鉄道と建築物を支持するRC箱形ラーメンの計画・設計 全日本コンサルタント(株) 技術部 岩永 勉 ○ 松下逸雄 田邊 隆 中江小百合 論 文 要 旨 ターミナル駅の改良計画において、鉄道高架橋の新設とその上空および高架下空間を活用してホテル建設を行っ た。計画地は狭隘な敷地であり鉄道とホテルを別構造にできないため、線路とホームを支持し内空を建築施設とし て利用できるRC箱形ラーメン高架橋を計画・設計した。基礎は鉄道の連続壁とホテル棟の柱を支持できる連続フ ーチング基礎を採用し、フーチングの鉄筋を合理的に配置するため、二方向配筋の計算手法としてフラットスラブ 構造による手法と平面格子解析を実施した。 キーワード:鉄道線路新設、建築物、RC箱形ラーメン、連続フーチング基礎 ま え が き 近鉄京都駅はJR東海道新幹線、在来線および京都市営 3階が東海道新幹線を共用する3層5径間の高架橋駅で 地下鉄と接続する近鉄の主要ターミナル駅である。近鉄で あった。このような立地条件のもと、鉄道・ホテルを一体 は沿線への玄関口としてふさわしいものとするべく線 高さ約 31m、 延長 175m として建設する構造物は、 幅約 11m、 路・ホームの増線とホテルの建設および高架下店舗のリニ と、幅に比べ高さ延長が非常に長い特殊な形状のRC構造 ューアルを実施するターミナル整備計画を進めていた。 となった。また、近接施工によりJR在来線や東海道新幹 計画地は北側にJR在来線、南側にJR東海道新幹線と 線および近鉄の既設高架橋への影響も懸念された。 近鉄京都駅が併設した高架橋に挟まれた幅約 12m、延長約 本稿はホテル建築物と新設鉄道を支持する連続フーチ 250m の狭隘な敷地であった。計画地の平面図を図−1に ングを有したRC箱形ラーメンの構造計画および基礎の 示す。また、同駅は1階が商業施設、2階が近鉄京都線、 設計について報告する。 図−1 平面図 1.ターミナル整備の概要 工事である。軌道の敷設延長は高架橋区間と盛土区間の 今回のターミナル整備工事の主な内容は①鉄道4号 全長 218m で既設3号線に接続する。軌道を支持するR 線新設工事②ホテル建設工事③1階商業施設リニュー C箱形ラーメン高架橋は幅 10.8m、高さ 5.55m、延長 アル工事である。ターミナル整備の概要を図−2に示す。 148.3m である。 (2)ホテル建設工事 新4号線の高架下空間と上空を利用して駅直結の宿 泊特化型ホテルを建設する工事である。ホテル建築物の 概要を表−1に示す。1階はエントランス、後方施設を 配置し、上部の客室棟(3∼8 階)へはホームを貫通する エレベーターで昇降する。鉄道からの振動を抑制するこ とと、L2地震時の耐震性を確保することを目的として 鉄道施設階の上部に中間免震構造を採用している。 表−1 ホテル建築概要 図−2 ターミナル整備 (1)鉄道4号線新設工事 3線3面ホームの既設高架橋2階部北側に新たに構 内4号線と4番ホームを新設し、4線4面ホーム化する 2.RC箱形ラーメンの構造計画 (2)構造形式 (1)基本条件 RC箱形ラーメン高架橋の全体構造を図−3に示す。鉄 構造形式を検討する上での条件は以下の通りであった。 道を支持する構造は線路横断方向にはRC門形ラーメン ①新4号線とホテル棟は延長 148m において上下構造 構造で縦断方向には連続壁形式とした。基礎は GL-4.5m 付 にする。 近に良好な支持層があるため直接基礎とした。上床版は高 ②基礎は既設高架橋への影響が少ない形式で、新4号 線とホテル棟を支持する基礎とする。 架区間全長 148m を5ブロックに分割した。縦断方向に連 続した上床版が新4号線の軌道敷とホームを支持するこ ③鉄道上空にあるホテル棟に鉄道の振動が伝達しに とで、内空をホテル施設として供用することとした。 くい構造とする。 ④1階部分にはエントランス・後方施設と客室を結ぶ 昇降施設(エレベーター・階段)や建築設備(配管)を設 ける。 (a)平面図 (b)側面図 図−3 高架橋全体構造図 (c)横断図 (3)構造特性対応 ①既設3号線側の上床版に連続開口を設けるため、 前述した条件にもとづき、以下の対応を実施した。 開口前面に梁・柱構造で上床版を支持した。 (a)構造による対応 ②ホテル棟の柱部は柱前面に設けた壁で上床版を支持 RC 箱形ラーメンの構造は以下の構造形式を採用し する形式とした。(A−A断面) た。第2ブロックの構造一般図を図−4に示す。 (a)平面図 (b)横断図 図−4 RC箱形ラーメン構造一般図 (b)鉄道振動対策 鉄道上空のホテル棟に客室があるため、列車走行時の また、連続壁とホテル棟の柱との離隔はL2地震時に 振動が客室まで伝達することが懸念された。ホテル棟の おいて最大水平変位量(65mm)を算出し、鉄道構造物 柱を上床版で支持させた場合、地盤に対して荷重の分散 とホテル棟の柱の挙動が干渉しない離隔を確保した。 が図れるが、客室への振動伝達経路が短くなる。 そのため、ホテル棟の柱は連続フーチングで支持し、 (c)基礎構造 列車から振動伝達距離を長くした。さらに鉄道の振動が 延長 175m において鉄道とホテル棟の柱を支持する 直接ホテル棟の柱に伝達しないように上床版とホテル 基礎形式は以下の条件から連続フーチング形式を採 棟の柱は図−5の通り縁切りする構造とした。 用した。 ①GL-4.5m に N=30 の支持層である洪積砂礫土層が 存在していた。 ②鉄道の側壁と柱・壁位置の変化に対応できる。 ③掘削深さを抑えることで既設高架橋の基礎への 影響を最小限に抑える。 ④L2地震時、線路横断方向の転倒に対してフーチ ング重量により安定を図ることができる。 図−5 縁切り詳細図 3.連続フーチング基礎の設計 (1)設計方針 柱付近に集中的に分布するが、フーチング基礎の剛性も 大きいため、地盤反力は一様となることも想定される。 フーチングはホテル棟の柱を支持するため、大きな荷 よって、局部的な応力状態の把握と鉄筋を合理的に配 重が局部的に作用する。しかし、既設高架橋に隣接する 置するため、以下の2つの手法により二方向配筋のフー 狭隘地に構築するためフーチング寸法が制限された。そ チングとして計算を実施することとした。 のため、下記の条件でフーチング寸法を可能が限り確保 するとともに、計算手法を検討しフーチングの部材寸法 と合理的な鉄筋配置を決定した。 【手法①】フラットスラブ構造としての計算 フーチングが直接ホテル棟の柱を支持する二方向配筋 のラーメン構造として計算する。フーチングと地盤は弾性 (2)フーチング寸法の設定 体とし、作用荷重に対してフーチングの変形を考慮して地 フーチングの基礎は構造高さに対する安定性を確保 盤反力を算出した。曲げモーメントは『鉄道構造物等設計 するため幅を大きく、ホテル棟の柱を支持するため厚さ 標準・同解説 フラットスラブ構造物』に準拠し、配分率 を大きくする必要があった。一方、現場においては以下 を横断方向、縦断方向で柱列帯と柱間帯に区分し、図−6 の制約条件があった。 の通りとした。 ①北側JR在来線側の基礎位置は施工離隔を最小限 にするため、先防水工法を採用し土留擁壁から 150mm の位置とする。 ②既設高架側は既設3号線フーチングとの離隔を最 小 700mm 以上確保する。 ③基礎の天端は1階商業施設の床仕上げから-200mm とする。 ④掘削深さは既設フーチングの底面までとする。 上記条件に基づき検討した結果、フーチング寸法を幅 10.8m、厚さ 2.0m に設定した。 (3)フーチングの構造計算 (a)横断方向 フーチング基礎は荷重がフーチングを通じて底面の 地盤に伝わる構造であり、地盤反力を考慮して計算する ため、地盤反力の分布を適切に算定することが重要であ る。地盤の状態、フーチングの剛性、荷重の作用特性に ついて、以下の条件を考慮して構造計算を実施した。 (a)前提条件 ①フーチング基礎は縦断方向において鉄道の連続壁 が線荷重として、ホテル棟の柱が集中荷重として 10.8m 間隔で作用している。 ②ホテル棟の柱荷重は鉄道の連続壁荷重に比べ大き く、地盤反力は柱付近に集中的に分布することが想 定された。 ③フーチングは厚さ 2.0m の剛性を有する縦断方向に 目地がない構造とした。 (b)構造計算の手法 (b)縦断方向 図−6 曲げモーメント配分率 地盤とフーチングを剛体とした計算では地盤反力は 集中荷重の大きさやフーチングの剛性による影響を考 【手法②】弾性支承上の版としての計算(平面格子解析) 慮せず一方向で一様に負担する。