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から見る下水道事業 -下水道事業の生産性

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日本下水道新聞(平成 28 年 6 月) 掲載記事
「経済」から見る下水道事業
-下水道事業の生産性、ストック効果等-
京都大学経済研究所特定准教授
要藤
正任
国土交通省下水道部管理企画指導室長
藤川
眞行
1.下水道事業の経済統計上の位置づけ
藤川 下水道事業は、様々な側面を持つ事業ですが、今回の対談では、「経済」
の視点(切り口)で、できるだけデータを用いて、いろいろな議論をしてみ
たいと思います。経済ですので、まず、マクロ経済上の位置づけ、すなわち、
国民経済計算(SNA)や産業連関表における位置づけあたりの話から始め
ましょう。
要藤 国民経済計算の「経済活動別国内総生産」では、「政府サービス生産者」
に、(1)電気・ガス・水道業、(2)サービス業、(3)公務が入っており、そ
のうち、下水道事業も含まれる(1)電気・ガス・水道業は、平成 24 年暦年・
名目値で、2 兆 7888 億円(GDP約 487 兆円の約 0.6%)となっています。
残念ながら、下水道事業でいくらという数字はありません。
産業連関表の方では、下水道事業のデータがあり、平成 23 年の産業連関表
で見ると、下水道部門の粗付加価値額は 3018 億円(産業全体の粗付加価値額
約 477 兆円の 0.06%)となっています。
藤川 地方公営企業年鑑の数字で見ると、資本費、――もちろん、公営企業会
計を導入している割合は 2 割程度で、その他は元利償還金を資本費とみなし
て計上しているので、ざっくりとした数字として見る必要がありますが――、
資本費が 2.3 兆円程度、維持管理費が 0.9 兆円程度で、数字は小さすぎるの
ではないかとの印象を持ちました。
少し調べましたところ、産業連関表の下水道部門には、ソフト等を除き減
価償却費(資本減耗引当)が計上されておらず、下水道部門の減価償却費は
公務(地方)の方で計上されているとのことです。これは、93SNA 対応で、社
会資本の減価償却費を新たなに政府消費支出に計上することとした際(平成
12 年産業連関表)に、そのような整理をしたようですが、下水道事業のマク
ロ経済上の位置づけが非常に分かりにくくなってしまいました。上水道・簡
易水道部門には、減価償却費が入っていることとのバランスも悪いですね。
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ちなみに、これは昔からの話でしょうが、下水道事業は、
「産業(公的活動)」
でなく、「政府サービス生産者(準公務)」に位置づけられており、産出は費
用の積み上げで算定されていることから、上水道・簡易水道部門と違って、
営業余剰がゼロという取扱いにもなっています。
下水道部門にカウントされていない減価償却費を仮に 1.5 兆円程度とする
と、下水道分野の粗付加価値は 1.8 兆円程度(産業全体の 0.4%程度)ありま
す。付加価値 2 兆円産業で、結構大きいですね。ちなみに、上水道・簡易水道
部門は 1.8 兆円程度、工業用水部門は、0.1 兆円程度ですので、水関連部門は
計 3.7 兆円程度(産業全体の 0.8%程度)です。
下水道事業は、地域に根差した産業であるし、かつ、生産誘発効果も高いと
考えられますので、今後、地方創生等を考えていく上で、下水道事業の経済分
析は益々重要になってくると思いますが、経済統計上の現在の分類学は少し気
になりますね。
要藤 下水道事業というのは、地域の衛生環境を維持・改善するために不可欠
なインフラですし、人口がちょっと減ったからといって需要が急減するよう
な性質のものではありません。また、人の居住選択を考えた場合に、下水道
が整備されていないような地域は、選択肢から外れやすくなるとも考えられ
ますから、下水道事業を適切に行うこと、また、その事業の効果を適切に把
握・評価することは非常に重要だと思います。まずは基礎的なデータの分析
から初めていくことが必要ですし、データの背景や意味を適切に理解するこ
とも重要です。
藤川 経済統計の見直しについては、4~5 年に 1 回程度しか行われない話であ
り、かつ、いろいろ統計サイドのロジックもあると思われますので、簡単な
話ではないでしょうが、有効な分析を行う観点からも中長期的にいろいろ議
論をしていくことが必要でしょう。
2.生産性(TFP)を成長会計で見る
藤川 さて、
「経済」の視点から見ると、事業(産業)としての生産性の議論は
大きい部分を占めるものと思われます。政府においては、現在、
「生産性革命」
ということで政策的に大きな打ち出しを行っているところでもありますので、
