News Letter from Dr. B. Gerloff The latest information of the dairy production medicine in USA 2014 年 03 月 はじめに:.............................................................. 1 牛ウイルス性下痢症 (BVD) 監視検査: ...................... 2 分娩前の給餌プログラムで 最も重要な 10 項目の管理方法: ............................. 3 立てない牛に立ち向かえ: ....................................... 5 農場からの視点:.................................................... 7 はじめに: このニュースレターを執筆する機会が得られたことをうれしく思っています。 Whitmore 先生と斉藤氏から依頼された際には、喜んで引き受けることに致 しました。私は、1985 年からイリノイ州北部にて酪農専門の開業医として 働いてきました。その一環として、栄養に関するコンサルティングを行ってき て、2012 年にペンシルベニア州に本社を置くRenaissance Nutrition 社に て、正規の酪農専門の栄養コンサルタントになりました。 そのため私が書く 記事の多くは、栄養に関する観点が含まれるかと思います。 1995 年に日本を訪問する機会があり、その時に多くの農場や動物病院を 訪れて回りました。また、長年にわたって私の診療所で多くの日本人の獣医 師と接してきたので、 皆様のことを友人そして同僚だと思っています。 このニュー スレターにて、皆様に役に立つ情報を提供するよう努めていきたいと思います。 そして Whitmore 先生と同様の形式にてニュースレターを作成していきます。 このニュースレターを執筆する機会を与えていただき、感謝致します。 2014 年 03 月 - 1 Dr.Gerloff’s Newsletter from USA 牛ウイルス性下痢症 (BVD) 監視検査: 最新版の米国牛専門獣医師会 (AABP) の論文 (2013 年 12 月 ) におい て、オーバーン大学の M. Givens 博士らは、BVD 持続感染牛を検出す る新しいアプローチについて報告しています。 彼らの目標は、BVD 持続 感染牛を検出するために牛群のスクリーニングを行う際、各個体の耳や 血管からの検体採取よりも手が掛からす、費用を抑えた検体採取方法や 検査プロトコルを開発することでした。彼らは BVD ウイルスに急性感染し た子牛、または持続感染した子牛が含まれる牛群の飼槽の表面から、ス ワブ採取を行いました。スワブは最長 10 日間冷蔵または冷凍保存しまし た。牛群に持続感染牛がおり、かつ給餌から 6 時間以内に検体を採取し た場合、PCR 検査にて BVD ウイルス陽性の結果を示しました。牛群に 急性感染牛のみがいた場合、もしくは検体が給餌から 6 時間以上経って から採取された場合、または検体が冷蔵ではなく冷凍保存された場合に は、検体は陰性を示しました。飼槽のスワブ 採取を行い、PCR 検査をす ることは、BVD ウイルス持続感染牛が牛群中に存在することを検出するの に効果的な方法であることがこの論文において示唆されています。 コメント: 多くの動物病院や酪農場において、何かしらの方法で BVD ウイルス持 続感染牛のスクリーニング検査を行うことは、一般的で定期的になりまし た。群内に持続感染牛がいることは、効果的なワクチン接種プログラムを 行っても、牛群中の他の牛の健康や繁殖成績に悪影響を与えることが示さ れてきました。この論文では、費用効率が非常に高い方法で定期的なス クリーニングを行う、効率的な代替方法が提案されています。私はぜひ試 してみたく、推奨したいと思っています。 ( ウィスコンシン州ミルウォーキー AABP 年次大会抄録。2013 年 9 月。46:150.) 