技術解説 - 高田工業所

技術解説
社会環境と微生物のかかわり
− 微生物誘起腐食のメカニズムとその防止対策 −
中野 光一(九州工業大学大学院 生命体工学研究科)*
安西 敏雄(九州工業大学大学院 生命体工学研究科)**
1.
はじめに
地衣 類
地球が誕生したのは約 45 億年前であり,地球最初の生
動物
物といわれる原始微生物が誕生したのは約 33 億年前であ
ると考えられている.そして,人類はその長い歴史の中で
微生物と深く関わってきたにもかかわらず,人類が微生物
の存在に初めて気付くのは 17 世紀に入ってからである.
カ ビ類・菌 類
高等微生物
生
物
植物
原生動物
また,人類は味噌や醤油に代表される発酵食品等により古
イワタケ、リトマスゴケ等
原生動物
(真 核 微 生 物 )
藻 類
下等微生物
カビ、酵母、キノコ等
アメーバ、ゾウリムシ等
クロレラ、スピルリナ等
藍 藻類
シアノバクテリア等
細 菌類
細 菌 ,放 線 菌 等
(原 核 微 生 物 )
くから微生物の恩恵を受けている一方で,微生物に関する
ウィルス・バクテリオファージ
認識が一般に高まってきたのはごく最近で,それも SARS,
図1
微生物の分類
O-157,レジオネラ菌,赤潮等のように人類に害を及ぼす
微生物によるものである場合が多い.このように微生物は
ン細菌等)や真正細菌(藍色細菌・グラム陰性細菌・グラ
人類の社会環境に対して,良い意味においても,また悪い
ム陽性細菌等)の細胞内に核膜で仕切られた核を持たない
意味においても深く関わっており,種々の産業分野におい
原核生物が最初に出現し,続いて細胞内に核膜で仕切られ
て,金属材料で構成される各種装置や構造物に微生物誘起
た核を有する真核生物であるカビ(茸・真菌類等)や原生動
腐食(MIC:Microbially Influenced Corrosion)が発生
物(アメーバ・ミドリムシ等)が進化し,現在に至っている.
することも明らかになってきている.著者らは数百件にの
2.2
ぼる文献調査を行いながら,鋼材の微生物誘起腐食に関す
微生物の各種特性による分類
微生物は,その特性から独立栄養細菌と従属栄養細菌,
る研究を行ってきており,本報告では微生物とその概要に
好気性細菌と嫌気性細菌,グラム陽性細菌とグラム陰性細
ついて述べるとともに,微生物誘起腐食のメカニズムとそ
菌などに分類される.
の防止対策について報告する.
(1)独立栄養細菌と従属栄養細菌
利用する炭素源の種類により微生物は 2 つのグループ
2.
微生物とその概要
に分類される.独立栄養細菌(Autotropf )は,二酸化炭素
微生物の最初の発見は,オランダのレーウェンフック
(CO2)・無機物・光を成長に必要とする.つまり,炭素
(A.van Leeuwenhoek)が 1648 年にロンドンの王立協会
源としては二酸化炭素を利用し,成長に必要な栄養物とし
へ論文「歯垢中の動物の顕微鏡的観察」を寄稿したことに
て無機物のみを要求するものである.例えば,化学合成独
よるものとされており,その後,ビール中の酵母も発見し
立栄養細菌(硝化細菌,硫黄酸化細菌,鉄酸化細菌,水素細
ている.以下に微生物とその概要について述べる.
菌等)は,無機物を酸化する時に生成する酸化エネルギーを
2.1
利用し,光合成細菌や藻類などは,光をエネルギー源とし
微生物の分類
微生物は原生動物であり,一般に図1に示すように,高
て利用して増殖する.これらは独立栄養細菌に属する.一
等微生物(真核微生物),下等微生物(原核微生物)およ
方,従属栄養細菌(Heterotropf )は二酸化炭素を利用でき
びウイルス・バクテリオファージ等に分類され,その正式
ず,有機物を栄養源として必要とする細菌で,上記以外の
な命名法はリンネ(C.von Linne)の 3 名法に従い,ラテン
ほとんどの細菌がこれに属する.
語表示(属名+種名+新種,変種,亜種)で示される.ま
(2)好気性細菌と嫌気性細菌
た,遺伝子レベルで微生物の進化の歴史を振り返ると,原
微生物はその酸素要求性により,酸素(O2)を必要と
始生物から原始細菌(好塩性細菌・高温性好酸細菌・メタ
する好気性細菌(Aerobic bacteria ),酸素を必要としない
16・社会環境と微生物のかかわり
*客員助教授: ㈱高田工業所休職中
**客員教授: ㈱高田工業所休職中
偏性嫌気性細菌(Strict anaerobic bacteria ),および酸素
果を有する気体の一つである二酸化炭素の大気中濃度が
があれば利用するが,酸素が無くても増殖できる通性嫌気
増加すると気温が上昇するので,その削減が叫ばれている
性細菌(Facultative anaerobic bacteria )に分類される.
