高尿酸血症を介した心腎連関最前線 ―尿酸トランスポーターからその治療戦略をかんがえる― セミナー 血管 血管内皮機能保護には尿酸コントロールが 重要である ∼尿酸トランスポーターと 重要 キサンチン酸化酵素の役割∼ 鳥取大学大学院医学系研究科 再生医療学分野 久留 一郎 先生 高尿酸血症は高血圧に合併することが多いが,最近,尿酸トランスポーターやキサンチン酸化酵素の活性化を介して, 尿酸が血管障害を惹起することが明らかになってきている.血管内皮保護の観点から,尿酸を適切にコントロールすることの 重要性を,鳥取大学の久留一郎氏に解説いただいた. 高尿酸血症は高血圧発症のリスクとなる 高尿酸血症は高血圧を合併しやすいことが知られている.Kuwabaraらの疫学研究によると,血清尿酸値の上昇にしたがって 高血圧の頻度は増加していた1).血清尿酸値が高血圧発症の独立した危険因子となりうるかについては,議論がつづいている. そこで,更なる解析をおこなったところ,血清尿酸値が1mg/dL増加すると,男性では18%,女性では25%,高血圧合併率が 増加することがわかった.さらに,男性では血清尿酸値が5.4mg/dL,女性ではさらに低い4.3mg/dL以上から,高血圧合併率 が増加することが示されている.このような知見からも,血清尿酸値は男性,女性のいずれにおいても,高血圧発症の危険因 子となりうると考えられる. さらに,男性において血清尿酸値が6mg/dLを超えると,頸動脈の動脈硬化性プラークの合併率が有意に増加することも示さ れている2).高尿酸血症が血管障害を介して,動脈硬化性病変や高血圧発症に関連している可能性は興味深い. 高尿酸血症による血管障害の機序 では,なぜ高尿酸血症は血管障害を起こすのか.そのメカニズムの一つは,古くからいわれている活性酸素による血管障害の 機序である.インスリン抵抗性や交感神経活性,アンジオテンシンⅡの活性化により血液中に増加した尿酸前駆物質(ヒポキサン チン) は,血管内皮に存在するキサンチン酸化酵素 (XO) により尿酸に代謝されるが,その過程で発生した活性酸素が血管内皮の NOを不活化し,血管平滑筋を増殖させて,動脈硬化を促進するとされている.そしてもう一つは,尿酸そのものによる血管障害の 機序である.Priceらは,血管平滑筋や内皮に存在する尿酸トランスポーター URAT1を介して細胞内に流入する尿酸そのものが 血管の炎症を起こすという仮説を提唱した3).URAT1は,腎臓の近位尿細管に多く存在し,ここで尿酸の再吸収をおこない血 4)5) 清尿酸値を一定に保っていることで知られるが (図1) ,ヒトの血管平滑筋細胞にもURAT1が存在することを彼らは報告している. そこでわれわれは,大動脈に発現する尿酸トランスポーターのスクリーニングをおこなった.すると大動脈にはURAT1は存在し ていなかったものの,URATv1 (GLUT9) ,ABCG2,MRP4,MCT9という4種類の尿酸トランスポーターの存在が認められた. 大動脈において,URATv1(GLUT9)とMCT9を介して細胞内に取り込まれた尿酸は,ABCG2とMRP4を介して細胞外へ排出 されていると考えられる. 図1 さらにわれわれは,ヒトの血管内皮細胞を高尿酸血症状 血清尿酸値を決定する尿酸トランスポーター URAT1 態にしたときの炎症反応をCRPの発現により検討した.高尿 Na+ 酸血症状態では炎症によりCRPが増加するが,ベンズブロ SSMC SM MCT1 T1 陰イオン 陰イオン マロンなどの尿酸トランスポーター阻害薬をあらかじめ添加し ておくと,CRPの発現は低下した.また,高尿酸血症状態 ベンズブロマロン 有機酸− 乳酸 ニコチン酸 ピラジナミド URAT1 ではeNOSのリン酸化が抑制され,血管内皮細胞のNO産生 ロサルタン イルベサルタン 尿酸 尿酸トランス ポーター URAT1 能は低下するが,ベンズブロマロンなどをあらかじめ添加して おくとNO産 生 能 は 維 持され た.これらの 薬 剤 は おもに (Hamada T URAT1を阻害するが,URATv1(GLUT9)も阻害できること 近位尿細管 , 2008 4)より引用) が実験から示されており,その効果はベンズブロマロンが強 い値を示した(表)6).