原料乳の品質とチーズ製造上の諸問題

原料乳の品質とチーズ製造上の諸問題
帯広畜産大学
有賀秀子
国産の占める割合はナチュラルチーズベースで
はじめに
17.9%であり,またプロセスチーズ原料のうち
近年,西欧タイフ。チーズ特にナチュラルチー
国産チーズの占める割合は 26%であった(表 1)。
ズに親しむ人々が増えてきている。国内でのナ
1
9
8
6年からの 6年間での国産チーズの生産の
9
9
1年に 2
.
7万トン
チュラルチーズの生産高は 1
伸びは 2.6%で極めて低く,チーズの需給関係
で,そのうち約 35%が直接消費に仕向けられて
の中で大きな伸ぴを示しているのは,直接消費
いる。一方,輸入ナチュラルチーズは同年に
用ナチュラルチーズ(国産・輸入)と輸入プロ
1
2
.
2万トンを超え過去最高量となった。これら
セスチーズである。直接消費用輸入ナチュラル
ナチュラルチーズからさらにプロセスチーズが
チーズは 10%の伸びがみられ,国産直接消費用
9
9
1年で 1
6
.
3万ト
生産され,チーズ消費総量は 1
ナチュラルチーズの伸ぴは僅か 3.7%であるの
ンに達した九これを日本人一人一日当たり消
で,直接消費用ナチュラルチーズの伸ぴは主に
費量に換算すると 3
.
7g程度となる。この中で
輸入に依存するところが大きい。また輸入プロ
表 1 日本におけるチーズの需給動向
8
9
9
0
t
司
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占
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3
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3 4
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.
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.
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.
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.
9 6
3
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2
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一ぴ一 1 1 1
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チス費
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産ロ接
国プ直
輸入ナチュラルチーズ総量 (E+G) D
プロセスチーズ原料用 E
直接消費用 G
8
7
-l-Qd
1
9
8
6
(単位:千トン, %)
7
.
6
4
.
5
1
0
.
1
ーーーー・・ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・ーーーーーーーー・ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・ーー-ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー-ーーーーーーーーーーーーーーーーー・ーーーーー
直接消費用ナチュラルチーズ (C+D) H
5
3
.
3
6
3
.
1
81
.5
7
3
.
9
7
7.
4
8
2
.
8
国産プロセスチーズ生産量
6
5
.
2
6
9
.
7
7
2
.
8
7
3
.
6
7
3
.
9
7
8
.
6
I
プロセスチーズ輸入総量
J
プロセスチーズ総消費量
K
チーズ総消費量
(H+K) L
国産チーズ使用率
プロセスチーズ原料用
B/ (B+E)
ナチュラルチーズ全体
A/ (D+J)
0
.
0
5
6
5
.
3
0
.
0
5
6
9
.
8
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.
1
9
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6
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.
6
6
.
7
2
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.
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.
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6
.
4
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.
3
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9
.
2
2
6
.
3
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.
0
2
0
.
5
1
8
.
4
1
9
.
8
2
0
.
1
1
7
.
9
日本乳業年鑑1
9
9
2年版(資料編入日本乳製品協会・畜産局牛乳乳製品課調べ
- 1
7一
セスチーズでは実に 109%もの伸びであるが,
今モザレラが面白い。これもイタリアチーズ
国産プロセスチーズの生産は 3.8%増加してい
である。イタリアは米と麺の文化を持つ点で我
るに過ぎない 1)。
々と共通している。チーズ生産の将来像の一端
このように近年のチーズ生産・消費の伸びは
をかいま見るようで面白い。
輸入チーズの影響を大きく受けていると言わざ
ここ数年,確実に消費者に浸透してきている
るを得ない口しかし一方確かに我々の周囲に
のが白かぴチーズである 210 一般にカマンベー
は国産ナチュラルチーズ生産増の息吹が感じら
ルと呼ばれるこのチーズはフランス原産である。
れる。(図 1
7 2)。
ここ十数年間,圏内の各乳業メーカーはしのぎ
タタ
ゴチ
を削って国産のカマンベールチーズを作り上げ
てきた。数か月前また新しいカマンベールチー
1
5
ズが市場に参入した。「十勝」という名のカマ
1
2
ンベールチーズも出回っている。東洋一を誇る
9
チーズ工場も更に大規模化と自動化を目指し増
6
築されている。今,北海道・十勝産というブラ
3
ンドが高い需要を得ている。これは製造技術も
。
さることながら,原料乳の確かさにもその原因
1
9
8
6
1
9
8
7
1
9
8
8
1
9
8
9
1
9
9
0
があると思われる D 乳製品は製造技術と同時に,
1
9
9
1
図 1 ナチュラルチーズ(ゴーダ・チェダー)の
生産量の推移(千トン)
/
、
、
3
.
