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病態生化学部門 准教授 柏田正樹

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体内時計の乱れは万病の元!?そのメカニズムを探る
医学研究科基礎系大学院本務教員
生化学講座病態生化学部門(兼務)
柏田 正樹
【はじめに】
みなさんは、どのようなときに時間を感じますか?お腹が空いたとき、眠くなったと
き、朝起きたとき、あるいは決まった時間に痛みを感じたとき、などなど、いろいろと
あると思いますが、どれも約24時間の決まった周期の中で感じていると思います。
このような約24時間のリズムをコントロールしているのが体内時計で、その担い手
が時計遺伝子です。
私たちは、時計遺伝子が様々な生体反応をどのように制御しているのか、また
様々な病気の発症にどのように関わっているのか、その分子メカニズムを明らかに
することを目標にしています。アレルギー反応や自己免疫疾患、また最近では肥満
や糖尿病、高血圧症などの生活習慣病の発症にも時計遺伝子の関与が示唆され
ています。私たちは、時計遺伝子による多くの病気の発症の分子機構を明らかにし、
体内リズムに基づいた治療方法や新薬の開発研究基盤となりうる基礎的研究を行
なっています。特に免疫学分野では、まだまだ不明な点が多く、教科書に新たな1
ページを加えることを目指しています。
最近の研究紹介記事
1.自治医科大学地域医療オープンラボ News Letter Vol. 54
http://www.jichi.ac.jp/openlab/newsletter/letter54.pdf
2.サイエンス誌に載った日本人研究者 2014 年号 p.70
http://www.sciencemag.jp/files/2014-Issue_Science_JapanResearch2013_72dpi.pdf
【体内時計と病気】
人間を含むほとんどの生物の生命活動は、「概日リズム」という約 24 時間の周期
でおこる体内リズム(体内時計)によって支配されており、そのリズムを制御してい
るのが時計遺伝子です。血圧、睡眠と覚醒、心拍数、体温、摂食行動、ホルモンの
分泌や様々な代謝機能にこの「概日リズム」があり、そのリズムが乱れると体調不
良となり、様々な病気の発症につながります。最近では、肥満や糖尿病、高血圧症
などの生活習慣病の発症にも時計遺伝子が関与しているという報告が多くあります。
従ってこの「概日リズム」を常に正常に保つことが、健康であるために重要になりま
す。
24 時間社会と言われる現代社会では、シフトワークや夜更かし、夜間の光環境
の変化により生活習慣が乱れ、体内時計の乱れを起こし、生活習慣病や炎症性腸
疾患をはじめとする多くの病気が引き起こされやすくなっています。特に若い人たち
の間では、スマートフォンやパソコンなどのいわゆる「ブルーライト」を発生する機器
に昼夜問わず使用することが多く、健康への影響が懸念されています。ブルーライ
トは網膜の光受容体を介して、体内リズムへ影響を与えるからです。
【時間生物学と医学】
経時的に変化する生物のリズムを研究する学問を「時間生物学」といいます。日
本でも多くの研究者が、生命活動の基本である「概日リズム」のメカニズムについて
活発な研究を行っています。また上述のように、体内時計の乱れが健康に大きく影
響することから、「時間生物学」の考え方を、医学分野に取り入れた「時間医学」と
呼ばれる研究分野も盛んになってきました。時間医学では、ある特定の病気が発
症しやすい時間帯を見つけて、病気予防や治療にいかそうという試みがなされてお
り、例えば高血圧の治療では、血圧の日内変動に合わせて降圧薬を服用する時間
を決めるなど、実際に臨床の現場で応用されています。
【時計遺伝子 NFIL3/E4BP4】
時計遺伝子は、概日リズムを発振する「概日時計」を制御している遺伝子群で、
転写と翻訳のフィードバックループを構成しています。下等な生物からほ乳類に至
るまでその存在が明らかとなっており、ほ乳類の時計遺伝子が同定されたのは
