JARI Research Journal 20140601 【研究速報】 水素漏洩音による水素漏洩車両への安全な接近方法の検討 (第 2 報) - 74dB 程度の交通騒音環境下での認知可能な水素流量とその安全性 - Safe access to a hydrogen leaking vehicle determined by hydrogen leakage sound (second report) - Perceptible flow rate of hydrogen in approximately 74dB traffic noise level environment, and its safety - 前田 清隆*1 Kiyotaka MAEDA 竹内 正幸*1 Masayuki TAKEUCHI 山崎 浩嗣*1 Koji YAMAZAKI 田村 陽介*2 Yohsuke TAMURA Abstract To examine the safety of rescuers when hydrogen leaks from an FCV vehicle, we investigated the relationship between the minimum audible threshold of hydrogen leakage sound and the flow rate of hydrogen in approximately 74 dB noise level environment. The results indicate that perceptible maximum hydrogen flow rate for 5 m and 10 m from the center of the vehicle are 260 NL/min and 338 NL/min. However, these flow rate does not harm to the human at each direction. 1. はじめに 量の水素へ引火した場合は,人へ危害を及ぼすこ 燃料電池自動車(FCV)は,一部の自動車メー とも考えられる. カーから2015年に販売される予定である.その そこで,74 dB程度の交通騒音環境下において FCVは燃料として自動車にはほとんど使用され 水素が漏洩した場合を想定して,水素漏洩音を認 ていなかった水素を高圧状態で搭載しているため, 知可能な流量とその流量の水素に引火した場合の 交通事故などによりFCVから水素が漏洩してし 人への影響を調査した. まった場合に,救助者が事故車両へ安全に接近す るための対応策を事前に検討しておく必要がある. そこで著者らは,水素漏洩音により事故車両へ 2. 試験方法および結果 2. 1 試験方法の概要 安全に接近する方法を調査している1).その結果, 実際に交通騒音環境下で車両から水素を漏洩さ 暗騒音が40 dB程度の比較的静かな環境で車両か せて聴取実験を実施することは,安全上困難であ ら水素が漏洩した場合,水素漏洩音が聴取可能な る.また,街中の騒音レベルは絶えず変化してい 最 大 の 流量 は 車 両中 心か ら 20 mの 距 離で 110 ることから,一定の騒音レベルでの評価は困難で NL/minであったことから,何らかの原因で水素 ある.そこで,交通騒音環境下で車両から水素が に引火しても人に危害を与える程度ではないこと 漏洩した状況を再現するために,1) 安全な水素漏 がわかった1).しかし,地面から1.5 mの高さにお 洩音代替ガスを選定して,2) 交通騒音を録音し, ける水素漏洩音の最大の騒音レベルは約59 dBで 3) 無響室内で水素代替ガスを漏洩させると同時 あったことから1),これ以上の暗騒音環境下にお に2)で録音した騒音を再生させることで聴取実験 いては水素漏洩音を認知出来ない可能性がある. を行った. さらに,そのような環境下において認知可能な流 *1 一般財団法人日本自動車研究所 *2 一般財団法人日本自動車研究所 JARI Research Journal FC・EV研究部 FC・EV研究部 博士(工学) - 1 - (2014.6) 100 2. 2 水素漏洩音の代替ガス選定試験 ために,水素ガスと水素の代替候補ガスを配管か ら漏洩させた際の騒音レベル,周波数特性,指向 性を測定し,それらの結果を比較した. 試験条件をTable 1に,漏洩配管をFig. 1に,測 定の概略図をFig. 2に示す. Flow rate Distance Height Direction 60º 180º 90º 70 60 50 40 30 Test conditions 500 630 800 1000 1250 1600 2000 2500 3150 4000 5000 6300 8000 10000 12500 16000 20000 25000 31500 40000 Table 1 30º 150º 80 20 Area Candidate gas Pipe shape 0º 120º 90 Sound pressure level (dB) 水素ガスの音響特性に似た代替ガスを選定する Frequency (Hz) JARI dirt track area Helium, air, argon 1/4 in, 1/4 in (cut), 3/8 in, 3/8 in (cut) Hydrogen: 118, 60, 30 NL/min Candidate gases: The flow rate was set to be equal to the noise level of the hydrogen flow rate 1.0 m 1.5 m 7 (every 30°) Fig. 3 Results of hydrogen for 1/4 inch pipe 水素の代替候補ガスの流量は,漏洩配管正面の 騒音レベルが水素の騒音レベルと同等になる流量 を調べた.