0
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ー一 ,;"
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"
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-,‘・ ‘
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2.4
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一、
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‘・・ 一
.
‘
ー
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ノ
一一ーカマンベーノレ
一一一クリーム
ー一一カッテージ
ーーーークワノレク
"
¥
原料乳の品質が製品の品質を左右すると考えら
れる。そこで本文では原料乳の品質がチーズの
製造特性に及ぼす影響について論述したい。
1.原料乳の成分的特性とチーズ製造に
おける影響
-
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、
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"、
、 ¥
,
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1
.
8
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l
.2
"
一
" 、
、、
、 、
良いフレーパーを有し
"
,
,
,
,
,
を作るには生乳の品質が良好でなければならな
,
い。一般に牛乳は品質を低下させるような各種
・
ー
・
,
ー
.
.
_
.
ー
ー
ー
ー
・
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『
・
ー
ー
・
・
ー
・
・
ー
・
・
ー
・
・
目
、
、
0
.
6
の臭いに対して非常に感受性が高い。それは搾
。
1
9
8
6
保存性の良いチーズ
1
9
8
7
1
9
8
8
1
9
8
9
1
9
9
0
乳環境の臭いであったり,後述するような乳中
1
9
9
1
細菌によるものであったり
図 2 ナチュラルチーズ(カマンベール・クリ
ームチーズ・カッテージチーズ・クワル
ク)の生産量の推移(千トン)
酵素による脂肪の
分解産物が原因であったり 3),実に多種の臭い
を吸収する。
牛に良質のサイレージを給与すると良い品質
今から 2年程前,爆発的に人気のでたテラミ
の字しを?尋ることカ宮できる 4)。しかし, ピートや
ス,これはソフトタイプのナチュラルチーズの
かぶのトップあるいは根部を与えると,乳中に
生産を身近に感じさせてくれ,マスカルポーネ
苦みフレーパーを生じさせる原因となることを
というイタリア産のクリームチーズを認識する
B
a
s
s
e
t
t
eら5)は報告している。
機会を我々に与えてくれた。
またチーズ製造時に用いられる乳酸菌スター
-1
8ー
ターのタンパク質分解活性は製品のチーズに苦
ボ
、
づ40
みをもたらす。チーズの製造過程で,カゼイン
と
末端に疎水性のペプチドを伴った分子量
は c-
テ
ク
ス
1,
400ダルトン程度までの低分子ペプチドに分
解されるべ
:一般に適当な:
:ボディーとテ:
:クスチャー
3
0
チ
ヤ
Fーカゼインの C一末端の部分は
3
5
~ 2
5
イ
寸
特に苦みを有し刊,ゴーダチーズの苦みペプ
長2
0
チドの主な原因となっている 7.9)。したがって,
主人
0
.
6
6
:
10
.
6
7
:
10
.
6
8
:
10
.
6
9
:
10
.
7
0
:
10
.
7
1
:
1 0.72:10.73:1
カゼイン/脂肪比率
チーズのように苦みフレーパーが製造過程で、生
図 3 原料乳の脂肪とカゼインの比率から見た
チーズの格付点数
S
c
o
t
t,R
.
,C
h
e
e
s
e
r
n
a
k
i
n
gP
r
a
c
t
i
c
e,119,1981
.