というわけである.ところが,図2の炭素循環の模式図に
好気性細菌の液体培地では通常振とう機や通気攪拌槽が
示すように,この二酸化炭素は微生物とも密接な関係が存
用いられる.水に溶けている溶存酸素量は通常 7ppm 程度
在する.大気中には体積比で約 0.03%の二酸化炭素が含ま
と少ないため,この溶存酸素濃度が増殖の律速因子となる
れているが,この二酸化炭素は,まず植物や植物性プラン
場合がある.偏性嫌気性細菌は,酸素の存在下で生育でき
クトン(微生物)によって陸や水中の有機物(生体構成材
ないので,培養するには空気や酸素を二酸化炭素(CO2)
料)に変換される.そして,この陸や水中の有機物は,動
や窒素(N2)に置換する必要がある.
植物や微生物の呼吸により分解され大気中に二酸化炭素
(3)グラム陽性細菌とグラム陰性細菌
として放出される一方,嫌気性細菌(Anaerobic bacteria )
デンマークで医師をしていたグラム(Hans.Christian.
による炭酸発酵やメタン発酵により分解され,二酸化炭素
Joachim.Gram)が 1885 年に行った細菌の染色法による
やメタンガス( CH4)を生成する.このうちの二酸化炭素
分類のことで,細胞壁が色素ゲンチアンバイオレットやク
は大気中へ放出されるが,メタンガスは,さらに好気性細
リスタルバイオレットに染まり,濃青紫色を呈する細菌を
菌により二酸化炭素へ変換され最終的に大気中へ放出さ
グラム陽性細菌,これらの色素に染まらない細菌をグラム
れることになる.このように,大気中の二酸化炭素はその
陰性細菌という.グラム陽性細菌の細胞壁はグラム陰性細
形を変えながら,陸や水中の有機物から再び大気中へと循
菌の細胞壁よりも厚く,構成成分としてペプチドグリカン
が多いことが知られている.通常,グラム陰性細菌はその
大 気 中 CO 2
(約 0.03vol%)
ままでは観察できないので,サフラニン水溶液等で対比染
好気性細菌
CH 4
色や後染色を行ってから観察する.また,近年では染色す
る蛍光物質を変えることにより,核酸(DNA)を選択的に
呼 吸
光 合 成
染色する蛍光物質(DAPI やアクリジンオレンジ)を用い
て,活性がある細胞(生菌)と非活性の細胞(死菌)を区分
発 酵
(植 物 、植 物 性 プ ラ ン ク ト ン )
(植 物 ,
動 物 ,微 生 物 )
できるようになっている.さらに,FISH(Fluorescence in
嫌気性細菌
陸や水中の
有機物
situ hybridization)法と呼ばれる方法で,特有な塩基配列
部分に相同的な蛍光標識付加した DNA プローブを結合さ
図2
炭素循環の模式図
せることにより,特定の微生物のみを区分してその場観察
できるようになってきている.
2.3
微生物の量と増殖
窒素固定細菌
平均的な細菌の細胞1個の大きさは,長さ 1.0∼3.0μm,
腐 敗 ・分 解
(腐敗細菌の作用 )
しているとされ,これを良質な農業土壌 1km2 あたりに換
大気中の窒素分子
太 陽 の 紫 外 線 /雷 雨
算すると,20kg 以上の細菌が生息していることになる.さ
らにこれを地球上の有効な土地全体で考えると,地球全体
の微生物の総生体重量は,水生および陸生の全動物生体重
同化
動植物
タンパク質
( N2 )
土壌細菌
( Nitrosomonas )
硝化細菌
直径約 1.0μm,
体積 1∼2μm3,
質量は約 10−9mg である.
肥沃な土壌 1g あたりには,細菌は約 100 万個∼1 億個生息
アンモニア
( NH3 )
(植 物 の 根 や 葉 に 共 生 又 は
土壌中や水中に単独で生息)
同化
量の 25 倍は存在すると見積もられている.また,微生物の
図3
亜硝酸塩
( NO2 )
(植 物 の 生 長
⇒ 動物のタンパク質 へ )
硝酸塩
( NO3 )
脱窒素細菌
(土 壌 中 で 窒 素 分 子 へ 還 元 )
タンパク質分子の
10∼ 15%は 窒 素 原
子で、生体の 8∼ 16
%は窒素から成る
土壌細菌
( Nitrobacter )
亜硝酸塩を酸化
窒素循環の模式図
増殖分裂速度は,速いもので約 11 分,遅いもので 3 時間程
かかる.例えば,分裂速度 12 分の大腸菌(Escherichia coli )
の場合,わずか 3 日で 1 細胞から 2 の 360 乗個の細胞がで
植物による摂取
きることになる.この細胞量(約 1093kg)は莫大なもので,
計算上は地球の質量(5.972×1024kg)よりも大きな数字と
なる.このように微生物は,生育に必要な栄養や環境など
が整えば,爆発的に増殖するものであることがわかる.
2.4
硫酸 塩
(SO42- )
動植物の生体を
構成する含イオウ
タンパク質
硫酸塩還元細菌
イオウ還元細菌
イオウ酸化細菌
イオウ粒子
(S )
微生物の生物学的物質循環
最近,環境問題で地球温暖化が良く話題に上る.温室効
TAKADA TECHNICAL REPORT Vol.16 2006
図4
細菌による腐敗
硫化 物
(S 2- )
硫化物酸化細菌
硫黄循環の模式図
社会環境と微生物のかかわり・17
環していることがわかるが,この二酸化炭素に含まれる炭
素(C)に着目すると,なんと年間約 100 億トンもの炭素
が循環していることになる.