2014 年 03 月 - 2 Dr.Gerloff’s Newsletter from USA 分娩前の給餌プログラムで最も重要な 10 項目の管理方法: 2014 年 2 月 25 日号の Progressive Dairyman 誌において、Dr. David Kirk は移行期の牛の代謝病を回避し分娩後の成績を最大に発揮さ せるために最も重要な 10 項目の栄養と管理の方法について述べています。 Dr. Kirk は現在、Prince Agri Products 社にて勤務する栄養学者です。 同氏の推奨する最も重要な 10 項目は以下のとおりです。 ① 十分な飼槽スペースを与える:牛一頭あたり少なくとも 30 インチ (76 cm) 。 ② 乾乳後期用飼料を 21 日間給与する: 別飼で乾乳後期用飼料を与え る場合、少なくとも分娩予定の 21 日前に移動させることを計画する。 これにより添加剤の添加や栄養の調整が効果的になり、牛が早く分 娩した場合でも、十分な期間、乾乳後期用飼料を摂取することがで きる。 分娩直前に牛を移動させない:社会的ストレスの原因となるので、分 ③ 娩の直前に牛群を変更しないこと、また分娩直前まで牛を分娩スペー スに移動さないこと。 牛を快適な状態に保つ:フリーストール牛舎では、各ストールは長さ ④ 9フィート (2.7 m) で幅 51 ~ 54 インチ (1.3 ~ 1.37m) にする。フリー バーンでは、牛 1 頭あたり 100 ~ 120 平方フィート (9.5 ~ 11.4 m2) にする。 ⑤ ヒートストレスのかかっている乾乳牛を冷やす:牛を冷やすのに、これ が最も費用対効果が高い。これにより生産成績や子牛の健康状態が よくなる。 ⑥ 牛の選び食いを防ぐ:粗いストローや乾草が多く含まれた飼料では注 意すること。牛が選り分けできないくらいに、十分に混合すること。乾 草を部分混合飼料(PMR)と別々に与えない。必要であれば、水や 液体サプリメントを混合飼料(TMR)に加えること。 飼料の嗜好性を維持する:通常、乾物摂取量は分娩直前に低下す ⑦ るが、この摂取量低下を抑えるために、飼料に含まれる材料すべての 味をよくすることで、摂取量を維持するようにすること。特に陰イオン 塩を含む乾乳後期用飼料を与える場合には、これに注意すること。 牛が過肥にならないようにする:過度に肥った牛は分娩時前後により ⑧ 多くの体脂肪を動員するため、遊離脂肪酸 (NEFA) 濃度がより高くな る。これにより乾物摂取量がより大きく低下しやすく、肝臓脂肪が蓄 積しやすく、ケトーシスのリスクがより高く、より多くの健康問題が発 生しやすくなる。肥った乾乳牛が多くいる場合、ルーメンバイパスコリ ン製品などを検討すること。 2014 年 03 月 - 3 Dr.Gerloff’s Newsletter from USA ⑨ 適切なエネルギー量とタンパク質を含んだ飼料を給与する:乾乳期 にエネルギー量を制限した飼料を与えることにより、乾乳後期の乾物 摂取量を最大限にできる。エネルギー量を与えすぎてもいけないが、 与えなさすぎてもいけない。タンパク質は 1100 ~ 1200 グラムの代 謝タンパク質を与える。高レベルのタンパク質を与えることで、健康問 題のリスクを最小限に抑え、生産成績を最大にできる。 低 DCAD 飼料を給与する:低 DCAD 飼料は、分娩前にカルシウム ⑩ 動員を開始する助けになる。分娩前後にカルシウムの需要が増えると、 牛は骨から必要なカルシウムを代謝でき、または消化管からより効率 的に吸収できる。低 DCAD 飼料 ( 乾物 100 g あたり -15mEq) を与 えること。その際、十分なカルシウム ( 乾物摂取量の 1.4 ~ 1.6%) と マグネシウム ( 乾物摂取量の 0.45%) を与えること。適切に低 DCAD 飼料を給与すると、分娩前後のカルシウム恒常性が維持され、乾物 摂取量と分娩後の生産成績が向上する。 コメント: 業務上、私は日常的に乾乳牛や乾乳後期の飼料や管理の設定に関わっ ています。その時期の栄養や管理は他の時期の栄養プログラムや牛群管 理活動の成功に大きな影響を与えることが明らかです。Dr. Kirk のリスト は現実的なアプローチで、おそらく移行期プログラムに最も大きく影響を 与える分野にフォーカスしていると思います。