ダブルリミテッド問題の 現状とその支援

観 光 立 国 を 標 榜 し て い る 日 本。
2013年に日本を訪れた外国人
移民の子どもたちの学力
O E C D( 経 済 協 力 開 発 機 構 )
の国と地域を対象に実施した、
回国連総会に
なぜ学力が振るわないのだろう
か。
1989年の第
おいて採択され、日本も 年に批准
ジル人児童生徒支援活動を業務委
から三井物産が取り組む在日ブラ
れている。当センターは2005年
力と比べて明らかに低いと報告さ
の学力がネイティブの子どもの学
よると、多くの国では移民の子ども
到達度調査)の結果に基づく分析に
2003年のPISA(生徒の学習
の権利が守られているとは言い難
と、外国にルーツのある子どもたち
しかし、学力の差を見せつけられる
育を受ける権利」も含まれている。
て お り、 当 然、 子 ど も た ち の「 教
つ権利、参加する権利)で成り立っ
( 生 き る 権 利、 守 ら れ る 権 利 、 育
ど も の 権 利 条 約 )」 は、 4 つ の 柱
した「児童の権利に関する条約(子
が
託として引き受けており、私も毎年
人 間 が も の を 考 え、 他 人 に 自 分
い。
ちの実態が想像以上に大変であり、
の気持ちを伝えるには、語彙とその
とれないと、つい暴力に訴えるとい
足に繫がり、コミュニケーションが
習得が遅れるということは、学力不
つ ま り、 当 然 の こ と だ が、 言 語
る。
の 力( 学 習 言 語 ) が 必 要 な の で あ
ではない。学習についていけるだけ
ができるというレベル(生活言語)
単に、友だちと話ができる、買い物
語が習得できているということは、
ル ー ル、 つ ま り 言 語 が 必 要 だ。 言
早急な改善の必要性を感じている。
日本各地を回っているが、子どもた
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〈観光客〉は1036万人に達し
万 人 が〈 労 働
た。一方、日本には約209万人の
外 国 人 が 住 み、 約
者〉として働いている 。
私たちの生活・経済はこの人たち
に依っているところがかなりある。
大手企業に直接雇用されているケー
スは多くないが、その工場が使う部
品の、またその一部をつくる工場で
働いている人もいるし、皆さんがコ
ンビニで毎日目にする弁当も彼らが
つくってくれている。
在 日 外 国 人 に 関 し て は、 雇 用 環
境、生活環境、教育などの問題があ
る。今回は教育に関して、特に子ど
もの言語習得に焦点を当てて、その
実態をお伝えし、早急な対策が必要
であることを知っていただきたいと
思う。
なぜなら、彼らの権利を守り、良
き隣人が増えることは、結果として
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うことにもなり得る。
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我が国にとっても、利益をもたらす
岐阜県美濃加茂市のブラジル人学校幼稚園クラスの
ダンスの様子(ツアーで訪問)
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ことになるからである。
◇ 特別寄稿
■ 特集:多文化共生と「ダブルリミテッド」の現状
ダブルリミテッド問題の
現状とその支援
特定非営利活動法人国際社会貢献センター(ABIC)
柴崎 敏男 話しかける時間も余力もないため、
と、小学校一年入学時点でみられる
多 い が、 子 ど も た ち の 実 態 を み る
で、自信を喪失してしまう。一方、
が 悪 い、 頭 が 悪 い 」 と い わ れ が ち
頭は悪くないのに周りからは「成績
下レベルといったところだろうか。
の子どもたちと比較すると数学年
語を習得するのだろうか。言語習得
子どもたちは母語(継承語)ですら
日本の児童との語彙・学力の差は、
母語での学習を継続している訳で
は解決すると思っている保護者は
に関しては多くの説があるが、人は
正しく身につける機会がない。家庭
成 長 す る に つ れ、 縮 ま る ど こ ろ か
はないので、母語の学力レベルも落
ている保護者には、子どもに丁寧に
生まれながらにして言葉を獲得す
で教科学習に必要な、正確な日本語
広がる傾向にあり、小学校高学年、
を適正に伸ばして、日本語が話せる
がある。駅などの荷物預かり所のよ
いる児童の生育にも、おおいに問題
預かるような託児所に入れられて
ができるので、傍目からはバイリン
てもよく話せるし、母語も使うこと
彼 ら は、 表 面 的 に は 日 本 語 が と
学習能力は、残念ながら伸びない。
ような環境で育った子どもたちの
の宿題をみることもできない。その
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私たちはいったいどのように言
る能力を備えているようだ。とはい
中学校で落ちこぼれになってしま
ようになっていく。つまり、生育環
うに一時期だけ置いておくのとは
ガルのように見える。しかし、日本
前 述 の よ う に、 1・ 5 世 代 の 問
し、 ま し て 日 本 語 力 は ほ と ん ど な
か。 継 承 語 で さ え 正 し く 使 え な い
その家庭での言語はどうだろう
たちが、今、子どもを育てている。
1・5世代の人たちがいて、その人
ダブルリミテッドの状態になった
てきた子どもたちのなかには、この
実は、1990年代に日本に入っ
ブルリミテッド」である。
分な力が備わっていない状況が「ダ
こ の よ う に、 両 方 の 言 語 と も 十
ちて行く。
を教えることができる外国人の保
者によっては、自身が十分な教育を
1・5世代問題
うケースが多く見られる。
護者は、どれだけいるだろうか。
が難しいといわれている。その時期
受けていないために、教育の重要性
