FRB 銀行上級貸出担当者調査(2015 年1 月)

米国経済
2015 年 2 月 18 日
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FRB 銀行上級貸出担当者調査(2015 年 1 月)
貸出基準はほぼ変わらず、大・中堅企業向けの借入需要が増加
ニューヨークリサーチセンター
上野 まな美
シニアエコノミスト 土屋 貴裕
[要約]

2015 年 1 月の調査によると、商工ローンの貸出基準はほぼ変わらず、前回の調査に比
べ、価格条件または非価格条件を緩和した銀行は少なかった。借入需要は大・中堅企業
向けが増加した。

商業用不動産ローンにおける貸出基準もほぼ変化がなかった。商業用不動産ローンの借
入需要は増加した。

住宅ローンにおいては、消費者金融保護局(Consumer Financial Protection Bureau)
の適格住宅ローン(QM:Qualified Mortgage)の規則を反映させ、住宅ローン市場に関
するより詳細な情報を提供するために、住宅ローンの分類が修正及び拡大された。

大手銀行の中には、政府支援機関(GSE: Government-Sponsored Enterprise)適格を含
む住宅ローンの基準を緩和した銀行があった。住宅ローンの借入需要に関しては、ほぼ
変化なしとの回答が多数であった。

消費者ローンの貸出基準及び貸出条件はほぼ変わらなかった。一方、自動車及びクレジ
ットカードローンの借入需要が増加したとの回答が大手銀行から若干あった。
株式会社大和総研 丸の内オフィス
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FRB(連邦準備制度理事会)は、米国で銀行業務を行う銀行を対象に 1 年に 4 回、銀行上級貸
出担当者調査(Senior Loan Officer Opinion Survey on Bank Lending Practices)を行って
いる。2015 年 1 月の調査は、2014 年 10 月から 12 月の 3 ヵ月間における銀行の企業向け及び一
般向けローンの貸出基準、貸出条件、借入需要の変化を調査している。調査期間は、2014 年 12
月 30 日から 2015 年 1 月 13 日までであり、米国銀行 73 行と、米国に支店を持つ外国の大手銀
行 23 行が対象になった。全体的に貸出基準はほぼ変わらず、借入需要は大・中堅企業向けが増
加したほか、自動車及びクレジットカードローンにおいて増加が見られた。また、2015 年の経
済の好転を踏まえた上で、大半の銀行は貸出の質が向上すると見込んでいる。
商工ローン
商工ローンの貸出基準にほぼ変わりはなかった。金利スプレッド、貸出枠などを緩和した銀
行も若干あったが、価格条件を緩和した銀行は前回の調査より著しく減少した。非価格条件は
概してほぼ変わりなかった。貸出基準を緩和した銀行の大半は、他の銀行やノンバンクとの競
争激化により緩和を行ったと回答しているものの、経済見通しの好転、リスク許容度の増加な
どを理由として挙げる回答も僅かながらあった。一方、貸出基準を強化した銀行の半数は、法
規制の改正、監督上の処分、会計基準の変更の影響に懸念を強め、一部では原油価格の急激な
下落から石油・ガスセクターに対する懸念が挙げられた。
商工ローンの借入需要は、大・中堅企業の借入需要が増加したと回答した米国銀行があった
ほか、新規貸出の可能性や貸出条件、既存の貸出枠の拡大に関する企業からの照会が増加した
との回答もあった。大・中堅企業の借入需要の増加は、幅広い資金調達の必要性からであり、
特に、M&A、在庫、売掛金、工場・設備投資が関連している。中小企業の借入需要はほぼ変わり
なかった。
中小企業向け商工ローンの貸出基準及び借入需要
大・中堅企業向け商工ローンの貸出基準及び借入需要
(%)
100
(%)
100
(%)
80
80
60
貸出基準
80
貸出基準
40
40
20
20
0
0
-40
-40
-60
-80
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年)
(注)大・中堅企業は年間売上高が5,000万ドル以上。
-80
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
減少
緩和
-60
40
20
20
0
0
-20
-20
-40
-40
-60
-80
-60
-80
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年)
(注)中小企業は年間売上高が5,000万ドル未満。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
減少
-20
60
40
緩和
-20
借入需要(右軸)
増加
60
強化
60
増加
強
化
借入需要(右軸)
(%)
80
3/6
商業用不動産ローン
商業用不動産ローンの全 3 分野(建設及び土地開発、非農業用・非住宅用不動産物件、集合
住宅物件)において、貸出基準にほぼ変化はなかった。過去数回の調査でも同様の回答が見ら
れたが、商業用不動産ローンの全 3 分野に対する貸出基準を緩和した大手銀行があった。
商業用不動産ローンの借入需要に関しては、集合住宅物件への借入需要が増加したと回答し
た銀行があったほか、建設及び土地開発と非農業用・非住宅用不動産物件における借入需要増
加を回答した銀行も若干あった。
商業用不動産ローンの貸出基準
商業用不動産ローンの借入需要
(%)
(%)
60
80
40
増加
100
20
強 40
化
0
減少
60
20
-20
-40
-20
-60
緩和
0
-80
-40
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年)
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年)
(注)全商業用不動産が対象。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
商業用不動産価格の推移(前年比)
商業用不動産ローンの貸出高及び前年比(全商業銀行)
(10億ドル)
2,000
(%)
20
貸出高
前年比(右軸)
1,800
(注)全商業用不動産が対象。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
30%
20%
15
1,600
10%
1,400
10
1,200
0%
5
1,000
-10%
800
0
600
400
-5
-20%
FRB商業不動産価格指数
-30%
Green Street Advisors商業
不動産価格指数
200
0
05
06
07
08
09
10
11
(注)2004年第2四半期以前のデータは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
12
13
14
-10
15
(年)
-40%