ここからは少し生産性の議論をしていこうと思います。はじめに、マクロ的
なアプローチと言っていいでしょうか、成長会計について基礎的な話をお願
いします。
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要藤 経済成長はなぜ起こるのか、すごくシンプルに考えると、例えば工場を
考えたときに、労働者がいて、使う機械があって、あとは工場内の機械のレ
イアウトといった数値化しにくい技術水準みたいなものがあって、この 3 つ
により製品ができてくるわけですね。これを日本経済全体に当てはめてみる
と、日本全体で、労働者がどれだけいるか、設備がどれだけあるか、技術水
準がどれほどあるか、という 3 つで日本の経済成長を考えることができるわ
けです。
このような考え方に基づいて、日本の経済成長の要因を分解しようというの
が「成長会計」と言われる手法です。この手法を用いて具体的に日本の経済成
長を 3 つの要因に分解してみると、労働や設備(資本)の増加という部分も経
済成長に寄与しているのですけれども、TFP(全要素生産性)という技術水準
を表す要因が経済成長率を結構引き上げていることが分かります。つまりイノ
ベーションが経済成長に寄与してきたということです。特に製造業ではこの
TFP による部分が大きいですね。
藤川
人口減少社会でも経済成長はできる、ということですね。
要藤 そうです。実際、19 世紀後半からの日本の人口とGDPの長期的な推移
を見ると人口よりもGDPのほうが遥かに伸びているというのが分かります。
経済成長のために人口が増えるということは大事な要因なのですけれども、
それ以外の要因で経済というは成長してきたというのは歴史的に見ると明ら
かです。
藤川
成長会計の考え方を用いて、下水道事業の成長を分析できますか。
要藤 理論的には、下水道事業についても同様の分析ができます。しかし、先
ほど申し上げたように、国民経済計算ではそもそも下水道を切り出すことは
できないし、また、産業連関表では、下水道事業の減価償却の取扱いで扱い
にくくなっています。
ちなみに、経済産業省の経済産業研究所では、産業別の TFP の変化を検証
するために、様々な公表データから詳細な産業部門ごとの TFP を推計してい
ます。それでも、下水道は独立した部門になっておらず、その他(政府)<
廃棄物、飛行場管理、一般公務等が含まれる。>の中に入っています。この
データで、産業別の TFP の変化率を見てみると、上水道は 2000 年代に入って
から TFP は上昇しています。その他(政府)も、2000 年代に入ってから TFP
は上昇していますが、下水道事業を含むその内訳の状況は分かりませんね。
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藤川
内訳に入っているとしても、下水道事業をデータ上どのように取り扱っ
ているか見てみないと分かりませんね。経済分析については、いつもこのよ
うな問題が出てきて、それを乗り越えていかなくてはなりませんが、下水道
事業には、公営企業年鑑、下水道統計等のデータの宝庫があります。あとは、
実務の知見を踏まえて整理すれば、成長会計に必要なデータも推計すること
も能なような気がします。
いずれにしても、下水道事業については、水処理の技術革新、汚泥の資源・
エネルギー利用の技術革新をはじめ、現在、様々な技術革新が起こっています。
そのような動向の定量的な把握手法として、このような分析を進めていくこと
も必要ではないでしょうか。
要藤 データがあれば、いろいろな分析ができます。一般の研究者にも簡単に
データへのアクセスができて、分析のために自由に使えるようになっている
と、下水道について研究・分析しようという研究者も増えると思います。私
も時間と研究費に余裕があれば……。
藤川 要藤准教授は、数年前、国土交通白書の執筆担当者として、いろいろ興
味深い経済分析を行ったことを承知しています。下水道経営についても、ミ
ニ白書と言っては何ですが、定期的に、下水道経営のマクロ的な定点観測や、
トピック的な分析をやっていく必要があるのかと思っています。引き続き、
アドバイスをお願いします。
3.規模の経済(エコノミー・オブ・スケール)
藤川 では、生産性に関連して、次は、よりミクロ的なアプローチと言ってい
いでしょうか、規模の経済(エコノミー・オブ・スケール)の話をしましょ
う。
要藤 規模の経済とは、投入量の観点から見ると、労働や設備といったインプ
ットを 1 割ずつ増やしたときに、アウトプットが 1 割以上になることを言い、
また、費用の観点から見ると、生産量を多くするほど、生産量 1 単位あたり
の平均費用が低下することを言います。
藤川 下水道事業は、とりあえず、汚水処理が生産で、汚水処理量が生産量と
考えてみるのですかね。
