関数論と応用数学 - あもんノート

あもんノート
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ユークリッド幾何学、ニュートン力学から、相対論、宇宙論、量子力学、場の量子論、
素粒子論、そしてくりこみ理論まで、理論物理学を簡潔にかつ幅広く網羅したノート
です。TOP へは上の URL をクリックして行けます。
目次
1
2
関数論と応用数学
1.1
指数関数と対数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
1.2
複素数と複素関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
1.3
複素微分と正則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
1.4
マクローリン展開とテイラー展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
1.5
複素積分とコーシーの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
1.6
留数定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
1.7
複素共役とエルミート共役 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
1.8
行列の固有方程式と対角化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
1.9
行列の指数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
1.10 1 階の微分方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
1.11 定係数線形微分方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
1.12 ガウス積分とガンマ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
1.13 n 次元球の体積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
1.14 スターリングの式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
1.15 二項分布と正規分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
1.16 デルタ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
1.17 フーリエ変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
1.18 有限区間のフーリエ変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
1
1
関数論と応用数学
複素関数論やこれを応用した数学は物理においてよく用いられ、重要です。ここ
に手短にまとめておきます。関数論の簡単な説明の後、微分方程式の解法、ガン
マ関数、デルタ関数、フーリエ変換について説明し、理論物理学の準備とします。
1.1
指数関数と対数関数
極限値、
e = lim (1 + h)1/h ∼ 2.71828
h→0
を自然対数の底、あるいはネイピア数といいます。また、実数 x に対し、
exp x = ex
を指数関数といいます。指数関数の逆関数を対数関数 (log) といい、
y = log x ⇔ x = ey
で定義します。対数関数の定義域は x > 0 です (図 1)。
log(xy) = log x + log y,
log(xy ) = y log x
という性質が確かめられるでしょう。また、
³
´
log(1 + h)
1/h
lim
= lim log (1 + h)
= log e = 1
h→0
h→0
h
がわかるので、これを用いて、微分公式、
1
d
log x =
dx
x,
d x
e = ex
dx
を得ます。これらはあくまで実数における関数です。三角関数、指数関数、対数
関数は初等関数と呼ばれ、高校においても必ず習う、必須の関数です。
また、高校では習いませんが、
ex + e−x
cosh x =
2,
ex − e−x
sinh x =
2,
2
tanh x =
sinh x
cosh x
図 1: 指数対数関数と双曲線関数
で定義される双曲線関数も物理ではよく登場します。このとき、
cosh2 x − sinh2 x = 1,
d
cosh x = sinh x,
dx
d
sinh x = cosh x.
dx
曲線 {(cosh θ, sinh θ)| θ は実数 } が双曲線を意味するため、この名前で呼ばれま
す。三角関数 cos θ, sin θ はこの意味で ‘円関数’ であり、そう呼ばれることもあり
ます。
(余談) 特に工学の方面においては、自然対数を ln と表すことがあります。この場合、log は常
用対数を意味することが多く、すなわち、y = log x ⇔ x = 10 y です。例えば Excel ではこのよう
な用法になっています。一方、Excel に付属されている VBA では log は自然対数を意味します。
ややこしいですね。傾向として、理論方面に行けば行くほど、常用対数を使うことがなく、log は
自然対数を意味するようです。
1.2
複素数と複素関数
実数 x, y に対し、
z = x + iy
で与えられる数を複素数といいます。ここで i は虚数単位と呼ばれる代数で、
i2 = −1
を満たすものとします。複素数の集合は加減乗除の演算において閉じていて、実
数と同様、結合法則、交換法則、分配法則を持ちます。すなわち体を成すわけで
3
す。z = x + iy に対し、x を z の実部といい、Re z と書きます。また、y を z の
虚部といい、Im z と書きます。(x, y) が作る 2 次元空間を複素平面といいます。
複素数 z = x + iy の指数関数を、
ez = ex (cos y + i sin y)
で定義します。このとき、複素数 z, w に対し、
ez ew = ez+w
