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今月の視点
インフレ期待と成長期待の中道
─ デフレーター、生産性、所得分配 ─
みずほ総合研究所 首席エコノミスト 泰松真也
日本経済
消費の回復は期待できるのか
─ 消費停滞を脱するカギは低所得者対策と原油安 ─
金融政策
欧米金融政策の展望
─ 緩和解除と緩和強化の二重奏は世界に何をもたらすのか ─
地域動向
地方創生はどこまで期待できるのか
─ 地方で難しい若い女性の仕事の確保 ─
経済連携
2015年はメガFTA交渉の山場に
─ 求められるメガFTA時代に対応する事業戦略の構築 ─
海外通信
ブラックフライデー襲来?
─ 英国のクリスマス消費に変化の予兆 ─
今月のキーワード
2015年
今月の視点
1
インフレ期待と成長期待の中道
─ デフレーター、生産性、
所得分配 ─
日本経済
3
消費の回復は期待できるのか
─ 消費停滞を脱するカギは低所得者対策と原油安 ─
金融政策
6
欧米金融政策の展望
─ 緩和解除と緩和強化の二重奏は世界に何をもたらすのか ─
地域動向
8
地方創生はどこまで期待できるのか
─ 地方で難しい若い女性の仕事の確保 ─
経済連携
10
2015年はメガFTA交渉の山場に
─ 求められるメガFTA時代に対応する事業戦略の構築 ─
海外通信
12
ブラックフライデー襲来?
─ 英国のクリスマス消費に変化の予兆 ─
今月のキーワード
13
2015年
みずほリサーチ January 2015
みずほ総合研究所のホームページでもご覧いただけます。
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/research/
本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。
本資料はみずほ総合研究所が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、
確実性を保証するものではありません。また、
本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
今月の視点
インフレ期待と成長期待の中道
─ デフレーター、生産性、所得分配 ─
アベノミクスは、価格が下がり続けるといったデフレ期待を払拭した点で大きな意
義があったと思われる。その一方で実体経済は芳しいものとはなっていない。消費税
率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減の影響だけではない。
みずほ総合研究所 首席エコノミスト 泰松真也
はじめにGDP統計等から3つの事柄をあげる。
① 2014 年 7 ∼ 9 月期の国内民間需要デフレーター
は前年比+ 2.3%となった。2%超となるのは
1992年以来
②安倍政権発足時の2012年10∼12月期から2014年
7∼9期の間、雇用者数は1.8%増加したものの、実
質GDPは1.4%増にとどまり、
労働生産性は低下
③この間、名目 GDP の 2.5%の増加に対して名目
雇用者報酬は 3.1% 増加して、家計への分配は高
まったが、所得から消費へ回す割合が大きく低
下、名目消費は1.9%増にとどまる
以下、これらについて順に検討していこう。
物価上昇が実質国内民間需要を下押し
まず①の物価動向については、消費税率引き上げ
前の 2014 年 1 ∼ 3 月期の国内民間需要デフレーター
は前年比+ 1.0%であった。1%以上の伸びとなるの
は、1997 年の消費税率引き上げ時以来のことで、こ
れを除けば 1993 年以来のこととなる。背景には円安
による輸入物価の上昇があるが、インフレ期待の醸
成などから、企業が価格転嫁を従来と比べて進めた
ことが影響しているとみられる。
個人消費デフレーターは、
2014 年 1 ∼ 3 月期の前年
比+0.8%から消費税率の引き上げ後の2014年7∼9月
期には前年比+ 2.4%まで上昇した。最近の実質個人
消費の低迷では、食料、衣料など非耐久財の落ち込み
が特徴的だが、非耐久財デフレーターは消費税率引
き上げ前の2013年7∼9月期に前年比+2.5%と既に高
い伸びとなっていたものが、
2014 年 7 ∼ 9 月期には同
+ 4.7% まで上昇している。非耐久財消費支出額は名
目ベースではほとんど変化がない中で、実質ベース
では2014年7∼9月期には前年比▲4.0 %まで落ち込
んでおり、
物価の上昇が実質消費を抑制している。
同じ国内物価の上昇でも、その原因が賃上げでは
なく輸入物価上昇や消費税率引き上げによる場合
は、所得が海外や政府部門に移転するため、価格上昇
による需要の減少を所得増加に伴う需要拡大で補い
にくい。2012年10∼12月期から2014年7∼9月期の
間、国内民間需要は名目ベースでも+2.3%と弱い伸
びにとどまっており、実質ベースでは0.0%と横ばい
となっている。
一方、輸出面では、輸出デフレーターの上昇が顕著
となっている。
2013年7∼9月期と10∼12月期の輸出
デフレーターは前年比+ 10%を上回る伸びとなった
が、これは1981年以降で初めてのことだ。背景には円
安が進む下でも、輸出価格の引き下げの動きが過去の
円安局面と比べて弱かったためとみられる。輸出デフ
レーターの上昇幅が大きいことは、交易条件の悪化を
緩和する一方、実質輸出の増加を抑制する。輸出数量
は2013年4∼6月期以降ほぼ横ばいで推移している。
このように今回局面では、円安や消費税率の引き上
げが国内物価上昇を通じて実質国内民間需要を下押
しするとともに、輸出価格の上昇が実質輸出の増加を
抑制して、
実質GDPの伸びを弱いものにしている。
生産性を高めるには時間が必要
次に②の労働生産性については、日本経済にとっ
て成長力や生活水準を高めていく上で、生産性の向
1
今月の視点
上が最も重要な課題のひとつであろう。
生産性の計測は実証的な問題であり、短期的な結
果だけから評価は出来ない。今後公表される 2013 年
度の GDP 統計の確報などを用いて分析を進めてい
