冬期における指定管理者の新たな取組 ~「公の施設」屋外スポーツ施設

冬期における指定管理者の新たな取組
~「公の施設」屋外スポーツ施設を活用した地域観光産業への貢献~
森田光二
株式会社ベースボール・マガジン社
事業部長
(南魚沼市「大原運動公園」指定管理者 BMS南魚沼スポ-ツコミュニティ)
1.はじめに
多様化する住民ニーズや財政等の問題を受け、
「公の施設」
の管理運営に民間のノウハウを活用することを目的に、平
成 15 年地方自治法の改正により「指定管理者制度」が導入
された。
総務省では「公の施設」を、プールや体育館そして国民
宿舎といった、
「①レクリエーション・スポーツ施設」
、展
【表1:大原運動公園概要】
住
所:新潟県南魚沼市万条新田417
施設概要:野球場1面(ナイター設備完備)
、テニス
コート20面(ナイター設備あり)
、多目的グラウン
ド(陸上、各種フィールド種目※平成27年度より)
【図1:大原運動公園~全景】
示場や見本市施設等といった「②産業振興施設」
、水道施設
や大規模公園といった「③基盤施設」
、市民会館や美術館、
そして図書館といった「④文教施設」
、病院や介護支援セン
ターといった「⑤社会福祉施設」の5つのカテゴリーに分
類している。当初、駐車場や貸出し施設等の管理業務が中
心に公募されたが、スポーツや生涯学習施設で多くの成功
事例が見られようになった。その後、佐賀県武雄市での図
書館事例などにより、さらなる民間事業者の台頭が目立つ
ようになってきた。平成 24 年総務省自治行政局行政経営支
援室調査では、全国で 73,000 もの「公の施設」が導入され
ていると報告され、今や本制度は「パブリックビジネス」
として、一つの産業に成長しつつある。
【図2:大原運動公園~野球場】
しかし、個別にみていくと課題山積の施設も多い。特に
積雪地域における屋外スポーツ施設においては、冬期間、
スケート場やスキー場を除けば、その多くが閉鎖されてい
るのが現状である。今回の検証研究では、南魚沼市大原運
動公園の指定管理者における課題解決の可能性を検証し、
新たな事業を提案する。
2.南魚沼市「大原運動公園」の概要及び運営状況
大原運動公園(以下、当該施設)は、雪国の新潟県のな
かでも、豪雪地域といわれる南魚沼市の屋外スポーツ施設
として、平成26年4月に移転新設された。プロ野球の公
式試合も開催できる野球場をはじめ、20面のテニスコー
トを有し、来年度(平成27年度)には「多目的広場」の
新装オープンを控えている。夏季の合宿誘致も想定した「ス
ポーツツーリズム」の拠点施設として南魚沼市が誇る屋外
大規模スポーツ施設である。
平成25年度に行われた公募により、BMS南魚沼スポ
ーツコミュニティ(以下、当グループ)が指定管理者の指
名を獲得して管理運営を行っている。BMS南魚沼スポー
ツコミュニティとは、国内最大手のスポーツメディア、大
手スポーツメーカーそして地元でスポーツ用品を販売する
企業三社によって編成されたコンソーシアム(共同事業体)
のグループ名称で、当施設の管理運営を目的に設立された。
などが後押ししたと言われるスキーブームが起こり、若
地方都市に立地するスポーツ施設には、いわゆるスポー
者を中心に年々スキー場に足を運ぶ人の数が増加してい
ツ振興の「する」
「みる」
「ささえる」といった視点からバ
た。だが、ブームは結局ブームに終わることになってし
ランスよく事業展開を図ることが重要となる。当該施設に
まった。その後、年齢を限定してのリフト券無料化や無
おいては、地元の少年野球チームやテニス愛好家で賑わう
料スクールの実施、あるいは託児所の設置など、さまざ
など「する」スポーツという点では、比較的活用されてい
まな取り組みがでなされてきたが、大きな打開策は見い
たものの、「みる」
「ささえる」といった視点では課題は残
だせていない。しかし北海道ニセコ町の外国人客誘致成
る。
功や雪合戦大会、ノルディックスキーなど雪に関連する
そこで当グループは、指定管理者となって一年目の平成
レジャーはまだまだ可能性をひめていることがわかる。
26年から代表団体のスポーツメディアのネットワークを
冬季スポーツの低迷には、少子高齢化などの社会的要
活用してプロ野球(独立リーグ)の公式戦や東京六大学野
因もあるが、スキーを統括する全日本スキー連盟を頂点
球オールスター戦の誘致を行った。南魚沼市民にスポーツ