が以下のようにしてわかります。
[証明] z = x + iy, w = u + iv とすると、三角関数の加法定理に注意して、
ez ew = ex (cos y + i sin y) eu (cos v + i sin v)
¡
¢
= ex+u cos y cos v − sin y sin v + i(sin y cos v + cos y sin v)
¡
¢
= ex+u cos(y + v) + i sin(y + v) = ex+u+i(y+v) = ez+w . [証明終]
特に、実数 θ に対し、
eiθ = cos θ + i sin θ
ですが、これはオイラーの式と呼ばれます。
複素数 z = x + iy は、x = r cos θ, y = r sin θ で極座標 r, θ を導入すると、
z = reiθ
と書けますが、これを複素数の極形式といいます (図 2)。
図 2: 複素数の極形式
p
r = x2 + y 2 を z の大きさ (ノルム) といい、|z| と書きます。θ = arctan(y/x)
を z の偏角といい、Arg z と書きます。複素数の積において、大きさは乗法的で
偏角は加法的になること、すなわち、
|zw| = |z||w|,
Arg(zw) = Arg z + Arg w
4
が確かめられるでしょう。
複素数においても、指数関数の逆関数として対数関数を定義します。すなわち、
w = log z ⇔ z = ew .
一般に、n を整数としたとき、ei2πn = 1 であることに注意すると、r, θ を実数と
して、elog r+i(θ+2πn) = reiθ がわかるので、
log(reiθ ) = log r + i(θ + 2πn)
を得ます。複素数の対数関数は多価であること (複数の値を持つこと) がわかります。
複素数 z の三角関数は、
eiz + e−iz
eiz − e−iz
, sin z =
cos z =
2
2i
で定義されます。双曲線関数の定義は実数の場合と同じです。よって、
cos z = cosh(iz),
sin z = −i sinh(iz).
一方、複素数による “べき” は、
az = ez log a
で定義されます。a, z は複素数です。このとき、
az aw = az+w ,
(az )w = azw ,
log(zw) = log z + log w,
log(az ) = z log a
が確かめられます。指数法則や対数関数の性質が、複素数の世界においても保持
されるわけです。あるいは、そうなるように考慮し関数の定義域を複素数に拡張
したともいえます。
[例題] 2 次方程式 z 2 = i を解け。
1
1
1
[解] z = i 2 = e 2 log i = e 2 log e
1.3
iπ/2
π
π
1
1+i
= e 2 i( 2 +2πn) = ei( 4 +πn) = ± √
[解終]
2.
複素微分と正則
複素数から複素数への写像 f , および複素平面の領域 S に対し、
³
´
∀z ∈ S lim f (z + ∆z) = f (z)
∆z→0
のとき、f は S において連続であるといいます。∆z は複素数で、上式は ∆z を
任意の方向から 0 に近づけ、その極限が全て関数の値 f (z) に一致するという意味
です。このときさらに、
¶
µ
f (z + ∆z) − f (z)
= f 0 (z)
∀z ∈ S lim
∆z→0
∆z
5
を満たす関数 f 0 が存在するとき、f は S において正則 (微分可能) であるといい、
f 0 を f の導関数といいます。
いま、u + iv = f (x + iy) とおくと、実数 u, v は共に、実数 x, y の 2 変数関数
とみなせますが、∆z = h ( h は実数) のとき、
f (z + ∆z) − f (z)
f (x + iy + h) − f (x + iy)
= lim
∆z→0
h→0
∆z
h
u(x + h, y) + iv(x + h, y) − u(x, y) − iv(x, y) ∂u
∂v
= lim
=
+i
h→0
h
∂x
∂x.
lim
同様に、∆z = ih のとき、
f (z + ∆z) − f (z) ∂v
∂u
=
−i
∆z→0
∆z
∂y
∂y
lim
が示せるので、考えている領域において f が正則である条件は、
∂u ∂v
=
∂x ∂y
∂u
∂v
=−
∂y
∂x
かつ
となり、これをコーシー・リーマン方程式といいます。
実数の場合と同様に、次の微分公式を証明できます。
d a
d z
d
1
z = az a−1 ,
a = az log a,
log z =
dz
dz
dz
z,
d
d
sin z = cos z,
cos z = − sin z.
dz
dz
(余談) コーシー・リーマン方程式から、実 2 変数関数 u, v は、それぞれ、4u = 0, 4v = 0 を
満たします。ここで 4 = (∂/∂x)2 + (∂/∂y)2 は 2 次元ラプラシアンです。一般に 4φ = 0 を満た
す 2 変数関数 φ は調和関数と呼ばれます。よって u, v は調和関数ということになります。
1.4
マクローリン展開とテイラー展開
正則な関数 f を次のように多項式展開したとしましょう :
2
f (z) = c0 + c1 z + c2 z + · · · =
∞
X
ck z k .
k=0
ここで ck (k = 0, 1, 2, · · · ) は複素数の定数です。この式を n 回微分し z = 0 とお
けば、f の n 階導関数を f (n) として、f (n) (0) = cn n! を得るので、
f (z) =
∞
X
f (k) (0)
k=0
6
k!
zk.
これを f のマクローリン展開といいます。例えば f (z) = ez とすると、f (k) (0) = 1
なので、
∞
X
1 k
z
e =
z .
k!
k=0
また、マクローリン展開の式において g(z) = f (z − a) とおくと、
g(z) =
∞
X
g (k) (a)
k=0
k!
(z − a)k
を得ますが、これを関数 g の a におけるテイラー展開といいます。
1.5
複素積分とコーシーの定理
複素数による積分は一般に複素平面上の経路に依存した概念であり、経路を C
としたとき、
Z
dz f (z)
C
と書きます。ここで dz は、x, y を実数として、dx + idy という微分形式として