くこととして、ここでは今後の分析のために現段階
で分かっている事柄をあげておこう。
まず、
「労働生産性=実質GDP÷雇用者数」といっ
た右辺の分母・分子からとらえれば、分子の実質
GDP については、その低迷は前述の通りだが、そう
した中でも公的需要が実質 GDP を押し上げている。
一方、分母の雇用者数については建設やサービスな
ど相対的には生産性水準が低い業種が中心となって
おり、これらがどの様に影響しているのか。
また、円安下でも輸出数量の増加が弱いのは、輸出
価格の上昇のほかにも、自動車の海外生産拡大が影
響している。比較優位にあると思われる自動車の海
外展開が一段と進んでいることは気掛かりだ。経済
のダイナミズムを考えれば他の産業に比較優位の立
場が取って代わるに過ぎない現象かもしれないが、
自動車産業のすそ野は広く、代替産業の生産性が自
動車と比べて高いかどうかは不確かだ。
いずれにしても、生産性上昇はイノベーションの
促進、規制緩和などを通じた新規産業育成、成長戦略
に盛り込まれた産業の新陳代謝などに地道に取り組
むほかない。しかし、それは時間がかかることだ。
厳しい所得環境下、民間所得が
消費・投資に回らず
次に③の所得分配や所得からの支出の動向などを
みていく。
円安進行、消費税率の引き上げなど家計・企業の所
得環境は厳しい状況にある。
GDP統計で直近2014年7∼9月期の値を2012年10
∼ 12 月期と比較してみていくと、名目 GDP は 2.5%
増加している。しかし、この名目 GDP は円安を背景
とする交易条件悪化に伴う海外への所得流出によ
り縮小している。また、名目 GDP は所得分配面から
みれば、家計、企業、政府等の所得の合計となるが、
2014 年 4 月の消費税率の 8%への引き上げによって
民間部門から政府部門へ所得が移転して、企業と家
計を合計した所得は一層下押しされている。海外所
得流出によって名目 GDP は 1.3%ポイント下押しさ
れ、一方政府部門への所得移転により民間部門の所
得は1.4%の伸びにとどまったと試算される。
家計については、賃上げが進められたこともあっ
2
て、この間の雇用者報酬は 3.1%増と全体の所得であ
る名目 GDP の伸び 2.5%を上回った。このように家計
への分配が高まったものの、これが消費に回っていな
い。名目消費支出の名目雇用者報酬に対する割合をみ
ると、この間1.4%ポイントと大きく低下している。こ
の割合を2014年7∼9月期と駆け込み需要のあった1
∼ 3 月期と比べれば 5.4%ポイントと極端な低下とな
るが、これは1997年の消費税率引き上げ時、
2008年の
リーマン・ショック時、
2011 年の東日本大震災時の低
下幅を上回るものだ。これらにより、この間の雇用者
報酬 3.1%の増加に対して名目消費は 1.9%増にとど
まっており、
実質消費は0.4%の減少となっている。
一方、企業については、この間、所得は2013年度末
にかけて上昇していたが、直近7∼9月期は2012年10
∼ 12 月期の水準を下回っているとみられる。こうし
た中で、投資性向
(名目設備投資÷(営業余剰・混合所
得+固定資本減耗))は上昇傾向にあるものの、投資
の水準は固定資本減耗の 7 割程度となお低い水準に
とどまっているとみられる。
インフレ期待と成長期待の中道の追求を
以上みてきたように、交易条件悪化や消費税率引
き上げによって企業と家計の所得は抑えられてい
る。こうした中、インフレ期待の上昇を背景に企業が
価格転嫁を進めたことなどから物価は大幅に上昇し
ており、消費や投資は一段と下押しされている。
消費・投資が抑制されたのは、物価上昇率は海外と
比べてなお低いものの、わが国では近時にない大幅
な上昇となる中で、成長期待が高まっていないこと
によると考えらえる。
成長期待を高めるには、実際の成長率を高めると
ともに、
資本や労働の短期的な投入量の変化によらな
い中長期的な生産性を高めていくことが重要だろう。
生産性の改善が進まなければ、円安は一段と進展す
るであろうし、
実質賃金の鈍化により生活水準の向上
も進まない。
生産性が低迷した中で賃金を引き上げれ
ば、
単位労働コストが上昇して物価は確実に上がって
いくだろうが、
それは望ましい姿とは言えない。
インフレ期待の追求は成長期待と歩調を合わせて
進めることが重要だ。円安などによって物価を上昇
させても成長期待が高まっていなければ、経済の好
循環にはつながらない。成長期待の回復には時間を
要することを考えれば、インフレ期待の回復にも時
間をかける必要があろう。インフレ期待と成長期待
の中道が追求されることを期待したい。
日本経済
消費の回復は期待できるのか
─ 消費停滞を脱するカギは低所得者対策と原油安 ─
低所得者を中心に消費回復の動きが弱い。労働者の約 4 割が働く中小企業は、円安に伴
うコスト増もあって、人件費増加に慎重なスタンスを崩していないとみられる。消費本
格回復に向けた当面の課題として、即効性を重視した低所得者に対する支援が必要であ
るが、
その後は原油安による追い風も加わり、
回復の動きが続くと見込まれる。
消費増税後の個人消費は回復力が弱い。増税直後
なっており、実質賃金は 3%程度の減少が続いてい
は、4 月の個人消費が大幅に落ち込んでも、夏頃には
る。賃金の大部分を占める所定内給与について事業
増税前の水準を取り戻すとの見方が多かった。しか
所規模別にみると、最近の賃金上昇の動きは大企業
し、夏場の天候不順の影響もあって、
増税後の個人消
が中心で、労働者の約 4 割が働く中小企業にまで広
費は想定外に下振れている。消費総合指数を 1997 年
がっているわけではないと分かる(図表 2)。中小企
増税時と比較すると、97 年増税時は 6 月頃に増税前
業では、パート労働者の時給が明確に上昇している
の水準(96 年平均)まで持ち直したのに対して、今回
ものの、正社員の給与は横ばい程度にとどまってい
は10月時点でも増税前の水準(2013年平均)を2%程
る。さらに、相対的に賃金水準が低いパート比率が上
度下回っている。
昇することで、賃金(1 人当たり平均)への下押し圧