じやすい乳製品に用いる原料乳では,飼料給与
に十分注意を払わねばならない。
レンネット凝固チーズ製造においては先ず原
の範囲で得られることを示唆している則。
料乳中のカゼイン,つまりたんぱく質の含量と
その性質が製造特性に影響を与えると考えられ
また R
e
r
n
e
u
fら叫は,乳の理化学的性質がチ
るロチーズ製造時には一般に原料乳の標準化と
ーズ収率やチーズ製造特性に与える影響を調べ
いう操作がなされる。これは製品が国際規格に
た。まず原料乳の理化学的特性値間の相関を求
適合したものになるようにということと,チー
めたところ,総カゼイン量とたんぱく含量との
ズのボディ一つまり,物理的特性あるいは官能
聞に極めて大きな正の相互関係が認められ,ま
的特性が適正なものになるようにという理由か
た κ ーカゼイン量と
らである。
含量との聞にも正の高い相関が認められた。一
チーズカードの構造を作り上げている主成分
方
,
κ ーカゼイン
B一変異体の
αsーカゼインとだーカゼイン B一変異体,
はカゼインであるが,脂肪,水分,塩類および
カゼインミセル直径サイズと κ ーカゼイン B一
ホエー蛋白などの各成分をどのようにこのカー
変異体の量との聞には,明らかな負の相関がみ
ド中に取り込むかにより製品の品質は大きく異
られた。次に,レンネット凝固パラメーターと
なることが考えられる。これら各成分の中で,
原料乳の理化学的特性値との相関を見ると(表
製品の品質に特に大きな影響を与えると思われ
2
),乳固形分の回収率,チーズの最終重量と
るのはカゼインに対する脂肪の比である。原料
原料乳のたんぱく質含量,総カゼイン含量との
乳の脂肪含量に対する無脂固形分の比は 1:
相関は高く,ゲルのかたさにたんぱく質と総カ
0.36から 1 :0.47が良いという報告が多い則。
ゼイン量が影響を与える可能性も認められた D
この比はホエー中に失われる乳糖並びにホエー
また,レンネット凝固性パラメーター聞には表
蛋白を含んでいるので,カゼインに対する脂肪
3のような相関が見られた
比 1 :0.70が,チェダーチーズの原料乳として
メーターと原料乳の理化学的特性値との聞には
適当であることを示唆している。図 3は,種々
表 4に見られるような相互関係が認められ,こ
の脂肪に対するカゼイン比の原料乳から製造さ
れらの結果から,レンネット凝固チーズでは,
れたチーズのボディーに対しての格付け点数を
カードのかたきはカゼインミセルのサイズとカ
示したものである。これによると熟成後の良好
ゼイン含量の影響を大きく受け,またカード形
なボディーあるいはテクスチャーのチェダーチ
成の速度はできたカードのかたさと正の相関が
ーズは,脂肪 1に対してカゼイン 0.69から 0.71
あり,カードのかたさは乳固形分の回収量と,
- 1
9一
D
また酸凝固性パラ
表 2 レンネット凝固パラメーターと原料乳の理化学的性状との関係
凝固時間
たんぱく質
総カゼイン
αsーカゼイン
戸ーカゼイン
K ーカゼイン
s.A2カゼイン
κ.Aカゼイン
I
C .
Bカゼイン
ミセルサイズ
コロイド Ca
可溶性Ca
Caイオン
pH
0
.
3
8
0
.
3
9
ゲル化
速
度
ゲルの
かたさ
乳固形分
回収率
0
.
3
3
-0.54
0
.
4
4
0
.
4
8
-0.51
0
.
3
9
0
.
6
7
0
.
6
7
-0.52
0
.
3
0
-0.37
0.
4
0
-0.38
40
0.
チーズの
最終重量
0
.
5
4
0.
45
0.
4
2
0.
4
2
-0.43
0
.
5
0
-0.46
0
.
3
4
-0.
41
-0.37
0
.
5
2
0
.
3
6
Remeufら
, L
a
i
t,
7
1
:397-421(
1
9
9
1
)から抜粋
表 3 レンネット凝固パラメータ一間の相互関係
ゲル化
速
度
凝固時間
ゲル化速度
ゲルのかたさ
ホエーの固形分
乳固形分回収率
最終カード重量
ゲルの
かたさ
カードの
水分含量
ホエーの
固形分量
-0.
4
4
0
.
8
0
-0.63
0
.
7
0
-0.50
-0.51
0
.
7
9
0
.
3
9
, L
a
i
t
,7
1
:397-421(
1
9
9
1
)から抜粋
Remeufら
表 4 酸凝固パラメーターと原料乳の理化
含量がカードの粘性係数と高い正の相関があっ
学的性状との相互関係
粘性係数
たんぱく質
総カゼイン
カルシウムイオン
可溶性クエン酸
0
.
7
7
0
.
8
5
た。また両タイプのカードにおいてカード中へ
の乳固形分の回収率は,乳中のタンパク質含量,
乳固形分
回収率
カゼイン含量および Fーカゼインの割合の高い
0
.
8
5
0
.
8
8
もの程大になる傾向のあることを報告した。
N
i
k
iらは凶 2種のサイズのカゼインミセルを
用いレンネット処理をして形成されるカードの
-0.38
性質を調べた結果
Remeufら
, L
a
i
t,
7
1
:397-421(
1
9
9
1
)から抜粋
カード形成速度は小ミセル
の方が速く,特に凝固初期において速やかにか
乳固形分の回収量はカード形成速度とそれぞれ
たさを増すこと,小ミセルのカードのかたさは
正の相関が認められた。また酸凝固カードにお
大きなミセルに対して常に高い値を示したこと
いては,原料乳のタンパク質含量と総カゼイン
を明らかにしている。
- 20 ー
通常レンネット凝固性の弱い乳は,チーズ収
1m1以下が全体の 99.1%を占めており,この
率を減少させ,水分含量が高く,かつ非常に苦
内 3万1m1以下は全体の 85.4%となっている。
い風味のチーズを作りやすいので用いない方が
これを前年と比較すると 1
0万以下で 0
.
