はじめに • この講義では、マクロ経済学とミクロ経済学の基 礎を学習します。 • 最初に、経済学とは何を研究する学問なのか、そ の定義を考えましょう。 経済学とは 1 1 経済学の定義 サムエルソン(Paul Anthony Samuelson, 1915- ) 1970年(第2回)ノーベル経済学賞受賞 シカゴ大学卒、ハーバード大学大学院、1941年博士号、 1940年以来MITで教える。 ロビンズ(Lionel Charles Robbins, 1898-1984) 『経済学の本質と意義』 『経済分析の基礎』 Foundations of Economic Analysis, 1947 An Essay on the Nature and Significance of Economic Science, 1932. 「経済学とは、代替的用途をもつ稀 少な諸手段と諸目的との間の関係 として人間行動を研究する学問で ある。」 2 • 均衡理論の性格、比較靜学、均衡動学、均 衡の安定条件、厚生経済学などを含む数 理経済学における画期的名著。 出典:http://www.npg.org.uk/ 『線形計画と経済分析』 Linear Programming and Economic Amnlysis, 1958 3 • R. Dorfman、R. Solowとの共著 4 2人の定義に共通して現れる用語 『経済学』 Economics: An Introductory Analysis, 1948 「経済学とは、人々ないし社会が、家計の媒介に よる場合よらない場合いずれも含めて、いくつか の代替的用途を持つ稀少性のある生産資源を用 い、時間をかけて様々な商品を生産し、それらを 現在および将来の消費のために社会の色々な 人々や集団の間に配分する上で、どのような選 択的行動をするか、ということについての研究で ある。」 •稀少性 •代替的用途 •合理的選択 (例) 生産 資源→財 消費 予算→財 5 6 1 2 分析視点 (1):インプットとアウトプット 要するに、経済学economicsとは、 (ⅰ)インプット(=費用)とアウトプット(=便益)、 損得勘定 「経済社会における個人(消費者または 家計)、企業、政府の財またはサービス の生産・消費・分配に関する合理的行動 の分析をおこなう」学問 (ⅱ)稀少性と機会費用 • 一定の便益をもたらすインプットの中で、どれが 費用最小となるか 経済問題とは、 (1)資源配分の問題=何をどれだけ、 (2)技術選択の問題=どのように、 (3)分配の問題=誰のために生産するか、 (4)再分配の問題。 • 一定の費用が掛かるアウトプットの中で、どれ が便益最大となるか 7 (a)インプットもアウトプットもない場合 →何も起きない 8 (c)アウトプットのみでインプットのない場合 →努力の有無に関係なく成果が上がる →棚からボタ餅 (b)インプットのみでアウトプットのない場合 (d)インプットがありアウトプットの出る場合 →どんなに努力を重ねても結果が得られない →骨折り損のくたびれ儲け → 経済学の対象 アウトプット あり あり ① アウトプット なし ② あり あり 骨折り損 インプット ① 経済学 の対象 インプット なし ③ ④ × なし なし ② ③ 棚から ボタ餅 ④ 骨折り損 × 9 10 3 分析視点 (2):ギブとテイク (a)ギブもテイクもない場合 →何も起きない (c)テイクのみでギブのない場合(強制収奪) (b)ギブのみでテイクのない場合 →無償の愛、慈善 (d)ギブがありテイクもある場合 →略奪 →交換・取引(経済学の対象) テイク あり ① ① 無償の愛 慈善 ③ なし あり ② あり ギブ テイク なし ギブ × ③ なし 11 ② 無償の愛 慈善 交換・取引 あり ④ なし ④ 略奪 × 12 2 マスグレイブRichard Abel Musgrave (1910-2007) • 例外 =テイクばかりでギブのない場合で経済学の対 象となるもの (例) 税金、移転(生活保護、海外援助) • アメリカの指導的財政学者。ドイツ生まれ、 1933年ハイデルベルグ大卒業後、アメリ カに渡る。 『財政理論』 The Theory of Public Finance, 1959 13 14 アダム・スミスAdam Smith (1723-90) 『諸国民の富』 • スコットランドの哲学者、社会学者、経済学者。