年収階層別に増税前後の消費動向をみると、低所
力もかかっている。
得者ほど回復の動きが弱い。高所得者層(第 5 分位)
では、97 年時を上回る駆け込み需要が生じたが、増
税直後の落ち込みは小さく、その後は緩やかに持ち
●図表1 年収階層別消費支出(2人以上世帯)
(基準年=100)
直している(図表1)。一方、低所得者層(第1分位、第2
108
分位)については、駆け込み需要の規模は 97 年時と
106
同程度であったものの、増税直後の落ち込みが大き
104
く、その後も97年時に比べて回復の動きが弱い。
102
2013年Q4 ∼ 2014年Q3
1996年Q4 ∼ 1997年Q3
100
労働者の約4割が働く中小企業は
人件費増加に慎重なスタンス
98
96
94
低所得者を中心に消費回復の動きが弱い理由とし
92
て、物価の上昇に対して、賃金の上昇ペースが鈍い
90
ことが挙げられる。1 人当たり現金給与総額は 2014
年10月時点で前年比+0.2%と8カ月連続のプラスと
なったが、同時期の消費増税の影響も含めた物価上
昇率(持ち家の帰属家賃を除く総合)が同+ 3.4%と
4Q1Q2Q3Q 4Q1Q2Q3Q
第1分位
第2分位
収入が少ない
4Q1Q2Q3Q
第3分位
4Q1Q2Q3Q
第4分位
4Q1Q2Q3Q
第5分位
収入が多い
(注)1. 1996年Q4からの値は2人以上の世帯(農林漁業除く)
ベース、1996年=100とした。
2. 2013年Q4からの値は2人以上の世帯(農林漁業含む)
ベース、2013年=100とした。
3. みずほ総合研究所による実質季節調整値。
(資料)総務省「家計調査」より、みずほ総合研究所作成
3
日本経済
一方、中小企業は人手不足感が著しく強い。
「日銀
かったのかもしれない。中小企業庁の調査(
「ここ1年
短観」の雇用人員判断DI(2014年12月調査、
「過剰」−
の中小・小規模企業の経営状況について」
(2014年11
「不足」)をみると、中小企業が▲ 18%ポイント、中堅
月)
)によれば、
4割程度の中小・小企業が原材料・エネ
企業が▲ 15%ポイント、大企業が▲ 9%ポイントと
ルギーコストの増加により経常利益が 10%以上圧迫
なっており、中小企業ほど人手不足感が強くなって
されたと回答している。売上減少の懸念から価格転
いる。通常、人手不足感が強いほど、企業は労働力を
嫁がままならない企業も多く、人件費の増加には慎
確保する目的で賃金を引き上げるはずであるが、現
重なスタンスを維持している可能性が高い。
段階においてパート労働者の時給を除けば、そうし
個人消費の着実な回復には、賃金上昇の動きが中
た動きはほとんどみられない。人手不足下でも中小
小企業まで十分に波及することが不可欠であるが、
企業が賃金の引き上げになかなか積極的になれない
中小企業の人件費増加に対する姿勢が短期間で劇的
のは、人件費の増加が収益を圧迫する要因になるか
に変化するとは考えにくい。
らであろう。
「法人企業統計」を用いて、人件費の増加が企業収
益に与える影響(2013 年度ベース)をみてみよう。中
低所得者に対する即効性を重視した
重点的支援を
小企業において人件費が 1%、
2%、
3%増加した場合、
経常利益はそれぞれ▲ 4.8% ポイント、▲ 9.7% ポイン
以上を踏まえれば、個人消費本格回復に向けた当
ト、▲ 14.5% ポイント押し下げられると試算される
面の課題として、消費増税に伴う負担が大きい低所
(図表3)
。他方、大企業のケースでは、それぞれ▲1.4%
得者に対し、政策的にサポートすることが検討に値
ポイント、▲ 2.8% ポイント、▲ 4.2% ポイントとなっ
するだろう。
ており、人件費増加によるマイナスの影響は中小企
今回の消費増税に際しても、低所得者層の負担軽
業の方がより強く出る模様である。もちろん、人件費
減策として「臨時福祉給付金」が支給されている。平
増加によるマイナス分をカバーできるだけの売上の
成 26 年度の住民税非課税世帯(所得水準の目安:夫
増加やコストの減少を見込めれば問題にならないわ
婦と子供1人世帯の場合で205.7万円)を対象に、1人
けだが、これまでは円安等に伴うコスト増による収
当たり 1 万円(年金受給者などには 5 千円の加算)を
益の下押しがある中で、そうした余裕が生まれにく
支給するものである。例えば、夫婦と子供 1 人の年間
●図表2 名目賃金(所定内給与)
●図表3 人件費増加による企業収益への影響
(単位:%ポイント)
(前年比、%)
1.2
人件費増加幅
大企業
1.0
経常利益への影響
1%
2%
3%
▲1.4
▲2.8
▲4.2
0.5
1.1
1.6
0.8
経常利益のマイナスを
カバーできる売上増加幅
0.6
0.4
人件費増加幅
中小企業
0.2
経常利益への影響
0.0
経常利益のマイナスを
カバーできる売上増加幅
▲0.2
平均
一般
パート
時給
事業所規模5∼29人
平均
一般
30人以上
(注)2014年7 ∼ 9月平均。
(資料)厚生労働省
「毎月勤労統計」より、みずほ総合研究所作成
4
パート
時給
1%
2%
3%
▲4.8
▲9.7
▲14.5
0.8
1.6
2.4
(注)1. 人件費が 1%、2%、3%増加した場合の経常利益押し下げ幅と、経常利益
のマイナス分を相殺できる売上高の増加幅を試算。
2. ベースとなる売上高、変動費、固定費などは2013年度から変わらない前
提。
(資料)財務省「法人企業統計」より、みずほ総合研究所作成
収入 300 万円未満世帯の場合、月収に対する消費税
引き上げを求める方針だ。要求がどこまで受け入れ
の負担割合は 6.6% であるが、給付金の支給によって
られるかは、今後の動向を見守るしかないが、今夏以
負担割合が 5.7% まで低下する(平成 25 年家計調査
降の「原油安」が賃上げを促す方向に影響する可能性
ベース)。もっとも、多くの地方自治体において住民
がある。これまでは円安に伴う原材料コストの上昇
税の算定が完了するのが 6 月頃であったため、支給
が収益を押し下げる方向に作用してきたが、今後は
開始が 7 月以降となり、増税による消費減少の影響
