秘境に最強ランナーの村 健脚つくる暮らしと伝統 - J

カシの木の球を蹴って追う伝統競技「ララヒッパリ」
に興じるララムリの男性たち=メキシコ・チワワ州
秘境に最強ランナーの村
健脚つくる暮らしと伝統
真っ青な空の下、
色鮮やかな民族衣装がひらり
と舞った。褐色の肌、
精悍な顔つきの先住民、
ララ
ムリの男女が軽やかに山道を駆け抜けて行く。
な球 技 だが、競 技 時 間 ス ポ ーツジャー ナ リス
は
が 尋 常では ない。長い ト山田洋さん(41)
時 は 2 日 間 も 寝 ず に 「無 駄 な 動 きを そ ぎ 落
を切らせていなかった」
続 け、1 0 0 キロ以 上 と し た 走 りで 、全 く 息
走ることも。
な笑顔が印象的だった。
な 足 さ ば き 。楽 し そ う
た美しいフォーム。
軽快
走してみた。
背筋が伸び
鮮 明 だ 。ラ ラム リと 並
り、
苦しかった思い出が
ンに参 加 したこと があ
記 者 も日 本でマラソ
人 類 はその昔 、こん と振り返る。
ララムリはメキシコ 村民の一人、アウレリ 普 段 着で、8 時 間 3 分 な ふ う に 集 団 で 長 時
北 部 チ ワ ワ 州 の コッ オ・ゴンサレスさん(3 で 走 り 優 勝 。妊 娠 中 に 間、獲物を追っていたと
が出場レースのメダ レースに出たことも。な の指 摘 も ある が 、競 技
パー キャニ オ ン( 銅 峡 2)
谷)
を中心に、標高約2 ル を 見 せて く れ た 。メ ぜ走るのか。「好き だか の 意 味 を た ず ね る と
「 雨 乞いのた め」
「神 が
千メートル級の山岳地 キ シコでの8 0 キロマ ら」とはにかんだ。
コスタリ レース出場は賞金稼 望むから」。
帯 で 暮 ら す 少 数 民 族 ラソンで優勝、
だ 。総 人 口は 約 1 0 万 カの1 0 0 キロで準 優 ぎの一面もあるが、村民 履 物 も 独 特 だ 。廃 タ
人 。疲 れを 知 ら ずに長 勝。しかし「トレーニン は「 普 段 見 ら れ ない世 イヤを 足の形に合 わせ
同=中川千歳)
だ。
(タタウイチ共
気 が するか ら 不 思 議
軽やかに走れるよ うな
界 が 見 えて 楽 しい」と て切り、牛の皮でつくっ 素 朴 で 寡 黙 な 民 族
時 間 走 ること か ら「 走 グはしない」。
たひ も を 付 け た「 ワ ラ が、山 道 を 走 り だ す と
女 性 も 走 る 。3 児の いう。
る民」
の異名を取る。
彼 らはタラウマラ族 母 、マリ アイシド ラ・ロ 伝統競技「ララヒッパ チェ」と い う わ ら じ の 「 最 強の民 」に なる 。彼
と も 呼 ばれ、農 業 や 放 ドリゲスさん(3 7 )は リ」に健脚の秘密の一端 よ う な サ ン ダル。レ ー らを 見ていると 自 分 も
牧 が 主 産 業 。米コロラ 産後1 カ月で大会に出 が あ り そ う だ 。2 チー スの時 もこれをはく 人
ド州で標高3 千メート た 。昨 年 は チワワ 州 で ムに分かれ、カシの木で が多い。
ルの高 地を1 6 0 キロ 開 かれた6 5 キロの大 作ったソフト ボ ール 大 2013 年に80 キ
走る ウル ト ラマラソン 会 を 、長 いス カ ー ト の の球 を 蹴って追 う 単 純 ロを ラ ラム リと 走った
が 開 催 さ れる 。世 界一
ふくそう
過 酷 といわ れるこの
代 、立て続 けに優 勝 者
レースで1 9 9 0 年
を 出 し 、注 目 さ れる よ
うになった。
ララムリは1910
年に始 まったメ キシコ
革命の動乱や銅山労働
での搾 取 を 嫌い、辺 境
た ラ ラ ム リの 村 、タ タ
こ
に逃 れた 。記 者 が 訪 ね
ウイ チは 人 口3 5 0
人 。人 々 は 車 を 持 た ず
移 動 は 脚 頼 み だ 。れん
がと 木でできた ちいさ
古いタイヤと牛の革ひもでできている
かわ
な 家 に、ガスや 水 道 は
ない。
小 柄で細 身の村 民
は 、水 くみ や ま き 集 め
のために険しい岩 場を
上 り 下 り し、主 食のト
ウモロコシの畑を耕す。
のよ う な」
( 専 門 家 )健
こ う し た 日 常 が「 ヤ ギ
脚をつくる。
腰し
に
ま
く
布
ひらひらした、 そざい
ブラウスのような素材
はちまきのよう
に頭にまく布
全
身
を
お
お
う
大
き
な
布ぬ
の
住んでいるところで服装が変わるよ!
いしょう
だんせい
記事・写真:共同通信【 巻頭特集 】
April 1st week, 2015
第 556 号
-3-
記事・写真
提供
共同通信
素朴なサンダルに秘密も
く なる まで 長 時 間 、走
りに走って仕 留 めて き
た と 指 摘 する 。ラ ラム
リは 、私 た ちに も 潜 在
的 に 備 わっている とい
う 、太 古の人 類の能 力
を 今 もと どめていると
みられる。
ララムリの特 徴 は集
団 で 走 る こ と 。ペー ス
に 緩 急 が あ り 、疲 れ れ
ば 休 む「5 歳 児のよ う
な 走 り 」。記 録 は 気 に
せ ず「 楽 し むこと が 大
事」だ。
彼 ら の 履 物「 ワ ラ
チェ」
に着目する専門家
も。
このようなはだしに
近い素 朴 なサンダルで
走ると ランニング
シューズを履いていると
きよりも着 地の衝 撃が
少 な く 、負 傷 しに くい
という 。(ロサンゼルス
共同=中川千歳)
メキシコ
輪を飛ばして追う伝統的な競技に興じ
るララムリの女性たち。
3児の母、
マリア
イシドラ・ロドリゲスさん
(左)
は走るの
が大好きだという=メキシコ・チワワ州
チワワ
今もとどめる太古の能力
私たち
がララム
リのよ う
に 走 れる
可 能 性は
ある だ ろ
うか。
5 年に
わ た って
ララムリ
を 追 った
米 ジャ ー
ナリスト、
クリス ト
ファー・マ
ク ド ゥー
ガルさん
( 5 2 )
は 、武 器
を持ち始
める 前の
人 類は約
200万
年 も の
間 、集 団
で獲 物を
追 い 、獲
物が疲れ
て動 けな
平
洋
200km
米国
チワワ州
メキシコ市
太
コスタリカの100kmマラソン
で準優勝したときのメダルを
手にするアウレリオ・ゴンサレ
スさん=メキシコ・チワワ州
廃タイヤを利用したサン
ダル
「ワラチェ」
で岩山を
駆け下りるララムリの男
性=メキシコ・チワワ州
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第 556 号
April 1st week, 2015
【 巻頭特集 】記事・写真:共同通信