日心第71回大会 (2007) EQ-i:YV 日本語版の信頼性と妥当性の検討 佐藤梢 (早稲田大学大学院文学研究科) Key words: EQ-i:YV,精神的健康度,学校適応 た。次に,学級生活満足度尺度による4群で EI 得点を比較し 目 的 た(Table2)。その結果,男女とも各領域得点及び総得点で学 本研究では中高生の Emotional Intelligence (EI)を測定する 級生活満足群の方が不満足群よりも有意に高得点を得ている ために,海外では EI 測定尺度として広く使用されている EQ-i ことが示された(A>C)。 の青年版である EQ-i:YV(Bar-On, 2000)を翻訳し,その信頼性 Table1 と妥当性の検討を行った。なお,構成概念妥当性は精神的健 健康群と不健康群での EI 得点の比較 康度及び学校適応の2点から検討した。 方 法 健康群の平均値 不健康群の平均値自由度 t値 14.6±3.80 12.5±3.17 281 4.80** 男性 対自己 1)調査対象・調査時期 対他者 36.8±5.74 35.1±6.16 281 2.35* 調査は 2006 年 7 月に,同一県内にある 2 つの中学校の生徒 適応性 25.7±6.30 23.0±5.64 281 3.67** ストレス 32.5±5.82 28.4±5.30 281 6.03** 536 人(男性 283 人,女性 253 人)を対象として実施した。 一般気分 38.2±6.23 33.6±7.01 281 5.79** EQ総得点 53.9±7.45 48.4±6.66 281 6.33** 2)手続き 14.8±3.29 12.6±3.65 251 4.80** 女性 対自己 調査は学校のホーム・ルームの時間を利用して,一斉に行わ 対他者 37.9±4.70 37.5±5.43 251 0.61 適応性 24.2±5.41 21.7±5.27 251 3.63** れた。調査を実施した 2 つの学校のうち 1 校(55 人)の生徒 ストレス 30.9±5.27 27.8±5.14 251 4.66** 一般気分 38.1±5.83 32.8±6.72 251 6.39** については,3 週間後に再び EI 測定尺度を実施した。 EQ総得点 53.1±6.68 48.5±6.64 251 5.28** * ** 3)調査票 5%水準, 1%水準で有意 EQ-i:YV 日本語版 Table2 EI 測定尺度である EQ-i の青年版を翻訳したものである。 学級生活満足度尺度による4群での EI 得点の比較 60 項目からなり,4 件法で回答する。原版では,40 項目が対 男性 女性 比較条件 平均値の差 比較条件 平均値の差 自己領域,対他者領域,ストレス・マネジメント領域,適応性 対自己 A,C 2.84 A>C 対自己 A,C 3.77 A>C A,D 2.55 A>D A,D 1.78 A>D 領域の 4 因子構造をしており,これらの点数によって総得点 学級生活不満足群 対他者 A,C 5.87 A>C B,C 2.30 B>C A,D 5.29 A>D C,D -1.99 D>C が計算される。残りの 14 項目が一般気分領域,6 項目が妥当 B,C 5.27 B>C 対他者 A,C 5.72 A>C B,D 4.69 B>D A,D 3.92 A>D 性を測定するための項目であり,それぞれ1因子構造をして 適応性 A,C 5.33 A>C B,C 6.09 B>C A>D B,D 4.29 B>D A,D 6.16 いる。なお,翻訳は一度翻訳したものをバックトランスレー B,C 4.05 B>C 適応性 A,C 4.78 A>C B,D 4.88 B>D A,D 4.80 A>D ションし,その内容についても原文と比較検討した。 ストレス A,C 3.33 A>C B,C 5.74 B>C GHQ12 一般気分 A,C 8.51 A>C B,D 5.76 B>D A,D 7.49 A>D ストレス A,C 3.36 A>C GHQ12 は精神的健康度を測定するための尺度で,この得点 B>C C,D -2.87 D>C B,C 6.80 B,D 5.79 B>D 一般気分 A,C 8.20 A>C によって調査対象者を健康群と不健康群とに分類した。 EQ総得点 A,C 8.86 A>C A,D 4.64 A>D A,D 8.48 A>D B,C 5.90 B>C 学級満足度尺度 B,C 5.83 B>C C,D -3.56 D>C B,D 5.46 B>D EQ総得点 A,C 9.32 A>C 学校生活に対する満足感や充実感を測定するための尺度で 5%水準、 1%水準で有意 A,D 5.72 A>D 全 20 項目から構成される。回答は 5 件法で行う。採点はマニ B>C B,C 8.02 A:学級生活満足群 B:侵害行為承認群 B,D 4.43 B>D ュアルに従って行い,調査対象者を学級生活満足群,非承認 C:学級生活不満足群 D:非承認群 C,D -3.59 D>C 5%水準、 1%水準で有意 群,侵害行為承認群,学級生活不満足群の 4 群に分けた。 考 察 結 果 概して,EQ-i:YV 日本語版は信頼性と妥当性を備えた尺度 EQ-i:YV 日本語版の 4 因子構造を検討するために確認的因 であることが示された。しかし,再検査信頼性の低い領域が 子分析を行った。その結果,先に記した原版の 4 領域とほぼ あったことや,女性では対他者領域で健康群と不健康群との 同一の 4 因子構造が確認された。従って,同様に第 1 因子を 有意差が見られなかったことなどの問題も明らかとなった。 「適応性領域」,第 2 因子を「対他者領域」,第 3 因子を「スト 再検査信頼性については,調査対象者の人数を増やした上で レス・マネジメント領域」,第 4 因子を「対自己領域」とした。 再度検討する必要がある。一方,後者の問題については,成 ただし,本来ストレス・マネジメント領域を測定する第 11 項 人版 EQ-i の対他者領域と GHQ28 得点との間にだけ有意な負 目には,第 3 因子からの因子負荷量がほとんどなかった。 の相関が見られなかったという先行研究もあり(Slaski & 次に,各領域の内的一貫性を検討した。全体ではα=.91, Cartwright, 2002),この点に関しては今後さらに検討していく 対自己領域は.75,対他者領域は.80,適応性領域は.87,スト 必要があると考える。また,今回は 1 つの県に限定した調査 レス・マネジメント領域は.77,一般気分領域は.84 であった。 であったため,さらに多地域での調査が必要である。 さらに,再検査信頼性を検討したところ,対自己領域とスト 引用文献 レス・マネジメント領域ではそれぞれ相関が.60, .62 と低かっ Bar-On, R. (2000) BarOn Emotional Quotient Inventory Youth た。しかし,他の3領域に関しては,対他者領域が.81,適応 Version: technical manual. Toronto: Multi Health Systems 性領域が.83,一般気分領域が.79 と高い相関が見られた。 Slaski, M. and Cartwright, S. (2002) Health, performance and 構成概念妥当性の検討では,始めに健康群と不健康群とで emotional intelligence: an exploratory study of retail managers. EI 得点に差があるかを検討した(Table1) 。この結果,男女と Stress and health, 18, 63-68 も各領域得点及び総得点で健康群の方が有意に高得点を得て (Sato Kozue) いた。ただし,女性の対他者領域では有意差が見られなかっ * ** ** ** * ** * ** * ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** * ** ** ** ** ** ** ** * ** ** ** ** ** ** ** * **
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