EY Japanからの提言

EY Japanからの提言
日本の経済・社会のさらなる発展に向けて
対談2
加速する日本企業の海外進出
新たな労働力とマーケットを求めて、海外進出が相次ぐ日本企業。
活動の舞台として注目されているのが、アジア、アフリカなどの新興国です。
その可能性とリスクについて、二人のプロフェッショナルが解説します。
新興国コンサルティング室
室長 公認会計士
• Teruyasu
表 晃靖
Omote
1998年、一橋大学商学部卒業。上場会社の監査やIPO
業務に従事後、2003年から海外大手会計事務所に駐在。
自動車、電機、製薬、化学、精密機器、金融に係る監査、
税務、不正調査、フィージビリティースタディー(FS)
などのアドバイザリー業務にて日系企業をサポート。07
年、当法人に入所後、商社、金融、通信、機械、消費財、
電力を中心に、新興国での法制度調査、FS、業績管理改
善、内部統制構築などに関するアドバイザリー業務を支
援。12年10月から現職。主な著書(共著)に『ミャンマー
の会計・税務・法務Q&A』
(税務経理協会)
、
『アジアの
未来2014-2025[ASEAN編]
』
(日経BP社)などがある。
12 情報センサー Vol.100 January 2015
JBSグローバルリーダー
常務理事 公認会計士
米国公認会計士
• Yoshihiko
中谷喜彦
Nakatani
1988年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、当法人に入
所。監査人として主に日本の上場会社の米国会計基準に
基づく連結財務諸表の監査や、米国会計基準や日本会計
基準に基づいた多国籍企業の日本子会社等の監査業務に
従事。92年、EYロンドン事務所へ出向し、日系企業に
対して会計、税務、金融関連アドバイスを提供。元日本
公認会計士協会国際委員会メンバー。2009年、EYニュー
ヨーク事務所へ出向し、米国におけるジャパン・ビジネ
ス・サービス(JBS)の統括を補佐。12年、JBSグロー
バル副リーダー。13年7月からJBSグローバルリーダー。
14年7月から常務理事(海外企画室 室長)。
Yoshihiko Nakatani 新年号特別企画
New Year Talk〈Special Edition〉
加速する日本企業の海外進出
多様化が進む日本企業の海外進出
現地企業と国内本社の双方をサポート
中谷 昨今、日本企業のグローバル化の様相が大きく
中谷 こうした背景の下、われわれJBSは日本企業の
変化し始めています。ひと昔前の企業の海外進出とい
海外での活動をサポートしています。世界150カ国・
えば、安価な労働力を求めて生産拠点を発展途上国に
地域を超えるEYのメンバーファームと連携し、50以
移し、先進諸国で販売するという形がほとんどでした
上の都市に日本語を話せるプロフェッショナルを配置
が、近年は、そういう決まりきったパターンと異なる
して、きめ細かに現地の活動を支援します。海外と日
ケースが増えてきました。生産だけでなく現地販売も
本では、当然ながら税制、法律、ビジネス慣行などが
見据えて新興国に進出したり、現地のニーズに合う製
違います。しかし、日本の本社で、それら全てを把握
品の研究開発から海外で行ったりする企業が出てきて
するのは現状では困難です。そんなとき、われわれは、
います。
大手企業の海外進出を長年サポートしてきた豊富な専
表 新興国市場の成長を取り込むために、多くの日
門知識と、世界最大級のネットワークを駆使し、監査
本企業が柔軟に形を変えて対応しようとしています。
や税務をはじめとするコンプライアンス業務だけでな
2015年は、こうした流れに拍車が掛かるのではない
く、M&Aや、その後の事業統合やプロセス改善に関
かと感じています。
するアドバイザリーまで、現地で幅広いサービスを提
中谷 そうですね。日本企業の海外生産比率は00年
供できます。新興国の場合は、現地のサポートもさるこ
ごろには24∼25%程度だったのですが、近年は30%
とながら、計画段階でのコンサルティングなど、本社へ
超。海外売上高比率も26∼27 %だったのが40 %近
のサポートが重要だと感じていますが、いかがですか。
くを占めるほどになっています。
表 確かにそうです。ミャンマー、インドネシア、中
表 大企業はもちろん、中小・零細企業も競って海外
南米、アフリカなどの新興国は、多様で複雑であると
進出するようになりました。年商1億円規模の企業か
同時に、21世紀のマーケットとして巨大なポテンシャ
らのオファーもあり、大企業からベンチャー企業まで真
ルを秘めています。われわれ新興国コンサルティング室