生物学的物質循環系を構成する各種元素としては,炭素
の他に,年間約 10 億トンも循環する窒素の他,硫黄(S),
サビコブ
リン(P),カルシウム(Ca),鉄(Fe),マグネシウ
ム(Mg),ケイ素(Si),カリウム(K),ナトリウム
(Na)等が挙げられるが,これらの生物学的物質循環系
中でも微生物は重要な役割を演じている.図3および図4
図5
炭素鋼の微生物誘起腐食メカニズム
に窒素循環の模式図および硫黄循環の模式図を示す.
3.
微生物誘起腐食とそのメカニズム
そもそも微生物腐食が最初に発表されたのは l934 年の
ことで,オランダのクーア(Kuhr)とブルート(Vlugt)によ
るものである.彼らは,土壌中に埋設された鋳鉄管の激し
い腐食が硫酸塩還元細菌(嫌気性の中性環境下で硫酸イオ
ンを硫化物イオンに還元する微生物)によるものであるこ
とを明らかにした.そして,微生物は空中・水中・地中の
図6
鉄酸化細菌(電子顕微鏡写真)
あらゆる場所に存在し,生育条件が満たされれば増殖し,
周囲の環境を変えて様々な材料を腐食させる場合がある
ンクつぼ型)をしており,配管内の流速は遅く,間欠的に
ことが明らかになってきた.つまり,通常の鉄鋼やステン
流れている場合が多い,といった特徴を有している.
レス鋼,銅合金,高ニッケル合金,アルミ合金などほとん
淡水中におけるステンレス鋼の微生物誘起腐食のメカ
どの実用金属ばかりでなく,プラスチック材料,ガラス,
ニズムは完全に解明されたわけではなく,種々のメカニズ
コンクリートといった非金属材料においても微生物誘起
ムが提案されているが,ここでは一般的なステンレス鋼の
腐食により侵されることが指摘されてきている.
微生物誘起腐食メカニズムを図7に示す.
3.1
炭素鋼の微生物誘起腐食とそのメカニズム
無機物の酸化によってエネルギーを得て水中の炭酸ガス
地下水などの淡水に生息する鉄酸化細菌が絡んだバイ
を炭素源とする好気性の化学合成独立栄養細菌(例えば硫黄
オフィルムと呼ばれるスライムが炭素鋼配管内部に付着
酸化細菌:SOB 等)のバイオフィルムと呼ばれるスライム
した場合には,短期間に著しい腐食を引き起こす場合があ
層がステンレス鋼表面に形成されると,代謝時に有機物とと
る.そのメカニズムを図5に,鉄酸化細菌の電子顕微鏡写
もに硫酸(H2SO4)が生成される.そして,スライム層とス
真を図6にそれぞれ示す.
テンレス鋼との界面は嫌気的な環境となり,その嫌気的な界
鉄酸化細菌が絡んだバイオフィルムと呼ばれるスライ
面に,有機物の酸化によりエネルギーを得て有機物を炭素源
ムが配管内部に付着すると,増殖に伴って配管との界面が
とする嫌気性の化学合成従属栄養細菌(例えば硫酸塩還元細
局部的に嫌気状態(酸素の無い状態)となり,酸素濃淡電
菌:SRB 等)が侵入すると代謝時に有機物とともに硫化鉄
池が生成する.この結果,配管から鉄が溶け出し配管肉厚
(FeS)や硫化水素(H2S)が生成される.硫化鉄や硫化水
が減少すると同時に,スライム中の鉄酸化細菌(好気性の
素は先の化学合成独立栄養細菌により酸化され,酸化鉄や硫
中性環境下で Fe を Fe に酸化する微生物)によってい
酸などが生成され,腐食が進行する.このとき,内部のバイ
わゆるサビコブが形成される.これら一連の反応が過度に
オフィルムは酸素の通過を妨げ,ステンレス鋼の不動態皮膜
進行した場合,炭素鋼配管から漏洩することになる.また,
の形成を阻止するとともに,局所的に自然電位を臨界腐食電
酸素濃淡電池による炭素鋼の腐食原理に加えて,サビコブ
位よりも貴化させて腐食を進行させる.図8にオーステナイ
中に鉄と硫黄含有量の高い非晶質物質が確認される場合
ト系ステンレス鋼の微生物誘起腐食事例を,図9にオーステ
があることから,鉄酸化細菌のみならず一般細菌の代謝物
ナイト系ステンレス鋼の微生物による選択腐食事例(オース
の影響も検討されてきている.
テナイトの選択腐食)を示す.
2+
3.2
3+
ステンレス鋼の微生物腐食とそのメカニズム
ステンレス鋼の微生物誘起腐食は,非常に短期間で起こ
り,溶接部が母材部よりも多く,また,形態は虫穴状(イ
18・社会環境と微生物のかかわり
スケルトン状の選択腐食は,フェライトが選択腐食を受
ける場合もあり,選択腐食のメカニズムは完全に解明され
ていない.