そのため、局部的な応 フーチングを弾性体とし地盤を弾性支承バネとした平 力状態は反映されず、鉄筋配置は一方向に一様な配置と 面格子解析を実施してフーチングに作用する二方向の曲 なり、合理的な鉄筋配置ができない。 げモーメントを算出した。X6 から X9 通りの解析結果を図 フーチングに作用する地盤反力は、通常、ホテル棟の −7に示す。 (5)曲げモーメント比較 手法①と手法②で算出した曲げモーメント比較を表− 3、図−8に示す。柱付近に作用する支点曲げモーメント の比率(手法①/②)は、横断方向の柱列帯では 1.00、縦断 方向では柱列帯が 0.96、柱間帯が 1.01 であった。 一方、縦断方向のフーチング中央部に作用するスパン曲 (a)横断方向 げモーメントの比率は、横断方向の柱間列帯では 0.89、縦 断方向の柱列帯では 0.85、柱間帯が 0.86 であった。 今回設定したフラットスラブ構造(手法①)の曲げモー メント配分率では柱付近の支点曲げモーメントは手法② と合致しており、柱による集中荷重の影響を考慮できたと 考えられる。一方、フーチング中央部のスパン曲げモーメ ントは少なくなり、危険側となった。 (b)縦断方向 図−7 曲げモーメント分布図 一方、柱列帯と柱間帯に作用する曲げモーメントは図− 8の通りである。横断方向と縦断方向の計算において柱列 帯と柱間帯にモーメント差がある。よって、フーチングの (4)計算結果 鉄筋は横断方向と縦断方向の柱列帯および柱間帯で二方 フーチングの断面照査は手法①と手法②で算出した曲 向スラブとして配置することができた。 げモーメントの最大値を用いて実施した。最大曲げモーメ 今後、同様な形式のフーチング基礎の計算ではフラット ントと鉄筋配置の結果を表−2に示す。横断方向の発生モ スラブ形式の配分率を使用することで二方向スラブとし ーメントは柱を支点とした単純梁の曲げモーメントであ て鉄筋を配置することは可能である。但し、フーチングに り、最大曲げモーメントは手法②であった。一方、縦断方 作用する集中荷重の大きさ、フーチング基礎の形状によっ 向の発生モーメントは柱を支点とした正・負の連続梁の曲 ては平面格子解析を実施し断面力を検証し、適切に配分率 げモーメントであり、柱列帯の最大曲げモーメントは手法 を設定する必要があると考える。 ②であった。また、柱間帯の負方向最大曲げモーメントは 手法②、正方向は手法①であった。上記の曲げモーメント でフーチングの鉄筋量を決定した。 表−3 曲げモーメントの配分比較表 表−2 フーチングの計算結果 (a)横断方向 (b)縦断方向 (a)横断方向 図−8 曲げモーメント比較図 写真−2 北西側から南東側を望む 謝 辞 本報告の作成にあたり、ご指導、ご助言およびご協力い ただきました近畿日本鉄道株式会社様ならびに関係各位 に深く感謝の意を示す次第です。 (b)縦断方向 図−8 曲げモーメント比較図 参考文献 1) (財)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・ あ と が き 京都駅ターミナル整備工事のうち、鉄道とホテル建設工 事は平成 20 年 4 月に着工し、平成 23 年 10 月にホテルが 開業し、平成 24 年 3 月に新4号線が供用開始された。本 工事は狭隘な場所で、既存鉄道への影響や構造的制約が多 くあったが、 ①既存鉄道への影響を最小限に抑え、鉄道とホテル施設 を効率的に配置できる構造形式を計画した。 ②局所的に荷重が集中する連続フーチング基礎の計画 において、地盤反力を合理的に評価する計算計手法を 検討した。 等を実施することで合理的な構造物を計画・設計し、工 事も無事完了させることができた。工事完了後の状況を写 真−1、写真−2に示す。 写真−1 西側から東側を望む 同解説 コンクリート構造物 平成 16 年 4 月 2) 近畿日本鉄道株式会社:設計仕様書(土木関係)解説 平成 16 年 9 月 3) 近畿日本鉄道株式会社:技術基準(鉄道土木施設) 解説 平成 14 年 3 月
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