2ポイン
良いと言われている則。
.
6ポイントも増加しており,
,
ト 3万以下では 4
ホエーたんぱく質は,カード形成時にその一
細菌数の低い乳の割合が高まってきている制。
部がカード中に取り込まれる。高熱で殺菌処理
ここでいう細菌数は中温細菌をもって表現して
された原料乳からのチーズは,熱変性を受けた
いるもので,生乳が通常貯蔵される低温下では,
ホエーたんぱく質のカード中での含量が高まり,
むしろ低温菌の存在に意を払わなければならな
軟弱なカードを作りやすい。
し
ヨ
。
低温細菌はバルクの貯乳温度範囲で明らかに
また原料乳中のカルシウムイオンが減少する
増殖が可能であり
ことは,カードの収率に影響を与える。
かっ乳成分を基質としてこ
一般に原料乳を殺菌すると溶解相のカルシウ
れらを変性させる酵素を低温下で産生する能力
ムイオンがコロイド相に移行する。この変化は
の高い菌属が野外調査でよく検出される。一般
冷却することにより一部可逆的であるが,加熱
に中温菌数が高い環境では低温菌数も高い生乳
条件が過酷になると不可逆的な反応となり,カ
が得られるので,通常,細菌的乳質を考える場
ルシウムイオンは明らかに低下する。チーズカ
合の指標として中温菌数を用いているが,処理
ードは , IC ーカゼインによって保護されていた
後の乳質に与える影響の大きさから見ると,低
カゼインミセルが,酵素キモシンによって生じ
温菌それ自体を観察することが大切である。
たパラ κ ーカゼインとカルシウムの反応により
通常バルク乳から検出される低温細菌として
凝固沈澱して形成されるものである。したがっ
, M
i
c
r
o
c
o
c
c
u
s科,腸内細
は
, Pseudomonas属
て,十分な遊離カルシウムの存在によりボ、デイ
菌科,
ーのしっかりした収率の高いチーズを得ること
Aeromonas属
, Achromobacter属などで,いず
ができる。
れもバルククーラーの貯乳温度下で増殖可能な
J
e
n ら14), Lombard , S
t
o
r
:
r
y ら16), G
r
a
n
d
i
1
5
)
A
l
c
a
l
i
g
e
n
e
s属
, coryneb
a
c
t
e
r
ium属
,
菌である。低温菌が乳質との関連で問題になる
s
o
nら17),McMahonら18)および Okigdoら19)はカ
のは,貯乳温度条件下で増殖し,この環境でタ
ゼインミセルにカルシウムを添力日すると,カー
ンパク質や脂肪を分解する酵素を産生すること,
ドのかたさが明らかに大なることを報告してい
この酵素が乳質を著しく低下させ,かつ原料乳
る
。
の殺菌程度の熱に耐える性質を有するものがあ
このため,カード形成時に塩化カルシウムを
るということによる。
03レベルと
十勝管内で採取した低温菌数が 1
加えるのが一般的なチーズの製造で行われてい
1
02レベルのバルク乳 2試料を用い , 2Cから
6Cまでの温度下で低温菌の増殖を観察した制。
0
る
。
0
l
l
. 原料乳の細菌的品質とチーズ製造特
性
その結果バルク乳中での低温菌の見かけの世代
03レベルの試料を 2Cで
時間は,初発菌数が 1
0
原料乳の細菌数は近年著しく減少の傾向にあ
保存した場合 1
3
.
8時間となり, 1
02レベル乳で
り,北海道生乳検査協会の北海道の合乳につい
は1
4
.
5時間となった。つまりこの温度条件では
0万
平成 3年度の平均で 1
初発菌数の少ないバルク乳では世代時間の延長
ての成績によると
-2
1-
1
0乳で 1
1
.
9時間, 1
0乳では 1
1
.8時間と初発菌
ーの変化や粘質化その他の欠陥を生じることに
3
口
刊
,
3
4
,
ι
い3口日
6
印
,
幻
3
7,
38
,
3
ついての報告がみられる 3川口丸
数の 1対数差は世代時間に影響を与えることは
仏
“
叫)o これらの欠陥は様々な発現のしかたをす
なく,この傾向は酪農家でのバルク乳の貯乳温
るが,タンパク質分解においては,風味の変化
効果が認められた。しかし 4Cの保存では,
0
3
2
度範囲である 6Cまで同様であった。 2Cに比
の中で特に苦みの発生が大きな影響を与える 35,
べると 4Cでは約 8
5%. 5-6o
Cでは 50%前後
45,
4
6
)
0
0
0
。
M
c
k
e
l
l
a
r47)は乳中での苦みの発現を,脂肪分
までに世代時間が短縮された。
三河2幻は,低温細菌として生乳中に多く出現
する Pseudomonasの世代時間についての試験
の結果,
OOCに対して 4-5Cでは世代時聞が
0
5C で の 世 代 時 間 は
0
Pseudomonasが 約 6時 間
ると,苦みが明らかに認識されるには,
F
l
a
v
o
b
a
c
t
e
r
i
u
mが
トリク
ロロ酢酸可溶性遊離アミノ酸量がUHT
乳では
o
.