同氏が飼料設計や飼料添加 物についてほとんど触れておらず、ストレスを最小限に抑えて牛がよく食べ るための管理について大きく取り上げているのが、興味深いと思いました。 全体的に正しいとは思いますが、個人的には⑨の「適切なエネルギー量と タンパク質を含んだ飼料を給与する」は、私の中ではもっと上位、多分 2 番目になると思います。乾乳牛にエネルギー量を制限して給与するという考 え ( エネルギー量を与えすぎることなく、必要な分だけ給与すること ) は、 私たちが関与するほとんどすべての牛群で分娩直後の健康が大きく改善す ることになります。通常サイレージのエネルギー量を粗い乾草やストローで 希釈することになります。さらに、タンパク質を含む飼料に注意を払い、高 レベルの代謝タンパク質を給与することで、健康で高い生産成績をもたら すことになります。 乾乳牛と乾乳後期の牛の栄養だけでなく、管理にも十 分注意を払って下さい。 2014 年 03 月 - 4 Dr.Gerloff’s Newsletter from USA 立てない牛に立ち向かえ: 2014 年 2 月 25 日号の Hoard’ s Dairyman 誌に、ノースカロライナ 州立大学獣医学部の Dr. Geof Smith は自力で立ち上がれなくなった、 いわゆる「ダウナー牛」についての記事を寄稿しました。同氏がまとめた ところによると、牛が立ち上がれなくなる主な理由は、以下のような原因で す。①乳熱または 産褥麻痺、②マグネシウム欠乏症またはグラステタニー、 ③分娩麻痺を含む外傷や傷害、④脊柱や神経の損傷、⑤癌、⑥毒素感 染、⑦飢餓や栄養不良。牛が立ち上がれない理由が何であれ、牛が再 度立ち上がれるようにするには、迅速な対応が必要です。牛が立ち上がれ なくなると、動脈血が筋肉に流入し続け、横になることによる圧力で静脈 血の流出が低下するために筋細胞が破壊される「コンパートメント症候群」 や「クラッシュ症候群」が非常に発生しやすくなります。このコンパートメ ント症候群を、牛に 6 ~ 12 時間麻酔をかけて実験的に発生させたところ、 麻酔後、半数の牛が再度立ち上がることができず、安楽死処分されました。 牛が 24 時間立ち上がれない場合、その牛が再度立ち上がれる確率は低 くなります。要するに、牛は重すぎるので、長時間横になっていると、筋 肉に著しい損傷が発生するということです。 牛が立ち上がれない場合、例えば乳熱の牛にカルシウムを与えるといっ た具合に、原因を究明して、原因に応じて対応することが必要です。牛が 立ち上がれない原因を究明するのに、徹底的な検査を行います 。必要で あれば、砂やわらを深く敷いた柔らかい敷料の上に牛を移動させます。こ れによってコンパートメント症候群の発生リスクを最小限に抑えることがで きます。可能であれば牛を座った状態にして、定期的に牛の体勢を左右に 移動させてやります。できれば、やはり筋肉の損傷を最小限に抑えるため に、横たわらせるのを避けます。牛を動かす必要がある場合には、人道的 な方法で動かし、牛を引き摺って移動させてはいけません。牛を横にして そりやあおりに乗せたり、大きなフロントエンドローダーに転がして乗せたり して、動かすことができます。 米国のいくつかの州では、牛を地面で引き 摺ることは法律違反になります。 ダウナー牛を吊起するのにカウリフトやスリングを使用できますが、他の 筋肉を損傷してしまう恐れがあるので、注意して使用して下さい。フロート タンク(訳註:起立不能の牛の周りにコンテナを張り、水を入れ、浮力に よる起立の補助を行う装置)だとより良く、カウリフトやスリングの使用に 伴う圧損傷や壊死が発生することはありませんが、やはりこれも迅速に使 用する必要があります。 ダウナー牛が苦しんでいる、または二度と立ち上がれないと判断された 場合、ダウナー牛は人道的に安楽死させるべきです。ダウナー牛の取扱 2014 年 03 月 - 5 Dr.Gerloff’s Newsletter from USA いや処理は、大きな社会的および動物福祉的な懸念事項になっています。 ダウナー牛は米国農務省 (USDA) の認可を受けた食肉処理場では受け入 れされず、農場で人道的な方法で処分しなければなりません。 