原油安に伴うコストの減少が収益を押し上げ、それ
が最も大きく出る増税直後(4 ∼ 6 月期)のタイミン
が賃上げ余力につながると期待されるからだ。
グには間に合わなかった。さらに、今回程度の給付額
原油安は中小企業にも大きなメリットがある。
の支給では、低所得者ほど消費税負担割合が高いと
「2005年規模別産業連関表」を用いて、2014年原油価
いう状況(逆進性)にもほとんど変化を及ぼさない。
格が 2013 年に比べて 40%下落した場合の中小企業
実際に低所得者層ほど消費回復の動きが鈍いことに
の収益に与える影響を試算すると、約 1.8 兆円の収
鑑みると、今回の給付金支給制度が低所得者対策と
益改善が生じる計算となる(図表 4)。同時に円安が
して有効に機能したとは言い難いだろう。
10%進んだ場合でも(収益押し下げ要因)、ネットで
増税後の経済情勢の厳しさを受け、年明けにも成
約0.6兆円の収益改善効果が見込まれる。
立するとみられる経済対策にも、低所得者向けの対
さらに、原油価格の下落は物価の抑制を通じて、家
策が盛り込まれる可能性がある。みずほ総合研究所
計の実質購買力を高めることとなる。原油安の恩恵は
は、消費増税に伴う負担が大きい層に対する即効性
低所得者層を含む幅広い層に及ぶことになるだろう。
を重視した重点的支援を実施すべきと考え、現行の
2014 年の個人消費は消費増税の影響で停滞感が
「臨時福祉給付金」と「子育て世帯臨時福祉給付金」の
強まったが、2015 年は原油安の追い風にも支えられ
支給対象者に対し、現行制度と同じ枠組みで、2015
て、回復の動きが続くと期待できるだろう。
年 1 ∼ 3 月期に追加支給を実施することを提案した
い。追加支給により、1,438 億円の消費増加効果がも
みずほ総合研究所 経済調査部
たらされると試算される。マクロ的な影響はそれほ
主任エコノミスト 風間春香
ど大きくないようにもみえるが、給付金支給対象者
[email protected]
の消費を下支える効果が期待できるだろう。夫婦と
子供 1 人・年間収入 300 万円未満世帯の場合、追加支
給により、半年ベースの消費支出を約 0.9% ポイント
押し上げると見込まれる。
●図表4 原油安・円安が中小企業の収益へ及ぼす影響
(兆円)
2
原油安の追い風もあり、
2015年の個人消費は回復の動きが続く
もっとも、給付金の支給はあくまで一時的な措置
原油安による効果
円安による効果
約1.8兆円の
改善要因
1
0
であり、持続的な消費拡大にはやはり賃金の上昇が
不可欠である。
今まさに、2015 年の春闘に向けた動きが出始めて
▲1
いる。日本労働組合総連合会(連合)は定期昇給に加
えて、
「2%以上」のベースアップを要求する方針を
▲2
円安効果のみ
円安+原油安
決定した。連合のベア要求は2年連続であり、2014年
の「1%以上」から要求を引き上げるという。企業間
の賃金格差を埋めるべく、中小企業にも賃金水準の
(注)1. 規模別産業連関表より試算。なお、61部門のうち、大企業・中小企業の別の
ある26部門を対象とした。
2. 仕入価格の変化はみずほ総合研究所のマクロモデルによって試算。
(資料)
中小企業庁「2005年規模別産業連関表」などより、
みずほ総合研究所作成
5
金融政策
欧米金融政策の展望
─ 緩和解除と緩和強化の二重奏は世界に何をもたらすのか ─
2015 年の欧米金融政策は相異なる転換点に立つ。ただ、その運営は物価動向に左右
される点で共通する。世界経済にとって重要なのは、欧米の長期金利がどのように反応
するのかである。低下することはあっても上昇は考えにくい欧州の長期金利と異なり、
米国の長期金利は不透明感が高く、
上昇・低下両サイドに大きなリスクを抱えている。
米国では、量的緩和第3弾(QE3)を決めた2012年9
二手に分かれる欧米金融政策。
インフレが共通の鍵
月以降、FRB の予想を超えるテンポで雇用が改善し
てきた。FRB には完全雇用と物価安定という 2 つの
使命が課せられており、QE3 の狙いも雇用回復の促
2015 年、米国と欧州の金融政策は正反対の方向に
進にあったわけだが、その狙い通りの成果が得られ
向かい始める。一方の米連邦準備制度理事会(FRB)
るようになった。ところが物価安定という使命達成
は、6 年にわたって続けてきた事実上のゼロ金利政
のめどは立っておらず、インフレ率は FRB の見通し
策に終止符を打ち、利上げに踏み出す(図表 1)。他
を下回る推移が続いてきた。
方、欧州中央銀行(ECB)はバランスシート拡大を通
2015 年の FRB によるゼロ金利解除のタイミング
じて、金融緩和のアクセルを一段と強く踏み込もう
や、その後の利上げのペースは、その焦点をインフレ
としている(図表 2)。ただ、いずれの金融政策も、そ
率に当てながら決定されていくだろう。インフレ率
の運営は物価動向に左右される点で共通項を持つ。
が FRB の長期目標である 2%に戻ることに確信が得
●図表1 利上げが近づく米金融政策
●図表2 バランスシート拡大を狙うECB
(%)
(兆ユーロ)
2.00
1.5
1.75
ECBの目標
1.50
1.0
1.25
1.00
0.75
バランスシート拡大策を
採らなかった場合(点線)
0.5
0.50
0.25
0
0
2015
2016
2012
13
14
15
(年/月)
(注)1. 2014年12月5日時点のFF金利先物に織り込まれた米政策金利予想。
2. 網掛けは政策金利の誘導レンジ(0.25%の幅)を表す。
(資料)Bloombergより、
みずほ総合研究所作成
6
16
(年/四半期)
(注)1. 資金供給オペと金融政策を目的とする保有証券の残高。
2. 2014年までは実績
(一部見込み)。
(資料)ECBより、みずほ総合研究所作成
られるまで、FRB は慎重に利上げを進めていくだろ
の間の低下幅は0.75%であった。
う。そうした確信を得るための材料として、FRB は
2015 年の米国の長期金利は、2004 年当時以上に経
特に賃金動向と長期インフレ期待の 2 つに注目する
済指標に反応しやすいだろう。FRB 自身が、金融政