TAKADA TECHNICAL REPORT Vol.16 2006
好気性細菌(化学合成独
立栄養細菌)(例:硫黄
酸化細菌 SOB)H2SO4
を代謝時に生成
嫌 気 性 細 菌( 従属栄養細
菌)(例:硫酸塩還元細菌
SRB)FeS, H2S を代謝時
に生成
気相と接触す
る部分で結露
が生じ,より腐
食が進行する
図 10
コンクリートの微生物誘起腐食メカニズム
図7 ステンレス鋼の微生物誘起腐食メカニズム
図8 オーステナイト系ステンレス鋼の微生物誘起腐食事例
図 11
図 12
図9 オーステナイト系ステンレス鋼の微生物
による選択腐食事例
硫黄酸化細菌(電子顕微鏡写真)
腐食されたコンクリート外観
菌(電子顕微鏡写真)を,図 12 に腐食されたコンクリート外観を
それぞれ示す.コンクリートの主成分である水酸化カルシウム
(Ca(OH)2)は硫酸の作用によって硫酸カルシウム(CaSO4・
3.3
コンクリートの微生物腐食とそのメカニズム
コンクリートの損傷は一般に経年変化に伴う老化や外
力の作用などによって起こるが,メキシコの地熱発電所や
2H2O)とシリカゲル(SiO2・nH2O)に変化する.そして,シ
リカゲルは水に溶け易く,硫酸カルシウムは下水の飛沫などの
少しの衝突でも崩落するパテ状の脆弱物質となる.
下水道施設等においては,硫黄酸化細菌によって生成され
これまでに,腐食原因細菌として,硫化水素生成細菌に関
た硫酸によるコンクリートの微生物誘起腐食が注目を集
しては,Xanthomonas sp. ,硫黄酸化細菌に関しては,
めている.コンクリート製の下水道管内では,硫化水素は
Thiobacillus intermedius が同定されている.一方,微生物
そのほとんどが硫酸塩還元細菌によって作られ,この硫酸
より代謝される有機酸の種類は微生物によって異なり,好気
塩還元細菌の還元によって作られた硫化水素は,水中で飽
性一般細菌として,Bacillus subtillis からは多量の n-酪酸
和状態または乱流によって空中に放出されることになる.
および少量の酢酸(CH3COOH),Escherichia coli からは
そして,硫黄酸化細菌の働きによって気相中に放出された硫
多量の酢酸ならびに少量の n-酪酸,Penicillium expansum
化水素が酸化され,硫酸に変化することによりコンクリート
からは多量のイソ吉草酸,Aureobasidium pullulans からは
の腐食が進行することが知られている.図 10 にコンクリー
多量のギ酸がそれぞれ溶出することが知られており,これら
トの微生物腐食メカニズムの模式図を,図 11 に硫黄酸化細
の影響も最近指摘されてきている.
TAKADA TECHNICAL REPORT Vol.16 2006
社会環境と微生物のかかわり・19
4.
微生物誘起腐食に及ぼす影響因子
微生物誘起腐食には,様々な因子が影響を与えており,
実際には複数の因子が関わっていると考えられる.ここで
は,個々の因子を取り上げ,その微生物誘起腐食に及ぼす
いると,微生物の増殖に必要な栄養源を供給することにな
り,微生物誘起腐食の可能性が高くなる.
(4)滞留部や死水域の微生物誘起腐食に及ぼす影響
流体の滞留部(液溜り)や死水域が存在すると,その部分
影響について述べる.
の流速はゼロとなり,浮遊微生物の濃度が高くなったり,
(1)各種流体の微生物誘起腐食に及ぼす影響
或いは沈殿したりして接液部にバイオフィルムが形成さ
微生物誘起腐食は様々な流体環境のもとで発生するこ
れやすくなる.また,滞留部の酸素濃度が局所的に低下す
とが確認されている.淡水系では,例えば実機の循環冷却
ることも考えられる.各種沈殿槽等の場合,排水および汚
水や室内試験(市水)でも発生するし 1),海水系では,自然
泥の導電率は高く,汚泥の溶存酸素濃度は低くなるため,
海水や人工海水でも発生することが確認されている.また,
硫酸塩還元細菌が繁殖しやすくなる.
有機系の流体では,油の輸送管にも発生することが確認さ
(5)大気(酸素)の微生物誘起腐食に及ぼす影響
れてきている.
(2)pH の微生物誘起腐食に及ぼす影響
微生物誘起腐食に関与する菌種は,一般的にその系が密
閉系か大気開放系か,つまり,溶存酸素濃度により,大ま
使用されている材料が金属材料で,酸やアルカリに接液し
かに好気性細菌が作用する場合と嫌気性細菌が作用する
ている環境では,まず酸やアルカリによる電気化学的な腐食
場合に分けられる.ただし,嫌気的な環境下において好気
を考える必要がある.ただし,微生物誘起腐食は酸やアルカ
性細菌は活性を示さないが,好気的な環境下においては,
リ環境下で発生しないのではなく,酸の種類が有機酸の場合
好気性細菌によるバイオフィルムの下部において嫌気生
は特に微生物が活性化している可能性もあり,また,アルカ
細菌が繁殖する場合があるので注意を要する.
リ環境下で生息する特殊な菌もある.例えば,多くの細菌は
(6)流路の微生物誘起腐食に及ぼす影響
中性ないし微アルカリ性(pH6.0∼8.0)で良好な増殖を示す
流路が循環系を構成していない場合には,微生物誘起腐
が,カビや酵母は酸性側(pH4.0∼6.0)で良好な増殖を示す.