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(年)
(出所)FRB, Green Street Advisors, Haver Analyticsより大和総研作成
4/6
住宅ローン
今回の調査より、消費者金融保護局(Consumer Financial Protection Bureau)の適格住宅
ローン(QM: Qualified Mortgage)の規則を反映させ、住宅ローン市場に関するより詳細な情
報を提供するために、分類が修正及び拡大された。住宅ローンの分類は以下の 7 つに分けられ
た。
① GSE 適格(GSE-eligible):ファニー・メイやフレディ・マックといった政府支援機関
(GSE: Government-Sponsored Enterprise)の貸出限度額などの保証基準を満たす住宅
ローン
② 政府(government):連邦住宅局(Federal Housing Administration)や退役軍人省
(Department of Veterans Affairs)の政府機関によって保証されている住宅ローン、
または農務省の住宅ローンプログラムの住宅ローン
③ QM 非ジャンボ・GSE 非適格(QM non-jumbo, non-GSE-eligible):適格と判断され、ロ
ーン残高が貸出限度額以下であるものの、GSE の保証基準を満たしていない住宅ローン
④ QM ジャンボ(QM-jumbo):適格と判断されているが、ローン残高が GSE の規定する貸出
限度額以上の住宅ローン
⑤ 非 QM ジャンボ(non-QM jumbo):非適格と判断され、ローン残高が GSE の規定する貸
出限度額以上の住宅ローン
⑥ 非 QM 非ジャンボ(non-QM non-jumbo):非適格と判断され、ローン残高が GSE の規定
する貸出限度額以下の住宅ローン
⑦ サブプライム住宅ローン(subprime): 信用力が低い人向きの住宅ローン
大手銀行の中には、政府住宅ローン及びサブプライム住宅ローン以外の住宅ローンの基準を
緩和した銀行があった。
住宅ローンの借入需要に関しては、ほぼ変化なしとの回答が多数であったが、大半の分野に
おいて借入需要が低下したとの回答も若干あったほか、大手銀行の中には借入需要が増加した
との回答があった。貸出枠の基準を変更した銀行は少数であった。
5/6
住宅ローンの借入需要
住宅ローンの貸出基準
(%)
100
(%)
80
全体
プライム
60
非トラディッショナル
80
増加
サブプライム
60
40
全体
プライム
非トラディッショナル
サブプライム
20
0
40
-20
減少
強化
20
-40
-60
0
-80
-20
-100
緩和
-120
-40
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年)
(注)2007年第2四半期より、住宅ローンの分類別貸出基準を発表。2014年
第4四半期からは、7つに分類。回答が3社以下の場合、データは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
住宅価格の推移
住宅ローンの貸出高及び前年比(全商業銀行)
(10億ドル)
2,500
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年)
(注)2007年第2四半期より、住宅ローンの分類別貸出基準を発表。2014年
第4四半期からは、7つに分類。回答が3社以下の場合、データは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
(%)
20
貸出高
(2000年Q1=100)
230
(1991年Q1=100)
210
前年比(右軸)
15
2,000
190
210
170
10
190
1,500
150
5
170
1,000
130
0
FHFA住宅価格指数
500
-5
0
05
06
07
08
09
10
11
(注)2004年第2四半期以前のデータは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
12
13
14
-10
15
(年)
150
ケース・シラー住宅価格指数
(20都市、右軸)
110
90
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年)
(出所)FRB , Haver Analyticsより大和総研作成
130
6/6
消費者ローン
消費者ローンの貸出により前向きとなった大手銀行は少数であった。若干の銀行が自動車ロ
ーンの貸出基準を緩和した半面、クレジットカードローンやその他の消費者ローンの申請認可
基準に関してはほぼ変化なしと回答した。また、クレジットカードローンの大半の条件もほぼ
変化がなかった。自動車ローンまたは他の消費者ローンの条件を変更した銀行は非常に少数で
あったが、金利のスプレッドを縮小した銀行が多少あった。
消費者ローンの借入需要は、自動車ローンとクレジットカードローンについては増加したと
の回答が大手銀行から若干あったものの、他の消費者ローンの借入需要はほぼ変化なかった。
消費者ローンの借入需要
消費者ローンの貸出基準
(%)
40
(%)
80
70
クレジットカード
60
クレジットカード以外
消費者ローン全体
クレジットカード
30
増加
50
自動車ローン
20
クレジットカード及び
自動車以外
10
40
0
-10
減少
強化
30
20
-20
10
-30
0
-40
緩和
-10
-50
-20
-60
-30
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年)
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
消費者ローンの貸出基準及び個人消費
強化
(%)
80
クレジットカード
70
クレジットカード以外
60
GDPの実質個人消費前
年比(右軸、逆目盛り)
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年)
(注)2011年第2四半期より、消費者ローンの分類別借入需要を公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
家計の負債残高の構成(住宅ローン除く)
(%)
-4
(兆ドル)
学生ローン
1.2
自動車ローン
クレジットカード
-2
50
ホームエクイティローン
1.0
その他
0
0.8
40
2
30
緩和
0.6
20
4
10
6
0
0.4
-10
8
0.2
-20
-30
10
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年)
(出所)FRB, BEA, Haver Analyticsより大和総研作成
0.0
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
(年)
(出所)NY連銀, Haver Analyticsより大和総研作成