理解します。
複素平面のある領域 S において関数 f が正則であるとき、
Z
dz f (z) = 0
∂S
です。これをコーシーの定理といいます。∂S は S の境界を成す閉曲線で、反時
計周りの向きを持つものとします。
[証明] z = x + iy, f (z) = u + iv とすると、
d(dz f (z)) = −dz ∧ df (z) = −(dx + idy) ∧ (du + idv)
µ
¶
∂u
∂u
∂v
∂v
= −(dx + idy) ∧
dx +
dy + i
dx + i
dy
∂x
∂y
∂x
∂y
µ
¶
∂u ∂v ∂u
∂v
= dx ∧ dy i
−
−
−i
∂x ∂x ∂y
∂y
ですが、コーシー・リーマン方程式からこれは S のどの点においても 0 です。よっ
R
R
てストークスの定理 : ∂S α = S dα において α = dzf (z) とおくことにより与題
を得ます。[証明終]
コーシーの定理から、領域 S において関数 f が正則なら、図 3 に示す 2 つの経
路 C, C 0 における f の積分値は同じです。このことから一般に、複素積分の値は、
7
図 3: 積分経路の変形
積分経路を被積分関数が正則な領域を掃くよう変形しても変わらないことになり
ます。
領域 S において関数 g が正則のとき、
Z
g(z)
2πi
=
g (n−1) (a)
dz
n
(z − a)
(n−1)!
∂S
(a ∈ S,
n = 1, 2, · · · )
がいえます。これをコーシーの積分定理、あるいはグルサの公式といいます。
R
[証明] まず ∂S dz g(z)/(z − a) という積分を考えると、被積分関数は領域 S に
おいては点 a を除き正則なので、積分経路を a の周りの小さな円にすることがで
きます。そこで、積分変数を z = a + reiθ (r → 0) とおいて、
Z
Z 2π
g(z)
g(a + reiθ )
dz
= lim
= 2πi g(a).
ireiθ dθ
z − a r→0 0
reiθ
∂S
この式を a で (n−1) 回微分して与題を得ます。[証明終]
1.6
留数定理
複素数 z の (1 価の) 関数 f (z) が z = a で発散するとき、a を f の極といいま
す。またこのとき、lim(z − a)n f (z) が収束する最小の整数 n をこの極の位数とい
z→a
z
います。例えば、f (z) =
は i に 3 位の極、−2 に 2 位の極を持つ
(z − i)3 (z + 2)2
というわけです。
関数 f が領域 S においていくつかの極 ai (i = 1, 2, · · · , N ) を持ち、その他の
点において正則なら、
Z
dz f (z) = 2πi
∂S
N
X
i=1
1
lim
Res(a) =
(n−1)! z→a
Res(ai ),
µ
d
dz
¶n−1
(z − a)n f (z)
( n は極 a の位数)
がいえます。Res(a) を留数といい、この定理を留数定理といいます。
8
R
[証明] コーシーの定理から積分 ∂S dz f (z) は S 内で f が持つ極の周りの積分
の和になります (図 4 参照。×印は極を意味します)。特に極 a の周りの積分は
f (z) = g(z)/(z − a)n とおけば g(z) は a の近傍で正則とみなされるため、ちょう
どグルサの公式に帰着し、よって与題が得られます。[証明終]
図 4: 留数定理
留数定理により、閉曲線における複素積分は、閉曲線内部にある極の情報だけ
から求められるわけです。またその応用により、通常計算が困難とされる実積分
を計算することもできます。以下に例を 2 つあげます。
Z ∞
dx
[例題] 広義積分 : I =
の値を求めよ。
4
x +1
0
[解] まず、十分大きな実数 R に対し図 5 のような周回経路 C を考え、
Z
dz
I0 =
4
C z +1
とおきます。
図 5: 閉曲線 C
C の内部における極は、eiπ/4 , ei3π/4 にあり、共に位数は 1 です。留数は、
Res(e
iπ/4
z − eiπ/4
1
e−i3π/4
) = lim
= lim
=
4.
z→ eiπ/4 z 4 + 1
z→ eiπ/4 4z 3
9
途中、計算を手早く行うためロピタルの定理を用いました。同様に Res(ei3π/4 ) =
e−iπ/4 /4 がわかるので、留数定理から、
¶
µ −i3π/4
−iπ/4
e
e
π
I 0 = 2πi
+
=√
4
4
2.
一方、
Z
R
dx
I =
+
4
−R x + 1
0
Z
π
0
iReiθ dθ
(Reiθ )4 + 1
ですが、R → ∞ で前の項は 2I, 後ろの項は 0 になるので、I 0 = 2I. よって、
I0
π
I= = √
2
2 2.
Z
2π
[例題] 定積分 : I =
0
[解終]
dφ
の値を求めよ。ただし 0 < ² < 1.
(1 + ² cos φ)2
[解] z = eiφ とおくと、dφ = dz/(iz), cos φ = (z + z −1 )/2 に注意して、
Z
Z
1
dz
4
z
I=
= 2
dz µ
¶2
µ
¶
2
i² C
2
z + z −1
C iz
z2 + z + 1 .
1+²
²
2
ここで C は 0 を中心とする単位円です。2 次方程式 z 2 + (2/²)z + 1 = 0 の解が、
√
−1 ± 1 − ²2
α± =
²
で、このうち α+ のみが C の内部にあるとわかるので、留数定理を用いて、
Z
4
z
4
d
z
I= 2
dz
=
2πi
lim
z→α+ dz (z − α− )2
i² C
(z − α+ )2 (z − α− )2
i²2
−z − α−
8π −α+ − α−
8π
2/²
8π
= 2
= 2 ¡ √
= 2 lim
¢
3
3
² z→α+ (z − α− )
² (α+ − α− )
² 2 1 − ²2 /² 3
=
1.7
2π
(1 − ²2 )3/2 .
[解終]
複素共役とエルミート共役
複素数 z = x + iy に対し、
z ∗ = x − iy
で z の複素共役を定義します。このとき、
z ∗ z = |z|2 ≥ 0 ( 等号成立は z = 0 ).
10
また、2 つの複素数 z, w に対して、(z + w)∗ = z ∗ + w∗ , (zw)∗ = z ∗ w∗ . さらに、
∗