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要藤 そうです。そこで、地方公営企業年鑑の最新データを使って、規模の経
済性について簡単に分析してみました。縦軸に維持管理費(対数値)を横軸
に汚水処理量(対数値)をとって両者の関係を見てみると、規模に関係なく
処理量が多くなればなるほど同じように費用も多くなるのであれば、両者の
関係は線形にならないといけないのですが、データをみると線形にはなって
いません。上の方にカーブしている感じになっており、これを表すのに一番
近い曲線を探して出すと、2 次関数になります。
藤川
R スクエアーは 0.96 ですか。それだけ見ると高いですね。
要藤 汚水処理量で維持管理費のほとんどを説明できるということですね。こ
れは最新の単年度のデータだけを使ったものなので、この年度以外のデータ
も使って検証してみる必要がありますが、この曲線から見れば、汚水処理量
が少ないうちは、処理量を増やしていくと処理量 1 単位当たりの維持管理は
減るという結果です。ただ、ある程度の量を超えると、逆に処理量 1 単位当
たりの維持管理費は増えるということになっています。
藤川
具体的にはどのくらいの立米ですか。
要藤 立米のデータに直すと、900 万㎥程度です。例えば、都市でいうと、佐賀
県の鳥栖市くらいです。それより上の処理量のところは、逆に維持管理費が
増えるということになっていますが、これが常識と違うということでしたら、
汚水処理の質の違いなど、汚水処理量以外の要因を考慮したもう少し丁寧な
分析が必要ということだと思います。
藤川 そうですね。例えば、閉鎖性水域に関連する処理場は、下水道法の流総
計画制度で高度処理を行っていますが、大都市部が多いということで、その
影響が出ていないか。あるいは、大都市部では執行体制が充実していて、点
検調査をはじめ比較的充実した管理が行われていますが、その影響が出てい
ないか等々。いずれにしても、そのあたりは、今後、さらに分析が必要です
ね。でも、処理量が一定量以下のところでは、規模の経済がクリア・カット
に出ているということですね。
要藤 さらに分析を進めて、ある程度の結論が出てくると、規模の経済を追求
する政策を推進するに当たって、参考になると思います。
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藤川 個別事例としては、長野県の下水道公社などで、管理の広域化・統合化
で、どの程度コストが削減できたというデータがありますが、全体の経済分
析としても、有意義な結論が出てくると非常にいいですね。
4.範囲の経済(エコノミー・オブ・スコープ)
藤川 では、規模の経済(エコノミー・オブ・スケール)の話の次に、範囲の
経済(エコノミー・オブ・スコープ)の話を少しだけしましょう。
要藤 範囲の経済とは、一つの財だけを生産するよりも複数の財を一緒に生産
した方が、効率性が上がるような場合を言います。例えば、鉄道会社という
のは人を運ぶために鉄道を引きますが、荷物も一緒に運ぶと事業の効率が上
がるということですね。
藤川 範囲の経済については、汚泥の資源・エネルギー利用が典型的ですね。
それも、技術革新で、今後ともどんどん伸びていく分野です。経済的な定量
分析はまだないと思いますが、いろいろやっていく種は多いでしょうね。
要藤 この分野については、いろいろ実務の知見が必要なので、今回、私の方
でも定量分析はやっていません。今後、産学官が連携していろいろ分析をや
っていければいいのではないでしょうか。
ところで、余談になりますが、私は以前、ある地方都市に住んでいたこと
があるのですが、下水処理場の近くの干潟では干潮になると海水がなくなる
ので、多くの人がアサリを取っていました。そこのアサリは身も大きくてお
いしいという話を聞きましたが、下水処理場が側にあることでよいアサリが
取れるということでしたら、外部経済性があるということになります。これ
も地域全体を一つの事業主体と考えると、ある意味範囲の経済だったりしま
せんか。
藤川 そういうことで言えば、最先端の一つは、佐賀市の季別運転のノリ養殖
に対する効果です。処理場に近いノリの価格が上昇する形で市場の評価が行
われ、処理場近隣の漁業関係者とも良好な関係が築かれているということで
す。そこまでいけば、このような範囲の経済も経済分析の対象になってきま
すね。可能性は無限ですね。
5.密度の経済(集積の経済)-コンパクトシティをめぐって-
藤川 範囲の経済(エコノミー・オブ・スコープ)の話の次に、密度の経済(集
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積の経済)の話をしましょう。それも、特に、現在の都市政策の大きな方向
性となっているコンパクトシティに絡めて、お話しください。
要藤
昨年夏に策定された新しい国土形成計画にはコンパクト+ネットワーク