1997 年で、日系米国人の Joseph Takahashi 博士です。
時計遺伝子の一つ、NFIL3(E4BP4 とも呼ばれる)は、はじめアデノウイルスの E4
遺伝子の転写抑制因子 E4BP4 として同定され、それ自身の発現が概日リズムを
示すことから、時間生物学の分野で多くの研究がなされてきました。また IL-3 遺伝
子の転写活性化因子 NFIL3 としても同定されました。NFIL3 は、睡眠や概日リズム
を制御する時計遺伝子として、脳神経系、内分泌系、代謝系に広く機能すると考え
られ、一群の時計遺伝子の転写、翻訳の振動ループの制御に関わり、それ自身の
発現も 24 時間のリズムを示します。
【時計遺伝子と免疫学】
古くより概日リズムと多くの疾患の発症やその悪化、特に喘息の発症やアレルギ
ー性鼻炎が、早朝に起きやすいことが知られていますが、未だなぜこのような時間
特異性があるのかは解明されていません。多くの研究者達は、アレルギー発症の
時間特異性は、時計遺伝子によって制御されていると予想はしているものの、発祥
における時計遺伝子の役割については、ほとんどわかっていません。おもしろいこ
とに、NFIL3 発現の日内変動と喘息発症の時間特異性には強い相関が見られます。
従って、これらアレルギー疾患の時間特異的な発症には、 NFIL3 が関与しているこ
とが考えられます。アレルギー反応では、様々な免疫細胞の活性化や異常な機能
の発現が見られます。従って免疫系の破綻の一つと考えられます。
免疫学の中でも免疫細胞の分化、発生機構や、機能発現機構、免疫組織(器官)
の形成機構に関する研究は、免疫学の基礎となる分野であると同時に、免疫系が
関与する病態の理解のために必要不可欠です。私たちは主にリンパ球の分化、エ
フェクター機能発現の分子機構とアレルギー発症機構に興味を持っています。
私たちはまず、NFIL3 の生体内における機能を明らかにするために、NFIL3 遺伝
子(Nfil3)のノックアウト(KO)マウスを作成しました。Nifl3 KO マウスは、正常に生ま
れ、見かけ上病的な状態ではなく、また正常に子孫を残すことができるため、NFIL3
は基本的な生命の維持には必要ではないと思われました。そこで次に免疫系につ
いて詳しく調べてみました。
*NFIL3 は外敵を攻撃する細胞をコントロールする
癌細胞やウイルス感染細胞に対して強い細胞障害能を持つナチュラルキラー(NK)
細胞が、このマウスには存在せず、さらに抗体を産生するリンパ球である B 細胞に
おいて、アレルギー反応において重要な役割を持つ IgE が、この KO マウスでは十
分に産生されないことを明らかにしました。ほぼ時期を同じくして私達のグループを
含む3つのグループで Nfil3 KO マウスが作成され、上記の発見に関する論文が発
表されました。詳しいメカニズムの解析から、NFIL3 は NK 細胞の初期分化に必須
のいくつかの遺伝子の発現制御を、また B 細胞においては、クラススイッチングと
呼ばれる抗体遺伝子の再構成誘導に不可欠な Germline transcription(転写)と呼
ばれる遺伝子発現の制御をおこなっていることを明らかにしました(PNAS 2010)。
*NFIL3 は免疫反応の司令塔 T 細胞をコントロールする
続いて T 細胞における NFIL3 の機能を解析しました。サイトカインと呼ばれる、細
胞間情報伝達生理活性タンパク質のなかでも、IL-13, IL-5, IL-4 などの Th2(ヘル
パーT 細胞タイプ2)サイトカインの遺伝子の転写を調節していることを明らかにし
ました。Nfil3 KO マウスの Th2 細胞では IL-13 と IL-5 が非常に多く分泌されていま
した。 従って、KO マウスでは、IgE の産生は弱いにもかかわらず、即時型アレルギ
ーである I 型アレルギー様の反応性の亢進が予想されました。予想通り、マウスの
気道炎症(喘息)モデルでは、好酸球など気道内浸潤炎症細胞の増加、気道粘液
分泌の増加、杯細胞過形成など、Th2 サイトカインの産生上昇との相関が見られま