2
8
9-0.
544μmol
45%程度まで短縮されることを報告している。
また笹野却は,
解を測定することによって報告した。それによ
低温殺菌乳では 0.
49
9-
0.746μmolが必要であるとされている。また
カッテージチーズの市場過程で,可溶性窒素の
1
1
.
8時間, K
l
e
b
s
i
e
l
l
aで 6
.
6時間, A
l
c
a
l
i
g
e
n
e
s
増加と低温菌の増殖によって苦みフレーパーが
で 9
.
2 時間,
しばしば増加する叫ことが観察された。
A
c
h
r
o
m
o
b
a
c
t
e
r
.9
.
3 時間,
低温菌のプロテアーゼはホエータンパク質よ
Aeromonasが 1
0.4時間であったことを報告し
ている。このように低温細菌はバルククーラー
りむしろカゼインの変性に大きく関与し,特に
の設定温度付近の僅か 1o
Cの温度差であっても,
Fーカゼイン,次いで、 αーカゼイングループ,
その増殖速度を変えるという傾向が観察されて
K
いる。したがって
良質な生乳を生産するには
ーカゼイン , y一カゼインの順にその影響が
及ぶとしい司寸う報告が多くみられる 4刊
, 4,
ω
口
9
札町
5 日
,
,九 ,
い
札,丸叫
,仏 ,,刈
,
“
凶
戸ーカゼインから生じたペ
バルククーラーの温度管理に十分注意を払わな
民
5
ι
6杭
5
7丸
5
8札
5
96
0札
616
26
3 64
)o
ければならない。
プチドは特に苦みの原因となるので,低温菌の
C
o
u
s
i
n
sら叫によると,生乳の初期のミクロ
増殖は極力抑制されることが望ましい。
フローラは,低温性のグラム陰性梓菌が10%以
低温菌の牛乳脂肪に対する影響は,主に乳中
内を占めているに過ぎない。しかし低温下に貯
脂肪の酸化分解により生じた遊離脂肪酸に由来
蔵すると速やかに優勢菌種となってしまう。こ
6
するランシツド臭である 35,
Lawらお)によって
AL
し
.
I
臼
Sha
ぬ
b
i
出
b
凶i
ら伺
6
7
η
)は炭素数 4カ
か
ミ
ら 8の脂肪酸は,
報告されている。また低温下で優勢を占めるの
r
a
n
c
i
df
l
a
v
o
r
)をもたらし, 1
0か
ランシツド臭 (
は
, Pseudomonasの菌種であることが多くの報
ら1
2の脂肪酸は不潔臭 (
u
n
c
l
e
a
nf
l
a
v
o
r
),石け
告者によって明らかにされている仏紙 27,制。十
ん臭 (
s
o
a
p
yf
l
a
v
o
r
)の原因となり,炭素数 1
4か
勝管内のバルク乳を用いた我々の最近の調査結
ら1
8まではフレーパーにあまり関与しないと報
果でも,同様な傾向を観察している。
告している。脂肪から分解された不飽和脂肪酸
のミクロフローラの変化は
多くの低温細菌は,低温下で貯乳中に,菌体
は酸化されやすく,その結果,厚紙臭 (
c
a
r
d
-
外プロテアーゼ,リバーゼを産生する能力を有
boardyf
l
a
v
o
r
),酸化臭 (
o
x
i
d
i
z
e
df
l
a
v
o
r
),金属
する則的。
臭(
m
e
t
a
l
l
i
cf
l
a
v
o
r
)など,異常風味 (
o
f
ff
l
a
v
o
r
)
乳や乳製品の品質に対する低温細菌のプロテ
を高める原因となるアルデヒド類やケトン類を
アーゼやリバーゼの影響については,プレーパ
生じる倒。低温菌が混入している生乳の低温貯
-2
2一
蔵中に遊離脂肪酸濃度が高まるという報告があ
6
るが刷,その風味に対する影響は菌数が 1
0か
7
告している。彼らが生乳から分離した
Pseudomonas, 腸 内 細 菌 科 ,
M
o
r
a
x
e
l
l
a
.