コメント: ダウナー牛の取扱いは米国で大きな問題になっており、問題となった原 因の一つには、米国の酪農場でのダウナー牛の不適切なケアや治療を示 した隠し撮り動画があります。これらの動画では牛が手荒に扱われている ため、反感を買う恐れがあります。私が動画のいくつかを見たところ、残 酷な場面もいくつか見られましたが、全般的には、牛をそのままの状態で 放っておくと牛がおそらく死んでしまうため、巨大で動かない牛を何とかし て動かさなければならない酪農家や作業員たちに同情しました。ダウナー 牛は、獣医師や農場主が直面している最も困難な問題の 1 つであると、 私は思っています。私たち獣医師は、牛がどれくらいの頻度で、また何が 原因で立てなくなるのか記録できるようにしておく必要があります。乳熱や 代謝性疾患が原因である場合、栄養・管理プログラムを作成し、ダウナー 牛に対する適切な処置をするか、その可能性のある牛が立てなくなるのを 予防するために早期の予防措置を立てるかのどちらか、または両方をする 必要があります。転倒による外傷が原因の場合は、転倒事故の予防や発 生減少のために農場施設を見直して、改善点を見つけることが必要です。 同様に、他の原因の究明や、牛が立ち上がれなくなるのを防ぐ予防策を 考えなければなりません。さらに、各農場でダウナー牛が発生した場合の 対応策を立てておく必要があります。①人道的に牛を動かすにはどうすれ ばいいか? 隠し撮り動画が恥さらしなものにならないように、牛を動かすこ とができるのか? 牛を動かすのに適当な器具はあるのか?②牛をどこに移 動させればよいのか? 移動先は柔らかく十分の厚さのある敷料が敷かれて いて、起き上がるのに十分なスペースがあるか?③どれだけ速やかに牛を 移動させるか?これは多分、牛が立ち上がれない原因、および牛がいつど こで立ち上がれなくなったかによると思います。④ いつ安楽死の決断をす ればいいのか、またどのように安楽死させればいいのか? 私の場合、ダウナー牛の取扱いに関しては顧客自身に任せる傾向にあり ました。現在、この問題で私たちに注目が集まっているため、顧客任せで はよろしくなく、効果的な予防策、そして必要であれば解決策を立てて実 行するのに、私たちがもっと助けになる必要があると思います。 2014 年 03 月 - 6 Dr.Gerloff’s Newsletter from USA 農場からの視点: このニュースレターの一部として、米国の獣医師として私の視点からの情 報も欲しいと依頼されましたので、ここでは米国の今日の 酪農業における 最新トピックスや検討事項についての見解をコメントしたいと思います。現 在、主に世界的な乳タンパク質に対する需要の影響を受けて、牛乳の価 格は記録的な高値になっています。世界中で乳タンパク質が不足しており、 そのため輸出量が記録的に増加し牛乳の価格も高騰しています。さらに、 牛肉の価格も記録的高値になっており、淘汰された牛に対する需要もかな り高くなっています。これは多分、価格高騰が起きた際の通常の場合よりも、 より短期間で牛乳の産出量を増加しようとしたことによるかと思います。 多くの生産者にとって次に来る避けることのできない原価低減に対して準 備しておく絶好の機会です。つまりいくらかの現金を留保するか、もしくは 農場の必要な設備投資をするか、農場経営上現在ボトルネックになってい るところを修正することです。緊張感が緩め、利益が少なくなるかもしれな い将来に備えての投資を怠ろうとする誘惑に駆られます。来年私は彼らが もっとうまくやっていけるようにうまく手助けをしたい。 禁 無断転載 翻 訳 : 共立製薬株式会社 監 訳 : 水谷 尚 (日本獣医生命科学大学獣医内科学教室 講師) 発 行 : ・営業本部 〒 102-0073 東京都千代田九段北 1-12-4 Tel: 03-3263-2933 Fax : 03-3239-5433 Dr. Whitmore's NewsLetter from USA はバックナンバーは 産業動物獣医療情報サイト LAVA-net Internet Homepage へ URL : http://www.lava-net.jp/ 2014 年 03 月 - 7
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