というコンセプトがでていますし、まちづくりの分野では、コンパクトシテ
ィに向けた取り組みが進んでいますよね。下水道についても、低密度に広く
まばらに人が住んでいると、地域全体で下水道が使えるようにしようとする
と相当な距離の管きょを管理しないといけなくなりますから、コンパクトに
人口が集まっている方が維持管理コストは安くなるはずです。
地方公営企業年鑑のデータを使って下水道の整備区域内の人口密度と一人
あたりの汚水処理費用との関係を見てみると、やはりある程度人口密度が高い
市町村の方が費用は安くなるという傾向が見られるわけです。人口密度が高い
ことが都市のコンパクトさを適切に反映しているかどうかは議論の余地があ
りますが、だいたい、そういう関係があることが分かります。ただ、あまりに
人口密度が高くなってしまうと、その関係は明確ではなくなります。
藤川 これは、先ほどの規模の経済の議論のところでも話をしましたが、大都
市になると下水道の維持管理の内容が違ってきている可能性がありますね。
要藤 そうかもしれません。また、先ほど TFP の話をしましたが、生産性とい
う点からみても、やはりある程度人口密度が高い市町村の方が職員一人あた
りの汚水処理量は多くなる傾向があるのです。これもある程度人口密度が高
くなってしまうと一人あたり汚水処理水量は低下する傾向がみられますから、
これも相当大きな大都市では、やっていることの内容がちょっと違っていて、
単純に処理量だけでは比較できないということなのかもしれません。
藤川 これまで、事業(産業)としての生産性に焦点を当てて、成長会計、規
模の経済・範囲の経済・密度の経済といった論点について話を進めてきまし
たが、例えば、広域化・共同化、資源・エネルギー利用、官民連携等の具体
的な取組を推進し、
「下水道事業の生産性」を高めていくことは、今後の下水
道政策の大きな柱であると言っていいと思います。優良事例づくりや個別の
定量把握に加え、少しマクロ的・セミマクロ的な定量把握ができれば、政策
推進の力になっていくのではないでしょうか。
6.社会資本のストック効果
藤川 生産性の議論は終わりにして、次は、社会資本としての経済的効果(フ
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ロー効果、ストック効果)、特にストック効果について話をしていきたいと思
います。まず、社会資本としての経済的効果について簡単に説明してくださ
い。
要藤 下水道は社会資本の一つですから、社会資本がもつ経済的効果は当然下
水道にも当てはまります。一般的に、社会資本の整備に関しては、フロー効
果とストック効果の二つがあると言われています。フロー効果は、公共事業
をやることで需要を押し上げるという従来から言われているような効果です。
ストック効果は、社会資本が本来もつ効果で、例えば道路を整備することで
移動時間や移動コストが短縮・低減し経済活動の生産性が上がるといった効
果や、公園などが整備されて地域の生活環境が改善するといった効果です。
前者は生産力効果、後者は厚生効果とも言われますが、国土交通省でも最近
はこのストック効果の重要性を積極的に PR していますね。下水道については、
厚生効果をもたらすことが期待されているわけです。
藤川 定量的把握の手法としては、生産力効果は、コブダグラス型等の生産関
数を使って公的資本ストックの効果を見る手法があり、また、厚生効果は、
資本化仮説に基づくヘドニック分析の手法がありますね。下水道事業は、都
市計画事業の優等生として受益者負担金を取っており、それに関し、基本的
には整備効果が地価に反映するといった説明がされていますが、どちらかと
いうと、厚生効果の方で効果が出やすいのですかね。
要藤 生産力効果については、一般的には道路や空港など産業系のインフラに
その効果があることが期待されるわけですが、下水道にも生産力効果がある
のではないかと考えることもできます。例えば、下水道整備によって、工場
の汚水処理が効率化されたり、浸水に対する安全度が高まると工場の生産性
を上げる可能性もありますね。個別分野で分析している研究はあまり少ない
のですが、例えば、新潟大学の中東准教授の研究ですと、下水道を含む生活
関連分野の社会資本は意外と生産力効果はかなり高いという結果になってい
ます。
他方、厚生効果については、一般的には、下水道を含む生活関連分野の社会
資本の効果として測定されることが多いです。個別分野で分析している研究も
いくつかありますが、例えば、名城大学の赤木教授の研究ですと、下水道、市
町村道といったものが安定的に効果が高いという結果になっています。
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藤川 以上のようなストック効果のマクロ的な定量把握の話ではありませんが、
少し留意しておくべき点として、下水道事業は、他の公共事業と違って、個