(ez )∗ = ez などが確かめられるため、一般に複数の複素数 z1 , z2 , · · · とその任意の
多変数関数 f に関して、
f (z1 , z2 , · · · )∗ = f (z1∗ , z2∗ , · · · )
です。
一方、複素数を成分とする行列 A に対して、
(A∗ )ij = A∗ij
で行列の複素共役を定義します。すなわち行列の複素共役は、その各成分を複素
共役とした行列です。また、複素共役の転置、
A† = A∗T
でエルミート共役を定義します。性質、
(A + B)† = A† + B † ,
(cA)† = c∗ A† ,
(AB)† = B † A†
が確かめられるでしょう。ここで c は複素数です。
複素数を成分とするベクトル ( N × 1 行列) a, b について、
a·b = a† b = a∗i bi
で内積を定義します。このとき、
(a·b)∗ = b·a, a·a ≥ 0 ( 等号成立は a = 0 )
√
が確かめられます。|a| = a·a でベクトルの大きさ (ノルム) を定義するのは実
ベクトルと同じです。
A† = A を満たす行列 A はエルミート行列と呼ばれます。A† A = δ を満たす行
列 A はユニタリ行列と呼ばれます ( δ は単位行列)。エルミート行列は対称行列の
複素数版、ユニタリ行列は直交行列の複素数版と考えることができます。
ユニタリ行列による線形変換 (ユニタリ変換) は複素ベクトルの内積を保存する
ことが確かめられるでしょう :
( a0 = Aa かつ b0 = Ab かつ A† A = δ ) ⇒ a0 · b0 = a·b.
これは直交行列が実ベクトルの内積を保存することの複素数版です。
11
1.8
行列の固有方程式と対角化
N 次正方行列 A に対し、方程式、
Av = λv
(v 6= 0)
を A の固有方程式といい、複素数 λ を固有値、v をその固有値に関する固有ベ
クトルといいます。
いま、行列 A の固有値が N 個求まり、固有値 λk (k = 1, 2, · · · , N ) に関する固
有ベクトルを v k とすると、
A(v 1 , v 2 , · · · , v N ) = (λ1 v 1 , λ2 v 2 , · · · , λN v N )
= (v 1 , v 2 , · · · , v N ) diag(λ1 , λ2 , · · · , λN ).
ここで B = (v 1 , v 2 , · · · , v N ) は縦ベクトル v k を横に並べて作った行列であり、ま
た、diag(λ1 , λ2 , · · · , λN ) は λ1 , λ2 , · · · , λN を対角成分とする対角行列です (非対
角成分が全て 0 の行列)。よってもし B の逆行列が存在するなら、
A = B diag(λ1 , λ2 , · · · , λN )B −1
がわかりますが、この式を行列 A の対角化といいます。簡単な例で確認しておき
ましょう。
µ
¶
0 1
[例題] 2 次正方行列 A =
を対角化せよ。
1 0
[解] 固有方程式は、
µ
¶
µ
¶
µ
¶
0 1
λ 0
−λ 1
Av = λv ∴
v=
v ∴
v = 0.
1 0
0 λ
1 −λ
µ
¶
−λ 1
v 6= 0 より det
= λ2 − 1 = 0 ∴ λ = ±1.
1 −λ
µ ¶
1
このとき v =
(複号同順) で固有方程式が満たされるので、
±1
µ
¶
1
1
A = B diag(1, −1)B −1 , ここで B =
. [解終]
1 −1
ただし固有ベクトル v にはそれぞれ定数倍の不定性があるため、行列 B にもこ
れに関連した不定性があることに注意してください。
12
1.9
行列の指数関数
正方行列 A の指数関数は、
∞
X
1 n
e =
A
n!
n=0
A
により定義されます。すなわち指数関数のマクローリン展開式を正方行列に適用
し、定義するわけです。
二項定理 :
s
(a + b) =
s
X
n=0
s!
an bs−n
n!(s−n)!
に注意すると、正方行列 A, B が互いに可換なとき、
A B
e e =
=
∞ X
∞
X
n=0 m=0
∞
X
s=0
∞
s
XX
1
1
n m
A B =
An B s−n
n!m!
n!(s−n)!
s=0 n=0
1
(A + B)s = eA+B
s!
がわかります。よって eA の逆行列は e−A です。また、A がエルミート行列のと
き eiA がユニタリ行列になることもわかるでしょう。
一方、正方行列 A, B に対して一般に (BAB −1 )n = BAn B −1 であることに注意
すると、
−1
eBAB = B eA B −1 .
また、diag(λ1 , λ2 , · · · , λN )n = diag(λn1 , λn2 , · · · , λnN ) に注意すれば、
ediag(λ1 ,λ2 ,··· ,λN ) = diag(eλ1 , eλ2 , · · · , eλN )
が確かめられます。
µ
¶
0 1
[例題] A =
のとき U = eiθA を求めよ。
1 0
[解] 先の例題の結果と上の性質に注意して、
−1
U = eiθB diag(1,−1)B = B ediag(iθ,−iθ) B −1 = B diag(eiθ , e−iθ )B −1
µ
¶ µ
¶
µ
¶ µ iθ
¶
1 −1 −1
cos θ i sin θ
1 1
e
0
=
. [解終]
=
i sin θ cos θ
1 −1
0 e−iθ −2 −1 1
(余談) 固有方程式や対角化は高校数学の教科書に系統的な形では書かれていませんが、事実上、
大学受験生は知っているとしたものです。一方、行列の指数関数を高校で習うことはないでしょう。
13
1.10
1 階の微分方程式
微分方程式は、微分を含んだ方程式のことで、それを満たす関数を求めること
を、その微分方程式を解くといいます。物理では微分方程式を解くことが必要に
なってきます。代表的な形と解き方について、ここで簡単に説明します。
1 階の微分方程式は、1 階微分だけを含んだ微分方程式のことで、
dy
= f (x, y)
dx
という形です。これを一般に解析的に解くことは難しいですが、
dy
= p(x)q(y)
dx
のように、右辺が x, y それぞれの関数の積に分離する場合は、変数分離形と呼ば
れ、基本的に、
Z
Z
dy
= dx p(x)
q(y)