A
l
c
a
l
i
g
e
n
e
s,
ら1
0/m1以上でないと検出し得ないという。
F
l
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v
o
b
a
c
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i
a
.
A
c
i
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t
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b
a
c
t
e
r
低温細菌による脂肪分解活性は,菌株の違いに
Aeromonas,Achromob
a
c
t
e
r,B
a
c
i
l
l
u
sの 2
9株 の
より大きく異なると報告されている制。
結果から,低温菌の産生するほとんどのプロテ
多くの低温菌は,低温殺菌により細胞は死滅
アーゼは耐熱生を有するが, B
a
c
i
l
l
u
sc
e
r
e
u
sと
,
するが,耐熱性の菌体外プロテアーゼやリパー
B
a
c
i
l
l
u
sf
i
r
m
u
sのプロテアーゼは, UHT
殺菌で
ゼを産生する。 Adamsら制が生乳から分離し
a
r
c
i
aらはその後の
失活するといっている。 G
た低温細菌プロテアーゼのすべては, 1
4
9C1
0
報告で明,一年間以上にわたって大小規模の乳
秒で失活せず, UHTの殺菌条件では不活化で
株の低温細菌
製品工場への生乳試料から, 398
2
1C1
0分間でも不
きないことを示した。また 1
を分離した。その中の 266株の Pseudomonasか
活化しないプロテアーゼが生乳から分離された,
ら菌体外プロテアーゼとリパーゼを回収して,
0
0
7
九さらに,生乳から
という報告も見られる 45,
その熱安定性について調べた。低温菌の 67%が
3株の産生し
分離した低温性の Pseudomonas1
Pseudomonasで占められ,そのうちの 70%の菌
たプロテアーゼの活性は
77C17
秒間の加熱後
0
から回収されたプロテアーゼとリバーゼは,
に 55~65% が, 1
4
0C 5 秒間の加熱後にも 20~
1
3
0C1
5
秒間の加熱処理に耐えたと述べている。
40%が残存していたことを G
r
i
f
f
i
t
h
s ら叫が報
一定の加熱温度で,初期の酵素活性を 10%に
0
0
表 5 Pseudomonasから分離したプロテアーゼの種々の緩衝液中での D値
プロテアーゼ
分離源菌株
ーしゅ
a
止沈
凶
X
07
の
寸
F
防
d7
﹁
- 23 一
附
7
0
1
4
0
7
0
1
4
0
A
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防・ 11a
1
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・
且 4nFd
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n 1 / n ・1 7 .
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AFT21
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AFT36
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5
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1
6
0
8
.
8
3
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4
1
.5
引用文献
Z11
L
/LAftS/LK
NCDO2
0
8
5
加熱温度
1huηIaQdo
y
7 c 7QP
8h
aQdH
deQdS
P
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2
6
D値
(分)
Adamse
ta
l(
1
9
7
5
)70)
S
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p
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n
i
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ka
n
dFox
(
1
9
8
5
)77)
まで低下させる時間,つまり D値について,表
%
5
0
符
伐
町
玩
5
口
.
町
7
5, 6のような報告がみられる“仏.町ι7
この表から, Pseudomonasからのプロテアーゼ,
チーズ製造において,原料乳中の低温細菌が
•
ハ
U
a4
チーズの収率や製品の品質に大きな影響を与え
るという報告が多数見られる 35.4帆 札 79.80.81.8開 A
Fhu
とが明らかである。
訓告
チlズ中の水分
リバーゼはともにかなり高い耐熱性を有するこ
8
5
.8
6
.8
7
.8
8
.89.ω)
。
3
5
H
i
c
k
sは制,チーズ収量は原料乳の貯蔵期間
)。
収量は減少したことを報告している(図 4,5
3日もしくはそ
れ以上保存した原料乳からのカードの水分含量
が増加することに注目した。低温細菌の菌種が
異なることによって
たんぱく質や脂肪の分解
6
8
1
0
生乳の貯蔵期間(日)
中の水分含量の増加に伴うもので,乳固形分の
Chamanら
お
)
, Yanら91.92) も
,
4
2
が長くなるにつれて増大したが,これはカード
図 4 生乳の貯蔵がチーズ中水分量に与える影
響
H
i
c
k
s,C
.L
.Onuorah,C
.,O
'
L
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y,]
.and
L
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. E
., J
. D
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i
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y S
c
,
.
i 6
9
:
649-6571986.
0-0:gradeA milk
m
a
n
u
f
a
c
t
u
r
i
n
gm
i
l
k
.