また,高尿酸血症はヒトの血管内皮細 胞でURAT1を介してRA系を活性化するという報告もある7). このように,高尿酸血症は尿酸トランスポーターを介して内皮 の炎症やNO産生能の低下,そしてRA系活性化を惹起してい 遠位尿細管 ると考えられる. , 2004 5)より引用) (Ichida K 高尿酸血症では血管内皮機能の指標であるFMD(FlowMediated Dilatation:血流依存性血管拡張反応)が有意に低 各種薬剤によるURAT1, URATv1(GLUT9)阻害強度の比較 表 下するが(図2-a)8),ベンズブロマロンやXO阻害薬を用いて アフリカツメガエル卵母細胞への尿酸取り込み 血清尿酸値を3ヵ月間コントロールすると,血管内皮機能は有 意に改善することをわれわれは明らかにしている(図2-b)9). XO阻害薬のFMD改善作用にくらべ,ベンズブロマロンの改 URAT1発現細胞 URATv1(GLUT9)発現細胞 ベンズブロマロン 50μmol/L 6.9 ± 2.4* 31.6 ± 2.7* プロベネシド 1mmol/L 19.1 ± 3.9* 46.1 ± 3.3* ロサルタン 1mmol/L 15.9 ± 6.6* 36.9 ± 1.5* 善作用がより強く認められたため(図2-c)9),高尿酸血症に おける血管障害では,XOよりも,尿酸トランスポーターを介 する機序による障害が重要である可能性も示唆されている. %対no inhibitor±標準誤差,n=8∼10, *:p<0.001 vs. no inhibitor (Anzai N , 2008 6)より引用) 高尿酸血症と血管内皮機能 図2 a)高尿酸血症はヒトの血管内皮機能を障害する 正常尿酸値 (mg/dL) 10 高尿酸血症 2 2 FMD︵血管内皮機能︶ 4 4 ベンズブロマロン(n=7) 8 * 6 * 6 4 4 2 2 0 0 アロプリノール(n=5) 8 FMD ︵血管内皮機能︶ 血清尿酸値 血清尿酸値 # (%) 10 n=12 (%) 10 8 6 6 投与後 (mg/dL) 10 FMD︵血管内皮機能︶ * 8 投与前 n=26 (%) 8 c)高尿酸血症患者の血管内皮機能に対する ベンズブロマロンと アロプリノールの効果比較 b)尿酸降下薬は血管内皮機能を改善する 6 4 2 0 0 0 *:p<0.01,#:p<0.05 vs. 正常尿酸値 治療前 治療後 ベンズブロマロン:尿酸トランスポーター阻害薬 アロプリノール:X.O.阻害薬 *:p<0.01 vs. 投与前 , 20058)/加藤雅彦ほか,2005 9)より引用) (Kato M 血管内皮機能とURAT1の役割 では,血管内皮機能を改善するためには血清尿酸値をどの程度コントロールしたらよいのか.先ほどの研究では,血清尿酸値 8) .一方,血清尿酸値の低下度とFMDの改善 が6mg/dLを超えた症例のうち78.9%で血管内皮機能の低下が観察された(図3-a) 度には正の相関が認められ,血清尿酸値が1.7mg/dL以上下がった群では全例でFMDが改善していた.したがって,血管内皮機 能を改善するためには,血清尿酸値は6mg/dL以下にする, 図3 または下げ幅を1.7mg/dL以上にすることが必要であると考え 血管内皮機能改善を達成するための尿酸コントロール a)血清尿酸値と血管内皮機能FMD られる(図3-b)8).しかし,尿酸は生理的な活性酸素のスカ ることは推奨されない.したがって,血清尿酸値の下限につ いてもその必要性が現在議論されている. そこで,URAT1が 機 能している血 清 尿 酸 値 正常 者と, URAT1の欠損により血清尿酸値が2mg/dL以下の低尿酸血 r=−0.4 p=0.044 10 FMD ︵血管内皮機能︶ 血清尿酸値が 6mg/dL以下の多くの 人は血管内皮機能が 正常である. ベンジャーとしても知られているため,血清尿酸値を下げすぎ (%) 12 ● ● 8 6 ●● ● ● ● 4 ● ● 28.6% 悪化 2 ●● ● ●● ● ●● ●● ● ● 0 症者の血管内皮機能を比較したところ,低尿酸血症では血 ● ● ● ● ● 78.9% 悪化 −2 管内皮機能が有意に低下していることがわかった.さらに, 2 3 4 5 6 7 8 10 11(mg/dL) 9 血清尿酸値 杉原らの検討では,血清尿酸値が1.5mg/dL以下になると, b)尿酸低下と血管内皮機能FMD改善 FMDが正常値である6%を下回る例が増加していた10).つま 清尿酸値には正の相関があり,低尿酸血症例でも血清尿酸 値が低くなるほど血管内皮機能が悪化していると考えられる. このメカニズムはつぎのように考えることができる.近位尿細 管の尿酸トランスポーター URAT1が尿酸を再吸収することに より,血液中に尿酸分子が増加する.