寄 稿 Contribute 豊かな海と共生し、地域を支える水産業へ 寄 稿 豊かな海と共生し、地域を支える水産業へ 長崎県水産部 部 長 下 山 満 寛 昭和52年 平成13年 平成15年 平成17年 平成18年 平成21年 平成24年 平成25年 4月 長崎県入庁 4月 県北振興局商工水産部長 4月 地域振興部観光課長 4月 交通局へ出向(管理部長) 4月 水産部漁政課長 4月 対馬振興局長 4月 水産部政策監 4月 水産部長 1.本県水産業の概要 (1)海況の特徴 −周辺海域は九州本土に匹敵する広さ− 本県は、広大な大陸棚を有する東シナ海及 び東シナ海と日本海をつなぐ対馬海峡に面し ているため、周辺海域は九州本土に匹敵する 広さがあり、数多くの島嶼、半島で形成され る海岸地形は変化に富んでいます。海岸線の 総延長は全国の約12%にあたる4,199㎞(※)に 及び、北海道に次ぐ全国第2位となっています。 長い海岸線を有する沿岸域とその沖合域の 広大な海域には様々な魚種が四季折々に来遊 し、多くの魚介類に恵まれていることから、 一本釣り、採介藻、定置網など多種多様な漁 法からなる沿岸漁業、魚類、真珠、藻類など (2)生産量と生産額 の海面養殖業、以西底びき網、大中型まき網 −全国第2位の水産県− などの沖合漁業が営まれています。 本県における平成24年の海面漁業・養殖業 ※ 海岸線延長:全国 35,672km の生産量は26万7千トン、生産額は901億円 うち長崎県 4,199km(12%) 資料:国土交通省「海岸統計 平成24年度」 で量・額ともに全国第2位です(図1、2)。 また、アジ類やタイ類、養殖のフグ類など ながさき経済 2015.1 1 生産量全国第1位を誇る魚種も多く(表1)、 表1 生産量全国第1位の魚種(平成24年) クロマグロの養殖生産量と真珠の養殖生産額 はいずれも全国第2位です。 しかし、平成24年の生産量と生産額を10年 前の平成14年と比較すると、それぞれ12%と 19%減少しており(図3) 、養殖業における クロマグロの生産量など、一部増加している 魚種はあるものの、全体として低い水準にあ ります。 図1 海面漁業・養殖業生産量 資料:農林水産省「農林水産統計年報」 図3 海面漁業・養殖業の生産量および生産額 資料:農林水産省「農林水産統計年報」 図2 海面漁業・養殖業生産額 (3)本県水産業の抱える課題 −多くの課題に直面している本県水産業− 本県において水産業は離島をはじめとした 各地域の維持発展や活性化を担う重要な産業 となっていますが、生産量と生産額の減少の ほか、魚価の低迷や燃油価格の高止まりも続 いており、水産業を取り巻く厳しい経営環境 資料:農林水産省「農林水産統計年報」 のもと、漁業就業者の高齢化が進むとともに 就業者数も減少しています(図4)。 一方、漁場環境に目を向けると、魚介類の すみ場、餌場、産卵場など沿岸の漁業生産を 支える基盤として重要な藻場が減少・消滅す 2 ながさき経済 2015.1 寄 稿 Contribute 豊かな海と共生し、地域を支える水産業へ る「磯焼け」が県内各地で認められています。 苗3万尾を放流して効果を検証しています。 これは、近年の海水温上昇に伴い、海藻を食 べる魚介類の活動が活発化し、さらに長期化 することが影響していると考えられています。 磯焼けにより、ウニの身入り悪化、ヒジキ など有用海藻類や魚介類の水揚げ減少等、漁 業への影響が懸念されています。 図4 長崎県漁業就業者数・年齢構成の推移 クエの放流種苗(全長約15cm) 藻場の回復について、民間事業者等が有す る藻場回復技術を実践して効果の検証を行 い、効果が見込まれる新たな回復手法の普 及を図ります。 