食が発生した部位よりも上流側の流体に何らかの栄養源
また,乳酸菌,酢酸菌およびグルコン酸菌などの有機酸生成
(リンや硫黄等)の存在が確認されたり,大気開放系であ
菌は pH3.5 でも増殖する.さらに好酸性微生物と呼ばれる
れば大気中から微生物とともに栄養源が供給される場合
硫黄酸化細菌や鉄酸化細菌は pH が 1∼2 の範囲で良好な増
がある.一方,流路が循環系を構成している場合でも,そ
殖をすることが知られている.一方,好アルカリ性微生物の
の途中に大気開放系があれば同様に大気中から微生物と
増殖に最適な pH は 10 前後と考えられている.水道法第 4
ともに栄養源が供給される場合がある.流路が循環系を構
条,厚生省令第 68 号(平成 11 年)における上水の水質基準
成し,かつ密閉系の場合には,嫌気性細菌の活性が支配的
に規定されている pH 値は 5.8∼8.6 であり,同様に厚生省環
となるが,その活性度合いは,初期状態で封入された栄養
計第 46 号(昭和 56 年)における排水再利用水の水質基準に
源の範囲に限られる.
規定されている pH 値も 5.8∼8.6 でほぼ中性である.一般に
(7)温度の微生物誘起腐食に及ぼす影響
微生物誘起腐食の特長でもあり,良く問題となるのはほぼ中
ほとんどのステンレス鋼の自然腐食電位は,20℃およ
性の環境下で発生するもので,この場合は単なる電気化学的
び 30℃の天然海水中で貴な方向に 300∼350mV シフトし,
な腐食としては取り扱うことができない.つまり,微生物の
微生物誘起腐食が発生する.ライン河の水を冷却水に使用
生理作用により生成される酸が影響を及ぼすのは,バイオフ
した例では,SUS321 鋼の場合は室温で,SUS316Ti 鋼の
ィルム直下のごく限られた領域で,系全体の pH にほとんど
場合は 35℃∼55℃で溶接部に孔食が発生した.また,メ
影響を及ぼさない場合が多いからである.フランスの製紙機
キシコの地熱発電所における復水器中の高温微生物腐食
械における白水(パルプを溶かした水)による腐食事例では,
の事例では,SUS304L 製チューブを 2∼8 ヶ月間,40℃
pH は 5.9 で有機酸に富み,特に酢酸の濃度は 3.5g/L にも
∼150℃の復水器の環境で暴露したところ,硫黄酸化細菌
なり,白水中のでんぷん分解細菌や硫黄酸化細菌の存在を確
による孔食を確認している.一方,熱水系におけるトラブ
認している.
ルは未だ潜在化しており,高温菌による 70℃における軟
(3)リンや硫黄の微生物誘起腐食に及ぼす影響
鋼の腐食促進に関する研究例もある.
多くの微生物はその生理(代謝)作用にリン酸を必要と
(8)流速の微生物誘起腐食に及ぼす影響
する.また,菌体の構成元素の一例をみると,例えば硫酸
一般に流体の流速は,浮遊微生物の濃度,微生物の沈着
塩還元細菌では硫黄,リン,鉄,カルシウム,マグネシウ
およびバイオフィルムの形成に影響を及ぼすことから,設
ムであり,硫黄酸化細菌では硫黄,リン,カリウム,ナト
計上あるいは管理上重要なファクターとなる.発電所の復
リウム等である.従って,流体中にリンや硫黄が含まれて
水器に使用されている SUS304 鋼管の事例では,6 週間の
20・社会環境と微生物のかかわり
TAKADA TECHNICAL REPORT Vol.16 2006
運転休止(流速=0)の間に広い範囲にわたって微生物誘
および明暗変動の影響を調査した事例では,太陽光線下で
起腐食による孔があいたとの報告がある.90/10Cu-Ni や
腐食電位の貴化は,より一定に起こったとしている.
AL-6X ステンレス鋼管を用いた伝熱管(外径 1.59cm)の
(12)残留塩素の微生物誘起腐食に及ぼす影響
事例では,流速 0.3∼0.5m/sec の条件で約 25 日後に微生
水道法第 4 条,厚生省令第 68 号(平成 11 年)におけ
物誘起腐食が発生している.また,ハワイ等で海水を用い
る上水の水質基準に規定されている塩素イオン濃度は
て行った事例では,内径 2.5cm の各種金属製の管に流速
200mg/L 以下であるが,硫酸塩還元細菌の存在下では,
1.8m/sec で海水を流したところ,バイオフィルムの形成
塩素イオン濃度は 10ppm 前後の淡水で鋼に微生物誘起腐
および微生物誘起腐食を確認している.さらに,天然海水
食を引き起こすという報告もある.