と変形され、すなわち不定積分に帰着します。不定積分はそれ自体解析的とみな
されるので、これで微分方程式が解けたと考えられます。変数分離形は容易に解
けるわけです。
また、
³y ´
dy
=f
dx
x
という形の微分方程式は、同次形と呼ばれ、u = y/x とおくことで変数分離形に
帰着し、解けます。例をもって確認しておきましょう。
[例題] 微分方程式
dy
y
=
を解け。
dx y + x
[解] 右辺の分母分子を x で割るとわかるように、これは同次形です。u = y/x
とおくと、
xu
d(xu)
=
dx
xu + x
du
u
∴ u+x
=
dx u + 1
du
u2
∴ x
=−
dx
u+1
となって、これは変数分離形です。右辺が 0 になるのは u = 0 のときで、u = 0 (∀x)
は上式の解になっています。u 6= 0 のときは、
Z
Z
u+1
1
dx
du 2 = −
∴ log u − = − log x + C
u
x
u
と変形され、ここで C は積分定数です。u = y/x だったので、変数を y に戻し
て、x = y log y − Cy と整理されます。また u = 0 ⇔ y = 0 なので、与えられた
微分方程式の解は、y = 0 または x = y log y − Cy です。[解終]
14
1.11
定係数線形微分方程式
x による微分演算子を D = d/dx とし、また、φ を N 次の多項式としたとき、
φ(D)y = f (x)
という形の微分方程式は、N 階の定係数線形微分方程式と呼ばれ、容易に解くこ
とができます。ここで f は任意の関数です。もう少し具体的に書けば、N 次多項
式 φ の n 次の係数を an として、
(aN DN + aN −1 DN −1 + · · · + a1 D + a0 ) y = f (x)
という形です。an が x に依存せず定数なので、定係数といい、微分方程式が y に
ついて 1 次なので、線形というわけです。特に f (x) = 0 のときは斉次 (同次) であ
るといい、このため右辺の f (x) は非斉次項と呼ばれます。
上の微分方程式の解が 1 つ見つかると、線形性から、それに φ(D)y = 0 の解を
加えてもやはり解になっています。よって上の微分方程式の一般解は、特殊解 (特
解) 1 つと、斉次方程式 φ(D)y = 0 の一般解を加えたものになります。
斉次方程式 φ(D)y = 0 の一般解は y = eλx とおくことで得られます。この
とき φ(λ) = 0 ですが、これを特性方程式といいます。特性方程式は N 次方程式
で、これを解くことで N 個の解 λ1 , λ2 , · · · , λN が得られ、このとき y = eλn x
(n = 1, 2, · · · , N ) は全て解なので、これらの線形結合、
y = C1 eλ1 x + C2 eλ2 x + · · · + CN eλN x
も解です。ここで Cn は任意の定数ですが、これらが N 個あって自由に選べるの
で、これは一般解といえます。
ただし特性方程式が重解を持つときは注意が必要です。例えば、λ が m 重解の
ときは、(D − λ)f (x)eλx = f 0 (x)eλx ∴ (D − λ)m f (x)eλx = f (m) (x)eλx に注意し、
eλx ,
x eλx ,
··· ,
xm−1 eλx
がそれぞれ独立な解であることがわかります。よってこれらの線形結合により、や
はり一般解を構成できることになります。
例を見るのが早いでしょう。
[例題] 微分方程式 y (4) − y (3) − 3y (2) + 5y (1) − 2y = 0 を解け。ただし y (n) は x に
よる y の n 階微分。
[解] 与式は (D4 − D3 − 3D2 + 5D − 2)y = 0 ∴ (D − 1)3 (D + 2)y = 0 なので、
特性方程式は (λ − 1)3 (λ + 2) = 0 で、その解は λ = 1 (3 重解) および λ = −2
15
です。よって一般解は、y = C1 ex + C2 x ex + C3 x2 ex + C4 e−2x と書けます。ここ
で、C1 , C2 , C3 , C4 は任意定数です。[解終]
[例題] 微分方程式 y 00 − 5y 0 + 6y = x2 + 1 を解け。
[解] 右辺が 0 のときは、(D2 − 5D + 6)y = 0 ∴ (D − 2)(D − 3)y = 0 なので、
斉次一般解は、y = C1 e2x + C2 e3x . 一方、特解は、
y=
1
1 2
5
37
2
(x
+
1)
=
x
+
x
+
D2 − 5D + 6
6
18
108
18x2 + 30x + 37
なので、一般解は、y =
+ C1 e2x + C2 e3x です。[解終]
108
ここで (D2 − 5D + 6)−1 (x2 + 1) は、(D2 − 5D + 6) を演算すると (x2 + 1) にな
る式という意味で、図 6 のように割り算と同様な逆算により導出できます。
図 6: 微分演算子による割り算
一方、非斉次項に指数関数や三角関数が含まれる場合は、
1
1
eαx f (x) = eαx
f (x)
φ(D)
φ(D + α)
という公式が有用になります。
[証明] D eαx f (x) = eαx (D + α)f (x) が簡単に確かめられるので、これにより、任
意の多項式 φ について、φ(D)eαx f (x) = eαx φ(D + α)f (x) がわかります。よって、
φ(D)eαx
1
1
f (x) = eαx φ(D + α)
f (x) = eαx f (x)
φ(D + α)
φ(D + α)
16
ですが、これは与題と等価です。[証明終]
三角関数を非斉次項に持つ例を見ておきましょう。
[例題] 微分方程式 y 00 + y = cos(Ax) を解け。ただし A は正の実数とする。
[解] 右辺が 0 のときは、(D2 + 1)y = 0 で、λ2 + 1 = 0 の解は λ = ±i なので、
斉次一般解は、y = C1 eix + C2 e−ix . これはオイラーの式に注意すると、
y = B1 cos x + B2 sin x
と書くこともできます。B1 , B2 は任意定数です。一方、特解は、cos(Ax) = Re eiAx
に注意して、
1
1
y= 2
Re eiAx = Re eiAx
1
D +1
(D + iA)2 + 1