い言葉に接することがないと習得
は「臨界期」と呼ばれている(「感
世 代 問 題 」 と は、 親 と
一 緒 に 移 民( 移 動 ) し た 小 学 高 学
「 1・
育を施すことができない事例が多
年から中学生くらいの子どもたち
が陥る問題のことである。彼らは、
移動した先の現地語、例えば日本語
を一生懸命に学ぼうとするが、一方
では継承語(ブラジルの場合はポル
トガル語)に触れる機会が少なくな
境が整わなければ、多くの人が理想
わけが違う。世話を必要としている
語の語彙も表現力・理解力も不十分
題は単に本人だけの問題ではない。
く、学校から帰ってきた子どもたち
だと思っているバイリンガルどこ
生身の人間であることが忘れ去ら
な の で、 当 然 授 業 に つ い て 行 け な
り、語彙も減少する。
ろか、一つの言語も習得できない。
れている。
翻 っ て、 日 本 に い る 外 国 人 労 働
その家庭に育った子どもは、さらに
者をみると、早朝から深夜まで働い
日本の学校に通い始めれば問題
い。学力のレベルは、同年代の日本
資格も経験もない人間が子どもを
恐れがあるということだ。さらに、
言語を習得する機会を失っている
子どもたちは、重要な時期に適正に
つ ま り、 こ の よ う な 家 庭 で 育 つ
いことである。
きていても、子どもたちに適正な教
が理解できていない場合や、理解で
ない。親が話しかけ、社会的な環境
ことができても、日本語は習得でき
がなければ、その国の言葉は覚える
も、外国にいて日本語に触れる機会
は 明 白 で あ る。 日 本 人 の 子 ど も で
といっても、環境が重要であること
一 方、 言 語 習 得 の 能 力 は 生 得 的
受性期」という学者もいる)。
さ ら に も う 一 つ の 問 題 は、 保 護
歳から
歳位まで十分な刺激を受け、正し
え、ある年代、具体的には
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がその子の持っている言語の能力
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■ 特集:多文化共生と「ダブルリミテッド」の現状
教育的には多くの問題を抱えるこ
たち〉が増え、社会問題が増大する
1990年の入管法(出入国管理及
現在の政府は移民政策をとらな
になっている。労働者として受け入
(離婚、シングルマザー等)に犠牲
の子どもが教育的にまたは家庭的
整備のまま進められたために、多く
なった。しかし、受け入れ環境が未
3世まで定住ビザがもらえることに
び難民認定法)の改正で、日系人は
いと明確に言っているが、少子高齢
れる外国の人々も、家族を持った生
政 府・ 自 治 体・ 教 育 関 係 者・
NPO・企業等などの協力によって
はじめて、日本に暮らす外国にルー
ツのある子どもたちに、日本と母国
の架け橋になる可能性が開け、日本
にとっても重要な役割を果たしてく
れるようになると期待している。
定非営利活動法人難民支援協会の理事などを務める。特別講師として大学で
だけで、解決が急務である。
ま ず は、 子 ど も が、 少 な く と も
化を迎える日本にとって、外国人の
きた人間であるということをしっか
にて三井物産の業務委託として在日ブラジル人支援活動を継続するともに特
とになる。このような家族が新しく
ひとつの言語で思考ができるよう
力を借りなければ、震災後の復興だ
り認識して外国人を受け入れるこ
Social
年 6 月に同社退職後も、特定非営利活動法人国際社会貢献センター(ABIC)
ダブルリミテッドの子どもたちを
に、 い わ ゆ る 臨 界 期 に 達 す る ま で
けでなくオリンピックでさえまと
とが、政府が取るべきSR(
2005 年より在日ブラジル人支援、特に児童生徒支援活動を担当し、2012
公的な対策を
に、遊びや生活を通じて多様な刺激
もにできないことは、火を見るより
年より広報部で芸術文化活動、障がい者支援などの社会貢献活動に携わる。
生み出してしまう連鎖を断ち切る
を適正に与え、さまざまな生活経験
明らかで、外国人が増える傾向は続
:社会的責任)だ
Responsibility
と思う。
そのためには、まず、国としての
移民政策を遅滞なく策定し、それに
基づき自治体への資金的、人的支援
を早急に行う必要がある。それを受
け、現在の種々の支援に加え、特に
1970 年三井物産株式会社入社、鉄鋼部門、10 年間のドイツ勤務経て 96
には、何が必要なのだろうか。
をさせながら、しっかりと言語レベ
労働力不足を補うための
くと思われる。
ルを上げることが必要だ。
し か し、 生 活 の た め に 働 か ざ る
を得ず時間的に余裕がなく、
自身が教育を受けていない
保 護 者 に 向 か っ て、 そ の 重
要さを説明し教育するよう
重要と思われる就学前の児童の支援
(愛知県などで始めた「プレスクー
ル」)をはじめ、各地で成功例のあ
企業の社会貢献の講義も行う。
に い っ て も、 そ れ は 非 現 実
的 で あ る。 家 庭、 保 護 者 に
は頼れない問題なのであっ
て、 こ の 負 の 連 鎖 を 断 ち 切
る学校での放課後支援活動や、外国
人の保護者を雇用している企業で
は、企業内研修による保護者の日本
柴崎 敏男(しばさき・としお)
PROFILE
る に は、 公 的 な 支 援 ま た は
よ る 支 援 が 必 要 だ。 こ の ま
地域の住民やNPOなどに
語研修などを提供することで、子ど
もたちはかなり救われるだろう。
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ま で は、 O E C D の 報 告 の
通 り の〈 学 力 の 低 い 子 ど も
2014 年の「外国に住む子どもの教育問題ツアー」(三井物産 /
ABIC)で日本各地を回ったブラジルの臨床心理士の先生方と