を用いた事例では,流速 0∼2.5m/sec の場合,1∼3 週間
(13)溶存酸素の微生物誘起腐食に及ぼす影響
後には電流密度が増加し腐食の傾向は増加するが,流速
厚生省環計第 46 号(昭和 56 年)における排水再利用水の
0.5∼2.5m/sec では電流密度が 103 mA/m 2 以上でも石灰
水質基準に規定されている生物化学的酸素要求量BOD 値
質沈着は起こらないとしている.復水器や熱交換器の場合
は,15mg/L 以下(個別循環の場合)である.一般に,溶存
は,浮遊微生物の沈殿を防止し熱伝達率を確保するために,
酸素濃度は系の環境を左右し,溶存酸素濃度が比較的高
設計値で 1.5m/sec,実際流速で 0.9m/sec 以上を保持する
い場合には好気性細菌が活性を示し,溶存酸素濃度が低
ことが必要であるとしている.
い場合には嫌気性細菌が活性を示すことになる.一般に,
(9)圧力の微生物誘起腐食に及ぼす影響
溶存酸素量 Max7ppm が好気性細菌の増殖の律速因子と
NASA(アメリカ航空宇宙局)の調査では,30km 上空(約
なることがあるとされている.また,溶存酸素は電気化
0.01 気圧)が負圧側における微生物の生息限界で,40m3
学的な腐食電位にも影響を及ぼす.新鮮な河川の水を用
中に1個体の微生物が存在する程度であるとしている.一
い,溶存酸素量やバイオフィルムの関係を調査した事例
方,1,000 気圧以上の圧力を受ける水深 10,000m以上の太
では,この生成したバイオフィルムは好気性であるとし
平洋海溝の海底でも微生物は検出されている.圧力の微生
ている
物活性に及ぼす影響を調査した研究は少ないが,一般に数
的環境,下層部は嫌気的環境となるため,これらに対す
気圧程度の加圧状態では,微生物に与える影響はごく小さ
る配慮が必要である.
いものと考えられている.廃水処理に用いられている嫌気
(14)流体のろ過・殺菌・滅菌等の微生物誘起腐食に及ぼす
生物消化槽からの液体培地中では,軟鋼は一般的に 1∼7
気圧で腐食を受けるという報告もある 2).さらに,石油掘
3).一般に,貯水池や湖沼の場合,上層部は好気
影響
微生物の細胞を構成する主要元素は,炭素,水素(H2),
削時に,高圧細菌の存在も確認されてきている.
酸素,窒素,リンおよび硫黄等であり,生物に対する毒作
(10)暴露期間の微生物誘起腐食に及ぼす影響
用元素としては,水銀(Hg),銀(Ag),銅(Cu)およ
栄養や環境さえ整えば微生物は爆発的に増殖するため,
びニッケル(Ni)等が挙げられる.流体をろ過・殺菌・
微生物誘起腐食もわずか数日という短期間で発生するも
滅菌等により微生物誘起腐食を防止する場合には,それぞ
のから,数年の後に発生するものなど様々である.
れの特性を理解しておく必要がある.蛍光染色法を用いた
SUS304L鋼管を井戸水に 4日間浸漬した事例では,SEM
計測例によると,酸化チタン(TiO2)光触媒基盤の殺菌効
観察により,孔食の発生を確認している.消防車の水タン
果は優れているが,塩素(Cl)の殺菌効果はバイオフィル
クの事例では,容量 500 ガロンの SUS304 製タンク 66 基
ムが形成されると低下し,過酸化水素処理による殺菌は有
のうち,50%が 2 年間の使用で貫通漏れ事故を起こしてい
効ではないとの報告がある.また,移動式水処理プラント
る.深さ 500mの真水の井戸の例では,井戸を 2 年間放置
等で,塩素酸カルシウム(Ca(ClO3)2・2H2O)による消毒
したところ SUS304 鋼製のろ過用の網が微生物腐食により
を行う場合には,過塩素酸カルシウム粒を充分に溶解して
破損していた.また,アメリカのメタノール製造プラント
おく必要があるとしている.さらに,オゾン(O3 )の微
の事例では,10 年以上経過した多管凝縮器に微生物の作用
生物抑制効果を実験室的に検討した事例では,0.2∼
によると考えられる洞穴状の陥没が確認されている.
0.5ppm のオゾンに 10∼15 分接触させると好気性バイオ
(11)光の微生物誘起腐食に及ぼす影響
フィルムには抑制効果が認められ,ステンレス鋼のバイ
光が存在すると,光合成細菌や藻類などの炭酸ガスを利
オフィルムを分離する効果はあったが,炭素鋼ではこの
用できる独立栄養細菌が活性を示すことになるが,海水中
効果は認められなかったとしている.
で行ったステンレス鋼の微生物腐食の実験では,日光や温
(15)表面処理の微生物誘起腐食に及ぼす影響
度により腐食電位の高まりが左右されるとしている.また,
海水中のステンレス合金の腐食電位に対する微生物付着
TAKADA TECHNICAL REPORT Vol.16 2006
微生物の大きさは,一般におよそ 1μm程度であるため,
接液部の最大表面粗さを RMAX<1μmとすると,微生物
社会環境と微生物のかかわり・21
が材料表面の凹凸部に入りこんだり,付着したりするのを
されており,これらは配管の閉塞や微生物誘起腐食の原因
防止できる.一般に各種食品産業や医薬品産業におけるサ
となるため,ジェット洗浄やピグ洗浄等による定期的なク
ニタリー仕上げとして多用され,オーステナイト系ステン
リーニング処理が必要となる.