・
:
速度は大きく異なる 81.則。一般にチーズ収量に
対する低温細菌の影響は,初発低温菌数の大き
でにおいて,固形分の回収率は一日当たり約
さと,生乳の保存期間の長さによって異なる o
0.5%低下した。さらに生乳の保存期間を延長
6
初発低温菌数が1
0 レベ
させるとチーズ固形分の収率は低下し,この低
ルの生乳を用いた時,原料乳の保存期間 4日ま
下と生乳中の菌数の増加との聞には関連が認め
H
i
c
k
sら閣の実験では
表 6 合成乳清緩衝液とりん酸緩衝液 (pH6.6) 中で加熱した Psedomo・
nasf
l
u
o
r
e
s
c
e
n
sAFT36から分離した精製リバーゼの D値
C
加熱温度, .
5
0
5
5
6
0
6
5
7
0
8
0
9
0
1
0
0
1
2
0
1
4
0
1
5
0
D値
1
/
2活性の加熱時間
乳清緩衝液
リン酸緩衝液
乳清緩衝液
リン酸緩衝液
6
0
0
1
2
9
3
6
.
3
1
8
.
0
7
.
5
6
.
0
1
2
.
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.
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.
9
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0.
48
1
2
7
1
3
.
5
1
.0
2
0
.
4
8
0
.
8
8
1
.2
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.
8
7
7.
43
1
.9
5
0
.
8
0
0
.
3
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.
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.
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.
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.
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.
1
0
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s
.5
0
:77-891
9
8
3
.
- 2
4-
に集約される。
6
.
5
ホエーたんぱく質,加水分解されたカゼイン
やペプチド,非蛋白態窒素などからなるホエー
固
形
分
6
.
0
の総窒素は生乳の保存期間が長くなるにつれて,
また貯蔵乳中に低温菌が存在している場合に増
自5.5
加することが認められている ω,ぉ刈。また,貯
収
量
乳期聞が長くなると凝乳時聞が延長され,低温
5
.
0
菌が混在している生乳ではやわらかいカードと
なるということも観察されているお.84.87.9九
4
.
5
0
2
4 6 8
チーズ品質は,生乳を約一日保存した場合僅
1
0
かに(統計的には有意差は認められない)向上
生乳の貯蔵期間(日)
図 5 生乳の貯蔵がチーズ中固形分回収量に与
える影響
H
i
c
k
s,C
.1
.Onuorah,C
.,O
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L
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L
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s, B
. E
.
, J
. Dairy Sc
,
.
i 6
9
:
649-6571
9
8
6
.
0-0:gradeA milk
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u
f
a
c
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u
r
i
n
gmi
1k
・
・
:
られた。この収率の低下は低温菌の産生した菌
体外酵素によるたんぱく質と脂肪の分解により
する。しかし,その後速やかに低下すると言わ
れている。 6日以上貯蔵した生乳から製造した
チーズは,一般にガス発生が見られ,ペースト
状なボディーとなる 79)。そしてフレーパーは果
実臭から極度の不潔臭となり,苦みフレーパー
が増大する。これらの変化は,芽胞形性能を有
する低温細菌が生残し増殖することによるもと
9
4
)。
の判断される 84,
引き起こされたものである。たんぱく質の分解
Yanら叫は,低温菌数が1
06より多い場合,
はカード中の水分の増加に伴って引き起こされ
十分量の栄養細胞,芽胞,耐熱性酵素が熟成過
た
。
程で優勢を占めることになり,この耐熱性酵素
H
i
c
k
sら閣の数種の試験の結果, 24時間から
が多分苦みフレーパーを強め
かつベースト状
36時間貯蔵した生乳では,チーズ収量の僅かな
のボディを作るのに関与しているのであろうと
増加(統計的に有意差は認められないが)が観
述べている。
察された。この現象は A
l
iら93)によっても報告
低温菌で極度に汚染されている生乳中の低温
されている。これは貯乳の初期において,温度
菌由来の耐熱性プロテアーゼ,リパーゼはカー
やpHの影響でカゼインの溶解性,特に Fーカ
ド中に保持され,熟成過程でボディーやテクス
ゼインの溶解性が低下したことによると説明さ
チャーに影響を与え,品質の低下をもたらすと
れている。高品質の生乳(初発低温細菌の割合
いわれているお刈。
が全菌数の 1
0から 20%を占めるような)を貯蔵
我々は十勝管内のバルク乳を用いてカッテー
した場合, pHが徐々に低下して収量の僅かな
ジタイプチーズ(試験 1)とゴーダタイプチー
増加をもたらすものと判断された。
ズ(試験 2
) を調製し
低温菌数とチーズ製造
結局,低温菌のチーズ収量に対する影響は,
特性との関係を調べた制。試験 lでは中温菌の
原料乳中の初発菌数の多少,チーズ製造までの
05レベルの生乳を用
初発菌数が1
03レベルと ,1
貯乳期間,生乳の貯蔵過程で優勢になる低温菌
いた。前者の試料では , 5Cでの生乳保存 5日
種とそのたんぱく質分解性と脂肪分解性,など
固まで,菌数の増加はほとんど認められなかっ
0
-2
5-
6
とやや増加
たが,後者の試料では 5日目で 1
0
1
0 レベ
した。一方,低温菌数は極めて少ない 1
3
0 レベルの試料(後者)
ルの試料(前者)と 1
乳質より細菌的乳質が大きな影響を与え,特に