燃油消費の多い漁業種類を中心に、省エネ 機器の導入や、省エネの取組推進等、省エ ネ型漁業への転換を推進し、漁業生産コス トの低減を図っています。 資料:農林水産省「漁業センサス」 (2)収益性の高い養殖業の振興 2.今年度の基本施策について −高品質化や経営の多角化による収益性 の向上と生産コストの削減− 生産量の減少や魚価安など、水産業を取り 養殖クロマグロ等の高品質化、貝藻類養殖 巻く環境は厳しい状況が継続しています。こ や短期養殖導入による経営の多角化を支援 れら諸課題に対応し、漁業者等の所得向上に するとともに、魚価が低迷しているブリや 向けて取り組んでいる今年度事業の一部をご マダイの経費削減に繋がる餌料の開発等を 紹介します。 推進しています。 (1)漁業生産の維持 (3)加工・流通・販売対策 −水産資源の維持・回復、漁業生産コス −魚価向上に繋げる国内外での販路拡大等− トの低減− 本県沿岸域における重要魚類について、種 水産加工品のリーディング商品である平成 「長崎俵物」や地域ブランド産品の育成・ 苗の放流による資源の維持・回復のため、 販売増大に取り組んでいます。 有明海においてトラフグ種苗32万尾を放流 産地での小売バイヤー受入や産地から販売 するとともに、県内5地区においてクエ種 先への研修派遣を実施し、産地と消費地の ながさき経済 2015.1 3 人的繋がりの更なる強化と売れる商品づく ンを維持するとした海面漁業生産量は、平成 りによる販路拡大の取組を支援しています。 25年に24万トンまで減少しており、魚価の低 本県水産物を、東アジアに加え、北米・南 迷、燃油価格の高騰も継続し、漁業経営を悪 米、東南アジア、中東等へ販路拡大するた 化させるとともに、漁業就業者の減少も続い め、販売拠点の拡大や新たな輸出対象国で ています。 の販売促進活動等の取組に対して支援して このため、計画の最終年度となる来年度は、 います。 現計画の成果を検証するとともに、28年度か らの新計画の策定を進めながら、力強く豊か (4)就業者対策・漁村の活性化 な水産業の実現に向けて、以下の取組を進め −地域漁業を担う就業者の定着対策等− ることとしています。 漁家子弟や新規参入者の着業と燃油高騰等 により収益性が悪化した就業者の技術習得 (1)漁業生産量の回復 を支援して定着化を進めています。 −資源管理計画の高度化、藻場の回復等− 資源管理効果が低い計画は専門家等からの アドバイスに基づいて見直しを行い、管理 計画の効果を検証して高度化を図ります。 藻場の早期回復を総合的に推進するため、 本年度中に磯焼け対策ビジョン(仮称)を 策定し、5年、10年後を見通した藻場回復 目標の設定と課題解決への取組内容等を示 すとともに、必要な支援を行います。 講師による就業希望者への指導 経営安定に繋がる漁場の有効利用のため、 関係者の意見を聞きながら新規許可漁業の 3.平成27年度の水産部基本方針 導入や操業区域、漁具規模等の見直しを進 めます。 本県では、水産業振興の指針として「長崎 県水産業振興基本計画(平成23年度∼27年 (2)収益性向上と生産規模の拡大(養殖業) 度) 」を策定し、この計画に基づき、資源管 −経営の多角化・協業化、県内完結型ク 理による水産資源の維持・回復の取組や付加 4 ロマグロ養殖技術開発等− 価値の高いブランド産品の育成強化、漁業の 収益性の高い経営体を育成するため、経営 将来を担う人材の確保等に取り組んでいます。 の多角化・協業化を進め、新たな経営手法 しかしながら、平成20年の生産実績30万ト を導入する養殖業者グループに対する経営 ながさき経済 2015.1 寄 稿 Contribute 豊かな海と共生し、地域を支える水産業へ コンサルタント等の招聘や販路開拓等へ支 目指します。 援します。 