とみられる。
策は経済指標次第であることを強調しているためで
2014 年終盤にかけて、賃金の伸びが高まる兆しが
ある。米国の雇用情勢は順調な回復を遂げているこ
見えている。だが、長期インフレ期待の方は低下傾向
とから、今後、予想以上に良好な指標が出てくる可能
にあり、利上げをテンポよく進めていける状況には
性もある。その場合、2004 年前半のように、米国の長
ない。
期金利が急上昇するおそれがある。米国の長期金利
ECB も長期インフレ期待の低下に気をもんでい
の急上昇は、新興国からの資金流出につながりやす
る。ECB は 2014 年に、銀行貸出条件付きの資金供給
いほか、米国経済の回復そのものを阻害する可能性
オペ(TLTRO)、資産担保証券(ABS)及びカバード
があるだけに、FRB は長期金利の動向に神経を尖ら
ボンドの購入策を決定、2016 年秋までにバランス
せるだろう。
シートの規模を 1 兆ユーロ拡大することを発表し
た。バランスシートの積極的拡大によって、長期イ
バブル膨張のリスクも
ンフレ期待の持ち直しを図ろうという狙いがある。
2015 年には、バランスシート拡大をより確実なもの
反対に、米国の長期金利の上昇を抑える要因もあ
とするため、ECB は購入対象として社債や国債を組
る。まず、前述した欧州の金利低下が挙げられる。相
み入れるだろう。
対的な利回りの高さに注目した投資家が、米国債に
対する需要を強めるだろう。次に、中東・ウクライナ
米国の長期金利はどう反応するのか
情勢の悪化など、地政学リスクを嫌気した安全資産
需要の高まりや、強化された金融規制を背景にした
欧米の金融政策がおのおのの転換点を迎える中、
気になるのは欧米の長期金利の行方である。
欧州ではすでに、ドイツの国債利回りが0.7%台ま
銀行による米国債保有の拡大も、米国債利回りを押
し下げる要因となり得る。
急上昇の場合と同様、米国の長期金利が低位安定
で低下している。今後、ECB が国債購入を決めれば、
することにも懸念すべき点がある。米国経済の順調
他の欧州国債利回りも大きく縮小しよう。歴史的低
な回復と相まって、バブルを助長しかねない。
水準にあるドイツ国債利回りですら、一段と低下す
すでに米国では、信用度の低いサブプライム層と
るシナリオも考えられる。ECB の思惑通りに長期イ
言われる人々に対する自動車ローンが拡大、問題視
ンフレ期待が持ち直さなかったり、原油価格の下落
されるようになっている。また金融市場では、上場投
によってインフレ率がマイナスになったりすれば、
資信託(ETF)が媒体となり、従来は一部の投資家し
そのシナリオは現実になりそうだ。
かアクセスできなかった新興国市場が、幅広い投資
低下することはあっても上昇は考えにくい欧州の
家層に開かれるようになった。米国の長期金利が低
長期金利と異なり、米国の長期金利の行方は不透明
位推移を続ければ、利回りは高いが流動性の低い市
感が強い。2014 年は QE3 終了と利上げが近づくにも
場に大量の資金が流入するおそれがある。さらには、
関わらず、長期金利は低下傾向をたどった。
こうした
利回りを求める投資家の要請に応えて、複雑な仕組
長期金利の低下について、
「米国経済の潜在成長率の
みを持つ金融商品も生まれかねない。
下方屈折の表れ」ではないかという議論も出た。
前回の利上げ局面である 2004 年を振り返ると、雇
用統計の上振れを契機に、米国の長期金利は同年 3
金融危機の芽をつぶせるのか。今後の欧米金融政
策には金融安定という大きな責任も課せられてい
る。
月末から最初の利上げが行われる 6 月までの間だけ
で 1%上昇した。その後は逆に、雇用統計の下振れや
みずほ総合研究所 欧米調査部兼市場調査部
インフレ率の落ち着きなどを受けて米国の長期金利
主席研究員 小野 亮
は低下に転じた。3 度目の利上げが行われた 9 月まで
[email protected]
7
地域動向
地方創生はどこまで期待できるのか
─ 地方で難しい若い女性の仕事の確保 ─
政府は地方創生を合言葉に、地方自治体の人口減少に歯止めをかけることを模索し
ている。その人口減少の主因は、若者、特に高学歴化が進む若い女性の流出である。女
性の流出は子どもの減少に直結し、人口減少を加速させるからだ。しかし、若い女性
の仕事の確保は難しく、地方自治体の人口減少は今後も続く可能性が高い。
2014 年 5 月、民間の有識者で構成される日本創成
1975年の3分の1まで縮まっているからだ
(図表1)
。
会議が、地方自治体の約半分が人口減少によって 30
若い女性の流出は、地域の将来人口を左右する子
年後に消滅する危機にあるという報告を行った。こ
ども数の減少に直結する。若い女性の流出が進む地
の報告は大きな反響を呼び、今や人口減少対策は地
域では多少出生率を高めたところで、人口減少に歯
方自治体の重要なテーマの一つとなっている。政
止めをかけるのは難しい。高学歴化が進む女性が転
府も昨年 9 月の内閣改造で「地方創生担当相」を新
出しないよう、仕事を確保しなければならない。
設し、
「まち・ひと・しごと創生本部」を発足させた。
2014年11月の衆議院解散直前には、東京圏への過度
な人口集中を排除して地方に仕事を作るなど、
「地方
高学歴化が進む若い女性の仕事確保は
容易でない
創生」の方向性を定めた「まち・ひと・しごと創生法」
と、地域活性化を統合的に支援する
「地域再生法の一
一方、3 大都市圏の一つで、製造業の工場の集積で
部を改正する法律」
が成立した。政府は使途に制限を
知られる名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)におい
加えない交付金創設などにより、地方自治体の創意
工夫が発揮されるのを期待しているが、これで人口
減少に歯止めがかかるのであろうか。
●図表1 男女別大学進学率の推移
(%)
60
地方自治体の人口減少の主因は
若い女性の流出
50
男性
40
政府は地方自治体の人口減少の主因である東京
圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)への人口の一