レス鋼等の食品や医薬品が接触する金属の表面に#800
(5)表面被覆法(内面コーティング)
以上の表面仕上げ(鏡面研磨)を施している.
表面被覆法としては,エポキシ系塗料塗布法(エポキシ
ライニング法),抗菌・殺菌塗料塗布法,抗菌性メッキ(ニ
5.
微生物誘起腐食の防止対策
一般に微生物誘起腐食は多種多様なケースに及ぶため,
ッケル−リン−テフロン複合メッキ皮膜)等があげられ,
エポキシ系塗料塗布法(エポキシライニング法)は多用さ
その防止対策も多岐にわたり,対象設備・機器の経年状況
れている.
によっても微生物誘起腐食の防止対策は異なってくる.新
(6)薬剤の投与
設および既設の設備・機器において実施可能と考えられる
殺菌,滅菌,消毒等のために投与する薬剤は,微生物
具体的な微生物誘起腐食対策のまとめを表1に示す.
誘起腐食の原因細菌をある程度特定してから,その種
5.1
類・濃度等を設定する必要がある.化学殺菌剤として用
既設の設備・機器における微生物誘起腐食の
防止対策
いられるものは大きく 2 つのグループ,すなわち酸化性
既設の設備・機器において微生物誘起腐食が疑われる場
のものと非酸化性のものに分けられる.酸化性殺菌剤に
合には,まず,個々のケースにおいて,その微生物誘起腐
は塩素,二酸化塩素(ClO2),およびオゾンがあり,非
食の可能性評価やその特徴を調査する必要がある.微生物
酸化性殺菌剤には第4級アンモニウム塩,ホルムアルデ
誘起腐食の対策の実施順序はより効果的と考えられる順
ヒド(CH2O),陰イオン界面活性剤および非イオン界
序にあらかじめ設定しておくべきである.以下に述べる対
面活性剤がある.
策は,その 1 つを実施するのではなく,複数の対策を組み
また,化学殺菌剤以外の飲料工場や食品工場などでよく
合わせて実施することにより,効果的に微生物誘起腐食を
用いられる殺菌剤等においても,その種類は,アルコール
防止できると考えられる.
系,過酸化物系,ヨウ素系,塩素系,カチオン系,および
(1)緊急停止システムの構築
両性界面活性剤系など多岐に渡るので,その選定に当って
既設配管等の設備において,微生物誘起腐食が発生した
は,用途や適用条件を確認しておく必要がある.一方,水
場合,漏洩の程度や腐食の範囲等に応じて,安全上問題が
道水の原水に含まれる腐食質と滅菌用の塩素が化合して
無いように,漏洩個所に応じて緊急遮断位置や運転停止指
できる有機塩素系化合物の一種であるトリハロメタンは,
示系統等を確認しておくことが必要となる.
発癌性を有するので,この対策を充分検討しておく必要も
(2)緊急復旧対策の構築
ある.
微生物誘起腐食により,やむを得ず配管の通水運転を停
止する場合,緊急復旧対策案や補修法案を構築しておくこ
(7)UV 法(紫外線照射法)の適用
UV 法は,プールや井戸水の殺菌のほか,食品加工の分
とは必要である.例えば,漏洩の程度や範囲等に応じて,
野でも多用されており,既設の配管設備等においても適用
バイパス管の設置や取り替え用の予備配管(内面樹脂コー
可能である.この紫外線照射法は,水質変化が無く,設置
ティング)の準備が必要となる場合も想定される.また,
工事も比較的簡単である.
一時的な部分補修のために,パ テ等を塗布したり,エポキ
(8)オゾン法の適用
シ樹脂をスプレーして漏洩孔を塞ぐ方法による補修法案
オゾンには,塩素の約 6∼7 倍の殺菌力(酸化力)があ
も検討しておく必要がある.
り,脱臭や漂白作用もあることから,オゾン発生装置やオ
(3)取水口におけるフィルターの設置
ゾン水(オゾン濃度は 5∼10ppm 程度)を適用したオゾ
水質に応じたフィルターの選定や場合によっては設
ン法は,用途に応じて比較的多用されている.また,オゾ
計が必要となるが,藻類による弊害が大きな割合を占め
ン発生装置は空気中の酸素を原料に安価で容易に生成さ
る場合,取水口におけるフィルターの設置は有効と考え
せることができ,自然に酸素に戻るので,残留毒性が極め
られる.フィルターの材質は非金属材料(セラミック製
て少なく,安全であるという特長もある.
や高分子材料製)とし,メッシュは圧力損失や藻類の大
(9)非破壊検査法の適用
きさの実情を考慮して多段階に分けて選定する必要が
既設の設備・配管等における微生物誘起腐食の程度を定
ある.
期的に確認したり,モニタリングする方法としては,UT
(4)クリーニング処理の定期的な実施
(超音波探傷試験)や MT(磁粉探傷試験)等の非破壊検
既設の配管内には,バイオフィルムや藻類の付着が確認
22・社会環境と微生物のかかわり
査法を応用した種々の方法がある.
TAKADA TECHNICAL REPORT Vol.16 2006
表1
新設および既設の設備・機器における微生物誘起腐食の防止対策
条件分類
対策項目
具体的な対策例
環境条件
(運転条件)
構造変更
温度コントロール
pH コントロール
塩素濃度コントロール
流体の流速コントロール
流体の圧力コントロール
循環系を含め,滞留部をなくす構造を検討する.