グラス ゴー大学、ロンドン大学卒、1751-64年グラスゴー大学 の倫理学教授、道徳哲学教授。 • 1766年以降、郷里のカーコルディで『諸国民の富』の執 筆に専念した。単に経済の体系であるだけではなく、同 時に法制的な、道徳的な生活面を含む一社会体系であ る近代市民社会を、道徳・法・経済の総体としてとらえて、 総括的、全体系的に分析した。 • 仁義・正義・便宜の3法則に、同感sympathyという社会 的、歴史的原理が統一を与えるとした。経験的自然法 の立場から、「国民の富」の源泉を労働一般に求めた (ペティの労働価値説の体系化)。 An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations, 1776 「分業は、人間の本性にひそむ交 換という性行から生じる。犬同士が、 一本の骨をべつの骨と、公正に、し かも熟慮のうえで交換するのを見 た人はだれもいない。」 (第1篇第2章「分業をひきおこす原 理について」) 15 4 分析対象 16 経済体制を分ける基準 (a)資源配分に関する意思決定 分権的→市場経済 集権的→計画経済 (b)物的資産の所有権 私有制→資本主義 公有制→社会主義 • 分析対象=混合資本主義市場経済 (例)社会主義体制から混合資本主義体制へ 中国=改革・開放路線(鄧小平) 動産 金融資産 有形 不動産 物的資産 無形 ・・・「のれん」 人的資産 17 18 3 5 ミクロ (micro)経済学 とマクロ (macro)経済学 物的資産の 所有権 私有制 公有制 分権的 資本主義 市場経済 社会主義 市場経済 集権的 資本主義 計画経済 社会主義 計画経済 資源配分 に関する 意思決定 (a)ミクロ経済学 =経済を構成するさまざまな産業や、企業、 個人の経済活動を分析 →個々の財の価格や需要量、供給量の決定 (資源配分) →需要、供給、価格 (price) 19 20 6 フロー(flow)とストック(stock) (b)マクロ経済学 =一国経済の総体的な姿を、個別の経済主体(=機能に よる分類)の行動の細部にまで立ち入ることなく分析 (「鳥瞰」 bird's eye view) →雇用、景気、インフレーション、デフレーション →国民所得、物価水準 (prices)、利子率、為替レート、 貨幣(通貨)供給量 (a)フロー=一定期間における流れ、変化量 ◎財・サービスの流れ=需要、供給 ◎貨幣(購買力)の流れ(=所得) →損益計算書 ストック=ある時点における蓄え、存在量 ◎財の蓄え(注、サービスは蓄えられない =生産と消費の同時性) ◎貨幣または生産要素の蓄え(=資本) →貸借対照表 ・・・平均的な人々の暮らし向き 21 (例)ダムの貯水量(ストック)と流入量、流出量(フロー) 22 (b)経済変数の二面性: 期末のストック=期首のストック+期間中のフロー (例) 4月末の預金残高 =4月1日の預金残高+4月中の預け入れ−引出し 流入量 流出量 (c)ストック経済=毎年新たに生産され消費さ れるフローに比べて、過去から引き継がれた 資産や資本などのストックの重要性が相対的 に大きな経済 →量的拡大から質的拡充へ 貯水量 23 24 4 7 経済主体(機能による分類) 8 経済学的な考え方 (1)選択行動 稀少資源、財は複数種類 • 消費者(=家計)←効用最大化 • 生産者(=企業)←利潤最大化 (2)主観価値説 機会費用、効用 (例)空気とダイヤモンド 以上2つは、民間主体(私的部門) (3)限界分析 • 政府(公的部門) • 外国部門 (4)特化と交換 市場=交換の場、価格=交換比率 財→価格、サービス→料金、労働→賃金率、 今日の購買力と1年後の購買力→利子率、国内通貨と 外国通貨→為替レート 25 26 (5)需要と供給 価格による調整 (6)誘因 合理性 (7)理論と検証 科学的思考、仮設、演繹体系 (8)記述的理論・実証的理論と規範的理論 • 記述的理論descriptive、実証的理論positive =経済主体の意思決定を記述し、説明する。 • 規範的理論prescriptive, normative =経済主体の合理的行動を提示する。 27 5
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