日常の生乳保存条件下においてもその影響が十
分起こり得ることに注目しなければならない。
5
であった。保存 5日目には前者で約1
0近くまで,
後者で 1
06を超えるまで増加した。ここで検出
5Cより 4Cが
, 4Cより 2Cの貯乳が細菌
0
0
0
0
的乳質を高めるのに明らかに効果的であった。
チーズ製造技術は大きく進展しているが,そ
された低温菌のうち蛋自分解能を有する菌の割
5Cのインキューベートで判定し
合は , 5Cと2
の技術を生かして高品質の製品を作るには,先
た結果, 5日目で両試料とも約70%程度であっ
ず高品質の原料乳を供給しなければならない。
た。一方,脂肪分解能を有する菌は, 5日目に
この点から乳質改善の努力はますます必要にな
は100%近くに達した。このような原料乳から
ってくる。
0
0
調製したカッテージチーズの収率は,生乳の保
生乳の生産環境を充実することが,チーズを
存日数とともに 10~20% 程度低下した。また固
初めあらゆる飲用乳,乳製品の品質を向上させ
形分収量も約90%前後に低下した。物理特性値
る基本的な条件と考えられる。
の測定の結果から,原料乳の保存期間が長くな
ると,ペースト状なボディーのチーズとなった。
この傾向は初発低温菌数の高い生乳から得られ
参考文献
1) 日本乳製品協会,日本乳業年鑑
1
9
9
2年版
資料編, 1
8
1
9,日本乳製品協会。東京1
9
9
2
.
たもので顕著であった。
3
次に初発低温菌数が1
0 レベルの生乳を 9日
2) 日本乳製品協会,日本乳業年鑑 1
9
9
2年版
間まで 5Cで保存した。生乳の菌数は 9日目で,
資料編, 2
0
2
1,日本乳製品協会。東京1
9
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0 にまで増加した。脂肪分解菌,たんぱく分
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m
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e
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民 L
.and Simard,P
.E
.,B
i
t
t
e
rf
l
a
-
解菌の全低温菌数に占める割合は,ともに生乳
v
o
u
ri
nd
a
i
r
yp
r
o
d
u
c
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.1
.A r
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の保存日数が長くなるにつれ高くなり , 9日目
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t,
には 80~90% 程度となった O また原料乳の低温
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e, L
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t, 7
1
菌叢は,保存一日目ですでに Pseudomonasが
599-6361991
.
65%を占め, M
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s科がこれに次いでい
4) P
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た。保存期聞が長くなるにつれ Pseudomonas
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-
の割合が増し,
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kq
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y,Z
i
v
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c
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s
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aVyroba
,34
9日目では80%を超えていた。
:491-4971
9
8
9
.
原料乳の全窒素に対する非蛋白態窒素の割合は,
保存日数とともに増加し,プロテオース・ペプ
5) B
a
s
s
e
t
t
e,R
.
, Fung
,D
.Y
.C
.and.Mantha,V
.
トン画分およびアミノ態窒素面分もともに増加
R
.
, O
f
f
f
l
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o
r
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nm
l
l
k,CRC.C
r
i
t
.R
e
v
.Food
した食用適期にチーズの物理特性値を測定した
S
c
i
.N
u
t
r
.,24:1-521
9
8
6
.
結果,原料乳の保存日数の長いものほど脆弱な
6) Matoba,T
. and H
a
t
a,T
.,R
e
l
a
t
i
o
n
s
h
i
pb
e
-
ボディーとなり,特に, 9日保存乳から調製さ
t
w
e
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nb
i
t
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s
so
fp
e
p
t
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h
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m
i
c
-
れたチーズは,他の試料と比べ明らかに品質の
a
l s
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e
s, A
g
r
i
c
. B
i
o
l
. C
hem., 36
劣るものであった。
1423-14311
9
7
2
.
以上,これら多くの報告や我々の試験結果か
7) V
i
s
s
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