検索連動型広告オークションの ゲーム理論分析

ションでは、各掲載位置について等しい入札をすることのみ考え
ていたが、本論文については、各掲載位置ごとに入札するような、
検索連動型広告オークションの
ゲーム理論分析
A Game Theoretic Analysis of
Sponsored Search Auctions
制度設計理論(経済学)プログラム
07_13786 菅野 竜太 Ryuta SUGANO
指導教員 武藤 滋夫 Adviser Shigeo MUTO
VCG オークションを考える。また、Ghose and Yang (2009) が述べ
たような、各広告主にとって、自社広告がより上に掲載されている
ときほど、一回のクリックの評価値が高い環境を仮定する。このと
き、既存の GSP オークションと、今回考えた VCG オークション
において、どのように広告主が入札をして、どのように広告主たち
は割り当てられていくのか、それぞれ分析する。また、この二つの
オークションについて、どちらのほうが検索サイト運営企業に高い
収益をもたらすのかを考察する。
モデル
2
1 はじめに
1.1
本研究の背景
現在、インターネット広告市場の約半分が、検索連動型広告と呼
ばれるものである。検索連動型広告とは、検索エンジンのあるサイ
トで検索したとき、検索結果に伴い表示される広告である。その広
告は、一度の検索において同時にいくつも表示される。そして、そ
れらの広告は、検索するときに使用したキーワードと関連してい
る。このような検索連動型広告の市場規模は、毎年増え続け、2010
年ではおよそ 3 兆円である。検索連動型広告を主な収益源としてい
る代表的な企業として、Google と Yahoo! があり、Google ではそ
の収益の 97 %、Yahoo! ではその収益の 36 %が、検索連動型広告
によるものである。
広告の掲載位置の割り当てや、一度のクリックあたりに広告主
が支払う金額は、オークションによって決められる。現在使用さ
れているオークションにおいて、それぞれの広告主は、一回のク
リックに対し、金額を検索サイトの運営企業に申告する。Google
や Yahoo! などの検索サイト運営企業は、申告された入札額が高い
広告主から順に、上から掲載位置を割り当てていく。そして、それ
ぞれの広告主は、一つ下の掲載位置に割り当てられた広告主の入
札額を、一度のクリックあたりに支払う。このようなオークション
は、一般化第二価格(Generalized Second Price: GSP)オークショ
ンと呼ばれる。このオークションは商業的にも成功して、2002 年
に Google が初めて導入して以降、他社も順次導入していった。
1.2
先行研究と本研究の目的
先行研究としては、 Varian (2007) や Edelman et al. (2007) が存
在する。これらの論文では、現在使われている GSP オークション
だけでなく、理論的に望ましい性質を多く持つ、ヴィックリー=ク
ラーク=グローブス (Vickrey-Clarke-Groves: VCG) オークションと
呼ばれるオークションについても、考えている。そして、各広告主
の一回のクリック当たりの評価値が、自社広告の掲載位置によらず
一定のとき、二つのオークションのそれぞれにおいて、どのように
広告主が入札し、割り当てられていくのか、分析し、二つのオーク
ションを比較している。
しかし、Ghose and Yang (2009) は、広告主たちは掲載される位
置によって、一回のクリックあたりの評価値が異なり、各広告主に
とって、その評価値は上にある掲載位置の方が高いことを実証的に
示した。既存の GSP オークションでは、一回のクリックに対して、
金額を入札するのみなので、各広告主は個人の選好を十分に表明で
きない。
本論文においても、先行研究と同様に、GSP オークションと VCG
オークションについて分析する。先行研究における VCG オーク
2.1
2.1.1
基本設定
スロット
あるキーワードについて、検索連動型広告には N 個の掲載位置
があるとする。各掲載位置をスロットと呼び、掲載位置が一番上
のものから順に、スロット 1、スロット 2、…スロット N と名付け
る。便宜上、実際には表示されないスロットを考え、それをスロッ
ト N+1 とする。それぞれの広告のクリック数は、掲載位置に応じ
て外生的に決まるとする。一般に掲載位置が高いほど単位時間あた
りのクリック数が高いことが知られている。スロット s の単位時間
あたりのクリック数 x s は x1 > x2 > · · · > xN > xN+1 = 0 とする。