剣に海外ビジネスを検討する時代になってきています。
は、ここに特化したエキスパートとして、国内本社の
中谷 業種別にみると、これまで自動車や電気機器、
海外企画部門や事業部担当者をメーンに、海外進出の
食品などの製造業が主体でしたが、最近は、衣料品販
全ステージをサポートしています。新興国の情報は、
売や外食チェーン、医療などのサービス業でグローバ
比較的容易に手に入るように思われる方がいますが、
ル化が進展しています。このトレンドは、今後さらに
現地の生きた情報をタイムリーに入手することは、意
拡大していくでしょうね。
外と難しいのです。特に、初めて海外進出を図る企業
表 ビジネスの手法も変わってきました。ある外食
であれば、なおさらでしょう。そこをフォローし、プ
チェーンは、店舗を現地の人気店に育てて企業価値を
ロとしてのアドバイスを行うのが、われわれの役割で
上げるとフランチャイズ化し、その売却資金で、より
す。投資のマクロ、インフラ分析、税務会計に係る調
成長性がある国へ投資しています。従来型と異なり、
査やフィージビリティースタディー※準備といった進
薄く広くマーケットを攻略しようとしています。
出ステージはもとより、成長・拡大ステージ、再編ス
中谷 以前とは、かなり世界観が違いますよね。
テージまでお手伝いしています。
表 限られた経営資源を最大限に活用し、効果的でス
ピーディーな成長が期待できるような投資を、グロー
バルの目線で考える。そんなダイナミックな経営を展
開することが可能なほどに成熟しつつあるのではない
かと感じています。
書籍『アジアの未来2014-2015[ASEAN編]
』
(日経BP社)
※ プロジェクト実現可能性の調査検討。企業化可能性調査。
Teruyasu Omote
情報センサー Vol.100 January 2015 13
容易ではない海外子会社の内部統制
め、それらを全て順守することは至難の業です。他社
がやっているからと、十分な検討もないまま進める企
中谷 私はもう20年以上、数多くの日本企業の海外
業もあります。しかし、これが通用しないケースも出
進出を見てきましたが、現地子会社のオペレーション
ています。実際、過去、あるメーカーの新興国の関連
は机上で考えるほど容易ではない、というのが実感で
会社が、外注先の児童労働の疑義を受けて管理責任を
す。例えば決算管理にしても、本社がガバナンスを効
問われ、撤退を余儀なくさせられた例もあります。
かせていないと、会社ごとに別々の会計システムが導
中谷 ガバナンスを効かせやすい子会社がコンプライ
入されたり、決算期がバラバラになったりということ
アンスを守っていても、関連会社が問題を起こすと影
響が波及するわけですね。米国や英国では、その国で
オペレーションをしている企業が他国で不正を行った
場合、独自の基準で罰せられるという、非常に厳しい
ルールがあります。こうしたルールを「知らなかった」
では済まされないのです。
2025年までのアジアを予測
表 新興国コンサルティング室では、マーケットと製
造拠点の視点からアジアを見据え、今後10年間を予
測した『アジアの未来2014-2025[ASEAN編]』と
いう書籍を、13年末に発刊しました。新興国の成長
は想像以上に速く、刻々と変化する市場に対応してい
くとなると、なかなか大変です。
日本とは異なる
グローバルコンプライアンス。
「知らなかった」では済まされません。
中谷 これを読むと、10年後のASEAN(東南アジア
諸国連合)はGDPが2倍。驚異的な成長が予測されて
いますね。
表 今まさに、世界中の企業が、その成長をいかに自
社へ取り込むかということを考え、アジア新興国へと
押し寄せているわけです。
は珍しくありません。そうなると、最終的に連結決算
中谷 だからこそ、これから海外進出を図ろうという
をする本社が苦労することになります。一方、グロー
日本企業は、行ってから困った、とならないためにも、
バル化に慣れた欧米のトップ企業は、最初からグルー
事前準備が大切です。さらには撤退する場合も視野に
プ会社で統一したERPやグループ会計方針、グループ
入れて、海外展開のビジョンやポリシーを明確に定め、
決裁基準や手続きを導入するなどによりガバナンスを
進出国だけでなく周辺国や関連国も含めた地域の法律
効かせ、海外子会社にも、しっかりと目を光らせてい
や慣行を理解し、それに対応できる体制を整えなけれ
ます。このあたりは、まだまだ多くの日本企業が慣れ
ばなりません。
ていないと思います。
表 アジア新興国には、さまざまな可能性が広がって
表 進出国の税務や法律に対する理解も、十分とはい