cos(Ax)
1


=
(A 6= 1)
Re eiAx

2
1
1−A
1 − A2
iAx
= Re e
1=

1 − A2 + 2iAD + D2

 Re eix x = x sin x (A = 1)
2i
2
と計算されるので、一般解は、

cos(Ax)


(A 6= 1)

1 − A2
y = B1 cos x + B2 sin x +


 x sin x
(A = 1)
2
となります。[解終]
微分方程式の解き方は以上です。特に物理においては、これくらい知っていれ
ば基礎知識として十分です。
(余談) 物理においては対称性から保存則が得られるので、対称性が十分ある系は 1 階の微分方
程式に帰着し、多くの場合、それは変数分離形です。そうでない場合でも、線形近似と摂動論によ
り計算することが多く、非線形で高階な微分方程式の解を知ることは、それ自体が 1 つの数理的分
野となっていて、非線形物理などと呼ばれます。
1.12
ガウス積分とガンマ関数
広義積分、
Z
∞
I=
2
dx e−x
−∞
をガウス積分といいます。自乗を作ると、
Z ∞
Z ∞
Z
2
−x2
−y 2
I =
dx e
dy e
=
−∞
−∞
∞
dx
−∞
17
Z
∞
−∞
2
dy e−x
−y 2
ですが、積分変数を極座標に変換し、
Z ∞ Z 2π
Z
2
−r2
I =
dr
dθ r e = 2π
0
0
∞
2
dr r e−r .
0
この積分は積分変数を s = r2 に置換すれば実行できて、結果、I 2 = π を得ます。
よって、
Z ∞
√
2
dx e−x = π.
−∞
あるいはここから、
Z
∞
r
2
dx e−ax =
−∞
π
a
(a > 0)
という公式を得ます。
一方、x > 0 に対して、
Z
∞
Γ(x) =
dt tx−1 e−t
0
でガンマ関数を定義します。容易に、
Γ(1) = 1,
Γ(x + 1) = xΓ(x)
が確かめられるので、正の整数 n に対して、
Γ(n) = (n − 1)!
です。すなわちガンマ関数は階乗の定義域を正の実数にまで拡張した関数になっ
ています。Γ(1/2) はガウス積分に帰着することがわかり、
³1´ √
Γ
= π.
2
また、
Γ(1 + ²) = ² Γ(²)
∴ lim ² Γ(²) = 1.
²→0
すなわち Γ(x) は x → 0 において発散し、その留数は 1 です。
(余談) “x > 0” のように定義域を不等式で表したときは、暗黙に x は実数と考えます。複素
数には大小関係 (順序関係) がないことに注意。ただしガンマ関数は、性質 Γ(x + 1) = xΓ(x) を
用いて、容易にその定義域を 0 以下の整数を除く実数全体に拡張することができます。例えば、
√
Γ(−1/2) = Γ(1/2)/(−1/2) = −2 π.
1.13
n 次元球の体積
ガウス積分およびガンマ関数の風変わりな応用として、n 次元球の体積の問題が
あります。
Z
Z
Z
∞
I=
∞
dx1
−∞
∞
dx2 · · ·
−∞
−∞
18
2
2
2
dxn e−(x1 +x2 +···+xn )
という n 重積分を考えると、ガウス積分の結果から、
I = π n/2 .
一方、半径 R の n 次元球の体積を、
Vn (R) = Cn Rn
とすると、半径 R の n 次元球面の表面積が Sn (R) =
るはずなので、I は、
Z
I=
d
Vn (R) = n Cn Rn−1 とな
dR
Z
n Cn ∞
dr n Cn r e =
ds sn/2−1 e−s
2
0
0
³
´
³
´
n
n
n Cn
Γ
= Cn Γ
+1
=
2
2
2
∞
n−1 −r2
と評価することもできます。2 つの I の結果を比較して、Cn = π
すなわち、
n/2
/Γ
³n
2
´
+1 .
π n/2 Rn
´
Vn (R) = ³ n
Γ
+1
2
を得ます。
4
πR3 が得られることを確認してみてくださ
3
1
い。また、半径 R の 4 次元球の体積は V4 (R) = π 2 R4 となることがわかります。
2
上式から、V2 (R) = πR2 , V3 (R) =
(余談) 4 次元デカルト座標 (x, y, z, w) に対し、
x = r cos ψ, y = r sin ψ cos θ, z = r sin ψ sin θ cos φ, w = r sin ψ sin θ sin φ
( 0 ≤ r < ∞, 0 ≤ ψ < π, 0 ≤ θ < π, 0 ≤ φ < 2π )
で 4 次元極座標を定義すると、これは原点を除き 4 次元ユークリッド空間の全領域を 1 対 1 に覆い
ます。この極座標のヤコビアンを計算すると、