2.1.2
プレイヤー
ゲームのプレイヤーは、そのキーワードに関して、検索連動型広
告に掲載されることを希望する広告主とし、N+1 人の広告主がい
るとする。前述したように、掲載位置が上にあるほど、一回のク
リックあたりの評価値が高いと仮定する。つまり、スロット s に
割り当てられた、広告主 a の一回のクリックあたりの評価値 vas は
va1 ≥ va2 ≥ · · · ≥ vaN > vaN+1 = 0 とする。
2.1.3
利得関数
一般に検索連動型広告では、広告主は、自らの広告が一回クリッ
クされるごとに、検索サイト運営企業に金銭を支払う。スロット s
において、一回クリックされるごとに広告主が支払う金額を p s と
する。このとき、スロット s に割り当てられた、広告主 a の単位時
間あたりの利得は uas = (vas − p s )x s となる。
2.1.4
共有知識について
検索連動型広告オークションは、広告主があまり入れ替わること
なく、何度も行われる。よって、本研究では、GSP オークション、
VCG オークションとも情報完備な標準形ゲームとして定式化する。
そのため、各広告主にとって、自分以外の広告主が各スロットに対
して持つ評価値なども、共有知識とする。
2.2
2.2.1
GSP オークション
戦略と割り当て
GSP オークションにおいて、各広告主は、一回のクリックに
対して、金額を入札する。したがって、任意の広告主 a は非負
の実数値 ba を入札する。このオークションにおいて検索サイト
運営企業は、入札額が高い広告主から順に、上のスロットを割
り当てていく。よって、GSP オークションにおいて、スロット
s に割り当てられた広告主を ϕ(s) とするような、全単射の割り
当て関数 ϕ : {1, 2, . . . , N + 1} → {1, 2, . . . , N + 1} を定義すると、
i < j ⇒ bϕ(i) ≥ bϕ( j) となる。
2.2.2
支払い額
それぞれの広告主は、入札額が自分より一つ下の広告主の入札額
を、一回クリックされるごとに支払う。つまり、スロット s に割り
当てられた、広告主の一回のクリックあたりの支払額は p s = bϕ(s+1)
• GSP オークションにおける EFN (LEF) 均衡の割り当ては、
VCG オークションにおける支配戦略均衡の割り当てと一致
で与えられる。ただし、見かけ上のスロット N + 1 に割り当てられ
た広告主の支払額は pN+1 = 0 とする。
する。
• GSP オークションにおける EFN (LEF) 均衡の支払い額の最小
値は、VCG オークションおける支配戦略均衡の支払い額と一
定義 1. (Edelman et al.[1],Varian [3]) b = (b1 , b2 , · · · , bN+1 ) が envyfree Nash (EFN) 均衡であるとは、ある割り当て ϕ が存在して、
致する。
(vϕ(s)s − p s )x s ≥ (vϕ(s)t − pt )xt , f or all s and t
が成立することである. ただし、 pt = bϕ(t+1) とする.
これらの結果より、Edelman et al. (2007) や Varian (2007) などの
先行研究と同様な結果を得る。
3.2
Varian (2007) により、EFN 均衡であるならば、Nash 均衡である
ことが示されている。
2 × 3 における分析
スロットを2個、広告主を3人とする。評価値について前節のよ
うな仮定をおかないと、以下の結果を得る。
定義 2. (Edelman et al.[1],Varian [3]) b = (b1 , b2 , · · · , bN+1 ) が locally
• LEF 均衡ならば、ある特定の条件を満たすとき、EFN 均衡と
envy-free (LEF) 均衡であるとは、ある割り当て ϕ が存在して、
なる。
• GSP オークションにおける EFN 均衡の割り当ては、VCG オー
(vϕ(s)s − p s )x s ≥ (vϕ(s)s−1 − p s−1 )x s−1 , f or s = 2, 3, · · · , N + 1
(vϕ(s)s − p s )x s ≥ (vϕ(s)s+1 − p s+1 )x s+1 , f or s = 1, 2, · · · , N
クションにおける支配戦略均衡の割り当てと一致する。
• GSP オークションにおける EFN 均衡の支払い額の最小値は、
VCG オークションおける支配戦略均衡の支払い額と一致する。
となることである. ただし、 pt = bϕ(t+1) とする.
