非対称ランダムウォークに関する中心極限定理

2014 年度「ファイナンス保険数理特論」
補足3
— 非対称ランダムウォークに関する中心極限定理 —
2014 年 6 月 16 日, 高岡浩一郎(一橋大)∗
【このファイルは4頁分です.
】
問題
1ステップの時間幅が
1
n
で空間幅が an のランダムウォークを考える.上昇確率と下降確率は,
1ステップごとに pn と 1 − pn とする.ただし,an と pn は n には依存するが分岐点には依存し
ないと仮定する.また,an は正で lim an = 0 も仮定する.0 ≤ pn ≤ 1 である.
n→∞
このとき時刻 1, つまり n ステップ後のランダムウォークの位置(確率変数になる)の積率母関
数は
{
Mn (x) =
pn ean x + (1 − pn ) e−an x
}n
(1)
となるが,この関数が n → ∞ のときに各点収束【つまり x の値を任意に固定する毎に収束】
するような数列 { an } および { pn } をすべて決定せよ.またこの時の lim Mn (x) を求めよ.
【※ 一般の時刻 t > 0 については,本稿 p.3 の注3参照.
】
n→∞
解答
2つの段階に分けて議論する.
Step 1
式 (1) 右辺の n 乗の中身が n → ∞ の時に 1 に収束することを示す.この式は上から
pn ean x + (1 − pn ) e−an x ≤ pn ean |x| + (1 − pn ) ean |x| = ean |x|
のように評価でき,同様に下からは
pn ean x + (1 − pn ) e−an x ≥ pn e−an |x| + (1 − pn ) e−an |x| = e−an |x|
まとめると
e−an |x| ≤ pn ean x + (1 − pn ) e−an x ≤ ean |x|
∗ 一橋大学大学院商学研究科.E-mail:
[email protected]
1
となるので,はさみうちより
{
lim
n→∞
pn ean x + (1 − pn ) e−an x
}
= 1
Step 2
Mn (x) が各点収束するための必要十分条件は,
「x を任意に固定するごとに log Mn (x) が極限を
持ち,極限値(x に依存しても良い)が実数もしくは −∞」である.この条件が満たされる時
{
}
lim log Mn (x) =
lim n log pn ean x + (1 − pn ) e−an x
n→∞
n→∞
[
=
lim
{
n
n→∞
pn e
an x
+ (1 − pn ) e
−an x
]
} log { p ean x + (1 − p ) e−an x }
n
n
−1
pn ean x + (1 − pn ) e−an x − 1
【※分母がゼロの時の対処法は,次頁の注2参照.
】
{
=
lim n
n→∞
}
pn ean x + (1 − pn ) e−an x − 1
log y
y→1 y−1
【 Step 1 と lim
=
lim n
{1+q
2
n→∞
{
=
lim n
n→∞
(2)
n
= 1 より】
}
1 − qn −an x
e
−1
2
ean x +
【ただし qn := 2 (pn − 12 ) 】
ean x + e−an x − 2
ean x − e−an x
+ qn
2
2
}
ゆえに x ̸= 0 の時に
lim log Mn (x) + lim log Mn (−x) =
n→∞
n→∞
=
=
2 lim n
n→∞
ean x + e−an x − 2
2
ean x + e−an x − 2 (an x)2
·
(an x)2
2
2 lim n ·
n→∞
lim n (an x)2
n→∞
ey + e−y − 2
= 1 】
y→0
y2
【 ∵ lim
よって,n → ∞ の時に数列 n a2n は収束する.収束先の平方根を σ と記すと,x ̸= 0 の時に
{
}
ean x − e−an x
σ 2 x2
+ lim
n qn
lim log Mn (x) =
n→∞
n→∞
2
2
{
ean x − e−an x
· an x
2 an x
=
σ 2 x2
+
2
=
σ 2 x2
+ x lim n an qn
n→∞
2
n qn ·
lim
n→∞
}
ey − e−y
= 1 】
y→0
2y
【 ∵ lim
x は正の時もあれば負の時もあるので,
「x を任意に固定するごとに log Mn (x) が極限を持ち,極
限値(x に依存しても良い)が実数もしくは −∞」ならば,数列 n an qn も実数に収束する.
2
逆に, lim
n→∞
√
nan = σ かつ lim n an qn = µ のとき, Mn の各点収束先は
n→∞
lim Mn (x) = exp
n→∞
( σ 2 x2
2
)
+ µx
σ > 0 のとき,収束先は正規分布 N(µ, σ 2 ) の積率母関数である.また σ = 0 のとき,収束先は
✷
定数関数 µ の積率母関数である.
注1
σ の値は数列 an のみに依存して決まる. pn には依存しないことに注意する.
注2
前頁 (2) の式中の分母がゼロになる可能性がある.この場合,以下のように議論すれば大丈夫で
ある:連続関数 f : R → R を
{
f (y) :=
log y
y−1
if y ̸= 1,
1
if y = 1
と定義すると,
{
}
{
} (
)
log pn ean x + (1−pn ) e−an x = pn ean x + (1−pn ) e−an x − 1 f pn ean x + (1−pn ) e−an x
となるので,この式の右辺に n を乗じて n → ∞ の極限を考えたもので (2) 式を置き換えれば,
(2) の分母がゼロの場合もOK.
注3
一般の時刻 t > 0 に対しては,以下のように議論する.まず,1 頁目の問題文では確率過程が
1
n
の自然数倍の時刻に対してしか定義されていないので, nk と k+1
n の間の時刻に対しては線形補完
{
}
した連続過程を Wn (t) t≥0 と記し,固定された時刻 t > 0 に対して,確率変数 Wn (t) の積率母
[
]
関数 Mn (x) = E ex Wn (t) に対して 1 頁目と同じ問題を考える. nk ≤ t < k+1
のとき,つまり
n
k = ⌊nt⌋ のとき,
Wn
( ⌊nt⌋ )
n
( ⌊nt⌋ )
1
1
− √ ≤ Wn (t) ≤ Wn
+√
n
n
n
なので,
}⌊nt⌋ |x|
{
}⌊nt⌋ |x|
{
√
−√
e n ≤ Mn (x) ≤ pn ean x + (1 − pn ) e−an x
pn ean x + (1 − pn ) ean x
e n
よって,
1
lim log Mn (x) =
t n→∞
=
}
{
1
lim ⌊nt⌋ log pn ean x + (1 − pn ) e−an x
t n→∞
lim n
n→∞
}
{
⌊nt⌋
log pn ean x + (1 − pn ) e−an x
nt
{
=
lim n log
n→∞
pn ean x + (1 − pn ) e−an x
3
}
【 ∵ lim
n→∞
⌊nt⌋
= 1 】
nt
あとは前頁と同じ議論になる. Mn の各点収束先は
lim Mn (x) = exp
n→∞
( σ 2 t x2
2
)
+ µtx
であり,これは σ > 0 ならば正規分布 N(µt, σ 2 t) の積率母関数である.
注4
特性関数が広義一様収束するための必要十分条件も,同じ答えになる.なお,確率分布族に対し
て,以下の3つの性質が同値であることが知られているので,厳密な議論のためには積率母関数で
なく特性関数を用いるほうが良い:
• 確率分布が弱収束する.
• 特性関数が広義一様収束する.
• 特性関数が各点収束して,かつ収束先の関数が x = 0 で連続である.
以上.
4