2015 年 1 月 16 日発行 英語の複数形 日本語に比べると英語は身に着けるものを複数形で表すことが多いが、 その背景はなかなか複雑で、日本人にとっては理解するのが難しい。 丸 山 純 一 (まるやま じゅんいち) シティグループ・ジャパン・ ホールディングス株式会社 執行役員 1977 年に東京大学法学部卒業後、大蔵 省(現財務省)に入省。アメリカ合衆国日本 大使館(在ワシントン)や欧州復興開発銀行 (在ロンドンの国際機関)などの在外勤務を 経験した後、財務省国際局において様々 な課長ポストを歴任。その後、外務省欧州 局審議官、金融庁国際担当審議官を経 て、2009 年 7 月から 1 年間横浜税関長を 務める。2010 年 10 月、シティバンク銀行 顧問に就任し、2011 年 1 月より副会長。 2013 年 7 月よりシティグループ・ジャパン・ ホールディングス株式会社に移り、現在執 行役員、ガバメント・アフェアーズ担当。米 国プリンストン大学にて修士号を取得。三重 県出身。 筆 者の見るところでは、日本語に比べて英語のほうが身に着けるも のを複数形で表現することが多いような気がする。その場合いく つかのグループ分けができると思われるので、順番に説明してみよう。 ま ずは物理的に二つに分かれているが、ワンセットになっているも の。shoes(靴)や socks(靴下)など、片方をなくすと用をなさ ないものである。これらのものは英語では複数形になり、しかも単純な 複数形ではなく a pair of shoes といった形をとる。これらの単語は日 本語でも「シューズ」とか「ソックス」と言って複数形にそのまま置き 換えられている。では、a shoe とか a sock という言葉は使われるので あろうか?英語が母国語のアメリカ人に聞いてみると(シティバンクは この点は大変便利で、社内で簡単に英語のネイティブ・スピーカーが見 つかる) 、「あまり聞いたことはないが意味は分かる。片方の靴下という 意味だろう?」とのこと。two socks と言うと、右足だけ、あるいは左足 だけの靴下二つを指す可能性が高いとのこと。それで、many socks とい うと、右足、左足に関係なくばらばらの状態の靴下がたくさんある状態 をさすらしい。 次 が英語話者から見ると二つの部分からできているが、日本人から 見 る と 一 つ の も の と いう カ テ ゴ リ ー 。 trousers ( ズ ボ ン ) や scissors(ハサミ)などである。これらのものは日本人から見るとひと つのものであるが、英語では常に複数形となり、日本人がよく間違える ◎ 「シティバンク 丸山の視点」は丸山純一氏、個人の見解となります。シティバンク銀行株式会社またはシティグループにおける各社の見解とは異なります。 1/2 2015 年 1 月 16 日発行 単語のひとつである。ちなみにこれらの単語を trouser や scissor とい った単数形で使うことがあるかと英語話者に聞いてみたところ、 「聞いた ことがない」とのこと。確かに真ん中から切られた状態のズボンなどズ ボンとしての用を全くなさないので、単数形を使わないというのも理解 できる。 こ の中間に入るのが、glasses(眼鏡。イギリス英語では spectacles) という単語で、二つに分かれているといえば分かれているが、一 つのものといえば一つであるといえるもの。これも常に複数形で用いる。 ただ、この glasses という単語はなかなか曲者で、a pair of glasses で は確かに「眼鏡」であるが、three glasses というふうに pair を使わな いで複数形にすると「コップ」の意味になる。また、数えられない名詞 として「ガラス」という意味もあり、この場合は、a sheet of glass と か、a piece of glass という形で表現する。 さ て、我々日本人の感覚でどうしてもわからないのが、pajamas「パ ジャマ」という単語である。 「なんでパジャマは常に複数形になる の?」と英語話者に聞いてみたところ、答えは「わからない」とのこと。 慣用的にいつも複数形で使っていて深く考えたことがないらしい。まあ 日常の用語の使い方などそういうものかもしれない。調べたところ、こ の複数形はパジャマの上と下を意識したもので、パジャマの上のほうは pajama top と呼ぶらしい。パジャマというものは英語話者にとっては二 つの部分からなる着物ということになる。 そ う考えてくるとわからないのは、a suit「スーツ」である。通常 「スーツ」というと背広の上下ワンセットになっているものを指 す。さらにはベストも入れる場合がある(三つ揃い)にもかかわらず単 数形なのである。モノの本によると、 「suit という単語がそもそも『ひと そろい』という意味が原義だったから」ということなのであるが、こう なると日本人には理解できなくなる。英語の複数形というのは本当に難 しいものである。 ◎ 「シティバンク 丸山の視点」は丸山純一氏、個人の見解となります。シティバンク銀行株式会社またはシティグループにおける各社の見解とは異なります。 2/2
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