別プロジェクト可否に係る定量把握の手法は、費用対効果分析(B/C)ではな
く、費用対費用分析(C/C)であるということがあります。全国で汚水処理施
設を整備する基本方針がありますので、あとは、維持管理費も含めた費用が
合併浄化槽等と比べ高いか、低いかということになり、低くければ下水道を
整備しましょうと言うことになります。
要藤 要は、汚水処理が適切に行われるような環境を整備することが必須にな
っていて、そのためにどのような汚水処理の手法が効率的かを考えるという
ことですね。費用をかけて整備・維持管理するわけですから、もっとも効果
的な汚水処理の手法を選択することが重要で、維持管理費用を正確に把握す
ることを含め丁寧な分析が必要になってきますね。
藤川 そうですね。さらにストック効果について言えば、下水道は、汚水処理
だけではなく、浸水対策、資源・エネルギー利用、例えば先に出た佐賀市の
取組を含め、様々な効果があるということです。そのような下水道のストッ
ク効果について、優良事例づくりや個別の定量把握に加え、中長期的に、少
しマクロ的・セミマクロ的な定量把握が徐々に進んでいけばいいですね。
7.社会関係資本
要藤 最後に、私の研究テーマでもある社会関係資本ということに触れたいと
思います。下水道は、社会資本であり物的な資本ですが、社会関係資本とい
うのは、人と人との信頼関係やネットワークといった概念です。
この社会関係資本については、その歴史は古いのですが、経済学の分野で注
目を集めるようになってきたのは比較的最近のことです。この社会関係資本が
なぜ経済的に重要かというと、よく言われるのは「共有地の悲劇」との関係で
す。「共有地の悲劇」というは、村の中で共同管理している牧草地があって、
村人が自由に羊を飼える訳ですが、牧草地全体で飼える羊の数には当然上限が
あります。なので、村人全員が自分勝手に好きなだけ羊を飼ってしまうと、牧
草地の容量をオーバーしてしまって全員が困るわけです。これは共有地で羊を
飼うことのコストが個人だけではなく村全体にかかってくるために、個人が好
き勝手に行動してしまうと全体としてよくない結果になるのです。
もし、この村では人と人との信頼関係や協調関係が確立されていれば、こう
した悲劇は起こらないかもしれません。これと関連する話は、イギリスの政治
哲学者のデイビッド・ヒュームの「人間本性論」の中にも出てきますが、イン
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フラの維持管理とも関連してくるのではないかと思います。
最近、住民参加や NPO 活動などにより道路や地域の公共施設の維持管理をし
ようという事例が出てきていますが、下水道の分野においてもこうした視点が
必要になってくるのではないでしょうか。下水道の場合、管きょを管理すると
いってもある程度の専門性がないとできないと思いますので、簡単にはいかな
いかもしれませんが、先ほどの佐賀市の事例でお話があったように、地元関係
者と win-win の関係になれるように協調関係を築くということは重要だと思
います。
藤川
かの有名な「英国史」に至るデイビッド・ヒュームを語り出せば長くな
るので、それはさておき、
「社会関係資本」の議論は論者によっていろいろな
主張があるのでしょうけれど、
「人と人との信頼関係やネットワーク」を経済
の視点からも大切に考えていくということは非常に大事なことではないでし
ょうか。
下水道事業について、すぐ何か事例を示せと言われると困ってしまいます
が、例えば、下水道への接続してもらうこと、油や水に溶けない紙等を流さ
ないことなどは、関係してきそうな気をします。そういうあたり前のことを
やってもらうという話でなくて、下水道管理のイノベーションみたいな話に
ついても、ご指摘の佐賀市の前田環境政策調整監は、根本にあるのは、
「処理
場を、この地域の人(漁業者、農業者、地域で暮らしている人々)に愛され
る施設にしていくことに尽きる」とおっしゃっていまして、関係してきそう
ですね。
まぁ、要は、経済活動を含む世の中の人間の活動は、所詮、煎じ詰めれば、
人、人と人との関係が根本にあるということで、下水道事業の今後の盛衰も、
最後はそこに行きつくということでしょうか。
経済の話から大きく脱線してきましたが、時間の関係で、このあたりで対
談を終わりにしたいと思います。今後、国土交通省では、日本下水道協会と
も連携して、下水道事業に関する経済・経営分析のプラットフォームを作っ
ていこうという動きがあります。骨太の議論を含め、引き続き、貴重なアド
バイスをお願いします。
要藤 下水道事業の経済・経営分析は、非常に可能性のある分野だと思います。
こちこそ、宜しくお願いします。
(以上)
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