これらの結果より、GSP オークションにおける EFN 均衡につい
定義より、EFN 均衡であるならば、LEF 均衡となる。
2.3 VCG オークション
ては、先行研究と同様な結果を得る。一方で、先行研究と異なり、
2.3.1 戦略と割り当て
GSP オークションにおいて、LEF 均衡であっても、必ずしも EFN
均衡とはならないことがわかる。また、LEF 均衡の支払い額が、
VCG オークションでは、各広告主は、すべてのスロットに対して
入札を行う。つまり、各広告主 a は、N+1 次元の入札ベクトル ba =
VCG オークションの支配戦略均衡における支払い額を下回る場合
(ba1 , ba2 , · · · , baN+1 ) を申告する。それに対し、検索サイト運営企業
があることもわかる。
は、社会的余剰が最大化されるように、広告主たちを割り当てる。
したがって、割当関数 ϕV が VCG オークションにおける割り当て関
数であるとは、任意の全単射 ψ : {1, 2, · · · , N + 1} → {1, 2, · · · , N + 1}
bϕV (i)i xi ≥
i=1
N+1
∑
Edelman et al. (2007) は、LEF 均衡という弱い均衡概念から EFN
小値が、VCG オークションの支配戦略均衡の支払い額となること
を示した。そのため、本論文において、Ghose and Yang (2009) が
bψ(i)i xi
示した評価値の中で、LEF 均衡であっても EFN 均衡とは必ずしも
i=1
ならず、支払額についても、LEF 均衡だけでは VCG オークション
2.3.2 支払い額
すべての s = 1, 2, · · · , N + 1 について、広告主 ϕV (s) を除いた中で
の任意の割り当て関数 ψ−s : {1, 2, · · · , N} → {1, 2, · · · , N+1}\{ϕV (s)}
を考え, それらの割り当て関数の集合を Ψ−s とする。スロット s に
割り当てられた広告主の支払額 p s x s は、次のようになる。
p s x s = max
ψ−s ∈Ψ−s
N
∑
bψ−s (i)i xi −
N+1
∑
bϕV (i)i xi
i,s
i=1
∑
∑
1
( max
bϕ−s (i)i xi −
bϕV (i)i xi )
x s ψ−s ∈Ψ−s i=1
i,s
N
ps =
考察
均衡を導き、GSP オークションの LEF 均衡における支払い額の最
に対し、以下の条件を満たすことである。
N+1
∑
4
N+1
VCG オークションにおいて、自らの評価値を正直に入札すること
が弱支配戦略となる。
3 分析
3.1 N×(N+1) の特殊な場合における分析
スロットを N 個、広告主を N+1 人とする。スロット s に割り当
てられた、広告主 a の一回のクリックあたりの評価値を vas = c s va
とする。一回のクリックあたりの評価値は、上にあるスロットの方
が大きいので、c1 ≥ c2 ≥ · · · , ≥ cN > cN+1 = 0 とする。均衡概念を
用いて分析することで、以下の結果を得る。
• LEF 均衡ならば、EFN 均衡となる。
における支配戦略均衡の支払い額を下回る、と示したことは、理論
的に意味があると考えられる。
また、現在使われている GSP オークションの EFN 均衡における
支払い額が、VCG オークションの支配戦略均衡における支払い額
より大きくなることが明らかになった。したがって、EFN 均衡を基
準として考えると、検索連動型広告において、検索サイト運営企業
が VCG オークションを導入せず、GSP オークションを使用してい
ることは、収益の観点からは妥当な判断であり、現実とも整合的で
あると考えられる。LEF 均衡を基準として考えると、検索サイト運
営企業にとって、収益の観点では、GSP オークションの方が VCG
オークションより必ずしも良いとは言えないことがわかった。
主要参考文献
[1] Edelman, B. et al. (2007), “Internet advertising and the generalized 2nd-price auction: Selling billions of dollars worth of keywords,” American Economic Review, 97, 242-259.
[2] Ghose, A. and S. Yang. (2009), “An empirical analysis of search
engine advertising: sponsored search in electronic markets,” Management Science, 55, 1605-1622.
[3] Varian, H. R. (2007), “Position auctions,” International Jornal of
Industrial Organization, 25, 1163-1178.