30
極集中に警鐘を鳴らしている。その東京圏で、1990
年代後半以降、転入超過が目立つのは若い女性であ
る。東京圏で2013年の20歳代と30歳代の転入超過を
女性
20
10
みると、男性が19,892人に対し、女性はそれを大きく
上回る 27,486 人となっている。その背景には女性の
高学歴化があろう。90 年代に入って女性の大学進学
率が上昇し、大学進学率の男女格差が最大であった
8
進学率の男女差は3分の1に縮小
0
1954
60
65
70
75
80
85
90
95 2000 05
12
(年)
(資料)内閣府
「男女共同参画白書」
(平成25年版)より、みずほ総合研究所作成
て、2013 年の 20 歳代と 30 歳代の転入超過をみると、
て魅力的な仕事を多く生んでおり、ヒト・モノ・カネ
男性は 2,411 人であるが、女性はそれより少ない 577
に限界があるうえ、高学歴の若者向けの仕事創出の
人となっている。また、21 ある政令指定都市につい
経験がほとんどない地方自治体ではなかなか太刀打
て、2005年から2010年にかけての人口増加率をみる
ちできない。例えば、
「まち・ひと・しごと創生本部」事
と、人口減少を記録しているのは北九州市、静岡市、
務局で北海道の都市別人口動向を分析したものが
浜松市、新潟市、京都市の5つであるが、そのうち浜
2014年10月20日に発表されているが、そこには札幌
松市、静岡市、北九州市は製造業が比較的盛んな都市
市は職住近接を願う若者だけでなく、医療機関など
で知られている。製造業の工場誘致は地域活性化策
の充実を願う高齢者をも集めており、一極集中が進
の代表例であるが、製造業の現場での仕事は高学歴
んでいることが示されている。北海道のその他の都
化が進む若い女性にあまり魅力的といえず、人口減
市が北海道随一の巨大都市圏である札幌市に対抗す
少の歯止めになりにくい。
るのが難しいように、非3大都市圏では域内の巨大
また、政府は地方創生において、
地域資源を活用し
都市圏への人口の一極集中は避けられず、現実的に
た産業振興に期待をかけているが、そのような産業
対東京圏としての人口のダム機能を期待できるの
では雇用吸収力に課題があろう。
例えば、観光業は地
は、域内随一の巨大都市圏に限られるのではないか。
域資源を活用した代表的な産業である。
しかし、全国
したがって、今次の地方創生について、地方自治体の
的にも知名度の高い観光地である函館市や小樽市
創意工夫を生かして様々な地域資源を活用した産業
は、中山間地の地方自治体を想起させるほどの急激
の育成は期待できるものの、その人口のダム機能に
な人口減少に見舞われている。
また、前出の政令指定
は限界があり、ほとんどの地方自治体で人口減少に
都市でみれば、観光地として世界的な知名度を誇る
歯止めをかけるのは難しいであろう。
京都市でさえ、
2005年から2010年にかけて人口が減
政府は地方創生が必要とされる背景の一つに、出
少しているのが実情である。観光業に成長余力があ
生率が低い東京圏への一極集中による日本全体の出
るのは間違いないとしても、その観光業に人口減少
生率低下も挙げている。しかし、人口減少都市より大
に歯止めをかけるほど、高学歴化が進む若い女性の
都市部で高学歴化が進む若い女性向けの仕事確保が
雇用吸収力を期待するのは難しいのではないか。そ
容易である以上、東京圏対人口減少都市の対立の構
もそも、地域の潜在的な資源を生かした産業振興は
図に落とし込むよりも、大都市圏を中心に、その仕事
長らく叫ばれており、これまで様々な地域活性化策
と出産・育児が無理なく両立できる環境の整備を地
が行われてきた。
しかし、高学歴化が進む若い女性の
道に進めていく方が効果的と思われる。
仕事確保により人口減少に歯止めをかけることに成
そのうえで、人口維持が難しくなり、いずれ衰退が
功した例はほとんど見られない。
例えば、政府が地方
免れない地方自治体向けに、地方自治体の「ターミナ
創生でもくろむ自由度の高い交付金制度としては、
ルケア」といえる政策が必要であろう。例えば、その
1988年から89年にかけて全自治体に1億円配布した
ような地方自治体では追加的なインフラ整備はでき
「ふるさと創生事業」が有名であるが、目立った効果
る限り避けるべきだ。また、広域をカバーする組織、
は出ていない。
例えば隣接する複数の都道府県などで、人口配置を
含む将来の地域のあり方を考えていく必要がある。
現実的に人口維持が期待できるのは
巨大都市圏
その中で人口集積に向けた政策、具体的には都道府
県やそれを超える地方といった単位でのコンパクト
シティ化を進めるため、大都市への移住促進政策を
政府は人口維持のための人口流出阻止機能を「人
検討するべきであろう。
口のダム機能」と称し、それが期待できる都市とし
て、非3大都市圏で約 60 カ所にのぼる地方中枢拠点
みずほ総合研究所 政策調査部
都市にあげている。しかし、大都市圏の巨大な人口集
主任研究員 岡田 豊
積による第3次産業の発展は、高学歴の若者にとっ
[email protected]
9
経済連携
2015年はメガFTA交渉の山場に
─ 求められるメガFTA時代に対応する事業戦略の構築 ─
TPP交渉をはじめとするメガFTA交渉が2015年に山場を迎える。メガFTAが実現
すれば、日本企業を取り巻く事業環境は大きく変化する。サプライチェーンの再編な
ど、
メガFTA時代に対応する事業戦略の構築が、
日本企業に今求められている。
世界貿易機関(WTO)におけるグローバルな貿易
投資自由化交渉(ドーハ・ラウンド)が停滞する中、貿
活動に大きな影響をもたらす。2015 年には、これら
のメガFTA交渉がいずれも山場を迎える。
易投資の自由化やルールづくりの場として主役に躍
り出たのがメガFTA(自由貿易協定)
交渉である。
大きな影響をもたらすメガFTA
現在世界では、日中韓 FTA、ASEAN10 カ国と周
辺主要6カ国(日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュー
日本はこれまでに 13 件の EPA を発効させ、14 件