流体温度を 50℃以上にする.(局所的に 50℃以上となる部分を設ける)
pH<3 または pH>8 にする.
15ppm 以上にする.
流速を 2.5m/s 以上にする.
減圧または 10 気圧以上とする.
好気性細菌のみが作用している場合酸素濃度を 7ppm 以下とする.嫌気性細菌の
みが作用している場合,酸素濃度を上げる.
リン(P)や硫黄(S)成分等を除去する.
毎月 1 回以上洗浄処理を行う.
酸素濃度コントロール
栄養源の除去
クリーニングの適用
材料条件
そ の 他
溶接施工方法の検討
表面研磨の適用
表面被覆の適用(1)
表面被覆の適用(2)
残留応力コントロール
抗菌材料の適用
ろ過法の適用
薬剤の投入
電気防食法の適用
UV 法の適用
オゾン法の適用
電磁場処理方式の適用
非破壊検査法の適用
モニタリングの適用
5.2
IP(溶込み不足)フリー,テンパーカラー(酸化皮膜)フリーの施工法を適用する.
接液部表面の表面粗さを♯800 以上の仕上げとする.(再研磨法)
エポキシ系塗料,抗菌塗料,抗菌メッキ等を適用する.
樹脂管(塩化ビニル管,ポリオレフィン管)や樹脂内面被覆管を適用する.
残留応力を圧縮側にする.(サンドブラスト等)
銀分散型ステンレス鋼などを適用する.
ろ過処理(フィルタリング)を行う.
薬剤を投入して,殺菌(アルコール,次亜塩素酸ソーダ等)・滅菌等の処理を行う.
カソード防食による微生物腐食を防止する.
UV(紫外線)照射により殺菌する.
オゾンにより殺菌する.
動磁場によりスケール等の表面の付着物を除去する.
UT(超音波探傷試験)や MT(磁粉探傷試験)等の非破壊検査により,定期的
に材厚を管理する.
電気化学的ノイズ法によるオンラインモニタリングを検討する.
新設の設備・機器における微生物誘起腐食の
防止対策
新設設備においても,あらかじめ微生物誘起腐食の可能
対応設備
新設 既設
○
○
△
○
△
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
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○
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○
○
○
○
○
○
○
○
○
(5)運転条件の検討
管や容器の内部流体に最低必要とされる流速や流量につい
て検討することが可能となるので,例えば,同じ流量でも流
性を予測・推定しておく必要がある.
速が 2.5m/s 以上となるように管径を選定することができる.
(1)適用材料の選定
(6)表層取水システム
新設の場合は,耐微生物誘起腐食性を考慮した材料の適
微生物誘起腐食の主たる原因菌が,取水池底部近傍に多
用可能性について検討することも可能であり,例えば,銀
く分布する嫌気性の硫酸塩還元細菌の場合には,表層取水
分散型ステンレス鋼等の抗菌材料を選定したり,炭素鋼の
システムの導入により取水池の表層から取水することで,
内面にポリエチレンやエポキシ樹脂等を塗覆装して使用
溶存酸素濃度が比較的高く,好気的な原水を取り入れるこ
する等の選択肢がある.
とにより,微生物誘起腐食を防止できると考えられる.た
(2)内面研磨
だし,表層の藻類や浮遊物を巻き込んで取水しないような
微生物の大きさは 1mμ程度であり,この微生物が付着
工夫が必要である.
しないようにするには,接液部表面の平滑性が要求される.
通常は,表面粗さを♯800 以上とするサニタリー仕上げに
より微生物付着の防止が可能である.
(3)溶接接合部の処理
新設の場合は,前述のとおり,バイオフィルムや藻類の
付着を防止するために,溶接部内面の局所的な凹凸を無く
すよう配管の内面接液側溶接部の平滑性を考慮し,IP(溶
込み不足)フリー,テンパーカラー(酸化皮膜)フリーの
耐微生物誘起腐食性を指向した溶接施工法を検討するこ
とも重要となる.
(4)構造変更の検討
初期段階の構造変更により,循環系を含め,滞留部や死
水域をなくす構造を検討し,微生物の温床を断つための検
討も重要となる.
TAKADA TECHNICAL REPORT Vol.16 2006
6.
おわりに
微生物とその概要ならびに微生物誘起腐食のメカニズ
ムとその防止対策について総括的記述を試みた.みなさま
の業務の一助になれば幸いである.
参考文献
1)井芹一,高橋那幸,米田祐:淡水冷却水系におけるスラ
イムコントロール処理と電位変化,材料と環境討論会講
演集,Vol.2000,pp.9-10,(2000)
2)Englert G E, Mueller I L : The Corrosion Behaviour of
Mild Steel and Type 304 Stainless Steel in Media from an
Anaerobic Biodigestor, International Bio-deterioration and
Biodegradation, Vol.37, No.3 / 4, pp.173-180, (1996)
3)Dickinson W H, Lewandowski Z, Geer R D : Evidence for
Surface Changes During Ennoblement of Type 316L
Stainless Steel: Dissolved Oxidant and Capacitance
Measurements, Corrosion, Vol.52, No.12, pp.910-920, (1996)
社会環境と微生物のかかわり・23