∂x/∂r ∂x/∂ψ ∂x/∂θ ∂x/∂φ
 ∂y/∂r ∂y/∂ψ ∂y/∂θ ∂y/∂φ 
3
2

det 
 ∂z/∂r ∂z/∂ψ ∂z/∂θ ∂z/∂φ  = r sin ψ sin θ
∂w/∂r ∂w/∂ψ ∂w/∂θ ∂w/∂φ
となるので、半径 R の 4 次元球の体積は、
Z π
Z π
Z
Z R
2
3
dψ sin ψ
dθ sin θ
V4 (R) =
dr r
0
0
0
2π
dφ =
0
これはもちろん上の結果と一致しています。
19
R4 π
1
· · 2 · 2π = π 2 R4 .
4 2
2
1.14
スターリングの式
ガンマ関数は、
Z
Γ(x + 1) =
Z
∞
x −t
dx t e
∞
=
0
dx e−f (t) ,
f (t) = t − x log t
0
と表せますが、この積分で特に効くのは f (t) の最小値を与える t の近辺だけのは
ずなので、他の区間の積分を無視するという近似が考えられます (漸近展開)。f (t)
は t = x で最小値を持つことがわかり、f (t) を t = x のまわりでテイラー展開す
ると、
1
f (t) = x − x log x +
(t−x)2 + · · · .
2x
よって、
Z
2
Γ(x + 1) ∼ e−x+x log x
dt e−(t−x) /(2x)
Z
∼ e−x+x log x
=
√
x の周辺
∞
2
dt e−(t−x)
/(2x)
−∞
2πx xx e−x
という近似式を得ます。これをスターリングの式といい、非常に精度のよい近似
式として知られています。
x Γ(x + 1)
2
4
6
8
10
2
24
720
40320
3628800
√
2πx xx e
−x
1.9190044
23.506175
710.07818
39902.395
3598695.6
比
1.0422071
1.0210083
1.0139728
1.0104657
1.0083654
スターリングの式から、正の整数 n に対して、
log(2πn)
log n!
∼ log n − 1 −
n
2n
ですが、n が十分大きいときは最後の項を無視でき、
log n! ∼ n log n − n
と評価されます。
20
1.15
二項分布と正規分布
1 回の試行で事象 A が起こる確率が p であるとき、n 回の試行で A が k 回起こ
る確率は、
n!
pk q n−k ( q = 1 − p )
P (k) =
k!(n−k)!
と書けます。これを二項分布といいます。
特に n, k, n−k が十分大きいときは、スターリングの式を用いて、
log P (k) ∼ n log n − n − k log k + k − (n−k) log(n−k) + (n−k)
+ k log p + (n−k) log q
= −k log k − (n−k) log(n−k) + k log
p
+ (定数)
q
ですが、k = np + x で変数を x に変えると、
µ
¶
µ
¶
x
x
log P (k) ∼ −(np + x) log 1 +
− (nq − x) log 1 −
+ (定数)
np
nq
と整理されます。ここで log(1 + x) = x − (1/2)x2 + · · · に注意すると、1/n の高
次を無視して、
µ
¶
x2
(k−np)2
log P (k) ∼ −
+ (定数) ∴ P (k) ∼ (定数) × exp −
.
2npq
2npq
定数の因子は全確率が 1 となることから定まり、結果、二項分布は、
µ
¶
1
(x−µ)2
√
P (k) ∼ N (k; np, npq) , N (x; µ, σ) = √
exp −
2σ 2
2π σ
と近似されることがわかります。N (x; µ, σ) は正規分布もしくはガウス分布と呼
ばれ、確率分布関数として代表的なものです。パラメータ µ は期待値、σ は標準
偏差と呼ばれます (図 7)。
図 7: 正規分布
21
一般に変数 x の確率分布が正規分布 N (x; µ, σ) で与えられる場合、|x−µ| < sσ
が満たされる確率は、


r

Z µ+sσ
Z s
 0.6827 (s = 1)
2
2
M(s) =
dx N (x; µ, σ) =
dt e−t /2 ∼ 0.9545 (s = 2)