ジーランド)の 16 カ国による東アジア地域包括的経
目となる豪州との EPA も 2015 年 1 月 15 日に発効す
済連携(RCEP)、アジア太平洋地域の 12 カ国が参加
る。これらの EPA も日本経済の発展や日本企業の事
する環太平洋経済連携協定(TPP)
、日EU
(欧州連合)
業活動の円滑化に資する重要なものであるが、メガ
経済連携協定(EPA)
、米国と EU の FTA である環大
FTA はその経済規模や人口の大きさ、あるいは参加
西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)の5つのメガ
する国の数の多さなどから、実現すればこれまでの
FTAが交渉されている
(図表1)
。
EPA をはるかに上回る影響を参加国の経済や社会、
メガ FTA の実現は、日本の国民生活や企業の事業
また、グローバルな貿易体制にもたらすものとなる。
例えば、TPPはGDPで世界
の約4割、RCEPは人口で世
●図表1 世界のメガFTA交渉
界の約半分を占めており、
APEC(FTAAP)
TTIP
EU
日EU
実現すればこれまでにな
TPP
米国
チリ
ペルー
カナダ メキシコ
日本
豪州
ニュージーランド
ブルネイ ベトナム
シンガポール
マレーシア
い巨大な FTA となる(図表
香港 ロシア 台湾
パプアニューギニア
2)。
メガ FTA が実現すると、
韓国
中国
日本企業を取り巻く事業環
日中韓
インド
ASEAN
インドネシア
フィリピン タイ
カンボジア
ラオス
ミャンマー
R
C
E
P
境は大きく変化する。メガ
FTA により、貿易投資障壁
が削減・撤廃され、知的財産
権保護や電子商取引などの
貿易投資に関連する共通
ルールが作られると、国境
(資料)
みずほ総合研究所
10
を超えた事業活動が一層円
滑になり、域内市場がより一体化する。そうなれば、
準の緩やかな自由化を主張しているのに対し、日本
メガ FTA の域内でいくつもの国境を越えてサプラ
は自由化水準の引き上げを求めているとされ、交渉
イチェーン(バリューチェーン)を構築している日
の難航が伝えられている。
本企業は、拠点再編などによってこれを効率化し、
日EU・EPAは、
2013年4月の第1回交渉会合以来、
域内分業体制を最適化することが可能になる。これ
これまでに 8 回の交渉会合を終えている。EU が重視
は、これまで日本が締結してきた二国間 EPA では実
する日本の鉄道分野の市場開放が進むなど、交渉は
現できない、メガ FTA の大きなメリットである。こ
進展しているが、日本が求めているEUの自動車関税
の点では、メガFTAとは呼ばれないが、
ASEAN経済
の撤廃、EUが求めている日本の自動車や食品などの
共同体(AEC)が2015年末に発足予定であることも、
非関税措置への対応など、目標とする 2015 年内の合
ASEAN 域内に多くの拠点を有する日本企業にとっ
意に向けて解決すべき課題は多い。
2013年5月に交渉を開始したRCEPは、
6回の交渉
ては見逃せない動きである。
また、メガ FTA 参加を契機に国内改革が加速する
会合と 2 回の閣僚会合を終えている。しかし、インド
ことも見込まれる。国内改革の進展により、
これまで
が極めて低い水準の自由化を主張するなど、交渉に
規制によって保護されていた分野への参入が可能に
参加している先進国と新興国の意見の隔たりが大き
なるなど、新たなビジネスチャンスが生まれること
く、2015 年末までの交渉妥結という目標の実現に黄
も期待される。メガ FTA の実現は、国内の事業環境
信号が点っている。
の変化をもたらすため、海外との取引のない国内企
TTIPは、
2013年7月から2014年10月までに7回の
交渉会合を終えている。米・EU間の交渉は、多くの非
業にもその影響が及ぶ。
メガ FTA 実現に伴う国内外の事業環境の変化に
関税措置・国内規制を対象としているが、両者の意見
対応できるかどうかが、企業の競争力を左右する時
の隔たりは大きく、2015 年末までの合意のためには
代が目前に迫っている。メガ FTA 時代に対応した事
双方の相当な歩み寄りの努力が必要となるだろう。
業戦略の構築が、日本企業に今求められている。
TPPの早期合意が鍵に
2015年中の合意に向けた交渉加速に期待
いずれの交渉も 2015 年内の合意に向けて交渉加
5 つのメガ FTA 交渉は、いずれも 2015 年中の合意
を目指しているが、合意への道は容易ではない。
日中韓FTAは、2013年3月に交渉を開始し、これま
でに 6 回の交渉会合が開催されている。すでに二国
間FTA交渉を妥結した中韓両国が、中韓FTAと同水
速が期待されるが、その鍵を握るのが TPP である。
TPP は、日米関税交渉や知的財産分野の交渉の難航
が伝えられているが、大筋合意に向けた最終局面に
ある。
メガ FTA 交渉は参加国が重なっていることもあ
り、互いに刺激し合いながら進行している。そのた
め、交渉が最も進んでいる TPP 交渉が妥結に至れ
●図表2 メガFTAの経済規模(2013年)
GDP
日中韓
ば、他のメガFTA交渉の加速を促すことになる。
人口
2015 年の早い時期に TPP 交渉は大筋合意に至る
兆ドル
対世界比
億人
対世界比
15.7
21.0%
15.4
21.9%
のか。それが、2015 年のメガ FTA 交渉の行方を大き
く左右することになるだろう。
RCEP
21.6
29.0%
34.2
48.7%
TPP
27.7
37.1%
8.0
11.4%
日EU
22.4
30.0%
6.3
9.0%
米EU(TTIP)
34.3
45.9%
8.2
11.7%
世界
74.7
100.0%
70.2
100.0%
みずほ総合研究所 政策調査部
上席主任研究員 菅原淳一
[email protected]
(資料)IMF「World Economic Outlook database」
(October 2014)
より
みずほ総合研究所作成
11
海外通信 from London
ブラックフライデー襲来?