その結果,1/4 in配管では,ヘリウム が125 NL/min,アルゴンが82 NL/min,空気が 82 NL/minとなった.ヘリウム,アルゴン,空気 を漏洩させた際の周波数特性の測定結果をFig. 4 3/8 in(cut) 1/4 in(cut) ~Fig. 6に示す. 3/8 in 1/4 in 100 0º 120º Sound pressure level (dB) 90 Fig. 1 Leakage pipes Side view 1m 120º 30º Pipe 180º 0º Leak 180º Microphone 80 70 60 50 40 20 Pipe Microphone Frequency (Hz) 1.5 m Ground Fig. 2 90º 30 150º 0º 1m 60º 180º 500 630 800 1000 1250 1600 2000 2500 3150 4000 5000 6300 8000 10000 12500 16000 20000 25000 31500 40000 60º Top view 90º 30º 150º Fig. 4 Results of helium for 1/4 inch pipe Cupper tube 100 Schematic view of measurement of leakage sound 0º 120º リウム,アルゴン,空気の3種類を用いた.配管 は,地面に対して水平に設置した.供試した配管 は,1/4インチ(以下,in),1/4 in(cut),3/8 in,1/4 in(cut)の4種類である1).水素流量は車両衝突時の 最大水素許容漏れ量である118 NL/min以下とし た2). 30º 150º 60º 180º 90º 80 70 60 50 40 30 20 500 630 800 1000 1250 1600 2000 2500 3150 4000 5000 6300 8000 10000 12500 16000 20000 25000 31500 40000 水素の代替候補ガスには,安全なガスとしてヘ Sound pressure level (dB) 90 Frequency (Hz) 1/4 in配管から水素を118 NL/minの流量で漏洩 Fig. 5 Results of argon for 1/4 inch pipe させた際の周波数特性の測定結果をFig. 3に示す. JARI Research Journal - 2 - (2014.6) た.その結果,騒音レベルは65~85 dBの間で変 100 0º 120º Sound pressure level (dB) 90 30º 150º 60º 180º 90º 動しており,等価騒音レベルは約74 dBであった. 80 70 よって,交通騒音が約74 dBの時間帯の部分を暗 60 騒音として再生させることにした. 50 40 2. 4 無響室での水素代替ガス漏洩音の聴取実験 30 2. 4. 1 水素漏洩音の最大・最小可聴方向 本試験では,市街地の交差点での事故を想定し 500 630 800 1000 1250 1600 2000 2500 3150 4000 5000 6300 8000 10000 12500 16000 20000 25000 31500 40000 20 ているため,路面が文献1)の悪路からアスファル Frequency (Hz) Fig. 6 トへ変わっている.そこで,文献1)の方法に準じ Results of air for 1/4 inch pipe て,各配管の水素漏洩音の最大・最小可聴方向を こ の 結 果 か ら , 1/4 in 配 管 か ら 水 素 を 118 NL/minの流量で漏洩させた場合は,ヘリウムが 調査した.車両進行方向を0º,時計回りを正の方 向と定義した調査結果をFig. 8に示す. 最も水素漏洩音の音響特性に近いことがわかる. 他の配管と流量の組み合わせにおいても,ヘリウ ムが最も水素漏洩音の音響特性に近いため,ヘリ Minimum audible direction 1/4(cut) :approx. 30º 1/4, 3/8, 3/8(cut):approx. 22º ウムを水素漏洩音の代替気体として使用すること にした. 配管正面での騒音レベルが水素とヘリウムで同 Maximum audible direction 1/4(cut) :approx. -22º 1/4 , 3/8:approx. -39º 3/8(cut) :approx. -43º 等になる場合の水素流量とヘリウム流量の関係 (3/8 in配管)をFig. 7に示す.この関係を用いて 2. 4. 2でヘリウム流量を水素流量へ換算した.な Leakage pipes 5 m in radius お,ヘリウム流量を水素流量に換算する際,水素 流量で118 NL/min以上に換算される流量は,1次 Fig. 8 Results of audible directions of hydrogen 近似を用いて外挿によって推定した. 2. 4. 2 交通騒音環境下での水素漏洩音の聴取実 H2 flow rate (NL/min) 140 験 120 大型半無響室内で水素代替ガスを漏洩させると 100 同時に,2. 3で収録した騒音を再生させて聴取実 験を実施した.その様子をFig. 