π 0
µ−sσ

 0.9973 (s = 3)
で与えられます。よって二項分布 P (k) において、特にいまの近似が適用できる
場合、
√
| k − np | < s npq が満たされる確率は M(s)
ということがわかり、これは統計学の基本となる定理です。
1.16
デルタ関数
実数 x に対して、
1
2 2
δ(x) = N (x; 0, 0) = lim √ e−x /²
²→+0
π²
でデルタ関数を定義します。このとき、δ(x) = 0 (x 6= 0). また、δ(0) → ∞ です。
デルタ関数は x = 0 で無限に尖った関数ということです。
デルタ関数は明らかに偶関数です :
δ(−x) = δ(x).
また、0 でない実数 a に対して、
δ(ax) =
1
δ(x)
|a|
が確かめられるでしょう。
R∞
0 以上の整数 n に対して、 −∞ dx xn δ(x) という積分を考えてみると、n が奇数
のときは奇関数の積分となるため明らかに 0 で、偶数のときは、
µ
¶
Z ∞
Z ∞
n
²
n
+
1
1
2 2
(² → 0)
dx xn δ(x) = 2
dx xn √ e−x /² = √ Γ
2
π²
π
−∞
0
と評価されます。よって、
Z
∞
dx xn δ(x) = δn0
−∞
22
を得ます。ここで δnm はクロネッカーデルタです。この性質を用いると、任意の
微分可能な関数 f (x), 任意の実数 y に対して、
Z ∞
Z ∞
∞
X
f (n) (y)
dx f (x)δ(x−y) =
dx
(x−y)n δ(x−y)
n!
−∞
−∞
n=0
=
∞
X
f (n) (y)
n!
n=0
δn0 = f (y)
P
がわかります。この式はクロネッカーデルタの性質 :
n an δnm = am の連続変数
版と捉えることができ、すなわちデルタ関数 δ(x−y) はクロネッカーデルタ δnm
の連続版とみなせます。
次の積分表示があります :
Z
δ(x) = lim
²→+0
∞
dk ikx−²2 k2
e
.
−∞ 2π
これは指数関数の中を k に関して平方完成し、ガウス積分として実行すれば確か
められるでしょう。形式的に ² → +0 の極限をとれば、
Z ∞
dk ikx
δ(x) =
e
−∞ 2π
と表現されることになります。
1.17
フーリエ変換
実数 k, x に対して、
1
φk (x) = √ eikx
2π
で定義される関数は、規格直交性および完全性 :
Z ∞
Z ∞
∗
0
dk φk (x)φ∗k (x0 ) = δ(x−x0 )
dx φk (x)φk0 (x) = δ(k−k ),
−∞
−∞
を満たします (∗) 。このため、
f˜(k) =
Z
∞
−∞
dx φ∗k (x)f (x)
により、関数 f (x) のフーリエ変換を定義すると、
Z ∞
Z ∞
Z ∞
dk f˜(k)φk (x) =
dk φk (x)
dx0 φ∗k (x0 )f (x0 )
−∞
−∞
Z−∞
∞
=
dx0 δ(x−x0 )f (x0 ) = f (x).
−∞
23
すなわち、もとの関数は、
Z
∞
dk f˜(k)φk (x)
f (x) =
−∞
と展開されます。このとき、
Z ∞
Z
2
∞
dx |f (x)| =
−∞
dk |f˜(k)|2
−∞
が確かめられますが、これをパーセバルの等式といいます。
(*注) 複素ベクトルの系 v k (k = 1, 2, · · · ) に対し、規格直交性は、
X
(v ∗k )x (v k0 )x = δkk0 .
v †k v k0 = δkk0 ∴
x
完全性は、
X
v k v †k = δ
∴
X
(v k )x (v ∗k )x0 = δxx0
k
k
ですが、関数における規格直交性および完全性はこれの連続版と捉えることができます。
1.18
有限区間のフーリエ変換
整数全体の集合を Z と書きます。実数 x に対して、
1 X inx
D(x) =
e
2π
n∈Z
という関数を考えると、
Z π
dx D(x) = 1,
D(x + 2π) = D(x)
−π
が簡単にわかります。また、少しテクニカルですが、
2πD(x) = 1 + 2
∞
X
cos(nx) = 1 + 2
n=1
=1+
∞
X
cos(nx) sin( x )
sin( x2 )
n=1
∞
X
sin((n+ 1 )x) − sin((n− 1 )x)
2
n=1
sin( x2 )
2
2
sin(Λx)
x
Λ→∞ sin( )
2
= lim
と展開され、これは x = 2πn (n ∈ Z) に特異性を持ち、他で無限に高周波な関数
であることがわかります。すなわち超関数論的 (∗) に D(x) = 0 (x 6= 2πn). 以上の
事柄から、
X
D(x) =
δ(x−2πn)
n∈Z
24
とみなせます。
そうすると、n ∈ Z, および x ∈ (−π, π) に対して、
1
φn (x) = √ einx
2π
で定義される関数は、規格直交性および完全性 :
Z π
X
dx φ∗n (x)φn0 (x) = δnn0 ,
φn (x)φ∗n (x0 ) = δ(x−x0 )
−π
n∈Z
を満たすことがわかります。このため、
Z π
f˜n =
dx φ∗n (x)f (x)
−π
で関数 f (x) のフーリエ変換 (フーリエ係数) を定義すると、もとの関数は、
X
f (x) =
f˜n φn (x)
n∈Z
と展開されます。このとき、
Z
π
2
dx |f (x)| =
−π
X
|f˜n |2
n∈Z
が確かめられ、やはりパーセバルの等式と呼ばれます。
こちらのパーセバルの等式は右辺が級数のため、級数に関する面白い式を生じ
ることがあります。例えば f (x) = x とすると、フーリエ係数は、
√
i
2π (−1)n
˜
fn =
(n 6= 0), f˜0 = 0
n
と計算されますが、これをパーセバルの等式に入れると、
∞
X
1
π2
=
2
n
6
n=1
を得ます。これは初等的には評価の難しい級数です (バーゼル問題)。
ちなみに、n = 1, 2, · · · に対し、ユニタリ変換、
µ 0
¶
µ
¶µ
¶
µ
¶
1
1 cos(nx)
φn (x)
1 1
φn (x)
=√
=√
φ0−n (x)
φ−n (x)
π sin(nx)
2 −i i
を行っても規格直交性は保たれます。よって、
1
φ00 (x) = φ0 (x) = √
2π
25
として、φ0n (x) (n ∈ Z) もまた x ∈ (−π, π) における完全規格直交系です。こちら
の系は実関数を展開するときに便利です。また、x ∈ (0, π) のときは、仮想的に偶
関数もしくは奇関数であることを仮定して、
{cos(nx) | n = 0, 1, 2, · · · } および {sin(nx) | n = 1, 2, · · · }
がそれぞれ完全系とみなせることになります。
Rb
(*注) 区間 (a, b) で連続な任意の関数 φ に対し、
を容認 (仮定) する数学は超関数論と呼ばれます。
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a
dx φ(x)f (x) = 0 ⇔ ∀x ∈ (a, b) (f (x) = 0)
索引
調和関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
定係数線形微分方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
テイラー展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
デルタ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
導関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
同次形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
特性方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
あ
位数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
n 次元球の体積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
エルミート共役 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .11
エルミート行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .11
オイラーの式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
か
な
ガウス積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
ガウス分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
関数論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
完全性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
ガンマ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
規格直交性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
期待値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
極 ......................................... 8
極形式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
虚数単位 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
虚部 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
グルサの公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
コーシーの積分定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
コーシーの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
コーシー・リーマン方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . .6
固有値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
固有ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
固有方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
内積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
二項定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
二項分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
ネイピア数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
ノルム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4, 11
は
パーセバルの等式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24, 25
バーゼル問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
非斉次項 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
非線形物理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
微分可能 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
微分方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
標準偏差 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
フーリエ係数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
フーリエ変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23, 25
複素関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
複素共役 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
複素数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
複素積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
複素微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
複素平面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
べき . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
偏角 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
変数分離形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
さ
三角関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
指数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2, 4, 13
自然対数の底 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
実部 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
初等関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
スターリングの式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
正規分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
斉次 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
正則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
漸近展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
線形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
双曲線関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
ま
マクローリン展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
や
ユニタリ行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
ユニタリ変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
4 次元極座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
た
ら
対角化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
対角行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
対数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2, 5
超関数論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26
留数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
留数定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
連続 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
27