― 英国のクリスマス消費に変化の予兆 ―
になりつつあるのだ。もともとブラックフライデー
クリスマスムード一色のロンドン
とは、米国で感謝祭(11 月の第 4 木曜日)翌日の金曜
日からクリスマスセールが本格化し、それを境に小
ロンドンに赴任したのが 9 月末。それから次第に
日が短くなり、曇りがちの天候とも重なって太陽を
売店が黒字に転じることに由来する。英国では 2013
年くらいから知名度が上がっているようだ。
目にする機会が減っていく。こうした天候に慣れな
い日本人は、ロンドンの冬に気分が落ち込んでしま
セール前倒しとインターネット販売の増加
うことも多いと聞いていた。
しかし、11 月終わりごろから街は一気にクリスマ
小売業者間の競争が激化する中、ブラックフライ
スムードに彩られる。クリスマスツリーがあちらこ
デーに合わせて値引きを始める事業者が増加した。
ちらに立てられ、店は華やかに飾りつけられる。週
伝統的に英国ではクリスマス翌日の祝日(ボクシン
末のショッピングセンターには人があふれ、道行く
グデー)がバーゲンセール開始日だったが、セールが
人々は皆楽しそうだ。
前倒しされる傾向が強まっているようだ。
オンラインセールスの増加も大きな特徴である。
ブラックフライデーが英国にも定着
英小売調査センターは、2014 年のクリスマス期間の
オンライン販売が前年から約 20%増加し、743 億ポ
英国の小売業者にとって、クリスマスセールの
ンドに達すると予測している。これはクリスマス商
成否はきわめて重要だ。売上高が 1 年間でもっとも
戦の約 23%を占め、オンライン販売の割合は米国や
大きいのが 12 月、2013 年の例だと年間売り上げの
ドイツ・フランスなどより高いとのことである。報道
12.7%(約8分の1)
を占めている(図表)。
によればブラックフライデーのオンラインセールス
そのクリスマス商戦に、変化の兆しがみられる。
「ブラックフライデー」という言葉が英国でも一般的
は過去最高を記録し、一部に配送の遅延も生じてい
る模様である。
当然ながらクリスマスの消費動向は、英国経済の
現状判断にとってもきわめて重要な意味を持つ。
●英国の小売り売上高
2014年7∼9月期の実質GDP成長率は前期比+0.7%
(10億ポンド)
45
12月の売上高
と高めの成長を維持したが、4∼6月期の同+0.9%か
40
らは伸びが鈍化した。10 ∼ 12 月期の成長率が再び加
35
速するかどうかは、クリスマス明けのセールまで含
30
めた個人消費の盛り上がり次第と言えるだろう。英
25
国のクリスマス消費の出来上がりに注目したい。
20
15
10
2007
みずほ総合研究所 ロンドン事務所
08
09
10
11
12
13
所長 山本康雄
14
(年)
(注)自動車燃料を除く小売り売上高。
(資料)Office for National Statistics
12
[email protected]
2015年
Q:2015 年に注目される政治
イベントを教えてください
き下げや税率の見直しなどが行わ
状道路
(高速道路)の一つである中
れます。財務省の試算では、相続税
央環状線の全線開通など、交通イ
A:わが国では、
4月に統一地方選挙
の課税対象者の割合が現在の 4%
ンフラの整備が進み、人やモノの
(都道府県や市町村の首長・地方議
程度から 6%台にまで拡大すると
流れがスムーズになります。
員の全国一斉選挙)が予定されて
されています。
「地方創生」に向けた政府の取り組
「日本再興戦略」が昨年に続いて改
みに対する有権者の審判の行方が
訂される見込みです。アベノミク
Q:最後に 2015 年にまつわる
その他の話題があれば教え
てください
注目されます。また、秋には自民党
スの鍵を握る「第三の矢」の行方に
A:2015 年の干支は「乙未(きのと
総裁選も予定されています。
注目が集まりそうです。
ひつじ)」です。
「乙」は草木の芽が
海外では、英国(5 月)をはじめ、
9月19日から23日の5日間は、
土
曲がりくねった形になるという象
います。地方の人口減少が進む中、
6 月には政府の成長戦略である
ポルトガル(10 月頃)やスペイン
曜日も含めると 5 連休で、
6 年ぶり
形文字で、新しい芽が地表に姿を
(12月頃)で総選挙が行われる予定
のシルバーウィークとなります。
5
現したものの、そのまま真っ直ぐ
です。英国の欧州連合(EU)離脱の
月のゴールデンウィークと合わせ
には伸びていけない状況を表しま
可能性や地方分権改革の行方など
ると、2015 年の 5 連休は 2 回とな
す。また、
「未」は「昧」
(くらい)に通
を筆頭に、欧州の政治動向にも注
り、観光地などが大いににぎわう
じ、木の枝葉が茂って見通しが立
目が集まりそうです。アジアでは、
ことが期待されます。
ちづらいことを表すとされていま
12 月に ASEAN 経済共同体が創設
10 月には、
2016 年 1 月から社会
す。これらに基づけば、
2015 年は、
される予定であり、サービス分野
保障や税の分野で利用することを
試行錯誤を繰り返しながら、いま
の開放や人の移動の自由など、
目的として、マイナンバー
(個人番
だ明確には見通せていない新たな
ASEAN 域内での経済統合がより
号)の国民への通知が始まります。
成長への道を模索していく年とい
深化することが見込まれます。
マイナンバー制度の普及・利活用
うことになるでしょう。
に向けて、国・地方公共団体・民間
また、
2015 年は、
「第 2 次世界大
Q:その他に注目すべき制度改
正やイベントなどはありま
すか
の連携した取り組みが重要となり
戦終戦(1945年)から70年」
「1990
ます。
年の株価急落で始まったバブル崩
その他、3 月には、北陸新幹線の
壊から 25 年」
「2020 年の東京オリ
A:1 月から相続税の基礎控除の引
開業(長野∼金沢間)や首都圏 3 環
ンピック開催まであと5年」という
節目の年にあたります。
デフレ脱却と財政再建の両立を
● 2015 年の主なスケジュール
1 月 相続税の見直し(1)
8 月 70 回目の終戦記念日(15)
3 月 北陸新幹線開業(長野∼金沢間)(14) 9 月 シルバーウィーク(19 ∼ 23)
首都高中央環状品川線開通(−)
4 月 統一地方選挙(12・26)
5 月 英国総選挙(7)
6 月 ドイツで G7 首脳会合(7 ∼ 8)
日本再興戦略の改訂(−)
7 月 東京オリンピックまであと 5 年
(7 月 24 日∼ 8 月 9 日)
(注)カッコ内の数字は日付。(−)は日付未定。
(資料)みずほ総合研究所
自民党総裁選(−)
はじめ、わが国の内外には困難な
課題が山積しています。改めて過
去の歴史を振り返るとともに、将
10 月 マイナンバーの通知開始(−)
来的な目標の実現に向けた明確な
ポルトガル総選挙(−)
道筋をつけていく年となることが
11 月 トルコで G20 首脳会合(15 ∼ 16)
期待されます。
フィリピンで APEC 首脳会合(−)
12 月 ASEAN 経済共同体創設(−)
スペイン総選挙(−)
みずほ総合研究所 金融調査部
主任研究員 小山剛幸
[email protected]
みずほリサーチ
第 154 号 2015 年 1 月 1 日発行
発行:みずほ銀行・みずほ総合研究所
編集:みずほ総合研究所 TEL:03-3591-1400 製作:株式会社 白橋
ISSN 1347-2488
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