9に示す. 80 60 40 20 0 0 20 40 60 80 100 120 He flow rate (NL/min) Fig. 7 Relationship between He and H2 flow rate (3/8 inch) 2. 3 交通騒音の測定・録音 交通事故は市街地の交差点で最も件数が多い3). そこで,片側2車線同士の市街地の交差点の交通 騒音を2. 4で再生させる暗騒音として選択した. 測定および録音は,交差点の歩道で約10分間行っ JARI Research Journal - 3 - Fig. 9 Overview of listening experiment in the anechoic room (2014.6) 聴取方向は,2. 4. 1より決定した各配管の最 3. まとめ 大・最小可聴方向とし,車両中心から5 mと10 m FCVから水素が漏洩してしまった場合に,水素 の距離で可聴閾値の流量を調査した.可聴閾値の 漏洩音から救助者が事項車両に安全に接近する方 流量は,30歳前後の被験者3人のうち,2人以上が 法を検討するために,交通騒音環境下において水 認知出来ない流量とした.聴取領域は,2つの暗 素が漏洩した場合を想定して,水素漏洩音を認知 騒音再生用スピーカーの間の中心の高さ1.5 mの 可能な流量とその流量の水素に引火した場合の人 領域である. への影響を調査した.その結果,以下の事がわか 可聴閾値の流量の調査結果をTable 2に示す. った. 1) Table 2 中心から 5 m または 10 m の距離で水素漏れ Test results of audible threshold flow rate Audible Distance He flow rate Pipe direction (m) (NL/min) 5 40 Maximum 10 65 1/4 in 5 85 Minimum 10 100 5 130 Maximum 10 180 3/8 in 5 200 Minimum 10 260 5 28 Maximum 10 35 1/4 in (cut) 5 55 Minimum 10 65 5 20 Maximum 10 35 3/8 in (cut) 5 55 Minimum 10 60 約 74 dB の交通騒音環境下において,車両の に気づいた場合の最大流量はそれぞれ 260 H2 corresponding flow rate (NL/min) 46 73 91 102 169 234 260 338 25 36 62 74 12 24 53 60 NL/min,338 NL/min であることが想定され る.たとえ,その流量の水素へ着火しても人 へ危害を与えるものではない. 2) へリウムが最も水素漏洩音の音響特性に近い. 今後は水素漏れ箇所による漏洩音認知流量の違 いや,漏洩車種による漏洩音認知流量の違い,被 験者の年齢範囲や性別による違いを調査する予定 である. 3/8 in配管で背景を灰色にしているのは,水素 換算で118 NL/min以下の流量では漏洩音を認知 出来なかったためである. なお,本研究は(独)新エネルギー・産業技術 総合研究機構(NEDO)による委託研究「燃料電 Table 2の結果を最も水素流量が大きい場合で 池自動車等に係る国際標準化および規制見直しの 評価すると,車両中心から10 m以上の距離で水素 ための研究開発」のなかで実施した内容の一部で 漏 洩 音 を 認 知 出 来 る 流 量 は 少 な く と も 338 ある. NL/min以上である.同様に5 m以上10 m以下の 距 離 で は , 水 素 流 量 は 260 NL/min 以 上 338 NL/min以下,5 m以下の距離では水素流量は260 NL/min以下であることがわかる. 車両から漏洩した水素が着火した場合の人への 影響は,400 NL/minで漏洩した水素が車体底部 やボンネット内部で着火しても車両前方や前輪タ イヤから1 mの場所での爆風や熱流束は人に重大 な危害を与える程度ではなく,爆発時の音で苦痛 を感じる程度である4). 従って,約74 dBの交通騒音環境において,水 素漏洩車両へ誤って接近してしまっても,車両の 中心から5 mおよび10 mの距離で水素漏れに気づ 参考文献 1) 前田ほか:水素漏洩音による水素漏洩車両への安全な 接近方法の検討,JARI Research Journal, 2013-07-11 2) Draft global technical regulation (gtr) on hydrogen fuelled vehicle, Economic Commission for Europe Inland Transport Committee, World Forum for Harmonization of Vehicle Regulations (2012.12) 3)警察庁交通局:平成24年中の交通事故の発生状況, http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=0000011 08012, (2013.2) 4) Maeda, Y.et.al., Diffusion and Ignition Behavior on the Assumption of Hydrogen Leakage From a Hydrogen-Fueled Vehicle, SAE Transactions, Section 6, Vol.116, 2007-01-0428 いたときの流量では,人に重大な危害を与える程 度ではない. JARI Research Journal - 4 - (2014.6)
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