いると同時に、日本企業には思いも寄らないリスクが
えません。例えば、法人税や付加価値税(VAT)の制
あるのも事実ですからね。
度がどうなっているか。新興国は税収が足りず、特に
中谷 日本の人口が減少に転じている中で、企業は海
還付にはセンシティブで資金繰りにも影響します。労
外に目を向けざるを得ません。世界が舞台の厳しい競
務では、実際のビジネス慣行や雇用慣行を考慮しなが
争に、打ち勝っていかなければなりません。そこをい
ら、ルールをきちんと守っているのか。基準も罰則も
かにサポートしていくかが、われわれの使命です。
国によってさまざまで、しかも、頻繁に改正されるた
14 情報センサー Vol.100 January 2015
Yoshihiko Nakatani 新年号特別企画
New Year Talk〈Special Edition〉
加速する日本企業の海外進出
周到な準備と情報収集をサポート
せんが、海外にチャンスを見いだす日本企業が安心し
てチャレンジできるよう、われわれも、さらなる進化
中谷 安倍政権はODA(政府開発援助)と絡めて、
を図っていきます。
日本企業の新興国進出を積極的に後押ししています。
表 先ほどの、ASEANのGDPが倍増ということは、も
そのため、民間企業の海外進出は今後も拡大していく
う一つ同じような経済圏が出現するということです。新
でしょう。最近では、アフリカや中南米など、日本企
興国の経済は、ものすごいスピードで成長しています。
業にはなじみがない国・地域の現地調査を依頼される
中谷 機動力がない中小・零細企業にとっては、かな
ことも珍しくありません。さらに、日本では未上場の
り深刻な問題ではないかと思います。
企業が、海外でいきなり上場するケースも出てきまし
た。われわれが感じている以上に、ビジネスの舞台は
ダイナミックに多様化しています。そこで勝ち残り、
組織として成長・拡大していくためには、当たり前の
ことですが、なぜその国に進出したいのか、どんなビジ
ネスをしたいのかを、クリアにすることが大事です。そ
の上で、重要事項は本社が統制しなければなりません。
表 以前は、日本本社は何するものぞと豪語する海外
の猛者と呼べる人が拠点ごとにいました。いわゆる海
外畑を渡り歩いた強者です。その世代の多くがリタイ
アする一方、日本企業は海外拠点をさらに増やしてい
ます。エース級の人材を最前線に配置しながら、一方
で、戦線拡大の中、海外投資に十分に人材をあてがう
ことができていない。要は、海外人材の需要と供給の
ミスマッチ。この問題は、中堅・中小だけでなく、大企
業にも当てはまるケースがあるのではないでしょうか。
中谷 だからこそ、われわれがいるのです。JBSは、
30年も前から日本企業のために世界中にネットワー
クを張り巡らせ、リレーションを築いてきました。コ
ミュニケーションの良さは、EYグローバルのトップ
も認めるところです。このネットワーク力こそ、EY
世界はダイナミックに変化しています。
貴重な時間を無駄にしないためにも
時には外部リソースを
上手に活用すべきです。
ならではの特徴ではないかと思います。
表 新興国コンサルティング室は、開設してまだ2年
表 このような場合、問題を全て自社で解決しようと
ですが、経験豊富で優秀な人材を幅広くそろえていま
せず、時には思い切って外部のリソースを使うのが効
す。海外経験が深い会計士や税理士以外にも、元大手
率的です。日本企業は欧米企業と比べると、比較的、
商社勤務者や元大使館一等書記官、マクロエコノミス
自前主義となりがちですが、時間も貴重なリソースで
トなど、さまざまな立場で長く新興国に駐在していた
す。周到さとスピードを両立させ、機会を着実につか
メンバーがそろっています。また、バングラデシュ、
むためにも、われわれのようなプロフェッショナルを
スリランカ、中国、モンゴルなどの大学ともパイプを
上手に活用できるようになることが重要です。
持っているので、情報の入手経路が多岐にわたり、ア
中谷 この一年も、世界はダイナミックに変化してい
カウンティングファームの枠に限られない情報を入手
くでしょう。その中で、われわれは日本企業の海外進
できます。これも、われわれの強みといえるでしょう。
出を支えるという役目を果たし、最善を尽くしますの
JBSと新興国コンサルティング室が連携し、一つの案
で、よろしくお願いいたします。
件に取り組むことも多く、日本国内でも海外でも、柔
軟なアドバイザリーが可能です。
中谷 まだまだ完璧な体制とはいえないかもしれま
Teruyasu Omote
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