とする競技団体や自治体は、オリンピック・W 杯などに
の「みる」楽しさを提供することに一定の成果をみせた。
参加する選手強化に傾注し、レジャー産業としてスキー
また、地元の体育協会や観光協会等に声をかけ、
「大原運
普及に真剣に向き合ってこなかったことも起因している。
動公園利用促進連絡会」を設立した。当該施設を拠点とし
競技人口の拡大という視点ではなくレジャー産業として
て地域の様々な団体が連携を図りながら、まさに地域が一
の雪スポーツを再発見していくことが重要となる。
体となってスポーツ振興や観光振興を「ささえる」取組み
の第一歩を踏み出したのである。
雪を使ったアクティビティとして、スキーやスノーボー
ドのほかに何があるのか。一般的なものとして、
「かまくら」
しかし、グループには、もう一つ、根本的かつ大きな課
「そり」
「滑り台」
「イグルー(雪の家)
」
「雪合戦」などが
題がある。降雪シーズンである冬期間における施設の利活
ある。これらは、いずれも雪国ではごく当たり前のアクテ
用である。指定管理者としての業務仕様からすれば、冬期
ィビティであるが、普段、雪のない生活をしている都会の
間に当施設を閉鎖することについて、他の積雪地域がそう
人々にとっては、新鮮な体験として必ずや楽しい思い出づ
であるように全く問題はない。指定管理者の目標として、
くりとなるだろう。
公有財産の効率的な運用による地域活性化を管理運営の目
スキー場でこうした取組をするには、スキーヤーやスノ
標に掲げている以上、積雪地域における屋外大規模スポー
ーボーダー等への特段の配慮が必要となるうえ、安全管理
ツ施設の冬期間利活用は避けて通れない。
を徹底するには多くの課題がある。したがって、これらを
【図3:大原運動公園~多目的広場】
体験できる補完的な空間として「公の施設」を開放すれば、
少なくとも多くのスキー場の機能補完になる。
問題は、降雪地域でしか味わえない「冬の遊び」を、ど
うすれば地域の観光産業振興に貢献するコンテンツ事業と
できるのか。そうした事業を指定管理者が継続して行うに
は、どう展開すればよいのか。一事業者だけで解決するに
は難しいテーマである。
4.新たな可能性としてのスノーモビル事業
(1)事業の概要
①目的:
公共施設を使ってスノーモビルなど冬の新たなアク
ティビティを提案することで、ウィンターレジャー
3.冬季スポーツ現状と課題
冬季スポーツの全盛期(1993 年)には、1860 万人であ
ったスキー・スノーボード人口は、2012 年には 790 万人
と半分以下に激減していると「レジャー白書」
(公益財団
の魅力を再発信する。
②対象:
家族づれやカップルといった冬期間の観光客
③内容:
法人日本生産性本部発行)では、報告されている。ピー
スノーモビル体験試乗(9歳以上)またはスノーモ
ク時の前後には、スキーをモチーフにした映画のヒット
ビルが牽引するソリに乗ったスノーライド。
※希望者には公式ライセンス取得の案内を行う。
④付帯活動:
当該施設を運営するのは、日本を代表する「スポー
ツメディア企業」、「スポーツ用品・製品企業」、地
低年齢者やスノーモビル以外のアクティビティを楽
元で事業を展開する「スポーツ店」である。前例が
しみたい人向けに、以下の事業併催を予定している。
ない新規事業だけに、今後の事業展開と検証に向け
・雪だるまコンテスト
て、それぞれの役割と責任を明確にしておく必要が
・雪積み競争
ある。また、地域経済の波及効果を確かなものとす
・常設スノー滑り台
るためには、観光協会をはじめスキー場や旅館組合
・雪でつくるかき氷
の積極的な参画が求められる。
・アイスキャンドル
・スノーランタン
【図4:スノーモビル体験風景①】
③連携・提携先としての事業者
地元のスノーモビル販売事業者が全面的に協力を申
し出ている。当社は、常設(冬期間)のスノーモビ
ルコースを運営している。代表はMFJ(一般財団
法人日本モーターサイクルスポーツ協会)のスノー
モビル委員会委員(学識経験者)
、及び新潟県スノ
-モビル部会部会長ということで、スノーモビルの
運営に関する知見と経験は豊富である。
(3)ライセンス発行による全国的は波及効果
当事業をパッケージ化して、積雪地域の屋外スポー
ツ施設で同様の課題を抱えている事業者等にライ
センス供与も図れる。
全国の冬期間に閉鎖を余儀なくされている地域同
士がライセンスのもと連携することで、日本国内全
(