その尿酸は,血管内 FMD ︵血管内皮機能︶ 血清尿酸値を 1.7mg/dL以上下げると 全例で血管内皮機能が 改善する. り,URAT1の欠損による低尿酸血症者の血管内皮機能と血 (%) 8 r=0.59 p=0.045 ● 6 62.5% 改善 ● ● 4 ● ● 2 ● ● ● 100% 改善 ● 0 ● −2 ● 皮細胞でXOがつくり出す活性酸素を消去する.したがって, 0 1.7mg/dL ● 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4(mg/dL) 尿酸低下度 一定の生理的濃度の尿酸は,血管内皮機能の維持にとって , 2005 8)より引用) (Kato M 重要であると考えられる. 血管内皮機能保護を目的とした尿酸コントロール 血清尿酸値が男性7.5mg/dL以上,女性6.2mg/dL以上もしくは降圧治療中に血清尿酸値の上昇が1mg/dL以上の高尿酸血症 では,血管内皮機能障害が起こる.前述の通りその機序の一つが,XOから産生した活性酸素によるもの,もう一つが,血管内 皮細胞や血管平滑筋細胞に存在する尿酸トランスポーターを介して細胞内に流入した尿酸そのものによるものである.細胞へ過 剰に取り込まれた尿酸は,RA系の活性化,NO合成抑制,血管の炎症および血管リモデリングにより,血管内皮機能障害が生 じる(図4) .血管内皮 機 能 保 護 のためには,尿 酸 降下 薬により血清 尿 酸 値を6mg/dL以下にすること,または下げ 幅を 1.7mg/dL以上にすることが必要であると考えられる. これを達成する尿酸トランスポーターをターゲットとした治療戦略としては,強力なURAT1阻害薬であるベンズブロマロンの使 用が提案できる.ベンズブロマロンは25mg/日で血清尿酸値を低下させ,用量相関性もあるため(図5)11),血清尿酸値6mg/dL 以下,下げ幅1.7mg/dL以上を目指した尿酸コントロールがしやすい薬剤といえる.あわせて,これまでいくつかの観察研究で認 められた高血圧合併高尿酸血症における心血管イベントの発症リスクを回避できる血清尿酸値の至適レベルが5∼6mg/dLである ことを考慮すると,ベンズブロマロンはその達成についても有用な薬剤であり,血管保護の観点からも今後の研究に期待したい. 図4 高血圧に合併した高尿酸血症の血管障害機序 尿酸分子 血清尿酸値 Δ尿酸上昇 男性7.5mg/dL以上 1mg/dL以上 女性6.2mg/dL以上 高尿酸血症 XO 活性酸素による NO不活性化 尿酸トランスポーター URATv1, ABCG2, MRP4, MCT9 尿酸の細胞内流入 内皮機能障害による動脈硬化・高血圧 血管内皮機能改善のためには ・血清尿酸値を6mg/dL以下にする. ・血清尿酸値の下げ幅を1.7mg/dL以上にする. RA系の活性化とNO合成抑制および 血管の炎症とリモデリング 血管内皮細胞 血管平滑筋細胞 (久留一郎氏 ご提供) 図5 ベンズブロマロンの投与量別血清尿酸値変化率 8.7 8.6 8.5 ( )内:血清尿酸値変化率 (mg/dL) 8 Δ2.2mg/dL (26%) 血清尿酸値 Δ3.2mg/dL (37%) 6 Δ4.0mg/dL (46%) 6.3 ** 〈解析対象症例〉 投与前および投与後2ヵ月ごとに6ヵ月 までの全時点で血清尿酸値が測定され ていた1,122例 5.4 ** 平均値の推移 4.7 ** **:p<0.01 vs. 投与前 (Dunnet 検定) 4 25mg/日以下 (n=496) 25mg超∼50mg/日以下 (n=554) 75mg超∼100mg/日以下 (n=72) (及川寿浩ほか, 201111)より引用) 文 献 1)Kuwabara M 2)Neogi T 3)Price KL 4)Hamada T :APCH 2011にて発表 : : : 5)Ichida K : 6)Anzai N : 36:378, 2009 17:1791, 2006 7)Yu MA : 8)Kato M : 28:1234, 2010 96:1576, 2005 9)加藤雅彦ほか:第69回日本循環器学会総会・学術集会学会発表, PJ633, 2005 21:1157, 2008 10)杉原志伸ほか:第76回日本循環器学会総会・学術集会学会発表, PE389,2012 15:164, 2004 11)及川寿浩ほか:痛風と核酸代謝 35:19, 2011 283:26834, 2008
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