全て探査・開発凍結
環境保護費等の負担が大きく試験操業では採算割れ
加企業撤退後ベトナム食品系のMasanグループが開発
Nui Phao( タングステン、蛍 Masan Resources
石、銅、ビスマス)
80%*2、米ファンド20% 高付加価値化を実践しているが2015年までタングステン及び銅精鉱
の輸出は許可
鉱量が少ないにも拘わらず、
Ban Phuc(ニッケル、銅他) Asian Mineral Resources ニッケル精鉱の輸出は許可されているが、
高付加価値化のため製錬所建設を検討
(加)90%*3
ミネラルサンド鉱山(イルメ 中小ベトナム企業
ナイト他)
精鉱輸出を事実上禁止され、政府はチタンスラグ等の高付加価値化を
指導するが遅々として進まず
*1,3:残りは地元企業が保有
*2:撤退したTiberon社(加)がオプション権を保有
2014.5 金属資源レポート
7
(7)
おわりに
レポート
ベトナム社会主義共和国における鉱業政策の変遷と現状
ベトナムは長らく戦乱の時代を経験し、冷戦期は旧
ソ連陣営に属していたため西側先進国との関係が絶た
れ、カンボジア問題もあり政治・経済的に孤立してい
た。転機となったのは、1991年のカンボジア和平協定
調印や冷戦下の最大の支援国であったソ連の崩壊で、
ドイモイ政策下で打ち出されていた全方位外交が急速
に進展し、1992~1993年には日本や国際機関による対
越援助が再開され、ついに1995年には米国との国交正
常化を果たしてASEANにも加盟した。ベトナムが自
国で資源を開発、加工し、自国で消費しようとする鉱
業政策を貫くのは、このように90年代半ばまで経験し
た自給自足的な経済政策の産物だとの見方もある。
また、ベトナムの資源開発においては別の側面の難
しさも指摘される。ベトナムの諺に
「王の法律も村の垣
根まで」
(国の法は村の中まで及ばない)と言われるが、
ベトナムでは地縁・血縁による同族、同郷の人脈や習
慣が大変濃密で、資源開発における地域社会との調整
はインフラ事業同様に極めて難しく、時間を要するケ
ースが多い。日本はベトナムに対する直接投資でトッ
プを争うほど多くの日本企業がベトナムに進出してい
るが、これら企業の大半は工業団地に入居する輸出加
工型の製造業である。この場合、日本を含む外国企業
は既にインフラが整備され、土地の権利関係が明らか
で、地域住民との利害調整も済んでいる場所を選ぶこ
とができる。資源開発の場合は、資源の賦存する地域
の開発になるため、土地収用を一から始めることとな
り、製造業による投資とは条件が全く異なっている。
その一方、2015年にASEAN経済共同体発足をひか
えているベトナムは、2007年にWTOに加盟し、現在
TPP交渉にも参加している。TPP交渉では国有企業の
役割が議論の一つとなっており、石炭やボーキサイト
でほぼ独占的な地位を占めるVinacominが、将来議論
の対象とされる可能性もある。また、WTO協定では、
天然資源の保全のためでない限り、輸出数量を制限す
ることを禁じている。日米欧は2012年3月に中国がレア
アース、タングステン及びモリブデンの輸出を不当に
制限するのはWTO協定違反であると提訴し、2014年に
WTOの紛争処理小委員会はこの訴えを認めている。ま
た、インドネシアの鉱石輸出禁止措置についても、ニ
ッケル及び銅鉱石を輸入する日本の立場としては、
WTO提訴の可能性も排除できない。ベトナムが課して
いる鉱物輸出税や鉱物輸出規制についても、将来ベト
ナムにおける鉱物資源開発が進めば、WTOにおけるこ
のような議論とは無縁ではないかもしれない。
ベトナムでは概ね5年ごとに共産党大会と国会選挙
があり、ズン首相は2011年の国会で2期目の政権を託
された。不文律で言われるように、仮にズン首相の3
期目が無いとしても、本稿で紹介してきたとおり鉱業
政策は集団指導体制の共産党の考えを反映しているた
め、共産党の方針に変更が無い限り鉱業政策に大きな
変更は無いと考えられる。2011年1月の共産党大会で
議論された党綱領の中には、
「国家の天然資源を管理・
保護・再生し、合理的で効果的に使用する。」とされて
いる(ベトナム経済研究所)。また、2013年の国会で議
論された憲法改正案においては、当初、市場経済化を
意識して国名を「民主共和国」にする、或いは複数政党
制を導入する等の革新的な議論もあったが、
「社会主義
共和国」の国名や
「共産党は国家と社会の指導勢力」と
する条文は堅持し、共産党一党支配体制による国家の
枠組みに何ら変更はなかった。今後ベトナムの鉱業政
策をフォローしていくためには、新しく発布される政
令等法規規範文章に注目すると共に、共産党が推し進
める社会主義的市場経済という独自の経済モデルの動
向を注視する必要があると思われる。
最後に、本稿の中に出てくる法、政令、通達等の法
規規範文章の内、現時点で効力を持つものについては
(本稿中太字で記載)、ハノイ駐在員事務所で日本語ま
たは英語に仮訳されている。正式にはベトナム語の原
文を参照願いたいが、巻末にその仮訳の一覧と入手方
法を記す。
(2014.3.31)
ベトナムの鉱業政策に関する現在有効な法規規範文章一覧
ロイヤルティ法No.45/2009/QH12
新鉱物法No. 60/2010/QH12(和訳)
● 環境保護費に関する政令No.74/2011/ND-CP
(英訳)
● 環境保護税法No.57/2010/QH12
(英訳)
● 鉱物資源戦略に関する首相決定No.2427/2011/QD-TTg
(和訳)
●
鉱物資源に対する国家管理強化に関する首相指示No.02/2012/
CT-TTg(和訳)
● 鉱物法実施細則政令No.15/2012/ND-CP
(和訳)
● 鉱物採掘権の競売に関する政令No.22/2012/ND-CP
(和訳)
● 鉱物輸出に関する通達No.41/2012/TT-BCT
(英訳)
●鉱
物採掘における環境復旧積立金に関する首相決議No.18/2013/
QD-TTg
(英訳)
● 鉱物資源分野の違反に対する罰則の政令No.142/2013/ND-CP
(英訳)
● 鉱物地質基礎調査の計画承認に関する首相決定No.1388/2013/
QD-TTg(和訳)
採掘権取得費の計算方法に関する政令No.203/2013/ND-CP
(英訳)
ロイヤルティ率に関する国会常任委員会決議No.712/2013/
UBTVQH13(英訳)
● チタン鉱石マスタープランNo.1546/2013/QD-TTg
( 和訳、別
表英訳)
●
●
●
●
8
(8 )
2014.5 金属資源レポート
入手方法
● 下線については以下からダウンロード可能
JOGMECウェブサイト「金属資源情報」国別レポート:投資環
境調査
「ベトナム社会主義共和国 鉱物法及び関連法令」
http://mric.jogmec.go.jp/public/report/2013-02/vietnam_
mineralacts.pdf
その他についてはJOGMEC調査部金属資源調査課にお問い合
わせを
[email protected]