本県産水産物の強みを生かし、他都道府県 養殖業の更なる収益性向上のため、総合水 水産物との差別化を図るため、マアジやマ 産試験場が技術開発した市場価値が高い早 アナゴなどの脂肪含有量分析等により、消 期産卵カワハギや優良品種である白子が早 費者の感性に訴える商品としてのストー い時期に大きくなるトラフグの民間への導 リー性を構築し、価格向上を図ります。 入を推進するための実証試験を行います。 また、産卵・種苗生産及び養殖を県内で完 (4)経営体の育成 結させるクロマグロ養殖の技術開発を行い −中高年層の着業支援、経営改善指導等− 漁業就業者数が想定以上に減少しているこ ます。 とから、新たに現役漁業者の離職防止や中高 年層の着業支援に取り組みます。そのため、 新たな漁法に取り組む際の研修等支援や都会 からの中高年層の新規着業を促すためのPR や中高年層の漁業就業希望者に対する小型漁 船等のリースによる支援を行います。 厳しい経営環境においても安定的に漁業を 継続できる経営体づくりが喫緊の課題である 養殖クロマグロの出荷 ため、経営改善や新たな事業展開を目指す漁 業者に対し、関係機関が連携して指導・支援 (3)漁業者が実感できる価格向上と本県水 産物の販売展開・拡大 を行う体制を整備し、必要な取組に対する支 援を行います。 −養殖トラフグ等県内消費創出・拡大等− 魚価の向上を目指して、平成「長崎俵物」 (5)魚食のすすめと地産地消の推進 認定業者と大手食品メーカー等との共同に −本県産の魚介類・水産加工品の愛用を− よる大消費地のニーズにあった商品開発な 長崎県では周年を通して200種類以上の魚 ど、消費地を見据えた売れる水産物づくり 介類が水揚げされており、それぞれの魚に旬 の取組を支援します。 や調理法があり、四季折々に食卓を彩ります。 県内での知名度が低く、消費量が少ない生 最近は、家庭で魚料理を食べる機会が減り 産量日本一の養殖トラフグや、出荷尾数日 「魚離れ」が進んでいるといわれています。 本一の養殖クロマグロの県内での消費創 しかし、魚は良質なタンパク源であるとと 出・拡大を推進し、産地による価格形成を もに、カルシウムをはじめとするミネラル、 ながさき経済 2015.1 5 DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイ コサペンタエン酸)といった脂質など、栄養 豊富な食品です。 来年度は、現行の「長崎県水産業振興基本 水産県長崎に生活する皆さまの身近には、 計画(平成23年度∼27年度)」の最終年度に 新鮮でおいしい魚が豊富にあります。これら あたります。 を積極的に食べることは、健康な体づくりに 本県水産業を取り巻く環境は大変厳しい状 繋がるとともに、地産地消による本県の経済 況にありますが、現計画をしっかり検証する の活性化、ひいては漁業者の所得向上にも寄 とともに、漁業者や水産関係者、有識者等の 与します。 ご意見を十分に伺いながら、今後の水産県長 このため、県は、本県産の魚介類及び水産 崎として水産業の更なる発展の指針となるよ 加工品を愛用することを積極的に進めており、 う、次期「長崎県水産業振興基本計画(平成 県産水産物を使った学校給食メニュー開発や、 28年度∼32年度)」の策定を進めてまいります。 離島地域において地元で水揚げされた魚を島 内に供給する取組を支援しております。 さ ら に、 県 産 魚 を 積 極 的 に 活 用 し た メ ニューを提供する店舗を「長崎県の魚愛用店」 として認定しており、その数は平成26年11月 末現在で、県内115店舗となっております。 写真右下のマークが「長崎県の魚愛用店」 の目印です。皆さまの積極的なご利用をお願 いします。 「長崎県の魚愛用店」での料理の一例 6 4.最後に ながさき経済 2015.1
© Copyright 2024 Paperzz