した。しかし予想外に、気道抵抗性の上昇は全く見られませんでした。気道炎症で
は、平滑筋細胞など免疫細胞以外も重要な役割をもつことや、Th2 サイトカインが
Th2 細胞以外に肥満細胞や好塩基球などからも産生されることから、現在、これら
細胞における NFIL3 の役割を解析することも進めています。(EMBO J. 2011)
*NFIL3 は 免疫の監視細胞である樹状細胞の分化をコントロールする。
樹状細胞(DC)は、免疫寛容に働く一方、T 細胞に提示する抗原提示細胞として重
要な働きを持つ細胞です。Nfil3 KO マウスでは、NFIL3 はいくつかの DC サブセッ
トのうち CD8+ DC (MHC クラス I を介したクロスプレゼンテーションを行う)が極め
て少ないことを見つけました。即ち NFIL3 は CD8+ DC の分化制御に必須であるこ
と示し、そのメカニズムの一つとして転写因子 BATF3(CD8+ DC の分化に必須)
の遺伝子発現制御に関与している可能性を示しました(Blood 2011)。
*NFIL3 は炎症性免疫細胞を機能をコントロールし、炎症性腸疾患を抑えている。
外傷や炎症時に活発に働くマクロファージでも、NFIL3 が重要な機能を持つことを
明らかにしています。Nfil3 KO マウスの腸管マクロファージでは、IL-12 と呼ばれる
炎症性サイトカインの産生が増加し、炎症反応が起こります。 メカニズムを解析す
ると、NFIL3 が直接 Il12b 遺伝子の転写を抑制していました。また腸内細菌のいな
い Nfil3 KO マウスでは、腸管の炎症は起きませんでした。即ち NFIL3 は腸内細菌
依存的に腸内環境を整える役割があると考えられます。さらに日本でも患者の多い
クローン病や潰瘍性大腸炎(厚生労働省により特定疾患、つまり難病に指定)など
炎症性腸疾患の患者の腸管では、Nfil3 遺伝子の発現が優位に低下していました。
以上のことから、NFIL3 は腸管において抗炎症性に働いていることが示されました。
(J. Immunol. 2011, J. Immunol. 2014)
さらに Nfil3 KO マウスの腸管では Th17 細胞と呼ばれる炎症性免疫細胞も増加
しており、週齢が進むと、脱肛や炎症性腸疾患を発症します。しかし Nfil3 遺伝子を
調節する時計遺伝子 Clock や Rev-Erb遺伝子を働かなくしたマウスでは、逆に
Th17 細胞が減少していました。その分子メカニズムを解析すると、光入力系により
作動する体内時計ネットワークからのシグナルが、NFIL3 を介して Th17 細胞の分
化制御因子である RORt の発現を直接制御することを明らかとなりました。また一
日の明暗サイクルを変えた、いわゆる「時差ボケ」状態のマウスでは、腸管の Th17
細胞が増加しており、炎症性大腸炎誘導に対する感受性が高まっていました。体内
時計と炎症性免疫細胞の分化、機能を直接結びつける分子機構を初めて明らかに
し、今後時間医学の観点から、時計遺伝子の発現や機能に基づいた新たな治療法
や予防法の開発につながるものと期待されます。 (Science 2013)
【大学院における研究指導内容】
主に時計遺伝子の変異マウスや培養細胞を道具として、生化学的、分子生物学
的、免疫学的方法論を用いて研究を行っています。 研究テーマとして、
*アレルギー疾患モデルや糖尿病/肥満モデルを用いた、これら病態における時
計遺伝子の機能発現機序の解析
*免疫細胞分化、機能発現における時計遺伝子の機能解析
*時計遺伝子による薬物代謝酵素遺伝子の発現制御機構の解析
等のプロジェクトに参加し、修士、あるいは博士論文を完成させます。いずれの研
究テーマにおいても、医学生物学研究において基本となる分子生物学的、生化学
的方法をしっかりと身に付けるとともに、日頃の研究室セミナーや学会発表への積
極的な参加を通じて、プレゼンテーション、論文執筆などのスキルを取得することを
大切にしています。
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