「KRAZy Web Magazine」より引用)
【図5:スノーモビル体験風景②】
体の回遊へと拡大していくものと期待する。
(4)事業成功による地元への効果
本来、冬期間は閉鎖していた公共スポーツ施設であ
る。ここで、観光産業において課題となっている“二
日目の楽しみ方”が新たに提供されることで地域の
観光産業に少なからず貢献できる。スキー場と宿泊
施設の往復から、当施設を含めた移動はまさしく地
域内回遊を促すこととなり、周辺の飲食店やお土産
店等への立ち寄りが促進される。
また、雇用においても冬期間閉鎖施設と通年営業施
設とでは、賃金やスキルの向上といった面での寄与
度は大きく異なる。
(
「KRAZy Web Magazine」より引用)
(5)本事業の目標数値
平成26年度本事業の目標値を次に掲げる。
(2)本事業を成功に導くための条件
①公共施設の有効活用
指定管理者がいかに優れた提案と考えても、公共施
設である以上、南魚沼市当局の理解と実施許可が必
要である。実施許可に際しては、施設の設備や参加
者の安全確保が第一次条件となる。
②指定管理者(民間企業)のアイディアおよびネット
ワークによる事業構築
【平成26年度12月~3月の効果(目標)
】
従来
本事業の効果
営業日数
0日
80日
利用人数/日
0名
50名
総利用人数
0名
4,000名
延べ雇用人数
0名
320名
(6)今後の展開
初年度となる成26年度は、
「ファミリーとカップルの
ための雪遊び」をテーマとして、
「雪だるまコンテスト」
「雪積み競争」
「ソリ・イベント」
「常設スノー滑り台」
「雪
でつくるかき氷」
「アイスキャンドル」
「スノーランタン」
、
そして「スノーモビル体験会(9歳以上を対象とする)
」
をコンテンツとして展開する。
次年度以降は、こうした取組を継続し、コンテンツと
しての魅力を高めながら、新潟県発の「冬期間における
公の施設の活用フォーマット」として、全国に発信する。
すでに、事業開始を見据えて、東京都内の大手旅行代理
店と企画開発をはじめている。
5.まとめ
本提案は、南魚沼市を「スノーモビルの聖地」として、
全国に発信するとともに、同種(形態)施設(地域)との
連携を図りながら冬のレジャー産業を普及発展させていく
ものである。幸い近隣スキー場である「舞子リゾート」か
らほど近い位置にあることから、スキー、スノーボードな
どと連携したツーリズムツアーも可能であり、相互に補完
することで大きな効果を生み出すと期待できる。スキー場
に訪れるファミリーやカップルを主なターゲットとして当
該施設に誘引することや、反対にスノーモビルや雪関係レ
ジャー参加者がスキー場に行くなど、域内の回遊性の向上
をもたらし、
「二日目、三日目の楽しみ方」による滞在期間
の拡張を可能にする。
従来の指定管理者制度を一歩前進させた新たな官民連携
手法として、民間事業者による地域課題解決型のCSR活
動(企業の社会的責任活動)ともいえる。しかし、事業を
継続していくためには適正な利益の確保も必要であるため、
キーワードになるのが「施設の利活用」と「地元雇用」で
ある。どすれば地域が一体となった活動(協働もしくは共
働)を実現でき、結果として地域資源である当施設の価値
が引き出せるのかは自治体及び地域団体との協議を進めて
いかなくてはならない。幸いなことに、地元スポーツ団体
や旅館組合と運営協議会を通じて情報交換を密に行ってお
り、こうした取組みは、
「地域の資源をつなぎ新たな価値を
創造すること」として自治体も興味を示している。
さらに、地元企業で国内において唯一のスノーモビルの
コンテンツ事業者である「RSS高喜屋」からの協力依頼
があった。これにより、全国発の公共施設でのスノーモビ
ル事業の展開が可能となった。本事業は、
「雪のレクリエー
ションランド」といった表現が相応しく「目的型の来訪」
を誘発する起爆剤になると期待される。
冬期間に有閑施設となっている「公の施設」に、新たな
息吹を注ぐことができれば、指定管理者制度における管理
運営のあり方として、価値ある一石を投じることになろう。
このインパクトは、次の3つの価値から波及される地域の
経済効果となると信じている。
①地元観光産業活性化の実現
②地元従業者の安定雇用の実現
③新たな目的型誘客の実現
本事業を通じて、豪雪地帯の雪が「雪害」ではなく、実
は「観光資源」であることを証明していきたい。
以 上